軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盗賊狩り

穴の中から引きずり出した暴徒共は、縛り上げて一箇所に集めました。

表面は黒焦げにされ、ずぶ濡れの一団は、年の瀬の寒さにガタガタと震えています。

隊長のバネルさんに率いられたバッケンハイムの守備隊が到着したので、暴徒共を引き渡す事にしました。

「ヴォルザード領主の嫡男、アウグスト・ヴォルザードだ。こいつらは、マールブルグの人々に対して不当な暴力を働いたので拘束した。厳正な処分を行うと共に、被害に遭った方々への賠償を要求する」

「守備隊長のバネルです。ご迷惑をお掛けいたしました」

「被害に遭った者の話では、殺人を犯している者も居るらしい。厳しく調べを行い、処罰してほしい」

「はっ! 畏まりました」

クラウスさんやベアトリーチェと普通に接してしまっているので、つい忘れがちですけれど、こちらの世界では身分の違いがあるんですよね。

拘束された暴徒共は、処罰されると聞いて悪あがきを始めました。

「違うんだ、俺らは怪しい奴らを集めていただけで、向こうから襲って来たから反撃しただけだ」

「そうだ、俺らは自分達の身を守るために……」

「見苦しい言い訳をするな!」

何とか処罰から逃れようとする暴徒共を、アウグストさんが一喝しました。

「私に向かって明確な攻撃の意思を示した時点で、そなたらは処刑されても文句など言えぬのだぞ。だが、これだけの人数を一度に失えば、集落が立ち行かなくなる。自分達の罪を素直に認めるならば、私へ危害を加えようとした事については不問に処す。だが、自分らの罪を認めないと言うならば、全員の処刑をバッケンハイムに要求する。良いな、バネル」

