軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

避難開始

バッケンハイムからスラッカに戻ると、何やら集落の中が賑やかです。

通りには篝火が焚かれ、酒や料理がふるまわれているようです。

『ラインハルト、どうなってるの?』

『酒場の店主が、長期の避難になれば店は魔物に荒らされてしまうだろうし、食材も痛んでしまうので、それならばと冒険者達にふるまい始めたようです』

『てか、まだ安全な場所まで避難を終えた訳じゃないのに、酔っぱらってるって……』

『どうせ我々が助けてくれると思っているようですが、冒険者としては褒められた行動ではありませんな』

酒場に入りきれない冒険者達は、通りに座り込み、車座になって杯を重ねています。

少し離れたところには、グラシエラと『蒼き疾風』の面々の姿があります。

どうやら、他の冒険者と反目し合っているような感じです。

少し様子を観察しようかと思いましたが、残っている仕事を先に片付けましょう。

酒盛りを続ける一団から離れて、守備隊長デールマンの姿を探しました。

デールマンさんの姿は、詰所の執務室にありました。

守備隊の書類を持ち出す準備を進めているようです。

「こんばんは、デールマンさん。避難の手順は決まりましたか?」

「あぁ、魔物使いか。バッケンハイムへの連絡ありがとう。避難は、馬車の積み荷を下ろして、そこに住民を乗せて大森林を抜ける予定だ。護衛を頼めるかな?」

「構いませんよ。指名依頼には、住民の避難も含まれていますから」

「それを聞いて安心した。何しろ目を離した隙に酒盛りが始まっていて、あの調子では明日は半数ぐらいの冒険者が使い物にならないだろうからな」

確かに、デールマンさんが言う通り、かなりのピッチで飲んでいるように見えましたから、余程酒が強い者でなければ、二日酔いでのたうち回ることになるでしょう。

「あの……守備隊の方に犠牲者は?」

「数名負傷した者がいるが、君が来てくれたおかげで犠牲者は出さずにすんだ。改めて礼を言う、ありがとう」

「良かったです。住民の皆さんは、カラシュに避難させてくれとアンデルさんに言われましたので、キャラバンの下ろした荷物は、僕が運んでおきますよ」

「何から何まですまないな」

「いえ、これも依頼の一部みたいなものですから」

デールマンさんには、出発時間の前には顔を出すと約束して、詰所を後にしました。

『ケント様、ヴォルザードに戻られますか?』

「その前に、ちょっと周辺の様子を見ておきたいから、マルト、ミルト、ムルト、身体をみておいて」

「わふぅ、任せて」

「うちが、シッカリみてる」

「うちも、うちも」

マルト達に身体を預けて、星属性の魔術で意識を空に飛ばしました。

上空から見下ろすと、スラッカの明かりが見えるだけで、イロスーン大森林は夜の闇に沈んでいます。

元々、日本のように街道は街灯で照らされてはいません。

ですが、集落の明かりは見えるはずです。

それが見えないという事は、集落に明かりを灯す人が存在しないという事です。

スラッカが魔物に囲まれる前に、すでに殆どの集落が放棄されていました。

スラッカのように壁で周囲を囲んでいない集落は、魔物が増えだした時点で放棄されたそうです。

スラッカ以外で残っていたのは、マールブルグ側の集落モイタバだけでしたが、その明かりも見えません。

街道に沿って意識を飛ばして移動すると、あちこちに魔物に襲われたキャラバンの残骸が残っていました。

残されているのは馬車と荷物だけで、人も馬も見当たりません。

乗り合い馬車だったと思われるものは、めちゃめちゃに壊されて、ぶちまけたような血の跡だけが残されていました。

リーゼンブルグとランズヘルトを隔てている魔の森も、魔物が支配する場所となっていますが、護衛を付けた商隊が通り抜けることがあります。

オークやオーガの群れに襲われる場合もありますが、腕利きの冒険者が護衛の体制を整えておけば、通り抜けることも可能です。

イロスーン大森林を抜ける街道でも、即席とは言えキャラバンを組む措置が取られていたのに、このように全滅しているところを見ると、魔の森以上に危険な状況にあるのでしょう。

