軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

マノン vs ベアトリーチェ

魔の森で二度目の野営を終えた日、ザーエ達アンデッド・リザードマンを護衛に加えた僕らは、無事にヴォルザード城壁を望む場所まで辿り着きました。

今朝、出発して間も無く、三十頭以上のオークの群れが襲って来たのですが、ザーエ達がサクっと討伐してしまいましたよ。

GOサインを出した途端に、ザーエ達は一気に加速してオークの群れに襲い掛かりました。

たぶん、単純な速さだけならばフレッドの方が速いと思うのですが、ザーエ達の動きは目でギリギリ追えるので、余計に速く感じるのかもしれません。

例によって、何で出来ているのか不明な漆黒のククリナイフが振るわれる度に、オークの手足や頭が宙に舞い、オーク達は自らの失敗を悟る前に全滅していました。

「ねぇ、あれがオークなんでしょ?」

ザーエ達の躍動を見守っていると、相良さんに尋ねられました。

「そうだよ、近くで見ると、結構迫力あるよ」

「前回はオークの群れが出たから、引率していた騎士は、ともちゃん達を見捨てて逃げたんだよね?」

「そうだよ、でも腕の良い冒険者なら、一人で三頭ぐらいは相手に出来るって話だよ」

「あれは、一人三頭どころじゃないよね? スケルトンも同じぐらいに強いの?」

「うん、あれ以上かな……」

「はぁ……なんか、国分君が本当に魔王に見えてきたわ……」

相良さんは、溜息をつきながら、みんなの所へと戻っていきました。

失礼な……みんなの為に奔走している僕が、魔王に見えるなんて相当な節穴だよね。

昼食の後には、全員にヴォルザードに着いてからの事を話しました。

まず最初にトラブルは厳禁だと釘を刺し、ギルドの登録や救出作戦の準備中である事も話し、最後にもう一度、トラブルを起こさないように釘を刺しておきました。

「国分、そんなに心配しなくても、僕らだってわきまえているから大丈夫だ」

「僕としては、そう言っている鷹山が一番心配なんだけど……マジで騒動とか起こさないでよね」

「失礼だな、僕ほどの魔法の才能があれば、トラブルになんかなる訳が無いだろう」

「何だか、ますます心配になるよ……」

とりあえず、ヴォルザードに到着してからは、男子は近藤と新旧コンビ、女子は本宮さんと相良さんと凸凹シスターズにまとめてもらう事にします。

城門のところには、今回もカルツさんが待っていてくれました。

前回同様に、門の手前で武装解除して、剣とナイフは回収してもらいます。

これまた前回同様に、武器の回収に来たバートさんが耳元で囁いていきました。

「ケント……お待ちかねだぞ……」

「あっ、はい、どうも……」

僕は、てっきり先に救出した五人が待ちわびているのだと思ったのですが、五十人の仲間と入った門の先に居たのは予想外の人物でした。

「ようこそ、城砦都市ヴォルザードへ、私は領主の娘でベアトリーチェ・ヴォルザードと申します、皆様を心から歓迎いたします」

ドレスではないけれど、フリルやレースをあしらった純白のワンピースは、いかにもお嬢様という装いで、五十人の同級生は、男子も女子もうっとりして眺めちゃっていますね。

でも、油断しちゃだめですよ、そのウサギは肉食ですからね。

「ケント様……」

「ひゃい……な、何でしょう?」

ヤバいです、考えてる事が顔に出ていたのでしょうか? ベアトリーチェがツカツカと歩み寄って来ます。

自信たっぷり、オーラすら感じられる歩みに、思わず同級生達が一歩二歩と下がって道を開けます。

「御学友の救出をなさっていたと聞きました、魔の森を抜けて来るのは大変だったでしょう、お疲れ様でした」

「あ、ありがとうございます」

率直な労いの言葉に思わず頭を下げてしまいました。

だって、僕は気弱な日本人ですからね。

「お帰りなさいませ、ケント様……」

