軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新居

マイホームができました。

昨年からハーマンさんに頼んでいた、僕たちの家と使用人さんのための建物の内外装工事が終了し、引き渡されることとなりました。

「どうだい、ケント。良い仕上がりだろう」

「おぉぉ、凄いお屋敷ですねぇ……」

「いやいや、ここはお前の家だからな」

「あっ……そうでした」

白亜の豪邸というか、借り住まいしている迎賓館より大きな建物で、全然自分の家って実感が湧いてきません。

ハーマンさんに、色々と室内設備について説明してもらったんですけど、デカいホールとか黙って入ったら怒られるんじゃないかと思ってしまいます。

それでも、二階に上がってお嫁さん達が使う部屋を見て、三階に上がってみんなが集まれる大きなリビングに足を踏み入れたら、やっと自分の家という実感が湧いてきました。

三階は全体が靴を脱いで寛ぐスペースになっていて、リビングはフローリングになっています。

広いベランダに向かって大きな窓があり、日当たりの良い特等席にはネロが丸くなっているのを見れば、ここは僕らの家なんだと実感しちゃうよね。

「ネロ、居心地はどう?」

「最高にゃ、一緒にお昼寝するにゃ」

「うん、後でね……」

僕らの家を見た後、使用人さんのための建物も確認しました。

こちらは、例えるならば社員寮という感じの建物ですが。

使用人の皆さんには、普段は食堂で食事をしてもらう形にしますが、それぞれの部屋は2DKの独立した家としても使えるようになっています。

東京育ちの僕から見ると、この部屋でも十分だと思ってしまいます。

「こっちの建物も良い仕上がりだろう」

「はい、僕1人だったら、こっちでも贅沢に感じちゃいますよ」

「はははは、それは嫁さんが許してくれないだろう」

「まぁ、そうですけどね……ところで、ハーマンさん。お支払いはどうしましょう?」

「ん? 工事の費用なら、もうベアトリーチェが清算してくれたぜ」

「えっ……そうなんですか?」

「そうなんですかって……何も聞いてねぇのかよ。かなりの金額になっちまったから大丈夫だとは思ったが、請求するときはドキドキものだったけどよ。ご心配には及びません……って言われちまって、あっさり俺の口座にふりこまれてたぜ」