試しに街道を離れて、森の中へと入ってみると気付きました。

魔物の密度は、街道に沿って高くなっているようで、街道から離れるほどに見かける数が減っていきます。

馬車や人が襲われたことで、街道が餌場だと認識されてしまったのかもしれません。

マールブルグ側まで街道を見て回りましたが、残念ながら生存者は発見出来ませんでした。

影の空間に残しておいた身体へ意識を戻して、ラインハルトに頼みました。

「ラインハルト、スラッカからバッケンハイム側の大森林の出口まで、倒れている馬車とかを片付けてもらえるかな?」

『お安い御用ですぞ。ですが召喚術を使えば、街道を通る必要も無いのでは?』

「守備隊員に冒険者、そして一般住民を合わせると、千人を超えると思うんだよね。今日のモイタバでの召喚でも結構な魔力を消費しているから、その倍以上の人数となると不安なんだよね」

『そうですな。召喚術は危険を伴ないますので、我らが護衛して行くほうが宜しいでしょうな』

「ゼータ、エータ、シータ、スラッカから森の出口までの街道を、僕らのテリトリーとして主張しておいて」

「承知いたしました、主殿」

スラッカから大森林の出口までは、馬車で半日足らずの距離です。

道を整え、ゼータ達にテリトリーを主張してもらえば、殆ど問題ないでしょう。

少し時間が遅くなりましたが、ヴォルザードに戻ってクラウスさんに事の成り行きを報告しましょう。

クラウスさんは領主の館の居間で、マリアンヌさんとチェスに似たボードゲームの盤を睨んでいました。

表情から察するに、どうやらクラウスさんの方が旗色が悪そうです。

「夜分遅くにすみません、クラウスさん、ちょっとよろしいでしょうか?」

「おぅ、ケントか。どうした、こんな時間に」

「はい、イロスーン大森林を抜ける街道が、通行不能になっています」

「ふん……思ったよりも早かったな」

声を掛けた瞬間は、形勢不利な勝負から解放されると踏んでニヤリと笑みを浮かべたクラウスさんでしたが、話を聞いた途端表情を引き締めました。

「それで、どんな状況になっている?」

「モイタバは、集落の中にまで魔物に入り込まれ、地下に避難していた者を除いて全滅。スラッカは、ゼータ達から知らせを受けたので救援が間に合いました」

「なんでスラッカに、お前の眷族が居たんだ?」

「スラッカは、ちょっと前にミノタウロスに囲まれた事があって、その時にゼータ達にテリトリーとするように命じたままだったんです」

スラッカの危機をゼータ達が知らせた理由と、その後の経緯や大森林の現状を説明すると、クラウスさんは腕組みをして考えを巡らせています。

チラリと視線を向けられたマリアンヌさんは、少し肩を竦めてからボードゲームを片付け始めました。

「ケント、なぜ火属性の冒険者が重要視されるか知ってるか?」

「それは、火属性の人の割合が少ないのと、攻撃魔術としての威力が高いからですよね」

「まぁ、そうなんだが、お前は全部の属性が使えるはずだが、火属性と風属性で威力に大きな違いを感じるか?」

「威力の違いですか……?」

頻繁に使っている訳ではないので、威力の違いについて考えた事はありませんでした。

改めて考えてみると、見えないという点を考慮すると、むしろ風属性の方が効果的にも感じられます。

「そこだ。そこが火属性と風属性の大きな違いだ。魔物は基本的に火を怖れる。目に見える威力として、火属性は他の属性よりも大きな優位性を持っている」

「それって、魔物相手にハッタリが効くってことですか?」

「そうだ、その通りだ。魔の森を抜けてくる商隊の連中は、火属性で魔物を威嚇して無駄な戦闘を回避しながら進んで来る。実際の戦闘は、襲われて仕方がない場合しか行わない」

「なるほど、その方が被害を受けるリスクも少なくて済みますものね」

クラウスさんは頷いたものの、別の考えを話してくれました。

「それもあるが、戦闘を行えば血が流れ、魔物や人、馬の死骸が出来上がる。キッチリ処理すれば良いが、放置すれば別の魔物を引き寄せる……」

「あっ……それで街道近くで魔物の密度が上がっていたんですか?」

「たぶんな。今回、イロスーン大森林では急激に魔物の数が増えて、不慣れな冒険者までが護衛に駆り出されていると聞いた。そいつらが、街道近くに死骸を放置するような状況が続けば、魔物が集まって来ていても不思議ではないだろうな」

