軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

野営地から見た景色

※今回は達也目線の話になります。

昨日、ラストックを出発して魔の森を抜ける街道を進み、国分が作った野営地で一泊。

順調に進めば今日の夕方にはヴォルザードに帰れるはずだった。

夜明けと共に野営地を出発して、そろそろ昼休憩する野営地が見えてくる頃だと思っていたら、その野営地の方向から鐘が打ち鳴らされるのが聞こえてきた。

カン、カン、カン……カン、カン、カン……カン、カン、カン……

「こちら近藤、この鐘は緊急だ。全員最大限の警戒!」

「古田、了解!」

「新田、了解!」

「鷹山、了解!」

「新田、少しペースを上げると伝えてくれ!」

「了解!」

まだ何が起こっているのか分からないが、場所が場所だけに、魔物が絡んでいるのは間違いないだろう。

伝え聞いた話によれば、魔の森をずーっと南に行った先の大陸に、ドラゴンが飛来して住み着いたらしい。

その影響を見極めるために、暫く魔の森の通行が禁止され、その後は護衛の最低レベルをBランクに引き上げて通行が許可された。

そのせいで、Cランクの俺たちはラストックで足止めを食らう形になって、ようやく昨日出発できたばかりだ。

速度を上げた馬車の荷台の後ろから、身を乗り出すようにして周囲の様子を探る。

土属性の俺は、この状態では身体強化して目で見ることしか出来ない。

魔の森を抜ける街道は、道の両側が切り拓かれて見通しが良くなっているが、その先は深い森が続いていて遠くまでは見通せない。

もどかしさに耐えきれなくなって、風属性魔術で探知が可能なジョーに尋ねてしまった。

「こちら古田、ジョー、周囲の魔物は増えているのか?」

「こちら近藤、探知魔術を使っているが、近くに魔物の反応は無いぞ」

「どうなってんだよ!」

「分からないけど、もうすぐ野営地だから、そこで情報を集めよう」

「了解!」

鐘の音は、相変わらず同じ調子で続いている。

この叩き方は、街に居る時ならば魔物の大量発生が起きた時か、危険な魔物が接近した場合に鳴らされる叩き方だ。

俺たちは、過去に魔物の大量発生を経験している。

経験しているが、それはヴォルザードの頑丈な城壁の中に居る時だ。

その中で、一番鮮明に覚えているのは、ゴブリンの極大発生だ。

何万、何十万というゴブリンが地を覆い尽くさんばかりの勢いで押し寄せて来たのだ。

しかも、ラストックを脱出した同級生たちの馬車が、ゴブリンの波に飲み込まれそうになりながら逃げて来たのだ。

国分と眷属が奮闘し、俺たちも援護してギリギリ城壁の中へと逃げ込めたが、あれは上から見ていても心臓が痛くなるほど怖ろしかった。

自分たちの居る場所はまだ安全だったが、同級生たちが今にもゴブリンどもの餌食になりそうだったのだ。

あとで馬車に乗っていたサッカー部の友人から話を聞いたが、生きた心地がしなかったとガタガタと震えていた。

そして今度は、俺たちが馬車で逃げる立場に置かれてしまっている。

「野営地が見えたぞ!」

御者台からオーランド商店のエウリコさんが叫んだ。

鐘の音は更に大きく、ハッキリと聞こえるようになっている。

ただし、相変わらず魔物の姿は見えない。

そのままオーランド商店の馬車は、魔物に襲われることもなく野営地へ辿り着いた。

この野営地は、ヴォルザードから馬車で半日の距離にある。

魔の森の中央にある野営地を夜明けに出立した馬車は、ここで昼の休憩をしてから出立すれば、夕方にはヴォルザードに到着できるのだ。

天候が急変したり、馬や馬車にトラブルが発生した場合など、魔の森を抜ける途中でアクシデントが起こった場合に逃げ込めるように整備されたそうだ。

野営地の入口では、ヴォルザードの守備隊員が声を張り上げていた。

「魔物の大量発生が起こるかもしれん! 入口近くで止まるな! 奥から詰めて馬車を停めろ!」

普段は、何処に停めようが、他人の迷惑にならなければオッケーなのだが、今日は奥へ奥へと誘導された。