思わず下げた頭を上げた途端、頬にキスされました。

「きゃぁぁぁ! 現地妻よ、国分君の現地妻発覚!」

「おのれぇぇぇ! 許さんぞ国分、許さぁぁぁん!」

女子からは黄色い歓声が、男子からは怨嗟の声が湧き上がります。

ベアトリーチェは腰に腕を回して、僕の肩口に頭を預けてきました。

「リーチェは寂しかったです……」

ベアトリーチェの囁きと一緒に、香水でしょうか、良い香りがしてきます。

てか突き刺さる、突き刺さって来ます、男子二十七名の憎悪の視線が……って、何で鷹山までそんな目で見てるのかな、もっと良い思いしてきたじゃんか。

「えっ、えっと……み、み、みんなを宿舎に案内……」

「それは、あちらの五人がやって下さるのでは……?」

ニマニマとした笑みを浮かべる凸凹シスターズの姿を見て、女子が歓声を上げて駆け寄り、新旧コンビとガセメガネは憎悪の視線を送って来てますね。

そ、そこに居るのはマノンちゃんじゃないですか。

いつものダボっとした服装ではなく、パンツルックだけれども、綺麗な色使いと、ほっそりとしたシルエットで、誰が見ても女の子と分かります。

大きく一つ深呼吸をしてから、マノンは真っ直ぐに歩いて来ました。

もうすぐ十一月だというのに、頭の毛穴が開いてダラダラと冷や汗が流れてきますよ。

ベアトリーチェはマノンを見詰め、僕の背中に回した腕に力を込めて来ます。

ヤバいです、これが噂の修羅場って奴なんでしょうか。

女子からは興味津々といった視線が、男子からは僕の情けない姿を期待する視線が送られてきます。

「おかえりなさい、ケント」

「ひゃい……た、ただいま、マノン」

いつぞやの時のように、ビンタを食らうかと思って身構えていたのですが、マノンは落ち着いた様子です。

「ベアトリーチェ、ケントの邪魔はしないでね」

「うぅ……分かりました……」

正論で諭されてしまえば、ベアトリーチェでも反論の余地は無く、しがみ付いていた腕を解いて僕から離れました。

その直後、スルリと身体を寄せてきたマノンが頬にキスしてきました。

「ちょっと、何してるんですか、マノンさん!」

ベアトリーチェが抗議の声を上げますが、マノンはギューっと両腕に力を込めて、絶対に離れないとばかりに抱き付いて来ます。

「きゃぁぁぁ! 二人目、二人目の現地妻よ、修羅場よ、修羅場!」

「良し、殺そう……スケルトンとかリザードマンとか強力だけど、殺るしかないよな……」

「勿論だ、武器、武器を返してもらうぞ」

物凄く不穏な声が聞こえて来るし、このままじゃ埒が開かないので、マノンの背中をポンポンと叩いて離れてもらいます。

って、自分から抱き付いて来たのに顔真っ赤だし、目がグルグルしちゃってるよ。

涙目で睨んでいたベアトリーチェが迫って来そうだったので、慌てて止めましたよ。

「ストップ! ホントにストップ! まだ、みんなを宿舎に連れていって、明日からの予定とかも話さなきゃいけないから、お願い……」

「うぅぅ……分かりました……」

唇を尖らせて睨んで来るベアトリーチェからは、お嬢様オーラが感じられず、歳相応の可愛らしさを感じます。

「じゃあ行こうか、ケント」

「えぇっ、マノン……?」

マノンは、僕の左手を恋人握りして、更に左腕で抱え込みました、

マノンも何か香水をつけているのか、良い香りがします。

「私も、お供いたしますわ」

マノンの行動を見たベアトリーチェが、すかさず僕の右腕を抱えこみました。

「ふぁ? ちょっと、ベアトリーチェ?」

「リーチェ!」

「うっ……リーチェも来るの?」

「むぅ……私は、そんなにお邪魔ですか?」

「い、いえいえ、そんな事は……」

ギャラリーが居なければ至福の一時なんでしょうが、女子の生暖かい視線と、男子の殺意の籠もった視線、そして守備隊の皆様の視線までもが集中して、めっちゃ居心地が悪いです。

