軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ギルドの戦闘訓練

リーブル農園で二週間働いて下宿に戻ると、随分と逞しくなったもんだと、アマンダさんが驚いていました。

日本に居た頃は、インドアなオタク生活を続けていた僕が、太陽の下で思い切り身体を動かして働いてきたのですから、逞しくなるのも当然ですよね。

それと、筋肉痛をセルフヒーリングで治すと、いわゆる超回復状態になるようで、自分でも分かるぐらい筋肉がついています。

根が単純なもので、こうなってくると剣とか振るってみたくなっちゃうんですよねぇ。

農園で働いた翌週、また朝一番でギルドに出かけると、やっぱり掲示板の前には黒山の人だかりが出来ていました。

次はどんな仕事をしようかと考えつつ、リーブル農園での仕事を教えてくれたお礼が言いたいと思い、ミューエルさんを探してみます。

すると、二週間前と同様に、壁際に立っているミューエルさんとギリクの姿がありました。

「おはようございます、ミューエルさん」

「えっ、あぁ、君は、あの時の……?」

「はい、リーブル農園の仕事を教えてもらったケントです、おかげ様で良い仕事に出会えました」

「へぇー、二週間で随分と逞しくなったねぇ」

「はい、今まで身体を使う仕事をしてなかったので、かなりキツかったですけど、でも楽しかったです」

「へん、逞しくなったって言ったって、まだまだヒョロっちいじゃねぇかよ」

「ギリク、そんな意地悪言わないのよ」

そうだそうだ、意地悪言うな、犬っころめ。

ただ、ミューエルさんは庇ってくれましたが、実際まだまだ貧弱なので、もう少しぐらい鍛えておきたいのも事実です。

「あの、お二人は戦いの方法とかは何処かで習ったんですか?」

「えっ、ギルドだよ、あれ、講習があるって教わらなかったのかな?」

「はい、ギルドで戦闘の講習が受けられるなんて話は初耳です」

「今日は週の初めだから、初心者の講習があるはずだよ、受付で聞いてみたら?」

「そうなんですか、ありがとうございます、ちょっと聞いてみますね」

ギルドで受けられる講習だったら、もしかしたら無料じゃないかと思い、軽い気持ちで受付の女性に聞いてみました。

「あのぉ、すみません、ここで戦い方の講習が受けられると聞いたのですが」

「はい、受けられますが、ランクは何ランクですか?」

「はい、登録したてのFランクです」

「あぁ、それなら、もう少ししたら始まる初心者講習が良いですね、受けられますか?」

「あの、費用はどのぐらい掛かりますか?」

「必要ないですよ、ギルドに所属する冒険者の底上げの為の講習なので、無料で受けられますよ」

「そうなんですか、では受講します」

「それじゃあ、こちらの紙に記入をお願いしますね」

氏名、年齢、ランク、魔法の属性。ギルドカードの登録番号などを記入して、講習の申し込みを済ませました。

最初は座学を行うそうで、二階の会議室に行くように言われました。

『ケント様、戦闘訓練でしたらワシらが……』

『いやいやいや、ラインハルトと訓練なんかしたら、僕の身体が持たないからね、だからギルドの講習を受けるんだからね』

手加減知らずの凶悪スケルトンとの訓練なんて、怖ろしくて出来ませんよ。

いくら僕でも、爆散しちゃった身体までは、治せる気がしませんからね。

階段を上がって会議室と書かれたプレートが掛かった部屋を覗くと、壁にかけられた黒板に向かって、四十脚ほどの椅子が並べられています。

会議室と言うよりも教室に近い雰囲気で、既に四人ほどの少年が座っています。

年齢は僕と同じぐらいで、みんな少し緊張気味です。

四人のうちの三人は顔見知りらしく、固まって座って、ヒソヒソと何やら話しています。

もう一人は、整った顔つきのイケメン君で、一人所在無げに座っていますね。

これが日本だったら、リア充に、モブ達、そしてボッチの構図ですな。

そんな事を思いつつ、ボッチポジションの入口近くの前方に座ると、不意に後から話し掛けられましたよ。

「ねぇ、君もFランクなの?」