「はっ! 確かに承りました。寛大なご処置に感謝いたします」

全員が処刑か、殺人を犯した者のみが処刑かとなれば、助かる見込みがある者達が真実を語り始めるのは当然の流れでしょう。

あっと言う間に、暴徒を先導していた太った男の他四人ほどが殺人を犯したと告発されました。

隊長のバネルさんは、数名の部下に対して被害の聞き取りを命じた後で、僕のところへと歩み寄って来ました。

「こちらでも迷惑を掛けてしまったようだが、夜盗の討伐に手を貸してもらえるか?」

「アウグストさん、手を貸して来ても構いませんか?」

「無論だ。どの道、この一件が片付かない限り、検問所の通過はおぼつかないだろう。ならば手を貸して早く終らせてしまえ」

紛争状態となった検問所が通れるようになるには、バッケンハイムとマールブルグ双方の合意が必要になるでしょうし、その為には夜盗共の討伐も必要になるでしょう。

「と言うことなので、さっさと捕らえてしまいましょう、バネルさん」

「捕らえる? 盗賊は一人残らず処刑するぞ」

「えっ、でも、裁判とかは……」

「バッケンハイムでは、許可無くイロスーン森林の中に居を構える事を禁じている。森の中に勝手に住んでいる時点で盗賊の類いと認められ、処刑の対象となるのだ」

「じゃあ、アジトに居る人達は……」

「あの場所に居住の申請は出ていないし、そもそも居住の申請が通るのは、我々のパトロールの範囲内だけだ。よって一人残らず処刑だ」

日本の感覚では、考えられない厳しさですが、それがこちらの世界のやり方なのでしょう。

「それで、僕は何をすれば良いのですか?」

「そうだな、当初の通りに見張りの制圧は頼むとして、処刑するのを躊躇うのであれば、確実に戦闘不能にしてくれ」

「では、戦闘不能にして捕縛という形にさせてもらいます。それで報酬は?」

「報酬は一人あたり2万ヘルト。山賊、盗賊を捕らえた時の報奨金として決められた額だが、それでどうだ?」

「結構です。それでは、さっさと片付けてしまいましょう」

バネルさんが率いて来た守備隊の人数は47名、ここから暴動の処理に5名程が抜けるそうなので、盗賊側とほぼ同じ人数となってしまいます。

それでも焼き討ちされたリンダールの惨状を目にしているからか、どの隊員も引き締まった顔つきをしています。

『ケント様……見張りが増えた……』

『四箇所の見張りの他って事?』

『そう、更に街道に近い場所……バッケンハイム側、マールブルグ側に一人ずつ……』

『じゃあ、そいつらも眠らせて捕らえちゃおう』

『ケント様、眠り薬が……二十人分ぐらいしか無い……』

『あぁ……救出作戦の残りだもんね。今度補充しておかないとだね』

いっそ盗賊は全員眠らせてしまおうかと思いましたが、物量的に難しくなりました。

「バネルさん、街道の近くにも見張りが付いたようです」

「なんだと、相当用心深い連中のようだな」

「その見張りも含めて、十人は眠らせて捕縛しちゃいます。アジトの外に居るのに、いきなり処刑だと問題ありそうですもんね」

「そうだな。森に入る事自体は禁じられていないからな、アジトから離れた場所に居る者は捕縛してくれ」

「はい、それとアジトの中の幹部っぽい連中も眠らせちゃいます。指示する人間が機能しなければ、反撃の統率も取れないでしょうから」

「なるほど、そうしてくれれば、主犯格は見せしめとして処刑が出来る」

僕としては、盗賊の手口とかを聞きだした上で処罰された方が良いと思ったのですが、どうやらバネルさんは、マールブルグに向けられている負の感情を盗賊に集めた上で処刑を行うつもりなのでしょう。

『人数にもよりますが、焼き討ちされたリンダール、暴動が起きたスラッカ、それとマールブルグとの境界線でも公開処刑を行うのでしょうな。その上で、マールブルグ側に謝罪と賠償を申し出れば、一応の格好が付けられるという事ですな』

『それでマールブルグは納得するのかな?』

『それは交渉次第でしょうが、検問所が閉じたままでは両国にとっても不利益が大きいですし、検問所を利用する他の領地の者からも抗議されるでしょうから、矛を収める事になるでしょうな』

盗賊たちのアジトは、スラッカから更にバッケンハイム側に戻った場所にありました。

僕が先行して、街道近くの見張りを捕縛して、バネルさん達を待つ事にしました。

フレッドに案内されて見張りの近くまで移動して、様子を窺います。

見張りの男は、少し森に入った場所に佇み、街道の方へと目を光らせています。

左手には、小さな筒状の物を握り締めていました。

『森の中で活動する時……互いの位置を知らせる笛……』

『あれは一般的に使われるものなの?』

『そう、持っていても……不思議じゃない……』

笛自体は怪しいものではないそうですが、森の方を警戒するのではなく街道を警戒しているのですから、男の挙動は不審そのものですよね。

街道を更に進んだ場所に、同じように警戒している見張りが居るそうです。

『よし、もう一人の方をお願い、眠らせたら縛って運んで来られる?』

『了解……任せて……』

フレッドをもう一人の見張りへと走らせ、こちらの見張りには、僕が眠り薬を投入しました。

胃袋に直接眠り薬を放り込まれた見張りの男は、笛を鳴らすことも出来ずに眠り込みました。

「ラインハルト、縛り上げてくれる?」

『畏まりました……が、殺害ではなく捕縛を望まれるのでしたらば、ケント様も縛り方を覚えておかれた方が宜しいですな』

「うっ、分かったよ。でも、今は時間が無いから、ちゃちゃっと縛っておいて」

『お任せを……』

ラインハルトは、地面に転がった男をうつ伏せにすると、両腕を後に縛り、更に縄を首に回して拘束しました。

『この縛り方ですと、この部分を持って引っ張れば首の部分を締められるので、暴れられる心配が無いという訳です』

「なるほど……これは騎士団の縛り方なんだね」

ラインハルトは、更に別の縄を使って足を拘束しました。

『担いで運ぶならば、このままで、歩かせるならば、足の縄だけ解きます』

「なるほど……色んな縛り方があるんだね」

ラインハルトと話している間に、もう一人の見張りを眠らせて、キッチリ縛り上げてフレッドが戻って来ました。

程無くしてバネルさん達も到着したので、眠らせた見張りは木に縛り付けておく事にしました。

魔の森だったらゴブリンの餌になっちゃうところですが、イロスーンの森では心配は要らないそうです。

いや、でも昨日はオーガが出たけど、本当に大丈夫なのかね。

一行が森に分け入ると同時に、僕は見張りを眠らせに先行します。

見張り所は、それぞれ大きな岩の上や、下草が途切れた場所、沢の向かい側などの見通しが利く場所に作られていました。

草や枝などでカモフラージュした見張り場には、盗賊の男が二人詰めていて、一人が見張りをして、もう一人はいつでも交代出来るように、いつでも知らせに走れるように準備を調えています。

見張り所には弓矢も置かれていて、敵に向かって先制攻撃を仕掛けるように用意されているのだと思われます。

矢筒の近くには、手袋と蓋のされた小さな壺が置かれています。

『毒矢として使うのでしょうな』

『壺の中身は毒なの?』

『恐らくですが、カエルやヘビから採取した毒を魔物相手に使う事がありますが、食用の獲物を仕留めるのには使われません』

『それは、調理しても毒が失われないって事だよね?』

『その通りです。オーガやオークを倒すのに、矢やナイフの刃に塗るのですが、強力な毒は肌に触れるだけでも危険ですし、空気に長い時間晒すと効果が薄れるので、扱いは注意を要します』

