軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

西のまた西

新コボルト隊が仕上がったという知らせを受けて、魔の森の訓練場へとやって来ました。

アルトの号令で、ずらっと整列したコボルト達は、なんだか体が一回り大きくなったような気がします。

これからヴォルザードも夏に向かっていきますので、冬毛に生え変わるはずもないですし、モフモフで可愛いのですが、ちょっと気になりますね。

トイプードルとスタンダードプードルほどの差は感じませんが、それでも確実に大きくなっています。

「ねぇ、アルト。みんな大きくなってない?」

「わふぅ、ご主人様、鍛えました」

「えっ、鍛えた……?」

「わふぅ、鍛えました」

アルトは思い切り胸を張って、やってやりました……とでも言いたげです。

「そ、そうなんだ……どのぐらい強くなってるの?」

「わぅ、ロックオーガ程度でしたら、一撃で切り伏せられます」

元Sランクのラウさんかよ……強くなりすぎじゃね?

「あれっ? もしかすると、アルト達よりも強くなってるの?」

「まさか、こんな短期間では、そこまでは強くなれません」

うん、ということは、アルト達は更に強いってことだよね。

ロックオーガを一撃で倒すコボルトが、40頭以上もいるって……一大戦力だよね。

もはや、魔物の極大発生とか気にしなくても良いんじゃね?

