軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新旧コンビとガセメガネ

「ミリエを特訓場に連れて行きたい? 早すぎるんじゃないの?」

バッケンハイムのゴブリン騒動も一段落しそうなので、新しい訓練施設の検討を兼ねて居残り組の特訓を行おうかと考えました。

そこでシェアハウスを訪れてみたら、古田からミリエの参加を打診されたのです。

「いや、ミリエに討伐をやらせようなんて考える訳じゃねぇよ」

「じゃあ、何のために連れて行くのさ?」

「そんなもの、実際の討伐の様子を見せるために決まってんだろう」

「討伐の様子を見学させて、今後の参考にさせようってこと?」

「まぁ、それもあるけどよぉ。ぶっちゃけミリエが冒険者としてやっていけると思うか?」

僕の後釜としてアマンダさんの店に下宿を始めたミリエですが、正直に言ってヴォルザードに来た直後の僕よりもポンコツです。

技術、体力、判断力……全ての面で足りなすぎます。

僕が初めて会った時だって、木剣で素振りをしていただけでギックリ腰になってたほどですからね。

冒険者として活動していくのは、正直ちょっと難しいでしょう。

「まぁ、今のままでは厳しいんじゃない」

「だろう。でもよ、自分の夢を周りに否定されるのは辛いだろう」

「なるほど、そこで冒険者の現実を見せて、諦めさせようってことだね」

「いや、そうじゃねぇよ」

「えっ、違うの?」

「諦めさせるんじゃなくて、考えさせるんだよ。こんなに危険なんだから、お前には無理だ、やめておけ……なんて言っても反発するだけだろう」

「確かに……」

そう言えば、ミリエがギックリ腰になった時も、メイサちゃんと一悶着あったとか綿貫さんから聞きました。

自分の夢を頭ごなしに否定されるのは辛いものです。

だから否定するのではなく、現実の討伐の様子を見せて、自分で判断させようと考えているようです。

「新田も賛成なの?」

「あぁ、ちょっと……いや、ミリエはかなり危なっかしいだろう。冒険者になるのが夢だって言ってるけどよぉ、現実が甘くないのは国分だって分かるよな」

「まぁね、僕としてもミリエが無茶して大怪我したり、命を落としたりしてほしくないんだよね。アマンダさんやメイサちゃんが悲しむのは見たくないし……」

「だろう? 国分、夢が破れた時にはどうすれば良いか知ってるか?」

「えっ、夢が破れた時? それは、新しい夢を見つける……とか?」

僕の答えに新旧コンビは、揃って首を横に振りました。

分かってねぇな、こいつ……と言わんばかりのジェスチャーがムカつきますね。

「国分……夢は託すんだ」

「はぁ? 託すぅ……?」

格好つけた口振りにイラっとして、思わず半切れ気味に答えちゃいましたが、古田は気付いていないようです。

「帰宅部だった国分には分からないかもしれないが、俺ら運動部は全国行きの夢を賭けてトーナメントを戦ってきた。そして、敗れた夢は勝者が背負って進んでいくんだよ」

「あぁ、なるほど……」

古田はサッカー部、新田は野球部の一員として、全国大会出場を目指してチームの一員として大会に出場していました。

うちの学校は、あまり運動部は強くなかったので、全国優勝どころか都でも区でも優勝には手が届いていませんけどね。

敗者の夢を勝者が背負って、更なる高みを目指して進んで行く。

いかにも運動部的な発想ですが、気持ちを納得させるという意味では良い方法だと思います。

「託すは良いとして、誰に託させるの?」

「それは、俺だろう」

「いやいや、何言ってんだ達也、俺に決まってんだろう」

「寝言ほざいてるんじゃねぇぞ、和樹! ミリエの夢を引き継ぐのは俺だ!」

あぁ、揉め始めている新旧コンビを見ていたら、ミリエを連れてゆく本当の理由が分かってきました。

どうやらミリエに、魔物と戦っている格好良いところを見せて、点数を稼ごうという気なのでしょう。

かなり動機は不純だし、訓練に身が入らないと困るんですが、ミリエに討伐の実情を見せる意味はありそうです。

まぁ、2人が格好つけられないような数の魔物や、ロックオーガあたりを用意すれば良いですしね。

「分かった、取りあえずミリエを見学で参加させるのは許可するよ。1人ぐらい増えても転送できるしね」

「いや、人数は増えないぞ」

「そうそう、ミリエが増えても一緒だ」

「えっ、あぁ、本宮さんが不参加?」

「違う違う、そうじゃねぇ」

「あれだ、あれ……」

「へっ……?」