「まぁ、今回は使わせないけどね」

フレッドやコボルト達と連携して、こちらも眠らせて縛り上げました。

森の中を進んでくるバネルさん達が見えたので、白い布を振って見張りの制圧が終わった事を知らせました。

向こうからも手を振り返して来たので、今度はアジトの制圧へと向かいます。

小高い丘に横穴を掘って作られたアジトは、思ったよりもシッカリとした作りになっていました。

大きな岩の影に作られた入口からの通路は、真っ直ぐ5メートルほど進んだ所で右に90度曲がり、更に5メートルほど進んだ所で左に90度曲がっています。

しかも、この通路の壁の裏側には隠し部屋が設けられていて、そこから槍が突き出せるように作られていました。

槍を突き出すための穴も、薄く土を盛って塞いであり、通路側からは、どこが槍狭間になっているのか分からなくしてあります。

『うわっ、凄い厳重な警戒だよ。こいつらは制圧しておかないと拙いよね?』

『そうですな、何も知らずに通路を進んで来たら、手酷い損害を受けそうですぞ』

通路を進んだ先が広間になっているのですが、入口の部分には吊り天井のように槍の生えた板が吊られています。

『なんだか罠だらけって感じだね』

『そうですな。これだけの仕掛けがあるならば、抜け穴も用意されているでしょうな』

『抜け穴は……一番奥……』

フレッドの話によると、もう一本秘密の通路が作られてあり、それは盗賊のボスの部屋から外部へと繋がっているそうです。

抜け穴の出口には、草を植えつけた扉が付けられていて、外からでは全く分からないそうです。

広間では盗賊達が車座になって酒を飲んでいて、広間の隅には攫われて来たと思われる女性が集められています。

『ボス共は……奥の部屋……』

『案内して』

ボスの部屋には三人の男と、三人の女性が居ました。

部屋には絨毯が敷かれ、火の魔道具が焚かれています。

僕よりも少し年上と思われる女性達は、既に男達に陵辱された後のようで死んだ魚のような目をしてグッタリとしていました。

『ケント様……そろそろ守備隊が来る……』

『フレッドは、通路の隠し部屋の連中を制圧して、ラインハルトは、ここの連中をお願い。僕は吊り天井に対処してくるから』

『畏まりましたぞ』

ボス部屋の三人をラインハルトに任せて、僕は広間へと戻りました。

二十数名の男達は、守備隊に急襲されるとも知らずに酒盛りを続けています。

そこへ慌しい足音と共に、バネルさん達が踏み込んで来ました。

「盗賊共め、覚悟しろ!」

「くそっ、見張りは何やってんだ! おい、落とせ!」

部屋の端に居た男が綱を切ると、槍を生やした天井が落下しますが、闇の盾を出して影空間へと飲み込ませました。

闇の盾を消せば、天井から切れた綱がブラブラと下がっているだけです。

その間にも無傷で踏み込んで来た守備隊員が、容赦なく剣や槍を振るい、盗賊共を血祭りに上げていきました。

完全に油断したところに踏み込まれ、盗賊達は成す術も無く討伐され、沈黙するまで十分程度しか掛かりませんでした。

刃物で人が殺される様子はショッキングであると同時に、高城に殺されそうになった瞬間を思い出してしまい、嫌な汗が噴き出して来ます。

『ケント様、大丈夫ですかな?』

『うん、何とか……ネロとゼータ達が山賊を殲滅した時は、感じなかったんだけど、人が人を殺すのを見るのは、ちょっとね……』

バネルさんがボス部屋の方へと踏み込んで行ったので、そちらに移動する事にしました。

盗賊のボス達は、ラインハルトによって眠らされ、厳重に縛り上げられていました。

攫われて来たと思われる女性達は、拘束されていた縄が切られ、毛布が与えられています。

「バネルさん、お疲れ様です」

「ん? ケント君か、どこだ?」

「はい、今から表に出ます」

バネルさんから少し離れた位置に闇の盾を出して表に出ました。

「こいつらが幹部連中のようです。見張りたちと同様に、眠り薬を盛ってから縛り上げてあります」

「そうか、君のおかげで抵抗される事無く殲滅が出来たよ」

「良かったです。入口の通路の裏にも隠し部屋があって、そこに潜んでいた連中も眠らせて縛ってあります」

「何だって、本当か?」

「ええ、侵入者に対して、裏から槍で攻撃するつもりだったようです」

「天井にも何か仕掛けてあったようだが……あれも君が?」

「はい、影の空間に送ってしまいました」

「いや……何から何まで世話になったな。あとは、こいつらの素性を吐かせて、この制服の理由を聞かねばならんな」

バネルさんの視線の先には、兵士の制服と思われるものが脱ぎ捨てられています。

「これは、マールブルグの制服なんですか?」