「えっ? あぁ……うん、そうだけど、君も?」

「うん、ボクもFランク、ボクはマノン、君は?」

「あっ、ケント」

「よろしくね、ケント」

「あっ、よろしく……」

マノンは、耳が隠れるぐらいの水色のサラサラヘアーで、もう何と言うか、イケメンオーラ全開で、眩しいぃぃぃ、目がぁぁぁ……って感じですよ。

握手をした手も、指が長くて、ほっそりしていて、冒険者っていうよりもピアニストみたいな感じです。

リーブル農園で酷使して、ゴツゴツしてきた僕の手が、何だか恥かしくなります。

マノンと挨拶を交わしていると、廊下から重たい足音が聞えてきて、ゴツいおっちゃんがドアから入ってきましたよ。

一目見ただけで、ヤバいって思う人ですね、悪い人でない事を祈るばかりです。

「一、二、三、四、五……おう、揃ってるな、じゃあ講習を始めるぞ、俺は講師を務めるドノバンだ、よろしくな」

たぶん愛想笑いなんだろうけど、ニヤっと口元を緩めただけで、思わずチビりそうになるほど、迫力に満ちた講師さんです。

「最初にお前らに言っておく事がある、大事な事だから絶対に忘れるんじゃねぇぞ」

ドノバンさんにジロリと睨みを利かされて、僕ら五人は思わず背筋を伸ばして姿勢を改めました。

「武器を手に入れても、強くなったなんて思うな、武器ってのは使いこなせて初めて力になる。 そうだな、例えば、ここに一本の剣があったとしよう。 軽く振るっただけでも、大木をスパッと切り倒すほどの切れ味鋭い剣だが、恐ろしく重たい剣で、大男でも無ければ持っているのがやっとだとする。 その剣を手に入れたとして、今のお前らが強くなったと言えるか?」

ドノバンさんの問い掛けに、僕らは揃って首を横に振った。

「いいか、良く覚えておけ、武器は自分が使いこなせる物を手に入れろ。 そして手にいれたら使いこなすための鍛錬を積め。 それで初めてお前らは強くなるんだ、分かったか?」

僕ら五人は、もう人形のようにガクガクと頷くしかなかったよ。

ドノバンさん、マジで迫力あり過ぎだって。

でも、良い話を聞いたよね、武器は手に入れただけじゃ強くならない、そういう意味では、僕はもっと魔法の鍛錬を積まないと駄目って事だよね。

光属性魔法での攻撃なんて、発動までに三十秒ぐらい掛かるし、止まってる相手じゃなきゃ当てられないなんて、実戦では役に立たないよね。

それからドノバンさんは、色々な武器について特徴を教えてくれましたよ。

ナイフに始まり、短剣、剣、長剣、大剣、槍、薙刀、弓矢、戦斧、ハルバート等々。

それぞれの武器を使った戦い方も、簡単にレクチャーしてくれました。

それから、盾の種類や、防具の種類についても教えてくれました。

顔はめっちゃ怖いけど、説明はとても丁寧で分かりやすく、何よりも『この人は使いこなした経験がある』と思わせるから、説得力があるよね。

うん、日本のダメ教師どもにも見習わせたいねぇ。

武器と防具についての講義の後は、魔物についての講義が行われました。

ヴォルザードの近くには、トレントの大発生で生まれた魔の森の他に、普通の森もあって、そちらには強力な魔物は出ないけど、オーク程度は生息しているそうです。

魔物の種類、特徴、危険性、弱点、どこが素材として売れるか等、これもやっぱり討伐した経験を元にした講義だから、説得力が違うよねぇ。

でも、このクラスの魔物は瞬殺しちゃう魔物が、足元に潜んでたりするんだよね。

午前の講義が終わって、昼休みになったんだけど、ドノバンさんの迫力に圧倒された僕らには、妙な連帯感が生まれて、五人で昼食を一緒に食べる事になりました。

リドネル、マール、タリクの三人組は、ヴォルザード出身の幼馴染なんだって。

この世界では、数えで十歳になると学校に行き、数えで十五歳でギルドに登録して働き始めるそうです。

マノンも数えで十五歳で、今年から働き始めたばかりで、みんな冒険者志望なんだって。

僕らから見ると、冒険者って剣や魔法で魔物と戦うってイメージだけど、こっちの人からすると 森やダンジョンなどに入って、素材を取って来るのが冒険者で、僕らの感覚では漁師に近いイメージみたいです。