現状では、イロスーン大森林を抜ける街道が、魔物達にとっては餌場のようになっているのでしょう。

「マスター・レーゼとアンデル・バッケンハイムさんが、領主による会合を開く予定でいるようですが、参加されますよね?」

「あぁ、勿論だ。現状、安全に荷物を運搬するには、ケントに頼る他はない。他の街の冒険者に対する指名依頼は、今回のような人命に関わる場合等を除いて領主の許可が必要だ。つまり……」

クラウスさんが、実に人の悪い笑みを浮かべています。

いやいや、マリアンヌさん、アラアラみたいな顔してらっしゃいますが、この人は貴方の旦那さんですからね。

「別に、ケントにボロ儲けさせて、その上前を撥ねようなんて考えている訳じゃねぇぞ。流通が止まれば、経済も止まる。食料の多くを他の領地に頼っているマールブルグだけじゃなく、輸出で儲けている連中も共倒れしかねないからな」

「仮に僕や眷族達が輸送を請け負うとして、直接マールブルグに運ぶんですか? それとも、一旦ヴォルザードに運んで、改めてマールブルグまで運びますか?」

「そうだなぁ……その辺りも、領主の会合で話し合ってだな。直接運んでしまうのが一番手っ取り早いが、そうなると護衛の仕事は無くなっちまう。その上、ケントに巨万の富が集中するようになるから、当然妬まれる事になるだろうな」