「ぱっと見た感じでは、そのように見えるが、本物かどうかはマールブルグの者に聞いてみないと何とも言えないな」

「本物であれば、盗んで来たのか、横流しされたものなのか、いずれにしてもマールブルグに罪をなすり付けようとした訳ですね」

「そうなんだろうが、こいつら自体、もしかするとマールブルグの兵士崩れかもしれんしな。そう考えると、生かして捕らえてもらって良かったよ」

単純な盗賊であれば、殲滅して終わりなのかもしれませんが、今回はマールブルグとの紛争にまで発展してしまっているので、やはり取り調べは必要でしょう。

見張り役の十人、隠し部屋に居た三人、それに幹部とおぼしき三人、計十六人分の報奨金の支払いを書類に記載してもらいました。

この書類をギルドに提出すれば、報奨金が口座に振り込まれるそうです。

アジトの捜索が残っているバネルさん達を残して、一足先にスラッカに戻る事になり、暴動の始末に残った守備隊員とギルドに報告を頼まれました。

スラッカに戻ると、強制的に集められていたマールブルグの皆さんは解放されて、宿へと戻ったようです。

金品に関しては、大体のものが返却されたようですが、問題は殺害されてしまった護衛です。

昨日オーガの襲撃から助けたデュカス商会の馬車の他に、マールブルグの旅行者が仕立てた馬車が二台あり、それぞれに護衛役の冒険者が付いていたのですが、この三名が殺害されていました。

バッケンハイムのギルドが護衛の冒険者を斡旋すると申し出たそうですが、事件が事件だけに不信感を持たれているようで、バッケンハイムに所属する冒険者は信用出来ないと言われてしまったようです。

このため、三台の馬車はバッケンハイムの守備隊が護衛して検問所まで送り届け、マールブルグの領内で改めて護衛の冒険者を雇う事になったそうです。

そうした話をギルドの職員さんから聞いていると、デュカス商会のラコルさんが声を掛けて来ました。

「ケントさん、昨日といい今日といい、危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」

「今もその話をしていた所なんですが、本当に酷い目に遭われましたね」

ラコルさんも殴られたらしく、左の頬が青黒く腫れています。

「ちょっと宜しいですか?」

「いや、この程度は……おぉ、これは……」

ラコルさんの頬に手を当てて、治癒魔術を掛けました。

「痛みが残っていると気分も晴れませんからね。これは、お見舞いです」

「いや、申し訳ありません。痛みも……おぉ、腫れも引いてます。失礼ですが、ケントさんは、いくつの属性の魔術をお使いになれるのですか? 昨日は風属性の魔術を使われていましたが、今は光属性の魔術でございますよね。その他にも……」

「あぁ……その辺りは、商売上の秘密という事で……」

「さようでございますか。あの……不躾な質問で申し訳ありませんが、ケントさんは、どちらかの家に雇われていたりなさるのでしょうか? もし、もしどちらにも雇われていらしゃらないのであれば、デュカス商会に……」

「申し訳ありません。僕はヴォルザードを拠点にすると決めてしまいましたので、マールブルグへ行くつもりはありません」

「そうですか……それは、ヴォルザード家の庇護下という事でしょうか?」

「はい、そう考えていただいて結構です。ヴォルザードの街には、僕が困っている時に本当にお世話になって、今もお世話になっている状態ですし、自分が一番必要とされている場所だと思っています」

「そうですか……ケントさんほどの才能をお持ちであれば、お金に窮するような事も無いでしょうし、そのような事情があるならば、仕方ありませんね」

昨日治療をしたリシルちゃんは、見違えるほどに元気を取り戻したそうですが、今は暴動の影響で、怯えてしまっているそうです。

リシルちゃんの母親も、あまり身体が丈夫では無いらしく、出来る事ならば僕に治療をお願いしたいそうです。

ラコルさんからは、ギルドを通せば指名依頼は出来るのかとか、治癒魔術の実績とか、ヴォルザードに行けば治療を受けられるのか等を問われ、マールブルグに来る事があれば、お礼をしたいので必ず立ち寄って欲しいと言われました。

いずれにしても、今はヴォルザード家の護衛の最中であるし、マールブルグまで足を伸ばす訳には行かないと、事情を話してお断りさせていただきました。

色々な問題が片付いた後であれば、マスター・レーゼからも各地を巡って欲しいと頼まれていますし、一度マールブルグにも行ってみたいとは思っています。

その時に、タイミングが合えばデュカス商会を訪ねてみるのも良いかもしれませんね。