軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

調子にのっていました

『ケント様、この奪った食料はいかがいたしますか?』

「うん、それはちょっと使い道を考えてるんだ」

『どこかへ売りつけるのですかな?』

「無償で提供しようかと思ってるんだけど、その前にちょっと許可をもらっておかないとだね」

『許可というと……カレグ皇子ですかな?』

「ううん、別のところ……」

という訳で、ジョベラス城でイノシシ男爵の戦いぶりを見物した翌日、ギルドの執務室にクラウスさんを訪ねました。

自宅からベアトリーチェと一緒に仲良く訪問したので、クラウスさんの機嫌がすこぶるよろしいようですね。

「朝っぱらから何の用だ?」

「お義父さん、名前を貸してもらえませんか?」

「はぁ? 名前を貸せだと……何を企んでいやがる」

「ちょっと隣国に恩を売りに行こうかと思いまして……」

「ほぅ、そいつはヴォルザードのためになるんだな?」

「そうですね……直接的に役に立つかは微妙ですが、ランズヘルト共和国にとっては良い影響を及ぼすと考えています」

「よし、詳しく話してみろ……」

応接ソファーに場所を移してクラウスさんと向かい合い、まずはフェルシアーヌ皇国のジョベラス城の状況を話しました。

「ほぉ、それじゃあ、その好戦的な第三皇子を早々に失脚させて、バルシャニアにとって扱いやすい第二皇子を次の皇帝に据えようってんだな?」

「そうなりますね。もっと悪どい事を考えるなら、第二皇子のモンソが皇帝の座に座ったところで、腹心として支える側に回った第一皇子レーブを暗殺してしまえば、フェルシアーヌ皇国は完全な骨抜きになると思いますが……そうなると隣国のキリア辺りに攻め込まれそうな気がするので、そこまで手を下すのは止めておこうと思っています」

僕の説明にクラウスさんは、珍しく満足そうに頷いてみせました。

「賢明だな。話を聞いただけだが、そのレーブとかいう皇子も戦については消極的なようだし、バルシャニアとすれば話の意図を敏感に理解してくれる人物を残しておいた方がやりやすいだろう」

「自分たちの考えに固執して、こちらの考えを受け入れてもらえない相手は面倒ですからね」

「おぅ、そうだな。ランズヘルトにも、そんな領地があったような……」

「リーベンシュタイン抜きでも、コボルトの連絡網は機能しているんだから良いじゃないですか」

「まぁ、そうなんだが、仮にグリフォンみたいな魔物が襲って来て、連絡が遅れて領都が全滅、領主一家も全員死亡……なんて事態になると、領地の引継ぎを巡ってゴタゴタしそうだからな」

「それは、殆ど起こらない確率の話ですよね。それに、起こったら起こったで、他の領主さんが集まって決めれば済むんじゃないんですか?」

「まぁ、そうなんだが……面倒だろう。簡単に摘める面倒の芽は、先に摘んでおくものだぞ」

結局は、クラウスさんが楽したいだけなんですよねぇ……。

「それでフェルシアーヌ皇国の事情は分かったが、俺の名前をどこで使うつもりだ?」

「シャルターン王国です」

「ほぉ、あの国は王族が皆殺しになって、今は内戦一歩手前って状況なんだよな?」

元の国王一家は革命勢力によって処刑されてしまいましたが、全員という訳ではありません。

「王族はフィーデリアが残っていますし、大公のダムスク公は前王の弟ですけど……内戦一歩手前というのは事実です」

「そのシャルターン王国で、俺の名前を使って何をやらかすつもりなんだ?」

「ダムスク公に恩を売ってこようかと思っています」

「フェルシアーヌ皇国と同様に、ランズヘルト共和国にとって都合の良い人間に統治させようってか?」

「そう思い通りにいくか分かりませんが、内戦が終われば交易が活発になるはずです。その時のために恩を売っておけば、何かと有利に運べるかと……」

「具体的には、何をするつもりだ?」

「ジョベラス城から盗み出して来た食料を支援という形で届けようかと考えています」

「困窮しているのか?」

「大きな水害があって、それが引き金となって革命騒ぎになったんですが、その復興が終わっていません。王都の東側の土地の多くで食糧不足が起こっているようで、中でもダムスク公が支配下に置いた地域は深刻なようです」

