軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔の森の実戦

今日は、いよいよ最初の救出作戦を実行する日です。

昨晩、ドノバンさんと委員長に連絡を終えた後は、夜中の訓練はせずに下宿に戻り、今日に備えて早く眠りました。

おかげで、スッキリとした目覚めで、身体に力が漲っているように感じます。

下宿裏手の井戸で顔を洗おうと部屋を出ると、廊下にメイサちゃんが両手を広げて立っていました。

「お、おはよう、メイサちゃん、どうかしたの?」

「だ、駄目だからね、ケントは、ここから先は立ち入り禁止だからね!」

「へっ? 立ち入り禁止なの?」

「絶対、絶対、立ち入り禁止! ほら、早く行ってよ!」

「う、うん……」

一体全体何事なのでしょうか、と言うか、別にメイサちゃん達の部屋の方には行く用事は無いのですが……

階段を降りて、井戸に向かう前に、アマンダさんに挨拶しました。

「おはようございます、アマンダさん」

「あぁ、おはようケント、もうすぐ朝食だから、顔を洗っておいで」

「はい、あっ、そうだ、メイサちゃんは、どうかしたんですか? こっちは立ち入り禁止だって……」

「あぁ、そりゃね、夜中に地図を描いた布団を見られたくないんだよ」

アマンダさんが大きな声で答えてくれた途端、メイサちゃんが血相を変えて階段を駆け下りて来ました。

「お母さん、何でケントに言っちゃうのよ! あれほど内緒にしてって言ったのにぃ!」

「はん、そんな年になって、おねしょなんかしてる娘は、恥ずかしい思いして反省すれば良いんだよ」

「きぃぃぃ……お母さんの意地悪ぅぅぅ……」

「アマンダさん、当分の間、メイサちゃんはジブーラ禁止ですね」

「あぁ、そうだね、そうしようかね」

「やだやだ、ジブーラ禁止なんて、絶対にやだ! きぃぃぃ……ケントのくせに生意気よ!」

「えぇぇ……だって僕、おねしょなんかしないしぃ……」

「きぃぃぃ……嫌い嫌い、ケントなんか大っ嫌い!」

「ほらほら、朝食にするよ、そんな大きな声で騒いでると、メイサがおねしょしたって近所の噂になるよ」

「にゃぁぁぁ……駄目、駄目、絶対駄目! ケントも外で話したら、うちから追い出すからね」

顔を真っ赤にして、両手を振り回して、メイサちゃん朝から元気ですねぇ。

「大丈夫だよ、メイサちゃん、心配しなくても外で話したりしないよ」

「ホント? ホントにホント? 絶対だからね」

「うんうん、大丈夫だよ、だって……こんな恥ずかしい事、人には言えないよね」

「うきぃぃぃ……バカ、バカ、ケントのバカァァァ!」

メイサちゃんにポカポカ殴られちゃったけど、ヴォルザードに来てから鍛えに鍛えた今の僕には……ごふぅ、いや、なにその腰の入ったパンチは……

「ほらほら、さっさと食べておくれ、片付かないじゃないか、ほら!」

「ふん、覚えておきなさい、絶対いつか仕返ししてやるんだから……」

「ごほっ……いやいや、もう十分仕返ししてない?」

「ふん……」

腰の入った左右のボディーフックを食らって……あぁ、食後じゃなくて良かった、危うくリバースしちゃうところだったよ。

悔しいからメイサちゃんの膨れっ面をガン見して、ニヨニヨしながら朝食を堪能いたしましたよ。

さて、腹ごしらえも済みましたし、気合いを入れ直して救出作戦を始めましょう。

「アマンダさん、ドノバンさんの仕事の手伝いで、二、三日戻って来ませんけど、心配しないで下さい」

「あぁ、分かったよ、そうすると戻って来るのは、土の曜日かい?」

「たぶん、その辺りだと思いますけど、土の曜日までは食事の準備は結構です」

「はいよ、まぁ、うちは何かしらあるから、戻った時には遠慮しなくて良いからね」

「はい、ありがとうございます、じゃあ、行ってきます」

「はいよ、気を付けて行っておいで」

下宿を出たら、ギルドに向かう途中の路地で影へと沈み、ラストックの駐屯地へと移動します。

駐屯地の訓練場には、同級生達が整列させられて、カミラの訓示を聞かされていました。

「我々は、貴様らが死なずに済むように、手柄を立てられるように、わざわざ厳しく鍛えてやっているのに、未だに自分達の置かれている状況が理解出来ない馬鹿者が居るようだな」