「でも、リバレー峠を越えて鉱石を運ぶとなると、かなり大変ですよね。イロスーン大森林の一件で、盗賊が集まってきている可能性も高いですし……」

色々と懸念を口にしていたら、マリアンヌさんが話し掛けてきました。

「ケントさん……」

「は、はい、何でしょう……」

「ケントさんは、色々と出来てしまうから、その分だけ考えることも増えてしまうのでしょうが、一人で出来ることには限りがあります」

「はい、そうですね……」

「ケントさんが、今考えることは、明日スラッカの皆さんを無事に大森林の外へ送り届けることです。それ以外の事は、それが終わった後に考えなさい」

「そうですね。明日に備えて戻って休みます」

「あら、このままリーチェと一夜を過ごしていっても構いませんよ」

「いえ、それはまたの機会……じゃなくて、まだ早いと言うか……」

「けっ、さっさと下宿に戻って寝ちまえ!」

「くっ、分かりました、そうさせていただきます。お義父さん」

「こいつ……」

歯軋りしそうなクラウスさんと、苦笑いしているマリアンヌさんに会釈して、影にもぐりました。

てか、こうしてクラウスさんと睨み合うのも、マイホームが出来て、セラフィマが輿入れして来るまでなんですよね。

綺麗なお嫁さん達と、甘い生活を送るためにも、面倒事はさっさと片付けてしまいましょう。

翌朝、下宿で朝食を済ませて、スラッカに出掛けようと支度を整えていると、ラインハルトが話し掛けて来ました。

『おはようございます、ケント様』

「おはよう、ラインハルト。今日もよろしくね」

『はい、ケント様。昨夜のうちに、街道で魔物に襲われた馬車を片付けておきました』

「ありがとう、馬車は道の脇に移動させてくれたのかな?」

『いいえ、近くに落ちていた遺品と共に、影の空間に仕舞ってございます』

「えっ……?」

驚いて影の空間を覗くと、馬車がギッチリと並べられています。

『こちらが、マールブルグに向かっていたと思われるもの。こちらがバッケンハイムを目指していたと思われる物です』

馬車には横転した時に放り出された積荷や、近くに落ちていたギルドカードなどが載せられていました。

「これは、バッケンハイムのギルドに届けよう」

『よろしいのですか? ケント様のものとしても非を問われることはございませんぞ』

「うん、でも今回は多くの犠牲が出ているから、少しでも被害を小さくしておいた方が良いと思う」

『ケント様が、そのようにお考えならば、ワシらは従いますぞ』

「とりあえず、スラッカからの避難を進めて、その後だね」

スラッカでは、デールマンを筆頭とした守備隊の面々が中心となって、出発の準備が進められていました。

「おはようございます。デールマンさん」

「おぉ、魔物使いか。おはよう、今日はよろしく頼む」

「準備は順調ですか?」

「あぁ、概ね順調だが……」

影から出て声を掛けると、デールマンさんは快活に答えてくれましたが、チラリと馬車の列へと視線を向けると表情を曇らせました。

視線の先には、青白い顔をしてノロノロと動く一団がいます。

「あぁ、酒場の振る舞い酒を飲んでた連中ですね?」

「そうだ、護衛の役には立たないだろうし、足を引っ張るかもしれん」

「まぁ、転げ落ちたとしても、僕の眷族に拾って馬車に放り上げさせますよ」

「すまんな、余計な面倒を掛けて。それで、キャラバンが積んでいた荷物だが……」

キャラバンの積荷を下ろし、その代わりに避難する住民を乗せていきます。

積荷は、一旦僕が預かって、避難民を受け入れるカラシュの集落で返却します。

リストと付き合わせながら、荷物を受け取り、影収納へコボルト隊に運んでもらいました。

百二十センチぐらいしかないコボルト達が、ヒョイヒョイと重たい荷物を運ぶのを見て、デールマンさんや守備隊員が目を丸くしていました。

「では、僕らは影の中から護衛していますので、何かありましたら大声で呼んで下さい。すぐ駆けつけますから」

「分かった。では、出発!」

眷族のみんなは、影の中から一行を見守ります。

隊列の先頭では、バステンが目を光らせています。

左右の森の影には、ゼータ達やコボルト隊が走り回り、異変が起こったらすぐに知らせが届くようにしてあります。

街道は、昨夜のうちにゼータ達がテリトリーとして主張し続けたので、魔物の影すら存在していません。

隊列が長く、馬車の速度は少しゆっくりなので、冒険者の多くが船を漕ぎ始めています。

とても、魔物が増え過ぎて、封鎖されている街道の光景には見えませんね。

『ケント様……ちょっと……』

「どうしたの、フレッド。何かあった?」

『グラシエラが……悪企み……』

フレッドは、グラシエラと『蒼き疾風』の面々を警戒して、昨日の酒盛りを監視していたそうです。

『預けた荷物が足りないと……因縁を付けてくるはず……』

「はぁ……この期に及んで、まだそんな下らない事を考えてるのか……どうしたもんかねぇ」

『心配無用……企みは撮影してある……』

「さすがフレッド、ありがとう。助かったよ」

『この程度は……お安い御用……』

アーブル・カルヴァインを監視してもらっていた頃に、すっかりビデオカメラの扱いも覚えたらしく、グラシエラ達の企みはバッチリ撮影されていました。

荷物を預かる時、渡されたリストでチェックはしましたが、箱の中身までは確認しませんでした。