「ふむ……」

クラウスさんは、話を切って少し考えを巡らせ始めました。

「ケント、お前は、そのダムスク公が最終的にシャルターン王国を治めると思っているんだな?」

「はい、多くを見聞した訳ではありませんが、戦いぶりや統治の仕方を見ると、最終的にはダムスク公がシャルターン全土を掌握する可能性が高いとみています」

「とはいっても、数年先の話じゃないのか?」

「でしょうね……でも、手を差し伸べるならば、一番困っている時の方が効果的じゃないですか?」

「確かにな……」

数年先、あるいはもっと先の話になるかもしれないけれど、ランズヘルト共和国と新生シャルターン王国が良好な関係を築いていくためには良い布石になる……と思ったのですが、クラウスさんの表情は優れません。

「何か問題がありますか?」

「そうだな……良く考えられた策だと思う」

「では……」

「良い策だとは思うが……策略を巡らせすぎだな」

「えっ……?」

僕としては、八木の例もありますし、考えて、考えて、策を練ってきたつもりなんですが、クラウスさんは苦笑いを浮かべています。

「ヴォルザードの利益を第一に考えろ、立ち位置を間違えるな……なんて散々教え込んできた俺が言えた義理じゃねぇが、ケント、恩ってのは売るもんじゃなくて着るものだ。この食料で恩を売ってあげますよ……なんて奴の考えは、相手に見透かされる。勿論、食うものに困っている連中だから有難く受け取るだろうが、心の底から有難いと思うかどうかは分からねぇぞ。場合によっては、人の弱みにつけこみやがって……なんて考える輩もいないとは限らないぞ」

背中に冷や水を浴びせられたような気がしました。

自分や眷属の力を使えば、好き勝手に出来る、思い通りに状況を動かして、数年先の事まで自分の手の平の上で転がせるような気になっていたようです。

自分でも気付かなかった思い上がりをクラウスさんにあっさりと見抜かれて、穴があったら入りたい気分です。

「調子に乗ってました……」

「まぁ、ケントぐらいの歳で、それだけの力があれば調子に乗るのも無理はねぇ。実際、問答無用で捻じ伏せるだけの力があるんだしな。ただし、相手が納得するかどうかは別問題だ」

そうです、肝心な相手がどう考えるかが抜け落ちていました。

「敵意を向けてくる相手ならば力で抑え込んで、友好的な関係は築けなくとも、こっちが油断しなければ黙らせておく事は出来る。だが、今回のように今まで関係の無かった相手に好意で何かをやるってのは簡単じゃない。やるなら見返りは期待するな、敵意を向けられても仕方ない……ぐらいの覚悟でやれ」

「分かりました。この件は、クラウスさんの名前は借りずにやってみます」

「いや、使いたければ使っても構わんぞ。どうせ俺は腹黒い奴だと海の向こうまで伝わってるだろうしな、今更腹の中を勘繰られたところで痛くも痒くもねぇからな」

ん? これって、このままクラウスさんの名前を使うと手柄を全部持っていかれる……いや、考えすぎかな?