新旧コンビが指差す先には、魂が抜け落ちたように呆然としている八木の姿がありました。

そう言えば、いつも一緒のマリーデの姿が無いような……。

「何なの、あれ」

「あれか? 教えてやろう、国分。やれば……」

「できる!」

新旧コンビの話によれば、マリーデの妊娠が確実になったようです。

そのマリーデは、安定期に入るまでは実家に戻っているそうです。

「まぁ、毎晩毎晩サルみたいにギシギシ、アンアンやってれば、当然行き着く場所だろう」

「達也の言う通りだ。俺らが、どれだけ……どれだけ安眠を妨害されたことか」

「そう言えば、護衛で出掛けた先でも……って言ってたね」

「そうだよ。あのマールブルグの壁の薄い安宿でもだぞ」

「隣の部屋に俺や達也がいてもだぞ」

新旧コンビが憤懣やるかたないといった様子で、かなりの声量で話をしているのですが、八木の耳には届いていないようです。

そんなにショックだったんですかねぇ……パパになるのが。

「まぁ、迷惑だったのは確かなんだが、聞けばマリーデは八木の気を惹くのに必死だったみたいだし」

「サルみたいに盛っていたのも、できちまえば……みたいな思いもあったらしいからな」

「なるほどねぇ……なんでそこまで八木に固執するのかは理解できないけどね」

「まったくだ。まぁ、国分が協力しない限りは逃げ道無いけどな」

「逃げたところで、マールブルグまでだろう? てか、八木は生活力無いしな」

僕と新旧コンビに言われ放題だったからか、呆然自失だった八木がギギっと軋み音がしそうなぎこちない動きで再起動して、フラフラと歩み寄って来ました。

「そうだ……そうだよ……そうなんだよ、国分!」

「うわぁ、何だよ急に……」

「頼む、国分、日本に帰らせてくれ!」

「駄目に決まってんだろう」

「頼む、爺ちゃんが死にそうなんだ。一目だけでも死ぬ前に……」

「八木の家に電話して確認するぞ」

「いや違う、爺ちゃんじゃない。このままでは俺が死にそうだから」

「じゃあ、治癒魔術を掛けてあげるよ」

「国分、貴様……こ、こうなったら死んでやる。いくら国分でも死んでしまえば手の施しようが無いだろう。それが嫌なら俺を日本に戻せ!」

八木は僕の両肩を掴んでガクガクと揺さぶりながら、必死の形相で交渉と言うよりも脅迫してきました。

「あぁ、もうしょうがないなぁ……」

「じゃあ、日本に帰してくれるのか?」

「八木には特別に、コボルト隊の監視を付けてあげるよ。自殺しそうになったら、強制的に阻止する。もし間に合わずに瀕死の状態になっても、僕が駆け付けられるように24時間影から見守ってあげるよ」

「はぁぁ……?」

「うははは、さすが国分」

「まさに鬼畜の本領発揮だな」

八木が奇声を上げる横で、新旧コンビが爆笑しています。

「国分ぅ! 貴様、それでも人間か! 貴様の心に、思いやりというものは無いのか!」

「てか八木、いい加減に諦めなよ。僕だって領主の令嬢やバルシャニアの皇女様を受け入れてるんだし」

「自慢か! 今、この瞬間に自慢ですか国分さんよぉ! 話のレベルも次元も違いすぎるだろう。ベアトリーチェ嬢やセラフィマ嬢なら俺だってウェルカムだ! てか、独り占めしてんじゃねぇ!」

「そうだ、八木の言う通りだ!」

「独り占めは許さんぞ、国分!」

あぁ失敗した、余計なことを口走ったから新旧コンビまで絡んで来ちゃったよ。

「あぁ、グダグダ言うなら、ミリエの参加を取り消すよ」

「何だと、国分。諦めろ、八木」

「そうだ和樹の言う通り、お前が悪いぞ、八木」

新旧コンビは、清々しいまでの変わり身が早いですね。

出来たと思った味方を瞬時に失った八木は、暗い目をして俯きながら、ボソボソと呟きました。

「くっそぉ……邪魔してやる、お前らがネット経由でエロい画像を収集してるのをミリエにバラしてやる」

「何を言ってるのかなぁ、八木君。エロい画像? 何のことだか……なぁ、達也」

「お、おぅ、そんなものには心当たりはないなぁ……」

「新田はグラドル、古田は熟女もの……2人とも巨乳好きだって、貧乳のミリエにバラしてやる……」

「ちょっと待て、八木!」

「話し合おう、人は言葉で分かり合える生き物だから……」

「はははは……終わりだ、みんな道連れにして破滅してやる……」

「早まるな、八木ぃ!」

「そうだ、俺も達也も八木の心の友だぞ!」

「じゃあ、僕は帰ってもいいかな?」

「おい、国分! お前には人の心はないのか!」

そんな3人揃って、僕が人でなしみたい言うなんて酷くない?

