作品タイトル不明
マノンは御機嫌斜め
パスタ屋さんでマノンと昼食を済ませて……さて、これからどうしたら良いのでしょう。
何せ女の子と二人で過ごした経験が無いもので、何処へ行ったら良いのか……と言うか、まだヴォルザードにどんな店があるのかも分かってないんですよね。
こんな時に、へなちょこ勇者のイケメンは、上手にエスコートしたりするんでしょうね。
映画……なんてやってませんし、ゲームセンターも無いですよねぇ…… リア充力ゼロ、ボッチ力100パーセントの僕には無理難題ですよ。
「ねぇケント、この後はどうしようか?」
「ふゃっ? こ、この後……?」
うわぁ……格好悪いよぉ、変な声出ちゃったよ。
てか、食事はしたばかりだし、お茶? お茶か? ってか、喫茶店とかあるの?
「ねぇケント、ちょっと城壁に行ってみない?」
「えっ? 城壁に行って何するの?」
「上って、魔の森の方を見てみようかと……」
「うん、別に良いけど、城壁って上れるの?」
「この前みたいな警報が出ている時は駄目だけど、普段は上っても良いんだよ」
「へぇ……そうなんだ」
何をしたら良いのか、全く思いつかなかったので、マノンに誘われるままに城壁へと向かいました。
門の周囲は、守備隊の人達が警備をしているので立ち入れませんが、少し離れた場所から城壁の上へと上れます。
城壁の上は通路になっていて、いざ戦闘となると、ここに守備隊や冒険者が並んで魔物を迎撃する事になります。
地上三階程度の高さがあり、魔の森を見下ろす感じなのですが、街道を除けば鬱蒼とした木々が視界を遮り、あまり遠くまでは見通せません。
おっ、ゴブリンがチョロチョロしてますね、ロックオーガの死肉を漁りに来たのでしょうか。
「ロックオーガの死体は、もう片付けちゃったんだね」
「マノンは、ロックオーガが見たかったの?」
「うん、ヴォルザードで暮らしていても、森に入らなければ、魔物を見る機会なんてあんまり無いし、ましてロックオーガみたいな凶暴な魔物を見る機会なんて無いんだよ」
「そうか……この城壁の内と外では大違いなんだね」
最果ての街と呼ばれるヴォルザードだけど、城壁のおかげで街中で魔物に襲われる心配は殆ど無いらしいです。
ただ、時折起こる大発生の時には、街中にまで魔物が入り込んで被害が出る事もあるんだって。
「ケントは、ロックオーガを見た事ある?」
「うん、あーっ……見たと言っても遠くからだよ」
「そりゃそうだよ、僕らがロックオーガの近くに居たら、すぐに餌にされちゃうよ」
いやいや、マノンちゃん、ロックオーガは僕らに近付く事すら出来ずに、凶悪スケルトンに瞬殺されちゃうんですよ。
「ねぇ、マノンはどうして冒険者になろうと思ったの?」
「僕? 僕は……お父さんの影響だよ」
「お父さんが冒険者なの?」
「うん、とても腕の良い冒険者だったんだ……」
あれっ過去形? ちょっと地雷を踏んでしまったのでしょうか、マノンの表情に影が差しました。
マノンの話によると、マノンの父親は鉱物採取専門の冒険者だったそうです。
ダンジョンからは、様々な鉱物素材が採れるそうで、多くの冒険者が鉱物目当てで潜るそうです。
金鉱石、銀鉱石、銅鉱石、鉄鉱石などに加えて宝石の素となる石も採れるのだとか。
マノンの父親は、土属性の魔法を上手く使い、効率よく素材をゲットする、腕の良い冒険者だったそうです。
「それじゃあ、ダンジョンで魔物に襲われて……」
「ううん、お父さんは三年前に腐敗病で死んじゃったんだ」
「腐敗病……?」
「うん、ケントの国では違う呼び方してるのかな? お腹が痛くなって、それが段々と右の下腹に移動して、内臓が腐っていく死病の事だよ」
「えっ、それって……」
それって盲腸だよね……って言いかけて止めました。
「ケント? どうかした?」
「そ、その腐敗病って、治療法は無いの?」