と言うか、守備隊の人達から噂が流れて、チョイ悪オヤジの耳に入ったりしないでしょうね。

とにかくみんなを守備隊宿舎の食堂に連れて行って、夕食を食べさせましょう。

お腹が空いていると余計にイライラするからね。

夕食が終わった後、今後の予定を説明しました。

臨時宿舎の部屋割りは、八木達に頼んで済ませてあります。

この後は風呂に入って眠るだけで、明日、ギルドの登録カードを作ります。

五人を連れてきた時は、ギルドに登録に出向きましたが、今回は人数が多いので、ギルドからオットーさんが出張してきてくれる事になっています。

登録が済んだ後は、当座の費用として、一人五千ヘルトを渡して日用品の買い物をしてもらう予定です。

八木達が、自分達にもと要求してきましたが、勿論却下ですよ。

「国分のアホ、案内する俺達が金持って無かったら困るだろう?」

「ちょっと待ってよ八木、お金持って無いってどういう事? 一万五千ヘルト渡したんだよ。 まだ十日しか経ってないよね?」

「アホ、国分のアホ、俺らはお前みたいに強力な魔法は使えないんだぞ。 だったら武器でカバーするしかないだろう……」

「いやいや、武器って、どこで何するつもりだよ」

「アホ、これから救出作戦を本格的にやるんだろう? また魔の森を抜けて行かないと駄目なんだろう? だったら武器が必要だろう、なぁ、新田、古田、そうだろう?」

「当然だな……」

「八木の言う通り、議論の余地も無いな……」

「あぁ、私達は、初日に使い果たしたからね、勿論残ってないわよ」

「そうそう、女の子にはオシャレが必要だからね」

もう冗談抜きに膝から崩れ落ちましたよ。

「という訳で、俺らにも五千ヘルト……」

「却下!」

「ちょっと、せっかく碧達と再会したんだから……」

「駄目! お金が無いと出来ないって言うなら、案内はマノンに頼むからいいよ」

「じゃあ、三千ヘルトでいいから……」

「拒否します!」

「そんな冷たい事言わないで、ちょっとだけ……ね?」

「お断りします!」

「分かった、じゃあ中間を取って二千五百……」

珍しく八木と小林さんが共闘して、めっちゃしつこいです。

「もう仕方無いなぁ……五百ヘルト、これ以上はビタ一文出さないからね」

「五百って……それっぽっちかよ……」

「嫌ならいいよ、1ヘルトも出さないから……」

「あぁ、待った待った、分かった、五百ヘルトで我慢する……」

「あのねぇ……倉庫で一日芋運びをしたって三百五十ヘルトにしかならないんだからね、贅沢言ってると、城壁の外につまみ出すからね」

「分かった、分かったよ……」

後の事は八木や小林さんに任せて、ドノバンさんに到着の報告を入れなきゃいけません。

「マノン、リーチェ、ギルドに報告に行くから、一緒に行こう、送って行くから」

八木達との金銭闘争を目を丸くして見ていた二人に声を掛けて、守備隊の宿舎から出ます。

すかさずマノンが左腕に、ベアトリーチェが右腕に掴まって来ます。

道行く人から視線を浴びちゃってますけど、良いよね、もう開き直りです。

ギルドまでの道すがら、ベアトリーチェに訊ねられました。

「あの……ケント様が皆さんの生活費を負担しているのですか?」

「うん、そうだよ」

「ケント様は、何か特別な役職に就いていらっしゃるのですか?」

「ううん、別に役職とかは無いよ」

「でしたら、ケント様が負担される必要は無いのではありませんか? 五十人に五千ヘルトずつだと、二十五万ヘルト……私達ぐらいの歳では簡単に用意出来る金額ではありませんよ」

「うん、まぁ……ラインハルト達が魔物をバンバン討伐してるし、ギガウルフも高く売れたから、予算的には大丈夫だよ」

オークの魔石、ギガウルフ、指名依頼の報酬を合わせると百七十万ヘルトぐらいの預金はありますし、手付かずのロックオーガの魔石もあるので、金銭的な心配は殆どありません。

あと百五十人を救出しても、当座の資金は七十五万ヘルトあれば良いので、全員分の食費を負担しても大丈夫です。

ですが、ベアトリーチェだけでなくマノンも浮かない顔をしてますね。

「どうかしたの?」

「ケント、倉庫の仕事でも一日で三百五十ヘルトしか稼げないって自分で言ってたよね?」

「うん、ガーム芋の倉庫だったけど、結構しんどかったよ」

「それなのに、五千ヘルトもポンと渡しちゃうの?」

「いや、でも、みんな着替えも何も持っていない状態だし、生活の道具も揃えないといけないし、それに一日で使っちゃう訳じゃ……」

「トモコとアケミは使っちゃったよ」

「うっ……確かに……」

マノンの言う通り、凸凹シスターズ率いる女子にお金を渡せば、それこそ湯水のごとく消費するのは目に見えてますね。

「二千ヘルトで充分だけど、ケントがどうしてもって言うなら三千ヘルト、それ以上は出し過ぎだと思う」

マノンの言葉にベアトリーチェも頷いています。

よく考えてみると、ヴォルザードに来てからも、服は貰い物を着てるし、食事は下宿で食べているし、殆ど買い物をしていないので、物価のレベルが良く分かっていないんだよね。