何も知らずに言い掛かりをつけられていたら、対処に困っていたところです。

スラッカを出た一行は、何事もなく順調に進んでいきます。

大森林を抜けるまでには、まだ時間が掛かりそうなので、この間に回収した馬車を届けてきてしまいましょう。

マールブルグのギルドには行った事がないので、バッケンハイムのギルドに向かいました。

朝の喧騒は終っている時間ですが、ギルドのカウンター前には多くの人が詰め掛けています。

その殆どは冒険者ではなく、マールブルグ相手の商売をしている人達のようです。

「いつになったら通行止めは解除されるんだ?」

「まだ、調査も終っていない状態なので、期限については分かりません」

「遭難したキャラバンの積荷は保証されるのか?」

「それは個別の契約条件によってなので、契約書を御確認下さい」

「うちの馬車が四日前にマールブルグに向かったんだが、ちゃんと着いたか確かめられないか?」

「現在、マールブルグとの往来は全く出来ない状態なので、確認する手段がございません」

イロスーン大森林で魔物が増殖しても、まさか通行止めになるとは思っていなかったのでしょう。

情報を得ようとして来たのでしょうが、ギルドの皆さんも確実でない情報を伝える訳にいかないので、返答に窮する場面も見受けられます。

マスター・レーゼの片腕として、ギルドを仕切っているリタさんも、いつも以上に忙しそうに……いや、忙しいのはいつものことですね。

話し掛けるのを躊躇っちゃうほど忙しそうに見えますけど、こちらもノンビリとはしていられないので、お邪魔させていただきます。

「おはようございます、リタさん」

「ケントさん! おはようございます。避難の一行に何かございましたか?」

「いえ、あちらは順調に進んでいますから大丈夫ですよ」

「では、他に何か御用でしょうか?」

「はい、回収した馬車を引き取っていただこうと思いまして……」

避難の妨げになると思い、街道に放置されていた馬車を可能な限り回収してきたと伝えると、リタさんは僕に向かって深々と頭を下げました。

「ありがとうございます。少しでも積荷が回収出来れば、損害を軽減できますし、遺品に関しては遺族の慰めになると思います」

「台数が多いので、どこに並べましょうか?」

「訓練場に並べていただけますか? ロスチス、訓練場でケントさんから馬車を引き渡してもらって」

リタさんから指名された男性職員は、僕に軽く会釈をして、訓練場へと向かっていきました。

「ケントさん、馬車を届けていただいた事に対する報酬は、後で計算して提示させていただきます」

「いえ、これは指名依頼の住民避難に付随することですから、お構いなく」

「ですが、同一の依頼とするには、少々無理があります」

「まぁ、そこは適当に上手く処理して下さい」

「はぁ……では、馬車を確認してから考えさせていただきます」

「では、お任せします」

ギルドの訓練場は、護衛特需から負傷者の増加を経て、通行止めに至って訓練する冒険者が減り、閑散としています。

「ロスチスさん、どこに並べれば良いですか?」

「はい、こちらに並べていただけますか」

指定された倉庫の横に闇の盾を出して、コボルト隊に回収した馬車を押し出してもらいました。

「こ、こんなに……一体何台あるんですか?」

「えっと、全部で三十八台ですね。鉱石を積んでいたらしい馬車には、零れた積荷を集めて載せてあります」

「鉱石を積んでいない馬車もあったのですか?」

「はい、そちらはマールブルグに向かっていたと思われるので、念のために行き先を調べていただけますか? 必要ならばマールブルグまで届けますから」

「そうですか、了解しました」

閑散としていた訓練場ですが、コボルト隊が馬車を並べ始めると徐々に人が集まりだしました。

荷馬車の多くにも乾いた血の跡が残されていましたし、めちゃめちゃに壊された乗り合い馬車が姿を見せると、呻くような悲嘆の声が広がっていきます。

馬車を並べ終えたコボルト隊が整列し、騎士の敬礼を捧げると、集まっていた人々も黙祷を捧げて犠牲者を悼みました。

バッケンハイムのギルドに馬車を届け終え、避難の行列へと戻ってみると、先頭は行程の半分を過ぎたところでした。

出発した時には引き締まっていた守備隊の隊員達も、生あくびを繰り返していました。

守備隊員までが振舞い酒に酔いつぶれていた訳ではなく、今日の行列を円滑に進めるために、昨夜は遅くまで準備を進めていたそうです。

「ただいま、ラインハルト。問題なさそうだね」

『念の為に安全地帯を広く取ってありますので、襲撃される心配はございませんぞ』

『それじゃあ、僕も居眠りして居ても大丈夫だね」

『ぶはははは、問題ありませぬぞ。ですが、安全地帯の外側には魔の森を超える密度の魔物達が蠢いているようです』

「このまま通行止めも解除……とはいかないみたいだね」

眷族全員で対処すれば、あるいはイロスーン大森林の通行を維持出来るかもしれませんが、その状況でヴォルザードに極大発生が迫った場合、両方の対処をするのは困難になりそうです。

「まずはヴォルザードを優先して、こちらの対処は領主の会合の結果次第だね」

『それがよろしいでしょうな』

好天にも恵まれて、避難の一行は粛々と大森林の外を目指します。

このまま何事もなく終れば良いのですが……。