軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フレイムハウンド

二階の自室で戻って来たラインハルトに事の成り行きを説明していると、ミルトが戻って来ました。

「ご主人様、あいつら建物に入ったよ、マルトが見張ってる」

「分かった、ムルトここに居て、メイサちゃんが夕食の知らせに来たら教えて」

「分かりました、ご主人様」

ムルトを留守番に残して、僕らはマルトが待つ建物へと向かいました。

影の世界をマルトを目印にして移動したので、街の何処なのかは分かりませんが、応接間のような部屋にフレイムハウンドの五人が集まっています。

「まったく手前らは、そんなんだから何時まで経ってもCランク止まりなんだよ」

呆れたように言う髭面の犬獣人の前で、チェザリと優男が小さくなっています。

長方形のテーブルの長辺に二人ずつ四人が向かい合わせに座り、いわゆるお誕生席にリーダーのバルトロが座っています。

「トニーが一緒に居てそのザマとは……情けないのぉ……」

大盾を持っていた坊主頭の巨漢も呆れた顔で、小さくなった二人を見下ろしています。

どうやら優男はトニーと言うらしいですね。

「ろくに成果も上げられず、それどころかフレイムハウンドの名前に泥を塗りやがって、このマヌケ共が!」

バルトロは、怒髪天を衝くといった様子で、腕組みをして二人を睨み付けています。

「そのケントとか言うガキをやり込めれば、ここでの俺達の待遇は更に良くなっていたんだぞ!」

「すみません、バルトロさん、あのケントとか言うガキ、妙に頭が回りやがって……」

「そうです、俺達がギガウルフを狙ってる事まで知っていやがって……」

「何だと……どこで嗅ぎ付けたのか吐かせたのか?」

「いや……それは……なぁ……」

「場の空気が悪かった……って言うか……」

「馬鹿野郎! 敵がどうやって情報仕入れたのか探っても来なかったのか? このマヌケ!」

「ひぃ、すんません!」

バルトロに怒鳴られてチェザリとトニーは更に小さくなっています。

この調子なら、あと三時間ぐらいで手乗りサイズになるんじゃないですかね。

「いいか、今ヴォルザードには魔物の襲来が続いている。 言ってみれば、冒険者にとっては稼ぎ時になるはずだ。 それなのに、街は平穏無事そのものだ。何でだ?」

「そ、それは、ケントとか言うガキが……」

ぬっと身を乗り出すようにして訊ねるバルトロに、チェザリがビビりながら答えました。

「そうだ、ケントとかぬかすガキが、使役している魔物を使って、魔物の大群を一人で退けたって話だ。ロックオーガが二百以上、昨日のオークに至っては三百五十以上だって噂だ。この意味が分かるか?」

「えっと……ケントってガキが使役している魔物が強いって……」

「馬鹿か! そんな事じゃねぇ、ホントにマヌケだな……」

チェザリの答えはお気に召さなかったようで、また怒鳴られて、またチェザリが縮んだように見えます。

バルトロは、物を縮小する魔法の使い手なんでしょうかね。

チラリとバルトロが視線を向けると、犬獣人の男がニヤリと笑って見せました。

「しゃーねぇな、このオレステ様が答えを教えてやろう……そのケントってガキが、魔石をたんまりと独り占めしてるって事だよ」

「あっ……って、あのガキ、そんなに貯め込んでいやがるのか」

犬獣人のオレステが言う通り、僕が魔石を独占している状態ですけど、これからまだ百五十人の世話をしなきゃいけないし、オークの魔石の半分は強化で使う予定なんだけどね。

再び、深く座り直しながら、バルトロは全員を見渡しながら口を開きました。

「いいか、ケントとかいうガキが居なくなれば、俺らが魔石をがっちり稼げるし、魔物に備えて俺らの価値も上がるって事だ。よーく考えてみろよ、オークの魔石が三百五十だ。どんなに安く見積もっても三百五十万から四百万ヘルトにはなるはずだ」

「四百万ヘルト……」

「ふん、しかも、たった一日の稼ぎだぞ……」

フレイムハウンド五人全員が、完全に金に目が眩んでいるようですね。

てか、この人達って本当に強いんでしょうかね。

強いとしても、オーク三百七十四頭を、たった五人で討伐出来るんでしょうか?