危険は伴うけど、元手が少なくて、一攫千金のチャンスがある仕事は、やっぱり夢があるもんね。

ただ、みんなヴォルザードの出身だけに、厳しい現実というのも分かっていて、だからこそギルドの講習を受けているんだってさ。

「みんな堅実なんだねぇ……」

「当たり前だろう、いくら冒険者が儲かるって言っても、死んだら終わりだぜ」

三人組の中では、一番背の高いリドネルがリーダー格のようで、小柄ですばしっこそうなマールと、おっとりして太り気味のタリクと一緒にパーティーを組む予定なんだって。

「小回りが利くマールが前衛、俺が中衛、落ち着いてるタリクが後衛で援護って形がベストなんだけど、まだまだなんだよなぁ……」

学校を終えた子供達は、そのまま冒険者を目指す者と、少しお金を貯めてから冒険者を目指す者のふたつのパターンがあるそうです。

リドネル達は、後者のパターンで、とりあえず働いてお金を貯めながら、冒険者を目指しているそうです。

まだ自分達が使う武器も手に入れていないし、戦い方も分からない、まだ冒険者としての一歩は踏み出せていないそうです。

午後の実技講習は、ギルド裏手の訓練場で行います。

ここは、ギルドに登録した人であれば、自由に使う事が出来るそうで、顔見知り同士が手合わせをして技量アップを目指したりしているそうです。

今も、何人かの冒険者が木剣を使って打ち合いをしてるんですが、うわっ、速っ、って感じで、身体の動きは何とか目で追えますが、剣先の動きとかは追い切れませんね。

まぁ、身体の動きすら追い切れないスケルトンが、身近にいたりするんですけどね。

「よし、集まったな、これから実技の講習に入るが、まずは自分にあった武器から選んでもらう。ここに刃引きした武器がある、重さは本物と変わらないから、どれが自分に合うか選んでみろ」

ナイフが数種類、剣も長さや形が異なるものが数種類、槍、薙刀、短弓、長弓、それに大きさの違う盾が置かれています。

タリクは槍に興味を示していますが、他のみんなは剣の所に集まっています。

剣の所が混み合っているので、ナイフでも見ようかと思ったのですが、なぜだか盾に興味を惹かれて、一番小さな盾を手にしてみました。

「うわっ、結構重たいんだ……」

「ほぅ、お前は盾から選んだのか、どうしてだ?」

驚いて振り返ると、ドノバンさんに見られています。

本当は、何となくなんだけど、そんな答えをしたら捻り潰されそうなんで、ここはそれらしい答えをしないと拙いっすよね。

「えっと……まだ何の攻撃手段も無いんで、盾の重さを確かめて、それから片手で使える武器を選んでみようかと思ったので……」

「なるほどな……まずは守りから固めようという事か、悪くないぞ、魔の森で生き延びただけの事はある」

ドノバンさんの言葉を聞いて、みんなの視線が僕に集中しました。

いや~ん、そんなに注目されちゃ照れちゃいます。

「どうして、その事を……」

「冒険者にとって情報は重要だ。 情報不足で行動すれば簡単に死んじまうのが冒険者って仕事だ。 俺は、例えヒヨっ子相手の講習だろうが、手を抜くつもりは無い」

うわぁ、格好良いんだけど、ストイック過ぎて怖いっすねぇ。

「森で生き残ったのは、たまたま運が良かっただけで、本当に、何が何だか分からないまま逃げて来ただけなんです」

「そうか、それでも生き残ったのは確かだぞ」

「はい、でも、もう一度やれって言われたら、確実に死ぬ自信があるんで、そんな状況に陥らないように知識と技が身に付けられればって思って、講習を受けたんです」

「そうか、そいつは賢明な判断だ。 だが、その盾はお前さんには重たすぎるな。 戦いにおいて、一番重要なのは、自分が思う通りに動ける事だ。 盾は守りを固める役には立つが、動きが悪くなるならば、足枷でしかない」

「そうですね、確かにそう思いました」

「ならばどうする?」

「えっ……?」

「盾が重たすぎるなら、お前はどうするって聞いてるんだ」

うわぁ、怖い怖い、怖いっすよ、これまたヘタな回答は出来ませんよねぇ。

「えっと……今すぐ戦わなきゃいけないなら、逃げます」

「ほう、軽い武器を手にして戦わないのか?」

「相手によりけりだと思いますが、今のところ街から離れる予定は無いので、戦うよりは逃げて助けを求めた方が、助かる確率が高い気がします」

「がぁはっはっはっ、いいぞ、ケントだったな、お前は生き残る術をわきまえてる。 普通の奴は、すぐに武器を手にして戦いたがるもんだが、こっちが武器を構えれば、相手は更に本気になる。 逃げるなら相手が本気になる前の方がチャンスがある、正解だ」

ふぅ、どうにか正解出来たようですが、心臓に悪いっすよ。

「同じような話の繰り返しになるが、実際に使う武器は、自在に操れる物を持て。 鍛練を積むときの得物は、少し重たいと感じるものを使え」

この後、ドノバンさんは、僕らの体格や身のこなしを見て、最初に使う武器を選んでくれました。

小柄なマールにはナイフを、リドネルには剣を、おっとりしたタリクには、槍の他に弓も試してみろと言っていました。

マノンにも、短剣の他に短弓を試すように奨めています。

そして、僕には、ナイフを奨めてきました。

「ケント、お前さんは生き残る術は心得ているが、体格的に戦いに向いてなさそうだ、戦うとすれば、相手の一瞬の隙をついて、致命的な一撃を入れられるような戦い方が向いてるな」

