軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伝令

ジョベートで怪我人の治療を終えて、唯香、マノンと一緒に帰宅出来たのは日付が変わる頃でした。

招待しておいた居残り組とは、殆ど話も出来ませんでしたが、美味い食事をたらふく食べて満足して帰ったそうです。

アマンダさん達も既に帰宅したそうで、泊まっていけなかったメイサちゃんは不満そうだったそうです。

リビングでは、ベアトリーチェとセラフィマ、それに美香さんが起きて待っていてくれました。

お茶と軽い夜食を食べながら、ジョベートの様子を簡単に説明して、美香さんには先に休んでもらいました。

そして僕らも、むふふなお風呂タイムの後で、ぐっすりと眠りに就きました。

翌日は、朝食を済ませた後で、ギルドの執務室にクラウスさんを訪ねました。

「こいつは手酷くやられたな……」

「はい、港周辺の建物もですが、かなりの数の船が燃やされました」

被害状況を説明するために、ジョベートの様子を撮影した映像をタブレットで再生して見てもらっています。

クラウスさんは、冒険者時代に一度だけジョベートを訪れているそうですが、焼け落ちた街並みを見て眉間に皺を寄せています。

「建物だけでなく船も再建するとなると、かなりの材木が必要になるだろう。ヴォルザードで災害対応用に備蓄している材木の一部を融通する。ケント、運んでくれ」

「任せて下さい。今日もバジャルディさんの所へ顔を出す約束をしてありますので、受け入れ場所などを聞いて運び入れます」

普段はお金にはうるさいクラウスさんですが、こうした危機の時には利益や採算などは度外視で行動します。

東西の端と端に離れていても、同じ国という意識は強いのでしょう。

「ケント、この海賊どもは三隻だけだったのか?」

「はい、入り江の中から港に向かって攻撃を行っていたのは三隻です」

「お前が沈めた船も、こいつと同じような感じか?」

「そうですね、大きさも形も同じだったような気がします」

「入り江の外はどうだ?」

「外海までは確認していませんが……」

「見て来られるならば、援軍らしい船がいないか確認してくれ」

「分かりました、ちょっと行ってきます」

ジョベートにはコボルト隊を見張りに残していますから、更なる襲撃は起こっていないはずですが、入り江の外までは気が回りませんでした。

影に潜ってジョベートまで移動して、それから星属性魔術を使って意識を空へと飛ばします。

ジョベートの辺りは薄曇りの天気でしたが、低く垂れこめるような雲ではないので視界はまずまずといった感じです。

上空30メートルぐらいの高さを保って、入り江の入口周辺の海域や、東の沖合を見て回りましたが、海賊の仲間らしい船の姿はありません。

少し北寄りや南寄りの海域も見て回りましたが、一般の船影も見当たりません。

意識を身体に戻して、ヴォルザードへと戻りました。

「ケントです、戻りました」

「おう、どうだった?」

「海賊の仲間らしい船はいませんでした」

「そうか、普通の交易船はどうだ?」

「普通の船もいませんでしたね」

「妙だな……」

「えっ? 何か変ですか?」

「クラーケンの騒ぎが終わって交易が再開してるんだぞ、海賊船はまだしも普通の交易船がいないのは変だろう」

「あっ……そうか、そうですよね」

「コクリナで足止めを食らっているのか……そもそも海賊どもを……いや、それにしては中途半端か……」

クラウスさんは、腕組みをして考えを巡らせ始めました。

やはり、シャルターン王国が裏で糸を引いているのでしょうか。

「なんだ……なにが目的なんだ……」

「なにか変なところがあるんですか?」

「ケント、昨日の襲撃の様子を見て、海賊船三隻でジョベートを陥落させられたと思うか?」

「それは……どうでしょう。街には大きな被害が出ていましたが、守備隊や冒険者が応戦していたので、簡単に占拠できたとは思えません」

「だろうな。火属性の攻撃魔術や火矢を大量に打ち込めば火災を起こすことは可能だが、街を占拠するには船三隻の人数では足りない。だとしたら、目的はなんだ? 略奪して積み込み……なんてやってる余裕は無いだろう?」