『どうなの? ラインハルト』

『この者達が、どれほどの使い手なのかは分かりかねますが、五人だけでは討伐しきれんでしょうな』

『だよね、なんかさ、死んだら終わりだって言ってたリドネル達の方がよっぽどベテランみたいだよね』

『話を信用するならば、このバルトロはAランクの冒険者という事ですし、それなりの実績を積んでおるのでしょうが、二百を越えるような大群とは相対した事が無いのでしょうな』

『実感が伴っていない……って事?』

『おそらくは……』

それにしても、自分達の利益にばかり目が行って、実際に討伐可能なのかとか、魔物の大量発生によって街に危険が及ぶ可能性なんかは、全く考えていないんでしょうかね。

「バルトロさん、ギガウルフはどうするんです?」

「そうだな……一応探してはみるが、拘るのはやめだ」

バルトロは、チェザリの質問に、あっさりとギガウルフ狙いをやめると答えました。

「えっ、ギガウルフじゃなくても良いんですか?」

「トニー、ギガウルフとオーク、どっちが危険だ?」

「それは勿論、ギガウルフですよ」

「お前は命の危険を冒して稼ぐのと、楽して稼ぐのと、どっちが良い?」

「それは、楽して稼げる方が良いに決まってます」

「だったら、どっちを狙うかなんて、分かりきってるだろう」

「なるほど……」

フレイムハウンドの五人が、ニヤニヤと笑みを交わしていると、部屋の扉がノックされました。

「失礼いたします、ご夕食の支度が整いました、ナザリオ坊ちゃまが是非ご一緒して、武勇伝を聞かせて欲しいと申しておりますが……」

「分かった、すぐに行こう、ナザリオ殿には暫しお待ち下されとお伝え願いたい」

「畏まりました」

夕食の知らせに着たメイドさんに、五人の好色な視線が向けられましたが、さすがにAランクと言うべきか、応対の言葉使いだけは相応の威厳が感じられました。

メイドさんが退室していくと、犬獣人のオレステが鼻を鳴らしました。

「ふん、こっちもガキのお守りか、大変だなバルトロ」

「そう思うなら、お前らも手伝え、将来有望な金蔓候補だぞ、失礼の無いようにしろよ。それと、ケントとか言うガキに仕掛けてしくじった話は厳禁だ、もし気取られてみろ、二度と女を抱けねぇように切り落してやるから、そのつもりでいろ……」