「うーん……学問が盛んなバッケンハイムの街ならば、腕の良い治癒士が居るって話だけど、ヴォルザードの治癒士では治せなくて、煎じ薬を飲むぐらいしか方法は無いんだ」
「そのバッケンハイムに行けば治せるの?」
「うーん……たぶん……でも、治療に沢山お金が必要だって聞くから、貴族じゃないと無理じゃないかな」
「そう、なんだ……」
日本では死ぬような病気じゃないけど、こっちの世界では手術とかは行われていないみたいだし、罹ったら死に至るような怖ろしい病なんだろうね。
「お父さんが沢山稼いでいてくれたおかげで、僕とお母さんは暮らしていけてるから、僕もいつかお父さんみたいな冒険者になりたいって思ったんだよ」
「お母さんは、マノンがダンジョンに潜るのを反対していないの?」
「うーん……あんまり良い顔はしないけど、ちゃんと戦闘講習を終えて、しっかりしたパーティーに参加するって条件付きでOKしてもらってる」
なるほどね、つまりは一人で潜っちゃ駄目ですよって事だよね。
「僕は水属性の術士だから、パーティーでは重宝されると思うんだ」
「そうなの?」
「うん、だってダンジョンの中では安全に飲める水は簡単に手に入らないし、治癒魔法も覚えれば、傷口を洗って治療する事も出来るようになるからね」
「そうか、水を持って行くとなると、重たいもんね」
「うん、ダンジョンに潜る人は、食料も乾燥させた保存食にして重量を減らすんだよ」
「へぇ……そうなんだ」
なるほど、普通にダンジョンに潜るのは、なかなか大変みたいですね。
僕の場合、影移動とか影収納が使えるので、ぶっちゃけ手ぶらで、しかも日帰り出来ちゃうんですよね。
と言うか、確か陣紙を使えば水は手に入るんだよね……って言わない方が良いよね。
「ケ、ケントが、もし戦闘講習を終えられたら、そ、その……い、一緒にパーティーを組んでみない?」
なんでマノンは、ソッポを向きながら尋ねるんでしょうかね。
耳が赤いような気がしますけど……
「パーティーかぁ……考えてなかったなぁ……」
ダンジョンとか興味あるし、素材を求めて遠征とか、討伐の依頼を受けるとか、やってみたいとは思うけど、今は同級生達の救出が最優先で、冒険者らしい活動を具体的には考えている余裕がないんだよね。
「だ、駄目かなぁ……」
「ううん、駄目じゃないけど、講習を終えたばかりの二人じゃ頼り無いよね?」
「あぁ……それは確かに……」
ありゃ、見るからにしょんぼりモードに入っちゃいましたね。
「今すぐは無理だし、まだ講習を終えられる見込みもないから考えられないけど、パーティーを組む時には、必ずマノンに声を掛けるよ」
「本当に?」
「う、うん……本当だよ」
「約束だからね、絶対だよ!」
「う、うん……約束する」
やっぱりマノンは、お父さんのようにダンジョンに潜ってみたいんだろうね。
そのパーティーに誘われるって事は、やっぱり僕に気があるのかな?
それとも、マノンもボッチ体質で、同じボッチ体質の僕を見つけて喜んでいるのかな?
ど、どうやって確かめれば良いのでしょうか。
「ねぇケント、武器屋さんに行ってみない?」
「武器屋さん……?」
「だって、ダンジョンに潜るなら武器が要るよね?」
「まぁ……そうだね」
「ちょっと見に行こうよ」
「う、うん、いいよ」
なんだか、明日にでもダンジョンに行くんじゃないかって勢いだけど、マノンは講習を突破する方法を考えないと駄目なんじゃない?
とは言っても、やっぱり武器とか見てみたい……けど、デートっぽくはないよね。
ドノバンさんの教えを守るなら、今の僕が使える武器って限られちゃうと思うけど、それでも、実物の値段とか知っておくのは良いかもね。
武器屋に行く事になったんだけど、その……手とか繋いじゃ駄目なんですかね?
あの、何て言うんですか、恋人握りとかしちゃ駄目ですかね?
