軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リーゼンブルグへの通知

目を覚ますと、雨の音が聞こえました。

カーテンを開けて窓の外を見ると、雨は本降りのようです。

夜中にトイレに起きた時には、雨音はしていなかったから、明け方から降り始めたのでしょう。

僕はどこに出掛けるにしても、影の空間を通って移動が出来るので、基本的に雨に濡れる心配をする必要はありません。

今日もリーゼンブルグの王都アルダロスまで行く予定ですが、影移動ならあっと言う間に移動が可能です。

これが普通の人だと、天候は一日の予定に大きな影響を及ぼします。

例えば馬車での移動の場合、道がぬかるんでしまうと途中で立ち往生してしまう場合もあります。

冒険者も、視界が遮られ、音も聞こえづらくなるので、基本的に雨の日は魔物の討伐には出掛けません。

城壁工事も雨の日はお休みですし、アマンダさんの店も客足が鈍るので売り上げが落ちるそうです。

雨の日は、ヴォルザードの人々にとっては、骨休めの日でもあるのです。

あれっ? そうなると、雨の日でも関係なく動き回る僕って……やばいです、このままではドノバンさんのような社畜一直線じゃないですか。

いやいや、でも召喚関連のゴタゴタを早く片付けないと、落ち着いて甘い生活に入れませんし……はぁ、頑張りましょう。

「ねぇ、健人。お願いがあるんだけど……」

朝食に行こうと誘いに来た唯香に、お願いをされました。

「ケント、僕もいいかな……?」

唯香に右腕、マノンに左腕を抱えられてお願いされたら、断われませんよねぇ。

うん、朝から妙なる感触が……2人と一緒にベッドに戻っちゃ……駄目ですよね。

「はいはい、診療所まで送れば良いんでしょ」

「さすが、健人」

「大好き……」

むふふふ、両方の頬にチュってされちゃいましたよ。

可愛いお嫁さんの頼みとあれば、喜んでタクシー代わりになりましょう。

クラウスさんが今日はギルドに出掛けないので、ベアトリーチェとセラフィマも迎賓館で過ごすようです。

でもでも、僕が出掛ける前には、ギュってして、チュってしてくれましたよ。

唯香とマノンを送り届けてから移動したアルダロスでも、大粒の雨が降っていました。

王城の塔から見下ろした街も、雨で煙って見えます。

雨の勢いが強いので、城を囲んだ堀の水位も上がっているように見えます。

まだ溢れるほどの水位ではありませんが、集中豪雨の時などは浸水被害とか出たりするんでしょうかね。

こちらの世界では、まだ傘が一般的に普及していません。

傘自体が高価なようで、貴族や金持ちが使う品物のようですが、そうした人々は雨の日にあえて外出はしないので、眺めた街にも傘の花は見当たりません。

一般の人々は、オイルスキンや防水布の雨合羽を使っていますが、雨の日には外出を控えるようで、街中の人影は疎らでした。

やっぱり帰ってセラフィマとベアトリーチェと一緒にノンビリしたくなっちゃいますね。

事前にハルトを通じて連絡しておいたので、カミラを始めとしたリーゼンブルグ王国の主だった顔触れが集まっていました。

カミラ、ディートヘルムの姉弟、ゼファロス・グライスナー侯爵、アダン・ラングハイン伯爵、ベルデッツ・オルデン騎士団長、ユルゲン・レンメルト近衛騎士、宰相候補のトービル・ムーリエンなど現在のリーゼンブルグ王国の中心的なメンバーです。