ギロっと視線を向けたバルトロに、全員が頷いてみせました。

なるほど、ここはナザリオの家ですか、確かオーランド商店とか言う店でしたよね。

フレイムハウンドがアマンダさんの店にちょっかい出して来たのは、僕にダメージを与えて、ナザリオのご機嫌を取るためなんですね。

『さてと……どうしたものかな?』

『次から次へと、ケント様も大変ですな』

フレイムハウンドの五人が食事に向かったので、マルトを監視に残して下宿に戻った僕らは、今後の対応に付いて話し合いを始めました。

例の騒動が起こった時、フレイムハウンドの連中は魔の森に居たはずですから、騒動には関わってはいなそうです。

メイドさんの話やその後の会話からすると、バルトロ達はナザリオの指示を受けて動いたかは不明ですが、自分達の立場や実入りを良くする為に動いているのは確かなようです。

『メイサちゃんまで巻き込んでいる状態で、こちらが黙っていると思われたら、更に手出しされそうな気がするんだよね』

『その可能性は高いでしょうな、こちらから積極的に敵対するつもりは無いが、敵に回したら厄介だと分からせておいた方が宜しいでしょうな』

『うん、そうだね、色々と問題がありそうな人達だけど、数千、数万の魔物にヴォルザードが襲われるような時には、戦力にはなりそうだもんね』

数万の魔物の襲来が、どんな事態を引き起こすのか分からないけど、僕の眷属だけで対応出来なければ、冒険者の皆さんにも戦ってもらわないといけません。

フレイムハウンドの五人が、誰かのために無償で戦うとは思えませんが、それでも自分達が生き残るために魔物を討伐してくれれば、全体の数を減らす事には繋がるはずです。

『問題は、どうやって釘を刺すかでしょうな』

『そうだよね、中途半端な事だと手を引かない気がするし……』

フレイムハウンド対策に頭を悩ませていると、階段を上ってくる足音が聞えました。

「ケント! 夕食の時間……」

「ありがとう、メイサちゃん……? どうかした?」

メイサちゃんは、ドアを開けたまま目を丸くして固まっています。

「な、な、何それ! 何、そのモフモフ!」

「えっ? あっ……」

ミルトとムルトをモフって、表に出したままでした。

「ミルトとムルトは、僕の眷属だよ」

「ミルト……ムルト……」

「二人とも、メイサちゃんは大事な人だからね、ちゃんと挨拶して」

「うちは、ミルトだよ」

「うちは、ムルトだよ」

「しゃべった! モフモフがしゃべった……」

メイサちゃんが、ミルトとムルトを見る目が尋常じゃなくて、むふーむふーって鼻息が凄いんですけど。

「さ、触りたい……」

「いいよ、乱暴にしないでね」

「しない、絶対しない……」

恐る恐る近付いてきたメイサちゃんは、そーっとミルトに手を伸ばしました。

「ほわぁ……フワフワ、すんごいフワフワ! はふぅぅぅ……」

ミルトを撫でながら、メイサちゃんが蕩けちゃってますね。

「ケント! メイサ! 何してんだい、さっさと下りて来ないと夕食抜きにするよ!」

「はーい、今行きまーす! ほら、メイサちゃん行くよ」

「やだ、もうちょっと……」

「後で、ゆっくり撫でさせてあげるから、ほら……」

「うぅ……絶対だからね……」

ミルト達だけでなく、ザーエ達もアマンダさんやメイサちゃんには紹介していないので、この機会に紹介しておきましょう。

でないと、何かあって助けに来ても、初めて顔を会わせたら、ただの魔物としか思わないもんね。

夕食の後で、夕方に起こった騒動の顛末と裏側をアマンダさんに話しました。

「なるほどねぇ、ベアトリーチェちゃんの事で恨みを買ってたって訳かい、まったく良い迷惑だね」

「すみません、もう手出ししてこないように手を打つつもりですので……」

「まぁ、うちのお客さんに、あんな馬鹿話を信用する人は居やしないけど、万が一お客さんに迷惑が掛かると困るからね、ちゃんとしておくれよ」

「はい、それでですね、僕の眷属、ラインハルトと同様の仲間を増やしましたんで、紹介しておきますね」

メイサちゃんは、夕食を食べている間もソワソワしていてましたし、ミルト達を撫でたくて仕方ないようです。

「えっと、まずはアンデッド・コボルトから、ミルト、アルト、代表して出て来て」

「えぇぇ……さっきと違う……」

モフモフで可愛らしいままのミルトと、精悍な体型になっているアルトは、ちょっと違って見えますが、スペック的にはほぼ一緒です。

「はじめまして、アルトと申します」

「うちはミルトだよ」

「はぁぁ、こりゃ驚いた、コボルトが喋ったよ」

「ね、ねぇ、ケント、ちょっと撫でてもいい?」

メリーヌさんも、モフモフを体験したいようで、ウズウズしていますね。

一応、アルトとミルトに確認してからOKすると、メリーヌさんはアルトの方をモフりに行き、メイサちゃんがミルトに抱き付きました。

「随分と可愛らしいけど、役に立つのかい?」

「勿論ですよ、オーク程度なら瞬殺しちゃいますよ」

「へぇぇ、そりゃまた見かけによらないね」

「はい、あまり威圧感が出ないように気を配って強化しましたんで」

やはり、こちらの世界でも、可愛いは正義なんですね。

「それと、次に紹介するのは、戦闘特化のアンデッド・リザードマンなので、かなり迫力がありますから、驚かないで下さいね、ザーエ……」

一応前置きをしてから紹介したのですが、ザーエが影の世界から姿を現すと、三人とも表情を強張らせました。

なので、僕がザーエの隣に立って、大丈夫なのだと示しました。

「アンデッド・リザードマンの纏め役のザーエです」

「お初にお目に掛かる、大家殿、お見知りおきを……」

「ほわぁ、こっちも喋ったよ……」

「はい、ラインハルト達も喋れるように強化しようとしたんですが、骨だけだからか、念話でしか話せませんでした。 その代わりと言っては何ですが、ザーエ達やアルト達は、会話で意思疎通が出来ます」

「王より、こちらの家の方々を守るように仰せつかっております、何かあっても御守りします」

ラインハルトから習ったのか、ザーエが騎士の敬礼をして見せたので、三人の表情も緩みましたね。

「僕らも、この家を守るようにご主人様から言われています」

「アンデッド・リザードマンは五頭、アンデッド・コボルトは三十三頭居るので、誰かしらにお店を見守らせておきますから、安心して下さい」

眷属の数を聞いて、三人ともポカーンとしていますね。

「お母さん、凄いよ、御伽話みたいだよ」

「あぁ、本当に信じられない光景だね」

「だよね……でもさ、これをケントがやってる事の方が信じられないよね」

「あぁ、まったくだね……」

アマンダさんも、メイサちゃんも、とっても良い人だって分かってるけど、僕の扱いが酷い気がするんですけど……こんな時は、メリーヌさんのハグが……アルトのものかよ!