なるべく多くの馬車を受け入れるつもりなのだろう。

「馬車には最低限の護衛を残して、手の空いた者は防衛に手を貸してくれ!」

馬車を誘導している守備隊員は、この野営地に立て籠もり、魔物の大量発生をやり過ごす作戦への協力を求めてきた。

馬車を停めた後、エウリコさんと相談して、俺たちは野営地の防衛に力を貸すことになった。

オーランド商店で御者を務めているエウリコさんとピぺとさんは、二人とも元冒険者だ。

年齢を重ねて、現役だった頃のような戦い方は出来なくても、荷物の番程度はこなすと息巻いていた。

「よし、野営地の防衛に力を貸す前に確認しておく、トランシーバーは置いていくから、はぐれないように固まって行動しよう」

実際、野営地の中はパニックこそ起こっていないものの、混乱し、殺気立っている。

とりあえず、俺たちは城壁の上り口へと向かった。

城壁に上る階段の下では、守備隊員が大きな紙を広げて、協力を申し出た冒険者のランクを確認し、持ち場を割り振って、名前を書き込んでいた。

俺たちは、南西の角の近くへ割り振られた。

携帯食料を受け取って、城壁上の持ち場へと移動した。

「凄ぇな、何だこれ……」

一番先に上った鷹山が、呆れたように感想を口にした。

城壁の上は回廊になっているのだが、ヴォルザードの城壁に比べると、足下は真っ平……だけどツルツル滑る感覚は全く無い。

その精度の高さは、呆れる程に高い。

守備隊に割り振られた場所に到着し、城壁の上から魔の森を眺めてみた。

相変わらず鐘は打ち鳴らされているが、森の方は気持ちが悪いぐらい静まり返っている。

「ジョー、魔物の反応は?」

「少なくとも、この野営地の周囲二百メートルには無いな」

「本当に大量発生なんて起こっているのか?」

鷹山が疑問を口にした直後だった。

「ウオォォォォォ……ウオォォォォォ……」

「ウォフ! ウォフ! ウォフ! ウォフ!」

ビリビリと大気が振動するような咆哮が魔の森の中から響き渡って来た。

城壁の上に居た冒険者たちは、咆哮が聞こえてきた南側へ厳しい視線を向けていた。

「マジか……ギガウルフの群れとか、終わってんだろう」

誰とも知れぬ声には、絶望の響きが混じっている。

この野営地の城壁は、ヴォルザードよりは低いが、それでも七、八メートルの高さがある。

ゴブリンやオークなら、登って来ようとする所を叩き落とせば良いが、ギガウルフは勢いを付けて飛び越えてしまう。

土属性の俺では、何の抑止力にもなれない。

「ジョー、ギガウルフが相手なら、俺は役に立たないぞ」

「そっちは、俺たちが相手するから、他の魔物を頼む」

「てか、三人だけで抑えきれるのか?」

「さぁ……ちょっとヤバいかもな」

ギガウルフの咆哮は、一ヶ所だけでなく魔の森全体から響いてくる。

いったい何頭のギガウルフが居て、そのうちの何頭が襲ってくるのか。

誰も口にはしないが、俺たちだけでなく城壁の上に陣取った冒険者は、全員が死を覚悟したような顔をしている。

「ちくしょう……死ぬ前に一人ぐらい彼女が欲しかったぜ」

「馬鹿言うな、俺はリカルダを残して死ぬつもりは無いぞ。最後まで足掻いてやる」

「俺だってシーリアとリリサを残して死ぬ気は無い!」

「俺も可愛いヒメアのために足掻くぞ!」

ジョーたちの言葉を聞いて、回りにいた冒険者たちも死なない宣言を始めた時だった。

ズドーン……ズドーン……ズドーン……ズドーン……

魔の森を抜ける街道に平行するように、爆発音と共に土煙が上がっていく。

良く見ると、空から何か降ってきているよだ。

「ジョー、あれって……国分の仕業だよな?」

「だとしたら、さっきのギガウルフの遠吠えは、国分の眷属か?」

悲壮な面持ちだったジョーたちの表情が緩む。

「いや、安心するのは早いな。国分だって、全部を止めるのは簡単じゃないはずだ」

ジョーの一言で、俺たちは気合いを入れ直したが、結局いくら待っても魔物の群れが野営地に押し寄せることは無かった。