軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不文律の外から

朝食が終わった時間を見計らい、マールブルグ家を訪問しました。

相変わらず別々の制服を身に着けた衛士が二人ずつ立っていましたが、リバレー峠の山賊を捕縛し、捕まっていた人を保護したと伝えると、大急ぎで取り次いでくれました。

案内されたのは、応接室ではなく食堂でした。

領主であるノルベルトさんの他に、双子の息子も顔を揃えています。

「おはようございます、ノルベルトさん」

「おはよう、ケント・コクブ。リバレー峠の山賊を捕らえたと聞いたが……」

「はい、総勢57人、今は手足を縛ってアジトに転がしてあります」

「57人……そんな大きな組織が出来ていたのか」

「はい、撮影してきたので、ご覧ください」

コボルト隊が撮影しておいた昼間の映像や夜の乱行、そして拘束し終えた山賊の様子を10分ほどに編集したものを見てもらいました。

「こやつら、拘束されたまま眠っているのか?」

「いえ、一服盛って眠り込んだところで拘束しました。それと捕まっていた人が9人ほどいます。どちらへ連れて行けばよろしいですか?」

「リバレー峠のマールブルグ側の麓にある守備隊の詰所に連れて来てもらいたい。それと、奴らが貯め込んでいる財宝を確認したいので、アジトの場所も教えてくれ」

「では、山賊と捕まっていた人達は、守備隊の詰所に送還いたします。同時に、アジトの見分をしてもらいたいので、守備隊員の同行をお願いします」

「分かった、全面的に協力するように指示書を書くから少し待ってくれ」

ノルベルトさんは、メイドさんに紙とペンを持ってくるように命じました。

それを影の空間から見ていたラインハルトが念話を送ってきました。

『ケント様、家宰がいないのではありませんか?』

『あっ、もしかして……ノルベルトさんの暗殺を目論んでいた前の家宰を解雇した後、誰も雇っていないのかな?』

『その可能性はありますな』

ノルベルトさんが書き終えた指示書をマールブルグ家の家紋が入った封筒に入れ、封蝋で閉じたものを受け取りました。

「確かに受け取りました。もう一件、ランズヘルト共和国の各領地を結ぶ連絡手段を作りましたので、ちょっと話を聞いてもらえますか?」

「連絡手段とは、どういう物なのだ?」

ノルベルトさんに、新コボルト隊による連絡方法を説明し、マールルトを引き合わせました。

「なるほど、このペンダントがワシの居場所を知らせ、このコボルトが手紙を届けてくれるのだな?」

「はい、今のところリーベンシュタインが保留となっていますが、その他の領地とマスター・レーゼの元には配置を終えています」

「そうか、マールブルグでも有難く活用させていただこう」

「一応、念のために申し上げておきますが、マールルトはノルベルトさん個人ではなく、マールブルグの領主様に貸与いたします。ノルベルトさんが領主から退かれるのであれば、次の領主様に引継ぎという形にしていただきたいのですが、どなたに領主の座をお譲りするかは決めていらっしゃいますか?」

ランズヘルト共和国では、他の領地内での問題については自領に影響が及ばないうちは基本的に口出しをしないという不文律があるそうです。

つまり、マールブルグの後継者が決まらなければ、ヴォルザードが多大な迷惑を被る可能性が高くても、実際に問題が起こるまではクラウスさんは口出しできないという訳です。

クラウスさんは口出ししたくてもヴォルザードの領主という立場上、我慢しているようですが、僕は一介の冒険者ですからズケズケと聞いちゃいますよ。

てか、聞かれたノルベルトさんは渋い顔をしてますね。

「後継者はまだ決めておらん」

「では、現在の状態が当分の間続くのですね?」

「ワシの寿命など、もう高が知れているだろう……」

「いえいえ、先日の騒動の際にノルベルトさんを診察させていただきましたが、健康そのものでしたよ。それに、まさか後継者を決めずに死んでしまおうなんて考えているんじゃありませんよね?」