「はぁ……」

自分の父親であるクラウスさんからもガッチリ報酬を引き出すベアトリーチェですし、最近はセラフィマも一緒にいますから全く心配はしていません。

ただ……ぶっちゃけ、いくら掛かったのか知らないんですよね。

家具とかも揃え終わってるし、恐らくこっちの費用も清算済みだと思われます。

それで良いのか国分健人と自問してみたんですけど、僕がやろうとすると余計な混乱を招くだけにしか思えません。

僕は馬車馬のごとく働いてお金を稼ぐから、細かいことはお願いしちゃった方が早いですよね。

ハーマンさんから、全ての建物の鍵を受け取り、引き渡しは完了いたしました。

あとは引っ越し作業なんですけど、うちはメッチャ簡単に終わっちゃうんですよ。

眷属のみんなが手伝ってくれるし、新居と迎賓館を影の空間経由で繋げてしまえば、右から左に荷物を手渡す感じで引っ越し作業が出来てしまいます。

まぁ、それでも最低限荷物を梱包する必要がありますから、その梱包を解く作業は必要でしょうね。

引き渡しに唯香達が立ち会わなかったのは、その梱包作業を行っているからです。

ちなみに僕は荷物自体も少ないですし、殆どが影の空間に置いてあるから梱包作業すら必要ありません。

なので、ちょっと、ちょーっとだけネロと昼寝しちゃいましょう。

「ネロ、ベランダに出ない? 日が当たって気持ち良いよ」

「にゃ、そっちに行くにゃ」

と言っても、ネロにはリビングの窓からは出られないので、闇の盾経由でベランダに出てきました。

「風が気持ち良いにゃ」

「うん、絶好の昼寝日和だね」

ベランダから見下ろすと広い庭では、フラムとレビン、トレノが昼寝中です。

その向こう側には大きな池があり、こちらはザーエ達の憩いの場になる予定です。

池の脇には地下に降りるスロープがあって、地下はコボルト隊とゼータ達の憩いの場になる予定です。

「んー……気持ちいい。帰る必要が無いのが凄くいい……」

なんてったって、ここが我が家ですからね。

ネロのお腹に寄り掛かってウトウトしていると、やがて階下が騒がしくなってきました。

どうやらお嫁さん達が荷物を運び入れ始めたようです。

それでは手伝ってまいりますかね。

「ネロ、ちょっと引っ越しを手伝ってくるよ」

「分かったにゃ、ここの警備は任せるにゃ」

「うん、お願いね」

ネロ自宅警備員を残して、引っ越しの手伝いにいったのですが、邪魔だからと追い返されてしまいました。

仕方がないから、ネロと共に自宅警備に励みますか。

引っ越しは、本館の二階だけでなく、厨房や使用人の宿舎でも始められています。

セラフィマと一緒にバルシャニアから来たメイドさん、警護を担当する女性騎士の皆さんも荷物の搬入を行っているようです。

「健人、お昼にしない?」

「ん? うん、今いく……」

唯香に声を掛けられてリビングにもどると、いつのまにか大きな絨毯が敷かれていて、その上にローテーブルが置かれていました。

マノン、ベアトリーチェ、セラフィマも顔を揃えていますし、コボルト隊がコロコロと転がって寛いでいます。

部屋の隅には、ゼータ達が邪魔にならないように横になっていますし、サヘルはテーブルに並んだサンドイッチを興味深げに眺めています。

みんなが寛ぐリビングの光景が、不意に歪んで見えました。

「健人、どうしたの?」

「あれっ……なんでかな、分からないや……」

自分でも良く理由は分からないけど、涙がポロポロと溢れ出してきました。

ずっと夢見てきた光景が現実のものとなって嬉しいのと、ここに父さんや母さん、お婆ちゃんの姿が無いのが悲しかったのかもしれません。

僕が涙を流しているのを見て、驚いて駆け寄ってきた唯香を抱きしめると、マノン達も席を立って僕に抱き着いてきました。

「ケント……」「ケント様」「ケント様」

「僕は……みんなのことを一生離さないからね。この家で、みんなで幸せになるんだ」

お嫁さん四人に囲まれた僕を、眷属のみんなが取り囲んでいます。

この幸せを守ろう、みんなが幸せでいられるようにヴォルザードを守ろう、バルシャニアを守ろう、日本を守ろうと心に決めました。

勿論、自分一人で全てを守れるなんて思っていません。

それでも、ぼくの大切な人の大切な人ぐらいは、守りきってみせますよ。

昼食の後は、みんなで昼寝……といきたいところなんですが、まだ片付けが残っているそうなので、またしても1人取り残されてしまいました。

なので、みんなの邪魔にならないように気を付けながら、我が家が動き出す様子を見に行きます。

最初に向かったのは、僕らの胃袋を支えてくれる厨房です。

我が家の厨房を取り仕切るのは、セラフィマが連れてきた2人の料理人、ヤブロフとルドヴィクです。

二人には、ヴォルザードの方式に慣れてもらうために、クラウスさんの屋敷の厨房で働いてもらっていました。

ランズヘルトの料理と、バルシャニアの料理と、日本料理のアレンジも加えてもらって食事を作ってもらう予定でいます。

その厨房は、外から覗いただけでも戦場の様相を呈していました。

フライパンや鍋、包丁などの調理器具、食器などを配置したり、水や火の魔道具の具合を確かめたりしながら、食材の搬入も進めています。

運搬業務はコボルト隊も手伝っていますが、調理人でなければチェック出来ないことが膨大にあるので、暫くの間は大変そうです。

「ヤブロフさん、足りない物、必要なものがあれば、取り寄せてもらって構いませんからね」

「これはこれは、旦那様。かしこまりました、早速今夜からルドヴィクと2人で腕を振るわせていただきます」

「楽しみにしてます。あっ、その食事なんだけど……」

一つ思い付いた事があったので頼んでみたのですが、ヤブロフは驚いた表情を見せたあとで、少し考え込みました。

「難しい?」

「いえ、旦那様のご要望とあれば、それに応えるのが私どもの仕事ですが……」

「難しいならば、無理に……とは言わないけど、近い形にしてもらえれば有難い」

「かしこまりました。ルドヴィクと相談してみます」

引っ越しの忙しい時に、無理を言ってしまったようですが、出来れば実現したいんですよね。

これ以上の長居は邪魔になると思い、続いて使用人の宿舎へ足を向けました。

こちらの建物には、先程の料理人ヤブロフとルドヴィクの他に、四人のお嫁さんを担当する四人の女性騎士と四人の侍女が暮らすことになっています。

今の所は10人ですが、宿舎の部屋数は倍以上用意されています。

てか、そんなに使用人さんは必要なんですかね?

お給料の支払いが出来るかなどは心配していませんが、そんな御大層な生活じゃなくても……なんて考えちゃうあたりが小市民っぽいですよねぇ。

今は本館の玄関から出て庭から使用人の宿舎を眺めていますが、本館と宿舎は渡り廊下で結ばれていて、雨の日でも濡れずに移動出来ます。

宿舎の背後には大きな木が植えられていて、その向こう側がヴォルザードの城壁になります。

宿舎を眺めていたら、セラフィマ付きの女性騎士、ナターシャに声を掛けられました。

「旦那様、何か御用でございますか?」

「ううん、出来上がった建物を眺めていただけだから、大丈夫」

「そうでございますか。我々にまで、このような宿舎を用意していただき感謝しています」

「不満な点があったら、気軽に声を掛けてね」

「不満なんて、とんでもないです。バルシャニアで与えられていた部屋は、こちらの半分以下の広さでしたし、これほど設備も充実していませんでした」

バルシャニアにいた頃からセラフィマの護衛を務めていたナターシャは、帝都グリャーエフでも部屋を与えられていたそうですが、ベッドと小さな机が置ける程度の広さだったそうです。