あぁ、僕にも癒しが必要だよ……と、お店の中を見回した時に、テーブルの上にのった箱が目に留まりました。

「あの……アマンダさん、あの箱は?」

「ん? あぁ、あれはお客さんから頂いたクッキーの箱だよ、少し持って行くかい?」

そうアマンダさんが言った途端、メイサちゃんの眉間に深い皺が刻まれてしまっては、持って行くとは言えませんよね。

「いえ、箱の中身はじゃなくて、出来たら、あのリボンが欲しいんですけど……」

クッキーの箱には、一度解いた赤いリボンが結んであります。

「リボンなんて、何に使うんだい?」

「はい、夕方騒いでた連中に、和解の手紙を書いて、それに添えようかと……」

「はぁ? ゴロツキ宛の手紙にリボンだって? そんなんで和解出来るのかい?」

「まぁ、それはやってみないと何とも……」

メイサちゃんは、リボンも欲しかったようですが、フレイムハウンドの連中との交渉に使うと聞いて、どうやら諦めてくれたようです。

そのうちに、何か埋め合わせをしないと駄目ですね。

お客さんに姿を見られると騒ぎになるかもしれないので、眷属のみんなには余程の緊急時以外は店の一階には姿を見せず、用事がある場合は厨房のアマンダさんに声を掛けるようにしました。

メイサちゃんが、とても不満そうだったので、マルト、ミルト、ムルトに余裕がある時は、寝る時に貸し出す事にしました。

「アマンダさん、この子達は毛も抜けないですし、おねしょもしませんから大丈夫ですよ」

「あははは、それじゃあ、おねしょの心配が必要なのは一人だけだね」

「きぃぃぃ! しないもん、もうおねしょなんてしないもん!」

メイサちゃんに抱き付かれながら、ミルトが凄く心配そうな顔をしているので、おねしょの心配は多分大丈夫だと、後で説明しておきましょう。

眷属のみんなの紹介を終えた後は、自室からラストックに飛んで、委員長のケアをしながら騒動のその後を説明しました。

木沢澄華の名前を出すと、委員長の表情が曇りました。

「私も、木沢さんはちょっと苦手……あんまり他人を悪く言いたくないんだけど……」

委員長は前置きをしてから話してくれたのですが、イジメを主導したり、カンニングやその他なにかと悪い噂が付きまとっているらしいです。

ただ、どれも噂の域を出ないそうで、立ち回るのが上手いようです。

「たぶん、健人が直接あれこれ言うと面倒事が増えそうな気がする……」

「うーん……でも、何かあったら困るし……」

「ともちゃんと、あっちゃんに相談してから動いた方が良いよ」

「なるほど……」

委員長が言うには、立ち回りの上手い木沢さんは、女子に圧倒的な人気を誇る凸凹シスターズに対しては敵対しないのだとか。

「でもさ、それって凸凹シスターズが圧倒的な支持を受けているって背景があるからだよね?」

「うん、そうだよ」

「今ってさ、十七対八ぐらいの勢力差なんだけど……」

「あぁ、そうか、女子は二十五人しかいないんだもんね、うーん……あんまり角が立たないように物事を進めないと駄目かも……」

「はぁ……鷹山の他にも時限爆弾を抱えてるのか……」

「とりあえず、健人は救出作戦の方に専念した方が良いよ」

「うん、そうしようかなぁ……」

これまで女子と親しく接する機会なんて無かったので、木沢さんのような女子にどう対処して良いのか全く分からないんだよね。

ちょっと申し訳ないけど、女子の事は女子に丸投げさせてもらいましょう。

委員長に、おやすみのキスをしてヴォルザードに戻りました。

さぁ、ちょいとフレイムハウンドに手紙を届けにまいりましょうかね。