まぁ、備えはしていますけどね。

『ぶははは、いかがですかな、ケント様。これでランズヘルトの要人警護は完璧ですぞ』

アルトと一緒に新コボルト隊の訓練を行っていたラインハルトも、仕上がりには満足しているようですね。

「うん、コボルト隊が一緒にいる間は問題ないね。ただ、みんな連絡要員として各地を移動することになるから、あまり頼りすぎると不在の時に警護に穴が出来ちゃうよ」

『確かに、ケント様のおっしゃる通りですな。ならば、派遣先にはあくまでも連絡のためだと伝えておいた方がよろしいですな』

「うん、そうするつもりだよ」

おそらく厳しい訓練を乗り越えた新コボルト隊のみんなは、自信に溢れた表情で整列しています。

その苦労を労うために一頭ずつ撫でていったのですが、おぉぅ……モフモフの毛並みの下は筋肉の固まりみたいじゃないっすか。

これは、モフモフどころかガチムチですよ。

それでも、撫でられて尻尾をパタパタさせている姿は愛らしいんですよ。

うん、確かにこれは、僕が理想としたバランスですね。

「アルト、良く鍛えてくれたね。ありがとう」

「くーん……ご主人様」

しっかり者のアルトだけれど、やっぱり撫でられるの好きみたいで、尻尾を千切れんばかりに振っています。

「よし、これからみんなを各地に配属していくからね。会えない時間が増えるけど、いつでも僕らは繋がっているからね」

「わふぅ、分かりました、ご主人様」

まず最初に向かったのは、一番西の地バルシャニアの帝都グリャーエフです。

魔の森を昼少し前に出発しましたが、時差の関係でまだ朝でした。

皇帝一家は、朝食を終えてお茶を飲みながら一日の予定などを話しています。

朝食の席には、皇帝夫妻の他に内政を担当する第二皇子のヨシーエフ、それと第四皇子のスタニエラが同席していました。

第一皇子のグレゴリエ、第三皇子のニコラーエの脳筋二人が居ないところを見ると、軍事演習でも行っているのでしょうか。

いきなり姿を見せると騒ぎになりそうなので、声を掛けてから表に出ましょう。

「おはようございます、ケントです。おじゃましても宜しいでしょうか?」

「うむ、構わんぞ」

闇の盾を出して表に出ると、珍しく皇帝コンスタンが笑顔を見せて出迎えてくれました。

「良く来たな、婿殿。朝食はもう済ませたか?」

「はい、もうヴォルザードは昼近い時間ですから」

「そうか、では茶でも飲んでゆくがいい」

「いただきます」

いつもなら、可愛いセラフィマを奪った憎き仇……みたいな扱いですけど、どうしたんでしょうかね。

皇妃リサヴェータは、いつも通りの満面の笑みで迎えてくれています。

「いらっしゃい、ケントさん、セラは元気にしているかしら?」

「おじゃまいたします、お義母さん。セラは最近屋敷を仕切ってくれているので助かってます」

「それは良かったわ、ところでケントさん、今日はどうしたのかしら?」

「はい、ヴォルザードなどとの連絡用に、僕の眷属のコボルトを派遣しようと思っています。バルルト、出ておいで」

「わふぅ、バルルトだよ、よろしくね」

元気よく飛び出して来たバルルトは、陽気な性格みたいです。

バルシャニアの皇帝一家にも物怖じせずに挨拶しています。

「連絡用のコボルトというと、当然影の中を自由に移動できるのだな?」

バルルトの効果を理解したのでしょう、紹介も早々にコンスタンが質問してきました。

「おっしゃる通りです。有事の際には、ヴォルザードと瞬時に連絡を取れるようになります」

「ギガースのような魔物が現れたとしても、そなたに救援要請を行えるのだな?」

「はい、ただし状況によっては十分な応援を行えない可能性はあります」

いくらバルシャニアから救援要請を受けても、ヴォルザードが危機的状況に瀕しているならば応援を出す余裕はありません。

「それは仕方ないであろう。どこも戦力には限りがあるのは理解している。それでも、ギガースのような手に余る魔物が現れた時に、手立てが残されているのといないのとでは大違いだ」

ギガースによって海沿いの街ライネフが襲われた時、バルシャニアの騎士団も大きな損害を被りました。

あれからコンスタンのことですから、隷属の腕輪を応用した拘束具などの研究は進めているでしょう。

それでも、単純ゴリ押しで向かってこられたら、また大きな被害が出てしまいかねません。

ギガース、ヒュドラ、グリフォンなどの強力な魔物が現れた時には、可能な限り手を貸すつもりではいます。

「ケントさん、少し聞いてもいいかしら?」

「なんでしょう、お義母さん」

「連絡用のコボルトさんは、うちとヴォルザードにだけ派遣するのかしら?」

さすがは、バルシャニア帝国を影で支えるリサヴェータさんです。

連絡要員の目的に気付かれたようですね。

「いいえ、派遣するのはランズヘルト共和国の六つの領主の所と、本部ギルドのマスター、そしてバルシャニア帝国、それにリーゼンブルグ王国にも派遣いたします」

「それでは、リーゼンブルグ王国の国王と、直接しかもほぼ瞬時に連絡が行えるのね」

「おっしゃる通りです」

バルシャニア帝国とリーゼンブルグ王国にも新コボルト隊を派遣するのは、伝言ゲームのように伝わるうちに内容が変化したり、親書が届かないなんて事態も防げるでしょう。

ダビーラ砂漠を挟んで長年に渡って敵対しあってきた両国だけに、互いの真意を汲み取れないままに戦争に突入してしまう……なんて事態だけは回避したい。

もし、バルシャニア皇帝コンスタンと、リーゼンブルグ王国次期国王ディートヘルムが、瞬時に手紙をやり取り出来る関係であれば、少なくとも偶発的な衝突から戦争に突入するような事態は避けられるはずです。