ここは二人の意見を聞いておいた方が良さそうですね。

「分かった、一人あたり三千ヘルトにするよ」

「あれ、ケント、ギルドに報告に行くんじゃないの?」

「うん、二人を送ってからにするよ、どうせドノバンさんは遅くまで仕事してるから大丈夫」

「ケント様、ドノバンさんが遅くまで仕事をしていると御存じなのは、ケント様もそんな時間まで活動されていらっしゃるって事ではありませんの?」

「うっ……そうだけど、毎日じゃないよ」

やっぱりベアトリーチェは鋭いですねぇ、実はほぼ毎日そんな時間まで飛び回っているんですけどね。

「なんだか、ケント様ばかりが損な役回りをしていらっしゃるように思えるのですが……」

「そうだよ、ケントはもっと他の人に仕事させた方が良いよ」

「うーん……そう、なのかなぁ……」

先にベアトリーチェを御屋敷まで送り届けると、門の前でまたチュってされちゃいました。

門番さん、お願いですからクラウスさんには報告しないで下さい、ホントお願いします。

その後、マノンを家の前まで送ると、マノンにもチュってされちゃいました。

「あっ……もしかして、前に頭突きを食らったのって……」

「あ、あれは、ケントが急に振り向くから……距離感が……」

「じゃあ、もう頭突きをされる心配はいらないね?」

「むぅ……ケントのバカ……」

マノンは拗ねて見せたけど、もう一度チュってしてくれました。

マノンと分かれた後、影移動を使ってギルドに移動すると、例によってドノバンさんはサビ残中でございます。

「こんばんは、ドノバンさん」

「むっ、ケントか……」

「はい、報告が遅くなりましたが、五十人全員無事に連れてこられました、これから宜しくお願いします」

影から出て、ドノバンさんの前でキッチリ頭を下げてお願いしました。

「ふむ……マノンにベアトリーチェ、お盛んだな……」

「はぃぃ? ど、どこからそんな話が……」

「クラウスさんに出くわさないように気を付けろよ」

「うへぇぇ……」

どうやらチョイ悪オヤジにも噂が到達してしまっているようです。

これは一戦交えるしかないのでしょうか。

「ギルドへの登録は、予定通りオットーを行かせるが、時間があれば俺も立ち会う」

「はい、よろしくお願いします。 それと、別口で五人ほど登録して頂きたいのですが……」

「例のアンデッド・リザードマンだな?」

「はい、ザーエ、ちょっと良い……?」

呼び掛けると、即座にザーエが影の中から姿を現しました。

ドノバンさんには、リザードマンの襲撃の件は報告済みですが、ザーエに会わせるのは初めてです。

「ぬぅ……また凶悪な仲間を作ったものだな」

「うむ、強き者よ、よしなに頼むぞ」

「なっ……人語まで話すのか、分かったラインハルト達と同様の手続きをしよう」

ザーエは、ドノバンさんと握手を交わすと、影の中へと戻って行きました。

「それと、今朝ですが、三十頭以上のオークの群れに遭遇しました」

「なんだと……前回は確か十四頭だったな?」

「はい、やはりオークが大量発生するのでしょうか?」

「分からん、だがロックオーガにリザードマン、随分と魔の森が活性化しているように感じるからな、可能性は高いな」

通常のオークの群れはせいぜい二十頭ぐらいで、三十頭以上となると、かなり大きな群れになるそうです。

「一応、警戒のレベルを上げておくとしよう」

「僕の戦力も増えたので、誰か一人はヴォルザードに残しておくことにします」

「そうしてもらえると助かる、頼む」

「僕としても、ヴォルザードの安全は守られていないと困りますから」

誰か一人がヴォルザードに残っていれば、異変があった時に直ぐに知らせて、援軍を整える事が出来ます。

「今回連れてきた連中は、直ぐに御者の訓練に入らせるのか?」

「はい、全員で行っても仕方無いので、メンバーは選抜する事になりますが」

「ケント、そいつらを訓練するよりも、アンデッド・リザードマンをもっと増やして、奴らに馬車を引かせた方が速かったんじゃないのか?」

「えっ……あっ、そうか……今から戻って……」

「ふん……手遅れだろう、もう骨まで食われてる頃だ」

スケルトンやアンデッドなどは、骨や死体が残っていないと発生しないそうです。

ラインハルト達がスケルトンとして存在出来ているのは、待ち伏せしていた敵が恐らく同じ騎士で、遺体を放置せずに焼いて骨にしてから埋めたからだそうです。

「死体は焼かずに埋めれば、ゴブリンやコボルトが掘り返して漁る、奴らに骨まで食われれば、スケルトンにもアンデッドにもならん。 リザードマンの遺体は魔石を抜いて放置して来たのだろう? 手遅れだな」

「あぁ……あと五人ほど揃えておけば、すぐにでも救出作戦に移れたのに……いや、待てよ狩りに行けば良いのか……」

ブツブツと一人事を言ってたら、ドノバンさんに釘を刺されました。

「ケント、作戦に没頭するのも良いが、お前も魔の森を横断して来たのだろう、少しは身体を休めておけ」

「はい、でも、その言葉は、連日一人残って仕事しているドノバンさんが言っても、あまり説得力が無いですよ」

「ふん、こいつめ、言うようになったじゃねぇか。 ならば俺は早々に引退して、お前にこの椅子を譲ってやろう」

「と、とんでもない! 帰ります! すぐに帰って休みます、お休みなさい!」

「くっくっくっ……」

やたらと迫力のあるドノバンさんの忍び笑いを聞きながら、慌てて影に潜ってギルドを後にしましたよ。