うーん……これって褒められてるんでしょうか、なんだか卑怯と言うか、セコい戦い振りしか頭に浮かばないですよね。

全員にお奨めの武器を教えた後は、何故だか木剣を握っての打ち込みの練習をする事になりました。

あれ? お奨めの武器ってなんだったのでしょう。

「実際に使うのに向いている武器を奨めたが、相手の動きが分からなければ、戦いにならない。 まずは、基本的な剣の動きを知り、対処する土台を作る」

なるほど、基本は剣の動きなんですね……てか、木剣も結構重いっすよ。

「よし、まずは正面への打ち込み百回、始めろ!」

「はい! 一、二、三、四……」

いやっ、これ百回って、キツくないっすかね。

「おらっ、ケント! しっかり振れ! もっと大きく、もっと鋭く!」

「は、はいぃ!」

時間にすれば、三分程度のはずですが、もっと長く感じたし、もう汗だくですよ。

「よし、次は右上からの振り下ろしと、左下からの振り上げ、百回ずつ、始めろ!」

「はぃぃ!」

右から袈裟懸けに振り下ろした木剣を、足を踏み替えながら左から逆袈裟に振り上げる。

もう腕がプルプルの上に、今度は捻りも加わって、キツさ増し増しです。

終わった時には、全員ヘトヘトの汗ドロドロですよ。

「よーし、よく頑張ったな、次は左上からの振り下ろし、右下から振り上げ、百回ずつ……」

「えぇぇぇ……」

「なんだ、何か文句でもあんのか? 始めろ!」

「はひぃぃぃ!」

この後に、更に左右からの横薙ぎを百回ずつ振らされて、全部終わった時には、全員が訓練場に倒れ込みました。

あぁ、訓練場にいる先輩冒険者さん達の、生暖かい視線が痛いっす。

「ふん、この程度でへばってるようじゃ、魔の森やダンジョンに入るなんか、夢のまた夢だ。 いいか、この素振りが平然と出来るようになったら、今度は水の曜日の講習を受けろ。 そこで出された課題をクリアしたら、次は風の曜日の講習。 そうやって一週間の講習を受け終わるまでは、ダンジョンに一人で立ち入るのは禁止だ、分かったな!」

「は、はい……」

「よし、今日の講習は、これまでだ、解散!」

「はい……ありがとう、ございました……」

いや、解散と言われても、まず起きられないんですよね。

仕方ないっすね、ここは自己治癒しちゃいますかね。

「うぎぃ……ふぐぅぅ……はぁ、はぁ、ふぅ……よっと」

僕が自己治癒ストレッチをして起き上がると、他のみんなも起き上がり始めましたね。

てか。ドノバンさんに観察されてるじゃないっすか、拙い拙い、もうちょっと痛い振りしておかないと……。

「ケント、その変わった動きはなんだ?」

「え、えっと……これは、筋肉を伸ばす体操で、激しく身体を動かした後は、こう筋肉を伸ばしておくと、明日の辛さが違うんですよ」

「ほぅ、そんな事、どこで習った?」

「はい、以前治癒士の助手と言うか、雑用をやってた時に教えてもらいました」

あっ、何時の間にか、みんなが僕の動きを真似てますね。

何だか、ハズいですけど、みんなの為にも、ストレッチの動きをしますかね。

と言っても、テレビとかで見た、うろ覚えの知識でしかないですけどね。

「おい、お前ら、どんな感じだ?」

「はい、なんて言うか、固まってたのが解れる感じです」

「うん、最初は痛いんだけど、伸ばしているうちに楽になってくる気がする」

リドネルにも、マノンにも好評のようですね。

って、ドノバンさんもやるんかい!

「ふむ、なるほど、こいつは良いな、ふむ、ケント、特別にその木剣を貸してやるから、来週の水の曜日の講習に間に合うように、素振りが出来るようになっておけ」

「うぇぇぇ……一週間でですか?」

「なんだ、何か文句があるのか?」

「い、いえ、ありません……」

「それじゃあ、来週の水の曜日の講習には、俺が申し込んでおいてやる、必ず出ろよ」

「は、はい……」

「がぁはっはっはっはっ……」

ドノバンさんは、僕の肩をバシバシと叩いた後で、みんなの木剣は回収して帰って行きました。

「てかさ、みんなも来週の講習出るよね? ね? ね?」

「い、いやぁ……俺らは、ちょっと……」

「う、うん、僕は、来週はちょっと用事が……」

「えぇぇぇ、冷たくない、リドネル、マノン、ねぇ、みんなで頑張ろうよ、ねぇ」

「いやぁ……頑張れ、ケント」

「うん、頑張って……」

「えぇぇぇぇぇ!」

おかしいです、軽い気持ちで受けた講習だったのに、何で? どうして?

『ケント様、大丈夫ですぞ、ワシらがみっちり……』

『えぇぇぇ……』

拙いです、魔の森よりもピンチな気がします。