「確かに、そうですね……」

「街を襲うぐらいなら、海の真ん中で交易船を襲った方が楽に稼げる。それなのに、わざわざジョベートの入り江まで乗り込んで来たのなら、そそのかした奴がいるはずだ」

「バジャルディさんは、シャルターン王国を疑っていたようですが……」

バジャルディさんから聞いたコクリナの噂話をすると、クラウスさんは二度三度と頷いていました。

「なるほどな、その話が本当ならば、裏で貴族が糸を引いている可能性がある。ただし、噂が本当ならばだ」

「偽の噂話を広めている……とかですか?」

「それもあるだろうし、町長やギルドマスターまでグルという可能性だってある」

「まさか、そんな事をすれば交易が滞って、自分たちの利益が減るだけじゃないですか」

「まぁ、普通に考えればそうだな。だが、普通じゃない連中は何を考えるか分かったもんじゃないぞ。例えば、ジョベートが海賊に襲われて大きな被害が出た、そこに物資を満載した交易船が入港したら……」

「そんな……でも他の船は見当たりませんでしたよ」

「ジョベートからコクリナまでの海を隈なく見てきた訳じゃないだろう? それに、街の復興は二、三日で終わるようなものじゃねぇ、数日到着が遅れたところで結果は一緒だ」

「本当に、そんな事を考えているんでしょうか?」

「さぁな、そいつはこれから入港してくる船の積み荷や、海賊どもの取り調べをしてからじゃねぇと分からないだろうな」

二隻の船に乗っていた海賊は、どれぐらい助かったのか分かりませんが、親玉が乗っていた船の連中は生かして捕らえてあります。

証言を聞き出すには十分な人数だとは思いますが、真実を語るかどうかまでは分かりません。

「素直に話しますかね?」

「まぁ、無理だろうな。それに話の裏付けが取れるとも思えねぇ」

「そうか、海の向こうの話だと確かめに行かなきゃいけませんものね」

「それに、仮に貴族の命令でジョベートを襲ったんだとしても、抗議したところで知らぬ、存ぜぬで通されちまったら、それまでだろう」

「探りに行った方が良いですよね?」

「そうだな……だがケント、お前が直接聞いて回る訳にはいかないぞ。ランズヘルト国内ならば、ヴォルザードの冒険者だと名乗れば良いだろうが、コクリナでは通用しないぞ」

「どうやって来たんだ……とか疑われそうですもんね」

「探るとしたら、影の中から、こいつを使ってやれるか?」

クラウスさんは、タブレットを指さしながら問いかけてきました。

「分かりました。ちょっとフレッドに探ってもらいますが……どの辺りから手を付ければ良いですかね?」

「そうだな……まずはギルドマスターと町長が変わったという噂の真偽、交易が通常通りに行われているのか、例えば荷物の積み込みの制限だとか、関税の引き上げが無かったかとか。その辺りで引っ掛かるものが見つかったら、そこから辿って調べてくれ」