さり気無く手を伸ばし、マノンの手を握りかけて……やっぱ止めて、でも手を伸ばして……やっぱ止めて……なんてしている間に武器屋に着いちゃいましたよ。
「どうかした? ケント」
「ううん……な、何でもありません……」
「変なケント……」
ぐはぁ、変って言われちゃったよ、変って……ぐっすん。
気を取り直して武器屋に入ると、女性の店員さんが迎えてくれました。
「いらっしゃい、マノン。 おや、今日は連れがいるんだね……」
「こ、こんにちは、ナーシャさん。 彼は……と、友達のケントです」
「初めまして、ケントです」
「ナーシャよ、よろしくね」
ナーシャさんは、紫色の髪をショートボブに切り揃えた、大人な女性です。
むさい中年オヤジがやってる店とは違って、気楽に商品を見られそうですね。
店の中には、折り畳み式の小さなナイフから、バスターソードまで、様々な武器が並べられています。
「あのぉ……この店の武器は、ナーシャさんが作ってるんですか?」
「いやいや、あたしは店の経営担当、武器を作るのは不肖の弟だよ」
「弟さんが鍛冶師なんですね」
「そういう事、別に悪人って訳じゃないけど、ちょっと偏屈な変わり者だから、商売には向いてないのさ」
「なるほど、職人気質ってやつですね?」
「そうそう、そういう事よ」
ナーシャさんの弟さんが作った武器を店に並べて、どんな品物の評判が良いのかフィードバックして作らせているのだとか。
マノンは、まだ実際に武器の購入はしていないけど、父親と一緒に来たりしていて、以前からの常連さんなんだとか。
「ねぇケント、見ているだけでもワクワクしてこない?」
「うん、そうだね……」
普通、女の子だったら洋服とかアクセサリーとかでワクワクするものだと思うのですが、マノンの場合は対象が、いかにも切れそうなナイフだったり、短剣なんですね。
値段を見ると結構な値段で、大ぶりのナイフで千ヘルトぐらいから、高いものは四千ヘルトぐらいします。
ヴォルザードに来る途中に馬車から回収したお金や、ロックオーガの魔石があるから買ってあげる事も出来るんだけど、いきなりプレゼントとかも変だよね。
買ってあげるのはナイフだけど、僕とマノンの関係は切っても切れないからね……なんて言ったらドン引きされそうな気がします。
「ケントだっけ? 君はどんな武器を使いたいの?」
「まだ木剣で稽古した事しかないので、正直どんな武器が良いのか分からないです」
ナーシャさんに尋ねられたのですが、分からないとしか答えようがありませんでした。
「なるほどねぇ、まだ戦闘訓練を始めたばっかりって感じなんだね?」
「はい、それに、まだもう少しは身体も大きくなると思うんで、もうちょっとしてから武器を選ぼうかと思ってます」
「うんうん、若いのになかなか感心だね。 普通、君ぐらいの歳の子だと、身の丈に合わない武器を欲しがるもんなんだよ」
それはたぶん、身の丈どころか規格外の剣と盾が影に潜んでいるからでしょうね。
「ドノバンさんに目を付けられているんで、身の丈に合わない武器なんて持っていたら、何て言われるか……考えただけでゾッとしますよ」
「あははは、君、ドノバンさんに目を付けられてるんだ、それじゃあ稽古の中でアドバイスしてもらえるから、それを聞いてから買いにおいで」
「はい、そうします……けど、いつになるのやら……」
「大丈夫、大丈夫、ドノバンさんは、見込みのある奴じゃないと目を掛けたりしないから、君にはちゃんと才能があるんだと思うよ」
「そうなんですかねぇ……まぁ、ギリクさんよりは強くなりたいですけど」
「ほぅ……君、なかなか面白いね。 そうだ、ドノバンさんから助言をもらえたら、うちの弟に紹介してあげるよ。 やっぱり武器は専用に作ったものの方が良いからね」
「ありがとうございます、期待しないで待っていて下さい」
ナーシャさんと話し込んでいたら、マノンに膨れっ面で睨まれてしまいました。
「マノンも、ドノバンさんに目を掛けてもらえるぐらいになったら、弟に話してあげるわよ」
あぁ、なるほどマノンは専用に武器を作ってもらえるように言われていなかったんですね。
僕が、先に約束してもらっちゃったから睨まれちゃった訳ですね。
「でも、専用に作った方が良いならば、全部専用にした方が良くないですか?」
「まぁ、そうなんだけどね、うちの弟は拘り始めるとトコトン拘るから、作れる数が極端に減っちゃうんだよ」
「なるほど、それだと採算が取れないんですね」
「そうそう、あたしらだって食べなきゃ生きていけないからね」
その後もナーシャさんに武器の手入れの仕方とか、専用の武器を作る行程とかを教えてもらったのですが、話し込んでいると、やっぱりマノンの機嫌が悪くなっていきます。
やっぱり専用の武器って憧れるものなんですかね?
他のお客さんが来店して、ナーシャさんと話し始めたので、僕らはお暇する事にしました。
「ナーシャさん、また寄らせていただきます」
「はいよ、いつでも遊びにおいで、マノンもね」
ナーシャさんの言葉に、マノンはコクンと頷いただけでした。
まだちょっと、御機嫌斜めのようです。
武器屋さんを出たのは良いですが、まだ帰るには少し早い中途半端な時間です。
つまりは、再びピンチ到来ですよ、この後、どうしたら良いのでしょうか。
お茶、お茶っすか?