1メートルほどの高さの台上から、カミラは偉そうに腕組みをして、同級生達を見下ろしていきます。

けしからん、全くもってけしからん態度です。

「訓練に身を入れないのは、それだけ自信があるという事なのだろう、ならば望み通りに訓練ではなく実戦に行かせてやる」

カミラが言い放つと、全員が息を飲み、女子の中には泣き出してしまう人も居ます。

「静まれ! 列を乱すな! これから名前を呼ぶ者は前に出ろ! カズキ・ニッタ、タツヤ・フルタ、ユウスケ・ヤギ、トモコ・コバヤシ、アケミ・サクライ」

今日の実戦に選ばれたのは、新田和樹、古田達也、八木祐介、小林智子、桜井朱美の五名です。

『うわぁ……新旧コンビに、ガセメガネ、それに凸凹シスターズか……人選が的確過ぎてビックリだよ』

『ケント様、彼らは顔の売れている者達なのですかな?』

『うん、船山ほどではないけどね、一癖あるから学年では有名人なんだ』

新田和樹は野球部、古田達也はサッカー部と所属する部は違えども、二人とも暑苦しい熱血脳筋野郎で、付いたあだ名が、新田と古田で新旧コンビ。

八木祐介は、屁理屈を並べ立てて相手をやり込める新聞部員で、書いてる記事がゴシップネタとガセネタばかりなので、付いたあだ名がガセメガネ。

小林智子はバレー部所属の180センチ近い長身で、横にも逞しいのでジャイと呼ばれています。

桜井朱美は、テニス部所属で身長は150センチぐらいしかありませんが、筋肉質の体型でミニマッチョと呼ばれています。

小林さんと桜井さんの二人は親友で、あの船山にも噛みついていくほどの女子の味方、凸凹シスターズと呼ばれ、男子からも怖れられてる存在です。

ですが、さすがの五人も、この場に呼び出された事が、何を意味しているのか理解しているらしく、カミラに食って掛かろうという者はいません。

カミラは、五人を見下ろした後で、ニヤリと笑みを浮かべてから口を開きました。

「喜べ、貴様らは最初に実戦に出る栄誉に浴した。 存分に魔の森を堪能し、生きる為にもがいてみせろ」

「い、いや、でも、ここで俺らが欠けちゃったら……」

「反論は許さん、さっさと準備を整えて出発しろ! 残りの者どもは、いつも通りに訓練を始めろ!」

ガセメガネが、得意の屁理屈を展開しかけたけど、あっさりカミラに封殺されちゃいました。

カミラはムカつくけど、ちょっと役者が違う感じだものね。

五人はフレッドの情報通りに幌馬車に乗せられて、魔の森に向かってドナドナされていきます。

見送る女の子の中には、ボロボロと泣いている子も居ますね。

それだけでも僕の時とは大違いですよねぇ。

厚手の幌が掛けられた馬車の荷台は薄暗く、試しに影に潜んでみると、歩かなくても一緒に移動出来ちゃいますね。

うん、やっぱり闇属性って便利だわ。

馬車に乗せられた五人は、この世の終わりといった表情で、言葉も無く黙り込んでいます。

その様子を見た監視役の騎士が、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら話し掛けてきました。

「普段の威勢はどうしたんだ? 今頃になってビビったって手遅れだぞ」

「うるさいわね、魔物をぶっ殺して、ノルマ達成すれば良いんでしょ、やってやるわよ!」

「ふふん、今の貴様の魔法では、ゴブリン一匹まともに仕留められんだろうが……まぁ、精々足掻くんだな」

「ちっ……マジむかつく……」

小林さんが気丈に言い返したけど、コンビの桜井さんは、顔を蒼褪めさせて震えていますね。

普段なら男子にも食って掛かる桜井さんですけど、魔物が相手とあって、完全にビビッてしまっているようです。

新旧コンビは腕を組んで目を閉じているけど、足が小刻みに貧乏揺すりを続けていますね。

八木は右手でしきりに眼鏡の蔓を触りながら、キョロキョロと辺りを見回し続けていました。

駐屯地を出れば、跳ね橋までは目と鼻の距離で、橋を渡ってしまえば、もはや魔物が支配するエリアと言っても過言ではありません。

かろうじて整備されているダラダラとした坂を上りきると、僕らが召喚された場所に出ます。

そこから今度はダラダラと下っていくのですが、道が悪く馬車は酷く揺れ、八木は舌を噛みそうになっていました。

それでも、上履きで歩かされた僕に較べれば、楽なもんですよね。

