軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

嫁取り宣言

「おはようございます、魔……ケント様」

「おはよう……」

ぱぁっと笑顔を浮かべたと思ったら、急に俯いて頬を染め、チラチラと上目使いの視線を投げかけて来る。

くっ……なんですか、このくっそ可愛らしい生き物は、けしからん!

けしからんから、ベッドルームに連れ込んで押し倒し……ちゃ駄目ですよね。

うん、でも昨夜の永久脳内保存した映像が勝手に再生されちゃってます。

カミラの要望を受け入れて、明かりは消していましたけど、闇属性の魔術師でもある僕は夜目が利くんですよねぇ……。

内緒にしていますけど、全部、ハッキリ、くっきり見えてました。

ヴォルザードで朝食を済ませ、フィーデリアにシャルターン王国の現状を伝えた後、アルダロスの王城へと足を運んできました。

目的は、カミラをヴォルザードに招く許可を取り付けるためです。

まぁ、この件に関しては、反対があったとしても推し進めちゃうつもりでいますけど、出来れば波風立てずに済ませたいところです。

「カミラ、ディートヘルムの都合はどう?」

「魔王様のご要望とあらば何時でも構いません」

「まぁ、いつも突然現れて引っ掻き回してる自覚はあるけどね」

「とんでもございません。いつも魔王様にはリーゼンブルグにお力添えをいただき……」

「カミラ……」

「はい、何でございましょう」

「魔王様に戻っちゃってるよ」

「あっ……失礼いたしました、ケント様」

くぅ……くっそ可愛い、もう我慢なんて無理、ぎゅーって、ぎゅーってしちゃいました。

てか、部屋付きのメイドさんが悶絶してますね。

暫し、カミラの柔らかさと温もりを堪能した後、深呼吸して理性を取り戻しました。

「じゃあ、ディートヘルムのところに行こうか?」

「はい……ケント様」

出来るなら、本日このままお持ち帰りしたいところですが、さすがに一国の王女様を気軽に奪って帰る訳にはいきませんよね。

いや、こんな時こそ魔王らしく振舞っちゃいましょうか。

いやいや、慌てなくてもカミラは逃げませんし、それに自宅には美緒ちゃんやフィーデリアも滞在しているので、色々気を使ってしまいますので、このままリーゼンブルグにいてくれた方が思い切りゴニョゴニョできたり、できなかったり……。

カミラをエスコートしながら執務室を訪れると、ディートヘルムはちょっと意外そうな顔をしてみせました。

まぁ、いつもは闇の盾からズカズカ出てくるのが常ですからね。

「おはよう、ディートヘルム」

「おはようございます、魔王様、姉上」

応接ソファーに座る時も、いつもなら横に座るカミラが僕の隣に座ったのを見て、ディートヘルムは姿勢を改めました。

「もう察してるみたいだけど、カミラを正式に娶ろうと思っている。構わないよね?」

「はい、勿論異存はございません。姉上、おめでとうございます」

「ありがとう、ディー」

微笑みを交わし合う美姉と美弟……うん、絵になりますよね。

てか、絵面だけだと僕は蚊帳の外なんですけど、遺伝子の違いだから諦めましょう。

「ついては、ヴォルザードまでのカミラの輿入れなんだけど……」

「それはもう盛大にいたしましょう。バルシャニアの皇女殿下の時の倍、いや三倍の騎士を帯同させて……」

「いやいや、そんなに華美にするつもりは無いんだ」

「しかし魔王様、バルシャニアの皇女殿下の時と比べて、著しく見劣りするようでは国民が納得してくれません」

セラフィマがヴォルザードに輿入れしてきた時には、百人の騎士に護られながらリーゼンブルグを横断してきました。

長年に渡って敵対関係を続けて来たリーゼンブルグを通り抜けるのですから、必要な人数だと思いますが、バルシャニアにとっては示威行動であったのも事実です。

カミラがヴォルザードに輿入れするとなれば、当然セラフィマの行列と比べられますし、見劣りしていたら国民の反感を招いたり、王家への敬意が損なわれるかもしれません。

「まぁ、そうだよね。それは仕方ないと思うから、セラフィマの時と同じ規模に留めて欲しいんだ」

「と申されますと、騎士百騎の態勢でよろしいのでしょうか?」

「そうだね。無駄な出費をさせてしまって申し訳ないけど……」

「とんでもございません。この度、ルートスやセラティに対しては二千万ブルグずつ、合計四千万ブルグもの支援金をいただきました。それに、姉上の輿入れの行列を整えるのは、リーゼンブルグの威信を保つためでもあります」

「それと、どうせ行列を行うならば、意味のあるものにしてほしい」

「意味のあるものですか?」

「そう、今回限りの装飾とかではなく、今後の騎士団の活動に役立つ形にしてほしいんだ」

輿入れの行列は、バルシャニアにとっての示威行動であったのと同様に、今度はリーゼンブルグ騎士団にとっての示威行動でもあります。

まぁ、住民に対して威圧をする訳じゃありませんが、騎士団という存在が住民を守ってくれる頼りがいのあるものだと宣伝してもらいたい。

「これまでリーゼンブルグの王族や貴族は、言ってはなんだけど民を顧みなかったよね」

「はい、確かに魔王様の仰る通り、父や兄達、その取り巻き貴族達も民は金を稼ぐ奴隷のごとく思っておりました」

「当然、王族や貴族への反感を持つ国民も少なくないし、騎士団に対しても同様の視線が向けられていると思う。だからこそ、華美ではなく、質実剛健、民のために力を振るう、民を守る騎士団というイメージを持ってもらえるような行列にしてほしいんだ」