「てか、面倒だしぃ……そもそも自業自得でしょ。本気で嫌だったら拒めば良かったんじゃないの? ズルズルと関係を続けてきた八木に、何の責任も無いとは言えないでしょう」

「そうだそうだ、国分の言う通りだ」

「所構わずギシギシ、アンアンやってやがったクセに、ちゃんと責任取れ」

「う、うっせぇな。寝込みを襲われたら、どうにも出来ねぇだろう。目が覚めた時には、既にマウント取られて勝負は決してるんだよ。俺達ぐらいの年齢の健康な男子だったら抗えねぇよ」

八木が言うには、グッスリ寝入った後にマリーデに脱がされて求められていたらしいです。

「まぁ、八木にも言い分は有るんだろうけど……手遅れ」

「だな」

「まったくだ」

「くっそぉ……こんなはずじゃなかったんだ。俺は最年少ピューリッツァ賞の受賞者として、世界中の色っぽい姉ちゃんに囲まれてチヤホヤされるはずだったんだ……」

八木はがっくりと膝をついて項垂れ、再び呆然自失モードへと戻っていきました。

「じゃあ、次回はミリエが参加するってことで、開催は闇の曜日でいいね?」

「それで構わないけど、これをそのままにして帰るつもりか?」

確かに暗ーい目をして、俺は悪くない、悪くないと繰り返す八木は、鬱陶しいしヤバげな感じはします。

「ねぇ、僕がこっちに来てから、何回殺されかけたか知ってる?」

「はぁ? 何だよ急に。国分が殺されかけた回数と八木が何か関係があるのか?」

「勿論あるに決まってるじゃん。死にかけるような思いをしても、困難に立ち向かい続けたからこそ、今の僕があるんだよ」

「どういう意味だ? 分かるか、和樹」

「もしかして、死にかけるとチートになるとか?」

首を捻る新旧コンビと項垂れたままの八木に、キッパリと言ってやりました。

「ハーレムは、一日にしてならずだよ。目先の困難から逃げていたら、手に入るものまで入らなくなっちゃうよ」

「そうか、その手があるのか!」

項垂れていた八木が、バネ仕掛けのように頭を上げて立ち上がりました。

「国分、お前の言う通りだぜ、このハーレム野郎め。ヴォルザードでは一夫多妻が認められているじゃないか。実力次第でマリーデ以外の女を手に入れることだって可能って訳だ」

「いやいや、八木じゃ無理だろう。俺らよりも実力下なんだぞ」

「そうそう、また訓練で音を上げるのがオチだろう」

「はっ、何とでも言ってろ、この新旧DTコンビが。俺様は既に階段を登っているからな。貴様らとは女の扱いが違うのだよ」

「何だと、この逆レ男が!」

「扱いどころか扱われてるだけだろうが!」

「うるせぇ、うるせぇ、お前らとは経験値が違うんだよ」

「何ぬかしてやがる。マリーデに全部報告してやんぞ」

「待て和樹、そのネタを利用してフルールさんとお近づきになるってのはどうだ?」

「達也、お前天才か! よし、それでいこう! 八木、やりたい放題やっていいぞ」

「出来るか! こうなったら、貴様らを道連れに……」

「はいはい、もういい加減にしてよね。真面目にやらないなら特訓は中止にするよ。さっさと実力上げて、ランク上げて、収入上げないと良い女なんか捕まえられないからね」

鼻面にニンジンぶら下げて、やる気を起こさせようと思ったんですが、本当に面倒な連中ですね。

「そう言えば、鷹山と近藤は?」

「鷹山は、シーリアちゃんの検診に付き添ってる」

「近藤は……八木の二の舞にならなきゃいいけどな」

「あー……例のマールブルグの何とかって言う女冒険者か」

「国分、お前は本当に人の名前を覚えないな」

「いや、それほどでも……」

「褒めてねぇよ。それから女冒険者はロレンサな」

どうやら、近藤は以前護衛の依頼で一緒になって、提携関係を結んだらしい女冒険者のロレンサに連れ出されたようです。

一応、新旧コンビの話では、次の依頼を云々という話みたいだったが、実際のところは分からないそうです。

「ジョーも仕事に関しちゃ言うこと無しだけど、女に関しちゃ分からないからな」

「俺も達也と同意見だ。まぁ、仕事に支障が出なけりゃ構わないけどな」

「てか、2人ともライバルが減ってホッとしてんじゃないの?」

「ば、馬鹿言ってんじゃねぇよ、なぁ、和樹」

「いや、俺は率直に言って近藤が減る方が有難いし、この件に関しては達也、お前にも減ってもらいたいぐらいだ」

「おまっ……そこまで言うか。てか、引かねぇからな」

珍しく、新旧コンビが睨み合う構図だけど、そもそも上手くいく目は有るのかね。

まぁ、その筋のお姉さんに手を出した挙句、ニコラみたいな事になるよりはマシでしょう。

「じゃあ、とりあえず次の闇の曜日に特訓やる予定でいるから、他のみんなにも連絡しといて」

「分かった、よろしく頼むな」

「八木も、姑息な手段ばかりじゃなくて、正攻法の強さも身に着けるようにしなよ」

「あぁ、言いたいことは分かるぞ、国分。だが、断わる! 俺様は、楽して儲けるタイプだからな。ローリスク、ハイリターンだぜ」

「はいはい……ハイリスクを食らってる現状を早く受け入れてね」

「ぐぅ……今に見てろよ。お前以上のハーレムを築いてみせるからな。ハーレム王に、俺は……」

「はいはい、王でも神でも、好きに目指しなよ。じゃあ、連絡よろしくね!」

いつまでも八木と遊んでいても時間の無駄なので、イロスーンの現場でも見に行きますかね。