軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お姉さま

「うーっす、国分、今朝も冴えねぇ面してやがるな」

「うっさいな、八木にだけは言われたくないよ」

国沢さんの治療を終えてから一日休みを取ったのですが、まだ気分がスッキリしません。

治療の内容がショッキングなので居残り組には詳しい話をするつもりはありませんし、特に八木には話せませんね。

あること無いことガセメガネの本領を発揮して、喋りまくられたら堪りませんからね。

「さては、また面倒事に巻き込まれていやがるな?」

「僕にとっては、八木以上の面倒事なんて存在しないよ」

「はっはっはっ、俺様こそが至高の存在……って何でだよ、俺様のどこが面倒なんだよ」

「んー……存在そのもの?」

「酷ぇ! 誹謗中傷もいいところだ、断固謝罪を要求する! 名誉棄損の慰謝料として1億ヘルト支払え」

「うん、そう言うところだぞ、八木。パパになるんだから、少しは落ち着きなよ」

「パパって言うなぁぁぁ……」

まったく、いつになったら現実を直視するんだか、八木はガックリと膝をついて頭を左右に振りながら、パパじゃない、パパじゃない……と繰り返しています。

まぁ、いくら否定したところで、現実からは逃げられないのだよ。

本日の特訓には、ミリエを連れて行くという話は聞いていましたが、その隣には綿貫さんの姿もあります。

「よぉ、国分。あたしにも見物させてよ」

「見物って見世物じゃ……いや、見世物なのか?」

「きししし……そこは否定してやろうぜ。新旧コンビとか頑張ってんだろう?」

「まぁね。ヴォルザードの同年代の冒険者よりは腕が立つと思うよ。頭の中身はジョー頼みだけどね」

「きししし……言うねぇ。まぁSランクの冒険者様から見れば、そんなものなのかね」

そして今朝は、綿貫さんの他にもう1人の飛び入りの参加者がいます。

「おはよう、ケント」

「おはようございます。ミューエルさんも見物ですか?」

「うん、まぁね。ついでに、薬草の採取も出来たらうれしいな」

「薬草ですか……まぁ特訓場の近くは手付かずの森なんで、生えているかもしれませんね」

薬草採取も出来たら……なんて言いつつ、ギリクが気になっているんでしょうか。

あんな犬っころ、さっさと見切りを付けてしまえば良いのに……。

「あぁ、でも1人じゃ森には入れないか」

「だったら僕が護衛に……と言いたい所ですが、特訓用の魔物を捕まえに行ったりしなきゃいけないので、コボルトを護衛につけますよ」

「ホントに、ありがとう」

ふぉぉぉぉぉ! 久々にミューエルさんのハグですよ。

国沢さん絡みで落ち込んでいた気分が一気に回復しましたよ。

ミューエルさんが見学に来るんですから、当然ギリクも参加してるんですが、近付いてきませんね。

ミューエルさんが来てるのが嬉しいくせに、格好つけて気の無い振りをしているようです。

と言うか、ホントにAランクに上がるまでは近付かない気ですかね。

まったく素直じゃないよね。

本日の参加者は、新旧コンビに近藤、鷹山、八木、ギリク、本宮さん、綿貫さん。ミリエ、ミューエルさんの総勢10人です。

待ち合わせたシェアハウスの裏手から、特訓場まで一度に転送しました。

本宮さんを除いた女性3人は、初めての送還に驚いていました。

「うぉぉ、もう着いたの? 国分」

「うん、もう魔の森の真ん中だからね」

「すっごーい、ここはケントが切り開いたの?」

「僕の眷属が、僕の知らないうちに作ってました」

ミューエルさんに言われて思い出したけど、ここは僕がヴォルザードに着いて間もないころにラインハルトが嬉々として切り開いたんだよねぇ。

でもって、最近また特訓に使ってます。

「こ、こ、これって……ど、ど、どうなって……」

「考えても無駄だぜ、ミリエ。国分は、そういうものだと思うしかないんだよ」

「そうそう、達也の言う通り。いくら手を伸ばしても届かない奴を見るよりも、少し頑張れば手が届くかもしれない者を見た方が勉強になるぞ」

「はっ、そ、そうですね……」

新旧コンビの言ってる事はもっともなんだけど、自分達に注目してもらいたい下心が滲み出ちゃってるんだよね。

まぁ、訓練が始まれば、格好付けている余裕とか無くなるだろうけど……。

『ケント様、そろそろ始めますぞ』

「そうだね。ノンビリしてても時間の無駄だからね」

でも、その前に見学に来た女性陣に護衛を付けておきましょう。