「フレッド、お願い出来るかな?」

『りょ……すぐに取り掛かる……』

フレッドは、すぐさま準備を整えて、コクリナへと向かったようです。

「ケント、ジョベートには監視を付けているんだな?」

「はい、コボルト隊を配置して、何かあればすぐに知らせが来るようになっています」

「よし、そうしたら、この状況をレーゼのところにも伝えてくれ。ついでにナシオスとアウグストにも伝えてくれるか?」

「分かりました、ひとっ走り行ってきます」

影に潜ってバッケンハイムのギルドにあるマスター・レーゼの部屋を訪ねると、折よく領主のアンデルさんの姿がありました。

ちょっと話の内容を盗み聞きさせてもらうと、どうやらゴブリン騒動からの復興に関する話をしているようです。

話が一段落するまで待ってから声を掛けました。

「おはようございます。お邪魔してもよろしいでしょうか?」

「ケントかぇ? 入りや……」

一応許可をもらってからじゃないと、ラウさんにバッサリなんてことになりかねませんからね。

闇の盾を出して表に出ながら、アンデルさんに挨拶します。

「ご無沙汰してます、アンデルさん」

「やぁ、ケント君、イロスーンの件ではお世話になったね」

「いえ、相応の報酬をいただいてますから……それよりも、昨日のことなんですが、ジョベートが海賊に襲われました」

「なんだって! 街はどうなっているんだ」

「海賊は制圧して、街の火災も鎮火、怪我人の治療も終えましたが……かなりの被害が出ています。こちらを御覧ください」

タブレットを使って被害にあったジョベートの様子を見せ、昨日の様子を説明すると、マスター・レーゼもアンデルさんも沈痛な表情を浮かべました。

「すぐにバッケンハイムからも支援を……と言いたいところだが、うーん……」

どうやら、ゴブリン騒動にかなりの予算を食われているようで、アンデルさんは頭を抱えています。

「アンデルよ。金が無いなら、イロスーンで伐採した材木を送りや」

「しかし、材木を送るとなると日数や人手が掛かります」

「アンデルよ。そこにいるのは誰じゃ?」

「あっ……なるほど」

「ケントよ。ランズヘルトの危難ゆえに、手を貸してくれるかぇ?」

「はい、構いませんよ。材木さえ用意してもらえれば、僕がジョベートまで運びます」

影の空間経由なら、コボルト隊に右から左に運んでもらえば良いだけです。

支援用の材木の受け渡しは、明日までに体制を整えておいてくれるそうなので、改めて受け取りに来ることにしました。

「マスター・レーゼ。この海賊って何者なんですかね?」

「ケントよ、我は神ではないぞぇ。そもそも、ジョベートが襲われたことすら教えてもらわねばならぬ者が、襲った連中の正体なんぞ分かる訳がなかろう」

「そうですけど、背後関係の予測とか……」

「おおかたクラウスに命じられて調べるのであろうが、あまり先入観を持ちすぎると物事を見誤るぞぇ。まずは、捕らえた連中の言い分を聞いて、嘘が無いか締め上げ、更にそれが真か否か調べるのじゃな」

「なるほど……少し憶測しすぎですかね」

「まぁ、ランズヘルトの街を襲撃されたのだから腹は立つ、腹は立つが憶測で黒幕を決めつけてしまうと、本来手を組んでいける者とも対立することになる。それはジョベートを含むエーデリッヒだけでなく、フェアリンゲンやランズヘルト全体にとっても大きな損失となるぞぇ」

「確かに、戦争するより交易した方が良いに決まってますもんね」

「そういうことじゃ。ところでケントよ、以前我が頼んだことを覚えているかぇ?」

「えっ、伴侶にという話は……」

「そちらではないわぇ、ランズヘルトの各地を旅して、すぐに駆け付けられるようにしてくれと言うたであろう」

「あっ……そうでした」

「忘れておったな」

「すみません……すっかり……」

確かに、そんな話をマスター・レーゼから頼まれましたが、ノンビリ旅を楽しむような余裕は無かったので、すっかり忘れていました。

「此度のようなことが起こった場合、ケントがおらねばジョベートからヴォルザードまで知らせが届くには鳥を使ったとしても数日掛かることになる」

こちらの世界にはインターネットも電話も無いので、一番早く知らせを届けるには鳥を使った伝達方法になりますが、天候や外敵などの不安要素がつきまといます。

「今回は、たまたまケントが間に合ったから良かったが、海賊どもが好き勝手に暴れていたら、もっと多くの被害を出していたであろう。少なくとも、領主同士や主要な都市の間では、素早く連絡が届くようにしたい。勿論、相応の報酬は用意する。連絡網の構築を進めてくれんか?」