新コボルト隊をバルシャニアとリーゼンブルグにも派遣する意図を話すと、皇妃リサヴェータは何度も頷きましたが、皇帝コンスタンは表情を引き締めました。

「国の首脳同士が連絡を取り合えたとしても、戦乱が起こる可能性はゼロにはならんぞ」

「分かっています。それでも、下らない理由や誰かの謀略によって戦争に発展するのは防げるでしょうし、起こってしまった衝突を穏便に解決する道を探れるはずです」

「ふむ、戦嫌いのそなたらしいな」

「民の命を奪い、国から労働力を奪い、何年も何十年も後まで恨みを残す。戦争なんて、一部の武器商人とかが儲けるだけで、良いことなんて無いですよ」

「確かに……それに、バルシャニアにはリーゼンブルグと戦をする余裕など無いからな」

コンスタンの言葉に、ヨシーエフとスタニエラが頷いています。

「ギガースの影響だけではなさそうですね」

「フェルシアーヌが騒がしくなっておる」

フェルシアーヌ皇国は、バルシャニア帝国の西に位置する国です。

国境をまたいで少数民族同士が小競り合いを繰り返していましたが、国と国の間は良好な関係が続いていると聞いています。

「もしかして、キリア民国の影響ですか?」

「根底は皇位の継承争いのようだが、キリアが暗躍している可能性は否定は出来んな」

今はまだ交易も続けられているようですが、フェルシアーヌからはキナ臭い話が伝わって来るそうです。

その中には、爆剤を使ったテロ騒ぎの話も含まれているようです。

「リーゼンブルグの王城が、爆剤とアンデッドによる襲撃を受けたと言っておったな」

「はい、アーブル・カルヴァインの最後の悪あがきでした」

「それと同様の手口で、継承争いで敵対する貴族の屋敷が襲われているらしい」

アンデッドを使った自爆攻撃は、本当にタチの悪い攻撃手段です。

何しろ、攻めて来る連中は既に死んでいるので、動けなくなるまで攻撃をしなければ守り切れません。

接近を許せば爆風によって被害が出かねませんし、守りきったとしても攻め手が失うのは爆剤のみです。

攻め手側は、爆剤とアンデッドを準備し、闇属性の術者がゴーサインを出せば作戦は終了。

成功するにしても失敗するにしても術者は現場に残る必要も無く、遠く離れた場所から結果だけ確かめれば良いのです。

「それじゃあ、皇位継承争いの一派にブロネツクが絡んでいるんですか?」

「だとは思うが、まだ詳細までは分かっておらぬ」

ブロネツクはフェルシアーヌ皇国の少数民族で、闇属性の術者を多く輩出しています。

僕の屋敷にいるマルツェラ、ルジェクの姉弟がブロネツクの出身です。

アンデッドによる自爆攻撃が行われているのであれば、当然闇属性の術者が絡んでいるし、フェルシアーヌ皇国内で闇属性の術者となればブロネツク出身の可能性が考えられます。

もしかして、コンスタンが珍しく笑顔で僕を出迎えたのは、フェルシアーヌ国内の状況を調べさせたいからでしょうか。

ランズヘルト共和国とシャルターン王国のケースとは違い、バルシャニア帝国とフェルシアーヌ皇国は陸続きです。

何か大きな事態が起これば、直接的な影響がもたらされる可能性が高くなります。

「ここにグレゴリエさんとニコラーエさんが居ないのは、フェルシアーヌの内乱に備えているからですか?」

「その通りだ。状況が悪化すれば、フェルシアーヌから難民が雪崩れ込んでくる可能性もある。その中にヌオランネの連中が含まれていた場合、ムンギアと戦闘が起こるだろう」

フェルシアーヌ皇国の少数民族ヌオランネとバルシャニア帝国の少数民族ムンギアは、川を挟んで中洲の領有権を巡って長年に渡って対立してきました。

中洲に駐留していたヌオランネの部隊を爆剤ごと吹き飛ばし、その後はフラムを巡回させることで神の領域化して、一応対立は収まっています。

それでも互いの敵対感情まで綺麗サッパリ無くなったりしないでしょうから、顔を合わせれば揉め事は避けられないでしょう。

「バルシャニアとして、どこかの一派に肩入れしたいとか希望はありますか?」

「そこまで贅沢を言うつもりはない。誰が次の皇帝になろうと、バルシャニアは堂々と交渉をするだけだ」

「大量の難民が雪崩込むような事態は避けたい」

「その通りだが、そなたに戦闘や暗殺を頼む気は無いぞ。余裕のある時に、皇都辺りの状況を見分して来てくれる程度で良い。これはバルシャニアの問題だからな」

この言い方は、ちょっとズルいよねぇ。

セラフィマを嫁に貰った僕とすれば、バルシャニア皇家は他人ではありません。

つまりは、セラフィマを嫁に出したのだから、バルシャニアのために働けってことですよね。

「分かりました。とりあえず、連絡用のコボルトを紹介して回らないといけないので、それが終わり次第ちょっとフェルシアーヌ皇国を覗いて来ますよ」

「おぉ、そうか、すまないな婿殿」

「いいえ、余り期待せずに待っていて下さい、お義父さん」

親バカのコンスタンを揶揄う意味でお義父さんなんて呼び始めたのですが、どうも逆手に取られて仕事を押し付けられそうです。