「お待たせしちゃったかな……あぁ、大袈裟な挨拶は要らないからね」

集まった人達から良く見える場所を選んで闇の盾から表へと出ると、カミラが素早く席を立って跪こうとしたので止めました。

何その不満そうな膨れ面は、ちょっと可愛いじゃないか……けしからん。

今日はリーゼンブルグの中枢を担う面子との会談なので、ちょっと良い服を着ています。

やっぱり身だしなみで舐められちゃいけませんし、ベ、別にカミラ相手に格好つけたいとかじゃないんだからね。

馬鹿デカいテーブルのお誕生日席に座り、少し声を張って話を進めました。

「皆さん忙しいと思うので、早速本題に入らせてもらいます」

ハルトを目印にして来たので気付きませんでしたが、どうやらここはアーブル・カルヴァインによって前国王が殺された議事の間のようです。

あの時、逃亡を図ったアーブルの一味によって壊された床も、血まみれになった内装も綺麗に改修を終えているようです。

僕が座る場所は、殺された前国王の席だけど、気にしたら負けのような気がするので、このまま話を進めましょう。

「賠償金の支払いに際し、日本政府からはディートヘルムの訪問を要請されました」

言葉を切って反応を窺いましたが、思っていたほど反発は感じていないようです。

「魔王殿、ちょっとよろしいですかな?」

「何でしょう、グライスナー侯爵」

「王子がニホンを訪問すると申されても、どうやって行くのですかな?」

「そうですね。日本はリーゼンブルグから見れば異世界です。僕自身は容易に行き来できますが、皆さんをお連れするには条件があります」

リーゼンブルグと日本を往来する方法は、送還術を使うか、影の空間を移動するしかなく、また属性魔術を所有している者は影の空間には入れないことなどを説明しました。

「では、魔王殿の存在を抜きにして、ニホンと行き来できないのですな?」

「そうなります」

日本との往来は、僕の力抜きには成立しないと説明すると、質問をぶつけてきた者がいました。

「よろしいでしょうか? 今の話を伺う限り、ディートヘルム様の命運を魔王殿にお預けする事になりますが、リーゼンブルグを裏切らないという証は……」

「この無礼者! 控えよ!」

なにやら得意顔で語り始めたトービルを、カミラが鬼の形相で怒鳴りつけました。

「貴様、これまでリーゼンブルグが、どれほど魔王様によって救われてきたのか、忘れたなどとは言わさんぞ!」

「も、申し訳ございません、カミラ様……ですが」

「ですがではない! 今すぐその下らない話を止めないのなら、その首叩き落としてくれる」

「はいはい、そこまで。まだ考えてもらわないといけないことが山積みだから、揉めるのは全部話を聞いてからにして」

パンパンと手を打ってカミラとトービルの口論を止めて、話を先に進めます。

「今説明した通り、こちらからの移動には召喚術または送還術を使用します。ただし、別世界までの移動なので、膨大な魔力が必要です。1日1回、送れる人数は20人程度と思ってもらいたい」

「それでは護衛や供の者などを送り込むのに、数日を要してしまいますな。馬や馬車などの輸送も考えますと、更に日数が必要かと……」

移動の人数が限られてしまうと話すと、騎士団長ベルデッツが懸念の声を上げた。

「馬や馬車の運搬は行わないよ。召喚術での移動となるので、会談が行われる建物の内部に直接入ることになる。日本政府としても不測の事態を避けるために、一連の日程は全て建物内部で行い、関係者以外の立ち入りは制限する予定でいる」

「なるほど、行列での移動は考えなくとも良いのですな」

「そういうこと。それと、日本政府からの要請で、基本的に武器は携行出来ないと思ってほしい」

「なんですと。それでは、どうやってディートヘルム様をお護りすれば良いのですか」

「まぁ、そう言われると思ってた。ちょっと、僕が暮らしていた星、地球と、日本という国について話をするね」

地球には魔素が存在せず、魔法が使えない世界であることや、アーブルが使っていた爆剤を進化させた爆発物や銃器が主な武器となっている状況を、モバイルプロジェクターで事前に用意した画像などを使って説明しました。

ミサイルや砲撃、自動小銃などの映像に、集まった一同は驚きの声を上げていましたが、戦闘機や戦闘ヘリ、爆撃機などの映像には驚きのあまり声を失っていました。

「ま、魔王様……このような兵器が、本当に存在するのですか?」

豪胆に見える騎士団長のベルデッツですら、問い掛ける声が震えています。

「勿論、こうした兵器は国が所有するもので、個人の所持は認められていないけど、夢でも空想でもなく現実に存在しているよ」

明治維新以降の状況を、本当にザックリと説明して、日本が非常に治安の良い国だと紹介しました。

実際の要人警護の様子も映像で見せて説明を加えました。

「魔王様の世界の兵器が強力で、警護を担当する者が優秀であることは分かりました。ですが、魔法も使えない世界で武器も持たない状態では、普通の暴漢にすら遅れを取る心配がございます。せめて帯剣だけは許可していただけませんか」

提案してきたのは、ディートヘルム付きの近衛騎士ユルゲンでした。

「うん、騎士が剣を腰に下げていないと格好が付かないもんね。ただ、日本の法律では刃物の携帯も禁じられているんだ。そこでちょっと考えたんだけど、刃を潰した剣は用意できるかな?」

「刃を潰した剣ですか?」

「うん、武器として携行するのは難しいけど、刃を潰せば装飾品として携行が許されるかもしれないんだ」

「装飾品……でございますか? 飾りでは持っていても意味が無いのではありませんか」

「いや、意味はあるよ」

梶川さんから武器携行の禁止を打診された時から考え続けて、思い付いたのがこの方法です。

「鉄で出来た剣や槍は、例え刃が潰れていても重量があるから武器になる。普通の人が振るっても鈍器として使えるし、まして訓練された騎士が振れば危険な武器になるでしょ?」