「そうですね……少し方法を考えてみます」

「うむ、ついでに伴侶の件も進めてもらって構わんぞぇ」

「そ、そちらの件は、今一度熟考致しまして検討を重ねさせていただきます」

あまり長居をすると、余計な話が次々に出て来そうなので、影に潜って次なる目的地へと移動します。

次に向かったのは、バッケンハイムのお隣、ブライヒベルグのギルドです。

ギルドの執務室で領主のナシオスさんに、それとヴォルザードと荷物を扱う集荷場でアウグストさんにもジョベートの状況を伝えました。

当然のように、ブライヒベルグからも援助物資の運搬を依頼されました。

確かに、こんな感じで僕が連絡業務を担当していたら、外敵との戦闘には参加出来なくなります。

別に僕がいなくてもラインハルト達がいれば大丈夫……なんて事はないですからね。

必要ですよ、僕はめっちゃ必要ですから、連絡網の構築を急ぎましょう。

ブライヒベルグからは、ジョベートへと向かい領主の館を訪れました。

「ケント・コクブ、また世話になったようだな。礼を言う……」

「いえ、これはエーデリッヒだけの問題ではありませんから、手を貸すのは当然です」

領主の館で僕を待っていたのは、エーデリッヒの領主アルナートさんでした。

某アメリカ大統領を彷彿させる仏頂面が、今日は一段と険しくなっています。

自分の領地が襲撃されたのですから当然なんですが、仏頂面にはもう一つ理由がありました。

「えっ、ドミンゲス侯爵の差し金なんですか?」

「海賊どもの親玉は、そう話しているそうだ」

昨日のうちに守備隊に引き渡された海賊どもに対しては、夜を徹しての取り調べが行われたそうです。

「海賊どもが使っていた船も、元はガドスの軍船として用意されたものをドミンゲス侯爵が下げ与え、そそのかして襲撃させたらしい……」

「そんな……それじゃあ、国による侵略行為じゃないですか」

「そうだな……だが証拠が無い」

「船があるじゃないですか。元はガドスの軍船なんですよね?」

「調べさせたが、ドミンゲス家に繋がるような紋章などは何一つ残されていない」

「ですが、あんな船を三隻もとなれば……」

「繋がりを示すものが何も見つからなければ、あの船は奪われたものだと言われたら、追及のしようが無い。それに、海賊のごとき犯罪者の言うことなど、信じるに値しないと言われたら論破するための証拠はこちらが揃えねばならん」

言葉を切ったアルナートさんは、苦々しげな表情を隠そうともしませんでした。

「あの……実際には、ドミンゲス侯爵は関わっているのでしょうか?」

「取り調べを行った者の印象では、十中八九は間違いないようだ」

海賊の証言が本当だという印象を持った理由は、どうやら僕にあるようです。

「奴らは、ドミンゲス侯爵からジョベートの守りは薄い、三隻で乗り込めば略奪し放題だとそそのかされたらしい。ところが蓋を開けてみれば、あっと言う間に二隻が沈められ、自分達も成す術も無く捕らえられてしまった。海賊どもからすれば、話が違う、そんな出鱈目な冒険者がいるなんて聞いていない、侯爵に騙された……と、こちらが聞いていない話までペラペラと喋ったらしい」

「では、あの海賊共はドミンゲス侯爵にとっては捨て駒ってことですか?」

「一夜が明けても、応援や後続の船が付いていない状況では、最初から見捨てるつもりだった可能性が高いな」

「でも、軍船を三隻も使って、何の利益も得られないような襲撃を行った理由は何なんでしょう?」

「そいつが分かれば苦労はしない。必要とあらば、こちらから乗り込んで叩き潰してやるが、今はまだその時期ではない」

冷静さを装っているものの、アルナートさんのこめかみには血管が浮き上がっています。

どうやら襲撃の真相を探るには、海を渡る必要があるようです。