言うなれば、騎士団のプロモーション活動に利用してもらいたいのですが、ディートヘルムは眉間に皺を寄せて考え込んでしまいました。

「魔王様のおっしゃる事は分かったつもりでございますが、具体的にどのような行列にすれば良いのかが分かりません」

「まぁ、そうだよね。いきなりこんな話をされても混乱すると思うけど、騎士団に対する印象を良くする必要性は分かるよね?」

「はい、先日も奴隷商人と癒着していた者が見つかったばかりですし、他にも同様の事例が無いとは限りません。そうした腐敗は表面化しなくとも、どこからか話が漏れ、騎士団への信頼を失墜させていきます」

そういえば、あの騎士達はどういった処分になったのか聞いていませんけど、大丈夫ですかね。

「だからさ、カミラの輿入れに同行する騎士を選ぶために……という理由を付ければ素行調査もやりやすいんじゃない?」

「あっ……なるほど。規律の引き締めに使うのですね」

「そうそう、他には、装備品が痛んでいたりしないか、実際に使える物なのか、住民を襲う恐れのある魔物を討伐すれば、隊列を動かす実戦訓練にもなるんじゃない?」

「なるほど……騎士団が役に立つのだと住民に見せるのですね」

「その通り。折角、百騎もの騎士を動かすのだから、王国にとっても、民にとっても意味のあるものにしようよ」

「かしこまりました、早速検討させますが、計画が出来上がり次第、魔王様に検分をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「勿論、僕が言い出した事だからね、カミラにも意見を聞いて進めて」

「かしこまりました」

僕とディートヘルムが話を進めている間、宰相候補のトービルは一言も口を挟んできませんでした。

少し前までは、ディートヘルムよりも先にあれこれと話を進めていましたが、少しスタンスを変えたみたいです。

「魔王様、期限は何時にいたしますか?」

「とりあえず、一ヶ月を目途に具体的な内容を決めていこう。同時に人選にも着手して、内容が決まった時点で、改めて準備期間を設定する感じではどうかな」

「かしこまりました。では一週毎に進捗状況をご報告いたします」

「うん、よろしく頼むね」

この後、カミラ、ディートヘルムと一緒に昼食を済ませてから、向かった先はヴォルザードと南の大陸を繋ぐ半島です。

「さてと、いよいよ今日は仕上げだよ」

『ぶははは、これほどの工事を一人で成し遂げてしまわれるとは、さすがケント様ですな』

「まぁ、これでヴォルザードが極大発生の脅威に晒される心配は、大きく減るんじゃないかな」

『でしょうな、ですが、思い付いても実行しようと考える者などおりませんぞ』

かねてから、この半島を通り抜ける魔物の数に制限を設けようと考えておりました。

全く魔物が来なくなってしまうと、冒険者達の生活が立ち行かなくなってしまいますし、魔石を始めとする素材にも事欠くようになりかねません。

そこで、何本かの橋を残して溝を堀り、東西の海を繋げて水堀にしてしまおうと思い付きました。

ただし、取り払う地盤の量が半端ではないので、一度では終わらせられず、暇を見つけてはチマチマと作業を続けてきたのです。

幅三十メートルほどの橋を三本残して、既に東西から海水が入り込んでいます。

残すは幅二メートルほどで、この部分を送還術で飛ばしてしまえば、水面までの高さが二十メートル、水深十メートルほどの堀が完成します。

「では、では、送還!」

送還術を発動すると、一瞬何も無い空間が現れた直後、海水が打ち寄せて埋めてしまいました。

「よし、これで完成……ん?」

東西の海が繋がって水堀になったけど、海と海が繋がるだけだから、流れは出来ないと思っていました。

「あれっ? あれあれっ……?」

『どうやら潮の流れがあるようですな』

繋がった堀を西から東に向かって、ゆっくりと水が流れ始めたかと思ったら、次第に流れは速さを増して、轟々と音を立てて流れ始めました。

「うわっ、速っ! てか、怖っ!」

『これは落ちたら助からないでしょうな』

日本でも瀬戸内海の入口などで、潮の満ち干によって海流が生まれます。

鳴門の渦潮などが有名ですが、濁流となって流れる水は見ていて恐ろしくなってきます。

「これは、思っているよりも早く浸食が進んで、そのうちに橋が落ちるかも……」

『ぶははは、それでもケント様がご存命の間は大丈夫でしょう。そして、ケント様が亡くなられる頃には、南の大陸から来る魔物に依存せずとも生活が成り立つようになるでしょう』

「あぁ、そうかもしれないね。とりあえず、魔物が大量に押し寄せる事態は防げるから良しとしよう」

ちなみに、この潮流は一日中続くわけではなく、時間によっては止まったり、逆向きに流れたりするようです。

魔の森の奥の奥だから、この先人の目に触れることも無いかもしれませんが、見えないところでも働いているんですよ。