「マルト、ミューエルさんを護衛していて」

「わふぅ、分かった」

「よろしくね、マルトちゃん」

「わぅ、撫でて、撫でて」

マルトはミューエルさんの撫でテクに、目を細めてウットリしています。

ちょっと離れた場所からギリクが睨んでますね。

そんなに睨んでも、ミューエルさんは撫でてくれませんよ。

「ミルトは綿貫さんをお願いね」

「わぅ、任せて」

「よろしく頼むな」

「お腹撫でてもいいよ」

ミルトも綿貫さんに撫でられて、尻尾をブンブン振って喜んでいます。

「ムルトはミリエの護衛を頼むね」

「わふぅ、後で撫でてね」

「よ、よろしくお願いしましゅ……」

「わぅ、任せとけ」

なぜかミリエは、下げた頭をムルトにポフポフされてます。

自然と上下関係というものは決まるものなんですかねぇ……。

「くるるぅぅぅ……」

マルト達にミューエルさん達の護衛を割り振っていたら、すすっとサヘルが身を寄せてきました。

「はいはい、僕の護衛はサヘルがしてくれるんだね。よろしくね」

「くー……くー……」

頭を撫でてあげると、上機嫌で喉を鳴らしています。

焼き餅を焼かないように、後でマルト達も忘れずに撫でてあげないといけませんね。

「じゃあ、みんな始めるよ。最初はいつものようにランニングからね」

まずは準備運動がてらのランニングから始めますが、当然全員討伐に行く装備を着けて走ります。

実戦に即した訓練じゃないと意味無いですもんね。

今回は剣を左の腰に吊り、革鎧を身に着けて参加しました。

「おい……国分……ちょっ待て、早い……」

「勿論、待ちませーん!」

「おまっ……この前は、俺と一緒だったのに……」

ランニングを始めて早々に、八木がペースに付いて来られずに脱落しそうになっています。

「あぁ、あれからねぇ……鍛え直してるんだ」

「お前……自分だけズルいぞ……裏切り者!」

「てか、鍛えない八木が悪い……てことで、レビン、ヨロシク!」

「分かったみゃぁ! 任せるみゃぁ!」

今回も、八木のペースを維持するために、サンダーキャットのレビンを召喚しました。

「待て待て、ちょっと待て……こいつマジで洒落にならねぇんだよ!」

「うん、知ってる。頑張って……」

「この、鬼畜健人め。覚えて……あばばばば……」

今日はレビンに面倒を掛けたのは八木だけで、僕は息絶え絶えながらも、みんなに遅れず走り切りましたよ。

ランニングの後は、オークを単独で討伐してもらいます。

オークを見繕いに、ヒュドラの討伐跡に向かおうとしていたら、ギリクに呼び止められました。

「おい、ケント。俺にはロックオーガを連れて来い」

「勿論、却下します」

「なんでだ。もうオークなんざ目をつぶってても倒せるぞ」

「だったら、見ているみんなが感心するような、洗練した手際で倒してくださいよ」

「オークなんざ両腕圧し折って、首を叩き切れば終わりだろう」

「はいはい、そうですか。でも最初はオークからです。嫌なら、いつでも帰ってもらってかまいませんよ」

「こいつ……」

まったく、少しは殊勝な態度を取るようになったかと思っていたんですけど、喉元過ぎれば何とやらなんですかねぇ……。

ギリクのリクエストは華麗に却下して、全員にオークの討伐をやってもらいました。

ちなみに、僕は夜中の特訓タイムにやるので、今は魔物の転送に専念します。

「誰から始めます?」

「俺だ!」

ミリエにアピールしたい新旧コンビを押しのけて、ギリクが特訓場へと踏み出していきました。

押し退けられた新旧コンビは、肩を竦めてお手上げポーズで、それを見ていたミューエルさんは溜息をつきながら頭を小さく左右に振っています。

格好つけてるつもりが逆効果になっていると、いい加減に気が付いた方が良いんじゃないのかな。

ヒュドラの討伐跡地から、活きの良いオークを見繕って転送すると、ギリクは言葉通りに大剣の峰で両腕を叩き折り、首を刎ね飛ばして止めを刺しました。

ドヤ顔で格好つけているけど、ミューエルさんは微妙な表情ですね。

てか、肝心なことを忘れてませんか。

「ギリクさん。倒したら、さっさと魔石を取り出して下さい。次がつかえてますから」

「わ、分かってる。ちょっと待ってろ!」

いかに格好付けてオークを倒すかしか考えていなかったようで、慌ててナイフを用意して、大剣を鞘に納めかけて、血糊を拭きとってないのを思い出して、布を探して拭いて、ナイフをオークの側に置いたのを忘れて、キョロキョロ探し回って……手際が悪いこと……。