「遠くバルシャニアから来てもらっているんだ。僕としては、キチンとした部屋で暮らしてほしいんだ」

「ありがとうございます。私達は、全力で奥様たちをお守りいたします」

「よろしくお願いします。あぁ、でもここに居る間は気を抜いていても良いですよ」

「気を抜くなんてとんでもない……と言いたいところですが、あの光景を見ればその通りなんでしょうね」

ナターシャの視線の先には、レビンとトレノ、フラムの姿があります。

建物の表だけでなく、裏手はコボルト隊やザーエ達が走り回っていますから、普通の人は近付こうなんて考えませんよね。

「この敷地にいる間は楽をさせていただきますので、表に出る際には万全の警備を行います」

「はい、よろしくお願いしますね」

とは言ったものの、これからはベアトリーチェとセラフィマには、ここで仕事をしてもらう予定でいます。

これまでは僕の秘書として、ギルドにあるクラウスさんの執務室に詰めていましたが、これからはマイホームが拠点となります。

留守を守り、来客への応対をするのが二人の仕事となりますので、外出の機会はこれまでよりも減るんじゃないですかね。

ちなみに、唯香とマノンが通っている守備隊の治療院も、目と鼻の先ぐらいに近くなりますので、こちらも護衛の機会は減りそうな気がします。

とは言っても、僕の大切なお嫁さんたちなので、しっかりと守っていただきましょう。

この後は、地下にあるコボルト達の巣穴にお邪魔したり、池の様子を覗いてみたり、建物の裏手に回ってみたり、ウロウロしているうちに日が暮れてしまいました。

本日の夕食は、本館一階にある食堂に、使用人を含めた全員が集まって食べます。

調理担当のヤブロフとルドヴィクにも加わってもらうために、配膳は全員で手分けして行いました。

「全員揃ったかな? それでは夕食にしたいと思いますが……特別な来客が無い限り、うちでは食事はこのスタイルでいきたいと考えています」

「えっ! 今日だけではないのですか?」

引っ越しの祝いに今夜だけ……と思っていたのでしょう、ルドヴィクが驚きの声を上げました。

ルドヴィクだけでなく、ナターシャ達も驚いています。

「僕は、ここにいるみんなが家族だと思っています。勿論、この先に色々な事情があって、こうして全員が集まれる日ばかりではないでしょう。それでも、可能な限り全員で集まって、今日はこんな事があった……明日はこんな事をする予定だ……とか、何気ない日常の会話を楽しめればと思っています。まぁ、僕が一番欠席しそうな感じなんですけど……」

僕の一言に、お嫁さん達は苦笑いを浮かべています。

「では、改めまして、新しい家族の船出に乾杯!」

「乾杯!」

本日の食前酒は、ディーノお爺ちゃんからいただいた、とっておきのリーブル酒です。

食前酒なのでほんの少量ですが、口一杯に深い味わいが広がり、鼻腔に芳醇な香りが溢れていきます。

「んー……もうちょっとだけ……」

「駄目!」

うっ……そんなに厳しく言わなくても良いんじゃないですか、唯香さん。

まぁ、まだ片付けが全部終わっていないようですし、そんな中で僕がデレデレになっていたらマズいですよね。

大人数でワイワイと話しながらの食事は、楽しくて美味しい一時でした。

夕食が終わり、一休みした後は、お風呂タイムです。

うちの自慢の大浴場に、たっぷりとお湯を張って入ります。

その前に、コボルト隊のみんなとゼータ達を流さないといけません。

これまた一仕事になってしまいましたが、普段の慰労を兼ねて頑張りましたよ。

うちの自慢の大きな湯舟は、半分が露天風呂になっています。

浴室の明かりは、足下が危なくない程度にしてあるので、満天の星を眺められます。

「はぁ……幸せ。こんな露天風呂、日本でも数えるぐらいしか無いんじゃない?」

湯舟の縁に頭を預けて、星を眺めていたら、風呂場の戸が開く音が聞こえました。

「お邪魔します……」

「えっ……?」

視線を浴室へと戻すと、ラッコみたいに湯舟に浮かんでいるマルト達の向こうに、唯香、マノン、ベアトリーチェ、セラフィマの姿がありました。

四人は、いわゆる湯あみ着を身に着けているのですが、掛け湯をしたら……おぉぅ。

「えっ……ちょっ……」

「今日から本当の意味で一つ屋根の下で暮らすんだよ」

「唯香……?」

「よろしく……」

「って……マノン、大丈夫?」

「この日が来るのをずっと待っていました」

「リーチェ……」

「よろしくお願いしますね、旦那様」

「セラ……」

四人は、ピッタリと僕に身を寄せてきました。

ヤバイです……このままじゃノボせちゃうよ……。

この夜、僕は大人の階段を上りました。