馬車は、魔の森の手前で停められました。

「よし、全員降りろ!」

「い、嫌ぁぁ……お願い、ちゃんと訓練するから、連れて帰って……」

怯え切った桜井さんの言葉は、五人全員共通の思いのようです。

監視役の騎士は、楽しくて仕方が無いというムカつく笑顔を浮かべて言い放ちました。

「逆らうな、全員、さっさと、馬車から、降りろ!」

騎士が噛み砕くように、一言一言言い放つと、桜井さんは操り人形のようなギクシャクとした動きで立ち上がり、馬車から降りました。

『ケント様、今のが隷属の腕輪の効果ですぞ』

『うん、自分の意思で動いてる感じじゃないもんね』

五人は馬車の近くに並ばされると、細身の剣とナイフを与えられました。

剣とナイフを配り終えると、本当に馬車はさっさと戻って行ってしまいます。

一人残った騎士は、馬に跨ったままで訓示を始めました。

「いいか、これから魔の森へ入る、貴様らで陣形を考えて進め。 俺は後ろから監視しているからな」

「えぇぇ、俺達が先に歩くのかよ!」

八木が文句を言ったけど、引率の騎士が聞き入れるはずもありません。

「当たり前だ、誰のための実戦だと思ってるんだ。 ノルマは一人ゴブリンの魔石を三個、全員で十五個の魔石を集められたら戻らせてやる。 さぁ始めるぞ!」

「い、嫌ぁぁぁ……無理、こんなの無理……」

「あっちゃん、しっかり、私が居るから、どこにも行かないから」

「ともちゃん……怖いよぉ……」

桜井さんはパニックを起こしていて、小林さんが宥めていますが、顔面蒼白でガタガタ震えています。

「ちっ、今からビビっててどうすんだ……おら、逆らうな、全員、魔の森の道を、進め!」

五人はまた身体の自由を奪われ、ギクシャクとした動きで魔の森へと歩き始めました。

八木は剣の柄を握り、ビクビクと周囲を見回しています。

新旧コンビの二人は、八木よりは落ち着いて見えますが、それでも緊張感は隠せません。

「よし! 俺と和樹が前に並ぶ、お前ら三人は、桜井を真ん中にして後に続け」

古田が前方右側、左に新田、後方右側に八木、中央に桜井さん、左側に小林さんという陣形に落ち着いたようです。

『ところで、ラインハルト、ゴブリンとか居る?』

『いいえ、まだ近くには居ませんな』

僕も影の中から見回しただけなので、ハッキリとは分からなかったのですが、まだ近くには魔物の気配はありません。

「気をつけろ! 油断するなよ!」

「茂みの不自然な揺れ方とか、見落とすなよ!」

前を進む新旧コンビが後の三人に声を掛けながら進んで行きます。

よほど駐屯地で脅かされているのでしょうね、五人とも何度も生唾を飲み込んで、冷や汗をビッショリとかきながら、ビクビクと周囲を警戒し続けています。

うん、見ているだけで疲れそうなくらいの緊張感ですね。

引率役の騎士は、五人の後ろ20メートルぐらい離れた場所で、馬に乗ったままで周囲を警戒しています。

既に魔の森に足を踏み入れているので、さすがに騎士の顔にも緊張感が漂っていますが、五人のような過度の緊張ではなく、油断せずに警戒しているという感じです。

この辺りが経験の差なんでしょうね。

おっかなびっくり屁っぴり腰で、五人は200メートルほど森の中の道を進んで来ました。

そろそろ、ゴブリンかコボルトあたりが出て来ても良い頃です。

引率役の騎士は、いつの間にか最初の倍、40メートルぐらい離れた場所に居ます。

「おい、止まれ!」

声を上げたのは、新田でした。

「あそこ、見えるか……?」

新田が指差す先、7、80メートル先にゴブリンが一匹いました。

しきりに周りを警戒して、どうやら傷を負っているようです。

「一匹だけみたいだぜ、丁度良い、やっちまおうぜ」

「そうだな、やろう、お前らは、ここで周りを警戒してくれ」

古田が、八木達三人に待機するように言いました。

「一応、詠唱すっか?」

「だな……」

「マナよ、マナよ、世を司りしマナよ、集え、集え、我が身に集いて駆け巡れ、巡れ、巡れ、マナよ駆け巡り、力となれ!」

どうやら新旧コンビが、仕留めに行くようです。

『少し拙いかもしれませんな……』

『えっ? でも、ゴブリンが一匹だけだよ。 さすがに大丈夫でしょう』

『ケント様、ゴブリンは一匹見かけたら二十匹は居ると思って下され』

えぇぇ……それって、違うGの事じゃないの?