またしてもミューエルさんが、額に手を当てて溜息をついちゃってます。

新旧コンビまで、ミリエにあれが悪い例だとか言ってるし……散々ですね。

ギリクの次は、古田とのジャンケンに勝利した新田がオークに立ち向かいました。

新田は、先制攻撃に風属性の攻撃魔術をフルパワーで叩き付けたのですが、力みすぎて足を狙ったはずがオークの胴体を切り裂きました。

「ブギィィィィィ!」

ザックリと切り裂いた傷から鮮血が溢れ出しましたが、分厚い脂肪に遮られて致命傷には程遠いようです。

突進してきたオークに、新田は身体強化魔術で対抗しましたが、初撃で魔力を使い過ぎたので強化の度合いも上がりません。

「くそっ、手前ぇぇぇ! 死に晒せぇぇぇ!」

言葉だけなら威勢良くかんじますが、実際には青息吐息といった感じです。

ようやくオークに止めを刺し終えたのは、30分近く経ってからでした。

普段の新田ならば、ここまで手こずりませんが、今日は初撃の失敗が全てといった感じで、すかさず古田が解説を加えます。

「いいか、ミリエ。和樹のも悪い例だから真似するなよ」

「はい、分かりました」

「手前ぇ! 余計なことを言ってるんじゃないぞ、達也!」

古田に悪態をつきながらも、新田は手際よく魔石の取り出しを済ませました。

「国分、達也には飛びっきり活きの良い奴を頼むぜ!」

「はっ! 望むところだ、俺様の洗練された動きを見とけよ」

古田は、突進してくるオークに対して土属性の魔術を使い、足元を隆起させて躓かせようと考えたようですが、タイミングを計り損ねて素通りされました。

「わっ、嘘っ、ちょっ待って……」

土属性の魔術を使うために、両手を地面に密着させていたので、突進してきたオークに立ち遅れ、転げ回って逃げる羽目になってます。

「ぎゃははははは、見ろ、見ろ、ミリエ。あれこそが残念すぎる冒険者の姿だぞ」

「は、はぁ……」

自分以上に苦戦している古田を見て、新田は腹を抱えて笑っているけど、その姿をミリエにジト目で見られているのに気付いていないようです。

結局、古田も30分近く掛かって、ようやくオークに止めを刺しました。

うん、何だか凄く効率が悪くなってるよね。

「次は誰?」

「じゃあ、俺が行く」

近藤と目で合図し合って、どうやら鷹山が先にやるようです。

オークを送還して特訓場へと戻ると、鷹山は火球を胸の前で構えてオークと対峙していました。

突進してきたオークに対して、左側に回り込みながらチェストパスの要領で火球をぶつけました。

これまでの野球のボールを投げる形よりも動作が小さいので、避け辛いらしく、火球は的確にオークの顔面を捉えています。

鷹山は動き回りながら次々に火球をぶつけ、背後に回り込んだところで剣を抜き、オークのアキレス腱を叩き切りました。

オークの動きが鈍った後も、鷹山は距離を保って慎重に攻め続け、止めを刺したのは20分以上経った後でしたが、全く危なげない戦い振りです。

「どうしたの、鷹山。随分とイメチェンしたじゃん」

「シーリアや子供を残して死ぬ訳にいかないからな。これからは、これまで以上に安全策でいくつもりだ」

「おぉ、一家の大黒柱は違うね」

「まぁな……」

ホント、いつまで経ってもパパになる自覚の無い八木とは大違いですね。

鷹山に続いてオークと対峙した近藤も、安全を重視した戦い振りでした。