「ケ、ケントは、ナーシャさんとかミューエルさんみたいな年上の女性が好きなの?」
「ふぇ? べ、別にそんな事はないけど……何で?」
「だって……ずっと二人で楽しそうに話してたし……」
「えっ? あれは僕の知らない事だったから、勉強になると思って話してただけだよ」
「そ、そうなの?」
あれ? なんだかマノンの機嫌が戻ったような気がしますね。
と思っていたら、呼び止められましたよ。
「ケント、ケント!」
「あぁ……メリーヌさん、こんにちは」
声を掛けて来たのは、カルツさんの片思いの君、メリーヌさんでした。
「昨日は、ありがとうね、思い切ってカルツさんに相談してみたんだ」
「そうですか、それは良かったです、で、カルツさんは何て?」
「うん、私の思うようにやれば良いって、何かあったら手を貸すからって、背中を押してもらったの」
「そうですか、それで……食堂はどうするんですか?」
「うん、このまま閉じてしまうのは、やっぱり寂しいから、一旦休業して私が修行に出て、また再開してみて、それでも駄目なら閉めようかと思ってるんだ」
「なるほど……修行は、どこでするんですか?」
「うん、それが問題なのよね、どこか良いお店無いかしらね?」
メリーヌさんは、腕組みをして考え込んでいます。
「ねぇ、ケント、良いお店知らないかな?」
「良いお店ですか……うーん……僕が下宿しているアマンダさんの店……とか?」
「へぇ、ケントは食堂に下宿してるの?」
「はい、アマンダさんの料理は絶品ですよ」
「ねぇ、お給料とか要らないから、頼んだら修行させてくれるかな?」
「うーん……アマンダさんのお店忙しそうですし、世話焼きな人だから大丈夫じゃないかなぁ……」
「お願い、ちょっと紹介してもらえないかな?」
ヴォルザードに着いた時にお世話になったカルツさんの想い人、メリーヌさんに頼まれれば嫌と言えるはずもありませんよね。
「上手くいくかは分かりませんけど、話をするだけなら良いですよ」
「本当に? ありがとう!」
ふぉぉぉぉぉ! メリーヌさんにギューって抱き付かれちゃいました。
ひっ、ひぃぃ、視界の端でマノンちゃんが夜叉と化していますぅぅぅ……
「じゃあ、これから行っても大丈夫かな?」
「はい、この時間なら夜の仕込みの時間だと思うので、大丈夫だと思いますよ」
メリーヌさんと一緒に下宿に戻る事になったのですが、マノンの機嫌が最悪です。
「僕、帰る……ご・ゆっ・く・り!」
「あ、あの……マノン……マノンちゃ~ん……」
あぁ、私に触るなオーラ全開で、マノンがズンズンと去って行きます。
「ごめーん……嬉しくてつい……彼女怒っちゃったよね」
「えっと……はい、色々とコンプレックス的なものがありまして……」
「そうなの?」
「はい、たぶん……」
メリーヌさんと一緒に下宿に戻ってアマンダさんに話をすると、二つ返事でOKしてくれました。
店は繁盛していて、手伝いの人を頼もうかと思っていたのだそうです。
ちょっと不満そうなのは、メイサちゃんで、なぜかと言えば……
「これでメイサも、ゆっくりと勉強が出来るようになるね、しっかりやるんだよ」
「うっ……あ、あたしはお店を継ぐから勉強なんて……」
「駄目だからね、店を継ぐにしても、キチンと教育を受けているのと、いないのとでは大違いなんだからね!」
「は、は~い……分かったわよ……」
どうやらメイサちゃんは勉強が苦手のようですね。
今度時間のある時には、教えてあげましょうかね。
ってか、大丈夫だよね、算数程度なら僕でも、教えられるよね?
メリーヌさんは、今日の夜から早速修行を始めるそうです。
夕食まで部屋でゆっくりしようかと思っていたら、フレッドが声を掛けてきました。
『ケント様……明日、実戦が行われるみたい……』
『えっ、もう? 分かった、引き続き探って、後で報告を聞くから……』
『了解……』
見せしめのために、案外早く実戦が行われると思っていたけれど、いきなり明日とは思っていませんでした。
今夜のうちに、色々と準備を進めないといけません……これは、忙しくなりそうですね。