『まぁ、ここは魔の森の端なので、それよりは少ないでしょうが、それでも一匹だけで居るはずがありません』

『それって、近くに仲間が居るってこと?』

『それならばまだ良いのですが、ゴブリンが傷を負ってる事が気になります』

『あっ……まさか、他の魔物に襲われたってこと?』

『その可能性が高いですな』

ラインハルトの心配を余所に、新旧コンビはジリジリとゴブリンに近付いて行き、やがてゴブリンも新旧コンビに気が付きました。

ゴブリンは、さかんに後ろを気にしていて、前から迫る新旧コンビと見比べて、やがて決断をしたのか、牙を向いて威嚇してきました。

「ギィィィ……ギャギャ!」

一対二の状況なのに、逃げるのではなく新旧コンビに向かって行くようです。

「よし、和樹、俺が注意を引き付けるから、隙を見て斬りつけろ、お前が一撃入れたら、すぐに俺が追撃する」

「オッケー達也、いつもの感じだな?」

「あぁ、こんな雑魚一匹に舐められてたまるかよ」

「当たり前だ、こっちは何時でも良いぜ」

「おっし、やるぞ……」

新旧コンビは、ゴブリンを両側から攻め立て、古田が注意を引き付けて、新田が斬り込む作戦のようです。

二人とも既に剣を抜いていて、何時でも斬り掛かれる支度を整えていました。

「ギギィィィ……ギャ……ギャギャ!」

ゴブリンは思惑通りに、半歩ほど前に出て迫る古田に向かって、牙を剥いて威嚇を繰り返しています。

新田は野球部らしく、剣をバットのように構えて、ジリジリと距離を詰めていきました。

古田は、剣先をグルグルと回して、注意を引き付けて、新田がゴブリンの視野から消えるように仕向けています。

「ギャ……ギャギャ……」

「だあぁぁぁぁぁ!」

ゴブリンの注意が完全に古田に向けられた瞬間、新田がフルスイングで首筋に剣を叩き付けました。

ゴツンっと鈍い音がして、ゴブリンは首から鮮血を振り撒きながら横倒しになりました。

たぶん、剣が首の骨にまともにぶつかったのでしょう、首が半分千切れた状態で、ゴブリンはビクビクと気持ちの悪い痙攣を繰り返しています。

古田が、ゴブリンの胸に逆手に構えた剣を突き刺して止めを刺しました。

「おぉぉぉし! やったぞ!」

「うぉぉぉ! やった、一匹ぶち殺してやったぞ!」

新旧コンビが雄叫びを上げると、残りの三人も笑顔を見せて駆け寄って来ました。

「おぉ、これがゴブリンか……グロっ」

なまじ人間に近い形なので、ゴブリンの死体は生々しくて気持ち悪く感じます。

八木の言葉は全員の思いを代弁していたらしく、みんな顔を顰めて一様に頷いています。

「おい、誰が魔石を取り出すんだ?」

新田の一言に、全員が顔を見合わせた後で、四人の視線が八木に集中しました。

「ちょっと待てよ、何で俺なんだよ」

「俺と新田は、このゴブリンを仕留めた」

「あたしと朱美は女の子なんだから、気を使いなさいよ」

「ずりぃぞ、新旧コンビはまだしも、凸凹は働いてねぇじゃんかよ」

「だから、あたしらは女の子なんだから、気を使いなさいよ」

「女の子って柄かよ……」

「何だって? 何か文句あんの?」

「あるに決まってんだろう、そんな凄んでみせといて女の子が聞いて呆れるわ」

「じゃあ、あたしが女じゃないとでも言うの?」