風の刃は2枚をセットにして、1枚は顔面、もう1枚は足を狙って動きを止める感じです。

小さく鋭い風の刃は、オークの顔面を切り裂き、流れ出た血が視界を遮る役目を果たし、近藤の攻撃を更に助けました。

結局、近藤は腰に吊った剣を抜くことなく、最後も風の刃で首筋を抉り、オークに止めを刺しました。

「近藤は、術士に専念するの?」

「いや、専念って訳じゃないが、俺はサポートに回る機会が多いから、どの程度いけるものなのか試してみたかったんだ」

「なるほどねぇ……みんな考えてるね」

まぁ、新旧コンビは余計なことを考えていますが、それでも戦術として試みは悪いものではありませんでした。

思い描いた作戦通りに事が運べば、もっと短時間で安全にオークを討伐できたはずです。

「ミ、ミリエ、あいつらは、たまたま戦術が嵌っただけだからな、俺だって初撃が上手く当たってれば、アッサリいったんだ」

「そうだぜ、ミリエ。それに、あいつらは嫁や女がいるしな……」

確か新旧コンビの目的って、冒険者を諦めるように考えさせるためにミリエを連れて来たんじゃなかったっけ。

なんだか、失敗した言い訳が必死すぎるんだけど……。

「きししし……ミリエ、こいつらや犬の兄ちゃんみたいなのが、女の尻を追い掛けて失敗する冒険者の典型だからな、良く見て覚えておけよ」

「おまっ……何言ってんだよ綿貫」

「お、俺らは失敗出来る状況だからこそ新しい作戦をだなぁ……」

「はいはい、ちっとは恰好良いところ見せてみなよ」

綿貫さんの突っ込みに歯ぎしりする新旧コンビは放っておいて、近藤の次は本宮さんが名乗り出ました。

ヒュドラの討伐跡からオークを送還して戻ると、本宮さんは左手に黒い水球を保持していました。

「何あれ?」

『ケント様、足元の土を混ぜた泥水のようですぞ」

本宮さんは、突進を躱しながら顔面に泥水を叩き付けて、オークの視界を奪いました。

目元を擦るオークの顔面に更に泥水を叩き付け、擦り抜けざまに抜きはなったサーベルで腿の内側をザックリと切り裂きました。

太い血管を切断したらしく、勢いよく血が噴き出してきます。

本宮さんはサーベルで牽制しながらオークの周囲を回り、出血多量で弱ったところで首筋を刎ねて止めを刺しました。

その動きは、さながらマタドールのような華麗ささえ感じさせます。

同じ女性冒険者として注目していたミリエが、口を半開きにして見惚れるのも無理ないですね。

本宮さんは、魔石の取り出しも手際よく済ませ、余裕さえ感じさせながら戻ってきました。

「本宮さん、また腕を上げたんじゃない?」

「そんなに簡単に強くはならないわよ。でも、この特訓のおかげで討伐に慣れたのは事実ね。ホント感謝してる」

右手の袖で額の汗をぬぐった本宮さんに、ミリエが意を決したような表情で話し掛けました。

「あ、あの……ミドリさん」

「何か質問?」

「いえ……その……お姉さまとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「えっ……お姉さま?」

「だ、駄目でしょうか?」

「べ、別にいいけど……」

「ありがとうございます! ミドリお姉さま!」

あれっ? 見惚れてたのって、そっちの意味なの?

てか、新旧コンビ、ピンチじゃない?