「むぅ……今朝は随分と手厳しいな」

「はい、正直に言わせていただきますと、門の前に四人も衛士がいるような馬鹿げた状態は、訪問する側とすれば一日でも早く止めていただきたい」

ノルベルトさんが口をへの字に結んで黙り込んだと思ったら、バカ息子共が口を挟んできました。

「貴様、言うに事欠いて馬鹿げた状況とは何事だ!」

「冒険者風情が身の程を弁えろ!」

うん、こんな時だけは協力するみたいですね。

「一軒の屋敷に、違う制服を着た衛士が立っているような状況を馬鹿げていると自覚されていらっしゃらないとは……驚きですね」

「貴様……」

神経質そうなアールズが腰を浮かせたところで、ノルベルトさんが待ったを掛けました。

「やめよ! アールズ、座れ……」

「しかし、父上……」

「座れ!」

厳しい口調で命じられ、渋々といった様子でアールズは腰を下ろしました。

「ケント・コクブ、何が狙いだ?」

「マールブルグの後継者問題の早期解決です」

「それは、マールブルグ家の中の問題だ。口出しは無用!」

まぁ、そう言うだろうと思っていましたので、切り口を変えましょう。

「ノルベルトさん、シャルターン王家が倒れたのをご存じですか?」

「な、何だと……シャルターン王家が倒れたとは、どういう意味だ」

「どういう意味も何も、反乱が起こって王都マダリアーガの城が落とされて、第六王女フィーデリア姫を除いた王族は処刑されました」

「い、いつだ、いつの話だ」

「ジョベートの海賊騒ぎの少し後ぐらいですから、もう一月以上前ですね」

「何だと……それで、シャルターン王国はどうなっている?」

前のめりになって訊ねてくるノルベルトさんに、シャルターン王国の現状をザックリと説明しました。

「エーデリッヒからの貿易には影響は出ていないのだな?」

「今のところは……ですね。今後、状況に変化が起これば、そうした情報も素早く伝えられるように、コボルトを使った連絡網の整備をしました」

「そうか……そんな事が起こっていたとは」

「ノルベルトさん、率直に言わせていただきますが、今のマールブルグは世の中の動きから取り残されつつあります。アールズさんとザルーアさんが足の引っ張り合いをしていたら、ヴォルザードやバッケンハイムの動きに付いていけなくなりますよ。それは、領民の生活に大きな影響を及ぼすでしょうし、内乱や領主一家の打倒……なんて騒ぎになるかもしれませんよ」

「馬鹿げたことを言うな! 何が領主一家の打倒だ、そんな事を考える奴がどこにいる」

「マールブルグの問題をヴォルザードの冒険者風情に偉そうに講釈されるいわれなど無いわ!」

今度はアールズとザルーアが、殆ど同時に席を立って声を荒げました。

「シャルターンの王様も、まさか自分たちが国民に見放されるなんて思ってなかったでしょうね。というか、ノルベルトさんは殺されかけたばっかりじゃないですか。お二人が、仲たがいをしてるのだって、ノルードの裏工作のせいなんでしょ? もう実際に領主一家打倒の企てが起こってるじゃないですか。ノルードを捕まえたから、もう大丈夫だと思ってるんですか? 誰のおかげで捕まえられたのか、分かってますか?」

「はぁ……ケント・コクブよ、その辺りで勘弁してやってくれ」

大きな溜息を洩らした後、ノルベルトさんが白旗を上げました。

「アールズ、ザルーア……座れ。我々は、考え方を改めねばならん」

「父上……」

「ノルードの一件が片付いて、我々はそれで終わったと思い込んでしまった。以前と変わらぬ生活に戻り、安穏と時を過ごしてきた。だが、それも今日までだ」

ノルベルトさんは、大きく深呼吸すると姿勢を改めました。

「アールズ、お前にケント・コクブが捕らえた山賊の処分と保護した者の取り扱いを一任する」

「かしこまりました」

「ザルーア、お前はアールズの補佐をしろ」

「えっ、私が……ですか?」

「どうした、何か不満か?」

「いえ、別に……」

言葉を濁したザルーアの表情は、不満たらたらといった感じです。

一方のアールズは、得意満面といった感じですね。

「お前たちの行動、決断、そこに至る過程……全て調べて報告させる。その上で、この一件が片付いたら、別の案件を立場を入れ替えて担当させる。互いの足を引っ張り合うしか能の無い者に、マールブルグの将来は任せられぬ。これだけ言って、考え方を改められぬ場合には、廃嫡も考えねばなるまい」

「廃嫡……」

「いくら何でも……」

「黙れ! お前たちの行動は目に余る。明日の朝、門の前に衛士が四人いたら、二人とも廃嫡にするから、そのつもりでいろ! どうした、何を呆けている。一度動き出せばケント・コクブの仕事は早いぞ。ぼーっとしていても良いのか?」

「くっ……失礼します」

「貴様、覚えていろよ」

捨て台詞を残したのはザルーアだけでしたが、アールズも射殺さんばかりの視線を向けてきましたね。

「では、僕も動き出すとしましょう」

「ケント・コクブ。また世話になってしまったな」

「ホントですよ。しっかり尻を叩いて教育してくださいよ」

「そうだな、少しはクラウスを見習うとしよう」

「それはどうかと思いますよ……でも、山賊に捕まっていた人達の支援はよろしくお願いしますね」

「無論だ、マールブルグで被害に遭ったのだ、全面的な支援を約束しよう」

「では、僕はリバレー峠の麓へ向かわせてもらいます。マールルト、よろしく頼むね」

「わふぅ! 任せて、ご主人様」

ノルベルトさんと握手を交わし、マールルトをわしわしと撫でてから、闇の盾を通って影の空間へと潜りました。