「確かに、仰る通りですが……」

「たぶん、刃が付いている状態で、魔法が万全に使えたとしても、地球の銃器には対抗できないと思うよ」

例えピストルでもあっても、詠唱を必要としない発動の速さがありますし、直撃を食らえば騎士の鎧も貫通してしまうでしょう。

それでも、刃物を持った男程度ならば、刃を潰した剣でも対応できるでしょう。

「それに、影の中から僕の眷属も護衛する。ロックオーガを紙屑みたいに斬り捨てる実力の持ち主だよ。フレッド、ちょっと良いかな」

闇の盾から姿を現したフレッドは僕の意思を感じ取って、ゆらりと動いたかと思った次の瞬間には、ユルゲンの頬に漆黒の剣を当てていました。

「どうかな?」

「了解いたしました。ディートヘルム様の警護は魔王様にお願いいたします」

「いやいや、そうではなくて。僕も協力するけど、いざという時には騎士の皆さんにも働いてもらうからね」

数を制限するでしょうが、マスコミによる記者会見のようなものはあるでしょうから、フルプレートに近い鎧を着て見た目でアピールしてもらうつもりです。

その後の話し合いで、ディートヘルムが日本に行っている間、リーゼンブルグにはカミラ、ラングハイン伯爵、騎士団長が残って留守を守ることになりました。

僕としたら、トービルも置いて行きたいところなんですが、ディートヘルムが見聞を広めさせたいので連れて行くそうです。

「先程、魔王様に見せていただいた物の実物を、全て見ることは叶わないでしょうが、その一端でも見られれば今後のリーゼンブルグを築いていく大きな助けとなるでしょう」

「でもね、ディートヘルム。文明の発展は良いことばかりじゃ無いんだ。急激な発展によって空や川や海が汚染されて、それを回復させるのに膨大な時間やお金が必要になった」

「でしたら、そうした負の側面も教えていただきます」

「そうだね。この先リーゼンブルグは間違いなく発展していくはずだ。日本と同じ失敗は繰り返してほしくないからね」

「はい」

少し見なかっただけですが、何だかディートヘルムがシッカリしてきたように感じます。

やはり、次の国王になるという自覚がそうさせているんでしょうね。

日本に行くのは、先乗りの20人、ディートヘルムを含めた後続の20人、合計40人に絞ってもらうことにしました。

細かい人選は、宿泊施設などが決定してから行うそうですが、まぁ誰が行ったとしても日本の街には驚くでしょうね。

折角、日本まで連れて行くのだから、主要な人達には高層ビル群とか飛行場とか、メイサちゃんのようにスカイツリーも見せてあげたいですね。

とりあえず、通訳と担当する先生に、テレビやインターネットなどを使って日本についての解説もしてもらいましょう。

勿論、カミラが行った召喚に伴って、中学校の校舎が崩壊して多くの犠牲者が出たことも、しっかりと説明してもらうつもりです。

日本への訪問については、ディートヘルムが中心となって計画を進めるそうで、カミラと2人で話す時間が取れました。

別室に移動して、応接用のソファーに並んで腰を落ち着けると、すかさずマルト達やハルトやサヘルまでが影から出て来て、さぁ撫でろと要求してきます。

僕としては、カミラを存分に……ゲフンゲフン、何でもないです。

「魔王様、トービルの馬鹿者が大変失礼いたしました」

「あぁ、別に気にしてないよ。サリエール伯爵関連で、上手くやれなかった分を取り戻したいんじゃないの?」

「だとしても、あのような失礼な発言は、リーゼンブルグが魔王様から受けた恩義を考えれば、到底許されるものではありません。ましてやトービルは、元々アルフォンス兄上が暗殺され、行き場を失いそうになった所を魔王様に救われたと聞いております。それなのに、あのような発言をするなんて、恩知らずにも程があります」

カミラは、憤懣やるかたないといった様子で、トービルへの不満を繰り返しています。

本人にぶつけちゃ駄目だけど、リーゼンブルグの次期宰相という立場を考えれば、トービルの抱いた危惧は当たり前です。

「まぁまぁ、それはそうと、ディートヘルムの日本行きについて、ちょっとアイデアがあるんだけど聞いてくれるかな?」

「アイデアでございますか……何でしょう?」

「うん、カミラにも関係する事なんだけど……」

クラウスさんに提案された、カミラの王族からの除籍や蟄居について話しました。

さすがに王族からの除籍と聞いて、カミラは愕然とした表情を浮かべましたが、発表を行うのは日本だけでリーゼンブルグ国内には告知しないアイデアを告げると少し考え込んでいました。

「魔王様、そのように民を欺くような方法で、私は幸せになって良いのでしょうか?」

「カミラは、僕の所に来るのは嫌なの?」

「とんでもない。許されるなら今すぐにでも、お側に参りたいと思っております」

「カミラがヴォルザードに来れば、リーゼンブルグとランズヘルトの友好関係は強化されるよね?」

「はい、おっしゃるとおりですが……」

「正直に言って、色々グチャグチャと考えるのが、もう面倒なんだよね。ディートヘルムが次の国王に即位したら、もういいんじゃない? 僕はカミラを手元に置いて独り占めしたい……駄目かな?」

「駄目じゃ無いです。お側に参ります」

カミラは、僕の左腕を抱えて、肩に頭を預けてきました。

おふぅ、この腕が埋まる感覚は、やはり唯香よりも……あぁ、カミラの移り香で帰ったらお説教かなぁ……。