「とりあえず、もう一度よく考えてみて、必要とあらばクラウス・ヴォルザードの名前を使わせていただきます」

「そうだな、これはあくまでも俺が指示してやらせる事じゃなく、ケントが考えて行う事だ。誰のために、何のためにやるのか、もう一度良く考えてみろ」

「はい、お時間を取らせて申し訳ありませんでした」

「なぁに、可愛いリーチェの旦那が成長するためだ、なんてことねぇさ」

クラウスさんに一礼して、ベアトリーチェをギュってして、チュってしてから影の空間へと潜りました。

「うーん……ちょっと先走っちゃったかな」

『いやいや、ケント様、考え方自体は悪くありませんぞ。敵から奪った物を最大限に利用する……何も間違っておりませぬ』

「うん、後は、方法とか、手順とか、どれだけ利益を期待する……とかかな?」

『そうですな。ヴォルザードに利益をもたらすためであるならば、シャルターン王国のダムスク公という存在は少々遠く感じます。直接的な利益を求めるならば、もっと近場がよろしいでしょう。逆に見返りを求めない援助であるならば、ダムスク公を通さずともよろしいかと……』

「そうだね、ちょっとシャルターンの現状を確かめに行こうか」

『それがよろしいでしょうな』

シャルターン王国の状況は、時々バステンから報告を受けていましたが、しばらく現地には行っていません。

どの程度の窮状で、どこに支援を出せば効果的なのか見に行きましょう。

バステンを目印にして移動した先は、王都の東、ツイーデ川の東側、一番水害の被害が大きかった地域でした。

「うわっ、これ全部革命騒動の後に出来た堤防なの?」

ツイーデ川の東岸には、見渡す限りの高い堤防が築かれています。

ぱっと見た感じでも、三階建ての家ぐらいの高さがあります。

一方、川を挟んだ対岸は、申し訳程度の堤防があるだけで、高さも三分の一以下に見えます。

「これ、また水害が起こったら、水は全部西側に溢れるんじゃない?」

『間違いなくそうなりますね。この高い堤防も、単に土を積み上げただけではなくて、芯になる部分は土属性の魔術でガッチリ固められています。その上で、自然の土手に見えるように土を積んでいる状態です』

「じゃあ、万が一土が流されたとしても、堤防が切れる心配は無いってことだね?」

『そうですが、その心配の前に西側が沈むでしょう』

「それも、そうか……」

ツイーデ川の西側でも、畑の復旧作業が行われていますが、実際に作付けが行われているのはごく一部に限られていて、殆どの場所は茫々たる雑草の海となっています。

「こっちは、牛とかヤギとかを育てた方が良くない?」

『そんな感じに見えますが、肝心の育てる家畜がいません』

「そっか、このままだと耕作放棄された土地が増える一方に見えるね」

『ダムスク公にとっては有難いのではありませんか? この規模の畑ならば、踏み荒らして進軍しても惜しくないですから』

「普通、戦は農閑期に行われるものなの?」

『通常はそうですが、雪に覆われる地方は、その限りではありません』

「いずれにしても、ダムスク公は力を蓄えることに専念している感じだね」

ツイーデ川東岸で、復興工事に携わっているのは、ダムスク公直属の工兵部隊が中心となっており、労働力の多くは革命騒ぎに加担して捕らえられた者達だそうです。

かなり過酷な肉体労働のように見えますが、働いている者達は黙々と作業に従事しています。

『労働力として働かされている罪人ですが、工事が終了した時点で恩赦が行われて釈放され、一般市民としての身分を取り戻すことが出来るそうです』

「なるほど……早く工事が終われば、それだけ早く釈放されるって訳か」

よく目の前にニンジンをぶら下げて……なんて言いますが、ここでは釈放というニンジンがぶら下げられているようです。

「でも、みんなガリガリだね」

『はい、食料事情は良くないみたいです』

「兵士や騎士に反発したりしないの?」

『食事に関しては、兵士達も大差ないものを食べているので、むしろ連帯感が生まれているようです』

「一般の人達の食糧事情は?」

『餓死する者が出ないように、全て配給制となっていますが、分量はかなり抑えられていますね』

「そっか……じゃあ、その食料の配給を管理している人の所に案内してもらえるかな?」

『かしこまりました。こちらです』

バステンに案内されたのは、騎士団が厳重な警備を行っている大きな倉庫でした。