小林さんは、膨らみを見せつけるように胸を張って見せます。

「訓練の時に散々言われてんだろう、男だ女だと差別してたら生き残れないって」

「そんなもの、こっちの勝手な価値観じゃないのよ、あたしらは日本の価値観で生きていくのよ」

「へっ、それじゃ生き残っていけねぇって言ってんだよ、郷に入っては郷に従えだ」

ゴブリンの解体を巡って、八木と小林さんが揉めているを眺めていると、ラインハルトに声を掛けられました。

『ケント様、拙いですぞ、囲まれてます』

『えっ? 何が……って、あれはオーガじゃないよね?』

『はい、どうやらオークの群れに囲まれておるようです』

オークは、オーガほどは大きくないけど、それでも余裕で2メートル以上の身長があり、体重も200キロぐらいはありそうです。

二足歩行の豚を相撲取りより更に大きくした感じで、意外に筋肉質に見えます。

『ケント様……全部で十四頭……』

『あちゃぁ……こりゃ、五人じゃ対処出来ないね。 ラインハルト達は倒す準備をしていてね』

五人の方を見ると、まだゴブリンの解体を巡って揉めていて、オーク達の接近には気付いていないようです。

引率の騎士は……と見てみたら、既に姿がありません。

逃げ足速いな、おい!

『騎士は……オークを見つけた途端逃げ出した……』

『マジで守る気、ゼロなんだね』

『と言うか……この数のオークじゃ無理も無い……』

腕の良い冒険者ならば、一対三ぐらいでもオークに対抗出来るけど、一対四以上になると苦戦は必至なんだとか。

ほぼ戦力にならない五人と自分一人で、十頭以上のオークの相手など自殺行為でしかないそうです。

一目散に馬を走らせて逃げた騎士の判断は、自分が生き残る事を重視するならば、とても正しい判断だそうです。

「おい、あれ何だよ……」

「やべぇ、逃げるぞ……って、こっちにも居るぞ!」

ゴブリンの解体を巡って揉めていた五人も、ようやくオークの存在に気付いたようですが、もう50メートルほどの距離に近付いて来ています。

「どうすんだよ、囲まれてるぞ……」

「どうするって……森の出口の方の奴を倒して、そこから逃げるしかないじゃないのよ」

「倒すって……あんなの倒せるのか?」

「やだ……死にたくない、あっちゃん、死にたくないよぉ……」

既に包囲を終えたオーク達は、ジリジリと距離を縮め、包囲の輪を狭めてきます。

「八木、小林、あいつに思いっきり魔法を撃ち込んで殺せ、俺と新田で後をガードするから、一気に森の外まで走るぞ」

「分かった、八木、タイミング合わせなさいよ」

「上等だ、やってやるよ」

どうやら森の外へ向かう道の上にいる一頭を倒して、そこから包囲を抜け出すつもりのようです。

『ケント様、どうしますか?』

『うん、みんなの腕前を見てみたいから、ギリギリまで待って、でも、怪我させないタイミングで介入して』

『ぶははは、なかなか注文が多いですな』

『ごめんね、僕はこっちで待機するから、三人で守ってあげて』

『ぶははは、お任せ下され』

『問題ありませんよ、ケント様』

『むしろ余裕……』

震える五人に狙いを定め、舌なめずりをするオーク達、それを嬉々とした様子で眺める三体のスケルトン、救出作戦のクライマックスの火蓋が切られようとしています。