作品タイトル不明
帰路の明暗
※今回は古田達也目線の話になります。
ようやく魔の森を抜ける街道の護衛の最低ランクが、以前と同じCランクに戻った。
これで俺たちもヴォルザードに戻れる。
オーランド商店の二台の馬車に、一台目の御者台にジョー、荷台に俺。
二台目の馬車の御者台に和樹、荷台に鷹山のいつもの体制でラストックを出発した。
順調に進めば、明日の夕方にはヴォルザードに到着できる予定だ。
「こちらジョー、前方には魔物の気配無し。鷹山、後ろはどうだ?」
「問題無い、どーぞ」
「異変は無いという話だが、気を抜かずに行こう、以上」
「古田、了解」
「新田、了解」
「鷹山、了解」
ドラゴンが飛来した……なんて話を聞いていたから、魔の森にも影響が出ているのかと思いきや、相変わらず平和な状況が続いている。
ただし、これが以前から続いている平和な状況なのか、それとも大きな混乱が起こった後で、それが解決された状態なのかは分からない。
そもそも、今俺たちがいる場所は、かつては腕利きのベテラン冒険者が命懸けで通っていた場所だ。
護衛の最低ランクはBランクだったそうだが、実質はAランクの命知らずしか護衛の依頼なんか受けなかった場所だ。
実際、俺たちが初めて通った時だって、オークの群れやギガウルフの群れに囲まれて、国分が居なかったら魔物の餌にされていたはずだ。
今、俺たちがともすれば気を抜いてしまいそうなほど安全になっているのは、全部国分とその眷属たちのおかげだ。
これを自分たちの実力なんて勘違いするようでは、Bランクなんて夢のまた夢なのだろう。
ジョーは、さっきみたいに定時の報告を入れて、俺たちが気を緩めないように気を使っているのだろうが、声の調子がいつもとは違い、ヴォルザードに戻れる喜びを隠しきれていない。
昨日、護衛ランクがCランクに戻されて、ヴォルザードに帰れると聞いた直後、ジョー、和樹、鷹山の三人は躍り上がって喜んだ。
俺も一応は喜んだが、三人とは明らかに喜びの度合いが違っていた。
自分でも捻くれているとは思うが、待っていてくれる女が居るのと居ないのとでは、これほどまでに違いがあるのだ。
三人とも、ヴォルザードに帰ったら……と嬉しそうに話をしていたが、正直俺には何の予定も無い。
強いて言うなら、娼館で散財してくるぐらいだろう。
金が勿体ないとか、女を金で買うのは倫理観がどうとか、空しいだけだろう……など、色々と思うところはあるのだが、溜まりに溜まった欲望を自分だけでは処理しきれないのだ。
周囲が幸せオーラ全開の中で、一人だけ欲求不満を溜め込み続けていたら、それこそいつか性犯罪者になってしまいかねない。
性犯罪に対する法的な罰則は日本に比べると甘いらしいが、社会的な評判の落ち込み方は日本よりも遥かに厳しい。
日本の場合、何か不祥事を起こしたらネット上でフルボッコにされて、世界中に晒される。
ヴォルザードにはインターネットもSNSも存在していないから、世界中に晒されることはない。
こう言うと、日本の方が社会的な制裁は厳しいように思うかもしれないが、実際には逆なのだ。
日本はネット上では叩かれるが、現実社会での繋がりが気迫だから、所属しているコミュニティーを離れてしまえば、リアルでの影響は限定的だ。
ところがヴォルザードでは、ネットが存在しない代わりに、口コミの噂が強い影響力を持つ。
この口コミって奴が馬鹿にならなくて、性犯罪なんて犯そうものなら、ヴォルザード中に悪名が広がり、道を歩けば後ろ指を刺されることになる。
当然、冒険者としての仕事にも大きな負の影響を及ぼすことになる。
金を払った娼館で張り切り過ぎて出入り禁止を食らっても、見知らぬ無辜の少女を凌辱した……なんて噂を立てられるよりは遥かにマシなのだ。
夕方、魔の森の中央にある野営地に到着した俺たちは、二人組に分かれて、片方が馬車の護衛、もう片方は情報収集に向かった。
情報収集なんて言うと格好良いが、要するにヴォルザードからラストックへ向かう連中から噂話を仕入れるだけだ。
世間の評価が口コミの噂で決まるように、こちらの世界では新しい情報も噂に頼るしかない。
当然、噂話には尾鰭が付くのが当たり前なので、話半分に聞きながらも重要な情報を聞き逃さない能力が求められる。
今回、俺と鷹山が護衛に残り、ジョーと和樹が情報収集を担当した。
二人は別々の場所を巡って噂話を集めて来たのだが、大きな話題は二つだった。
一つは、飛来したドラゴンに関する情報で、それによると南の大陸でドラゴンが王国を築いているらしい。
ドラゴンは着々と南の大陸の魔物を傘下に収め、支配地域を広げているそうだ。
今は平和な魔の森も、ドラゴンの出方次第では、以前よりも危険な場所になるかもしれないので、今のうちに交易で稼いでおくべきなんだとか……。
というか、ドラゴンが南の大陸でやってることを、一体誰が見てきたと言うのだろう。
そんな芸当が可能なのは国分と眷属だけだろう。
ということで、ドラゴンに関する情報は、国分に直接確認することで落ち着いた。
もう一つの噂は、マールブルグに出現したダンジョンに関するものだ。
「魔剣がドロップするらしいぜ」
和樹の仕入れてきた噂は、聞いた瞬間にガセだと直感するものだった。
「ドロップって、ゲームでもあるまいし、倒した魔物が消えて宝物で出て来るって言うのかよ、有り得ねぇだろ」
「いや、マジらしいぞ、達也」
「はぁ? ジョーまでそんな話を信じてんのかよ」
日本に居た頃に熱中したゲームのダンジョンでは、魔物を倒すと経験値を稼げて、魔石やアイテムがドロップする仕組みになっていた。
だが、ヴォルザードにあるダンジョンでは、魔物は倒しても魔物の死骸になるだけで、自分で魔石や素材の剥ぎ取りをする必要があると聞いている。
ところが、マールブルグに出現したダンジョンでは、魔物を倒すと解体しなくてもゲームのように素材とアイテムに変化するらしい。
「嘘くせぇ……ガセじゃねぇの?」
「でも、実際に魔剣のたぐいが持ち込まれているらしいぞ」
「魔剣とか言っても、大した物じゃないんだろう?」
「分からないが、確かめてみる価値はあるんじゃないか?」
普段なら、この手の噂は疑ってかかるジョーが、珍しく興味を引かれているようだ。
「でもよぉ、ジョーなんか魔法をメインで戦うんだから、魔剣とか必要無くね?」
「いや、そうでもないし、達也なんかは持っておいた方が良いんじゃねぇの?」
ジョーいわく、普段の戦いでは魔法で圧倒できる環境を整えることに力を注いでいるそうだ。
ただ、その環境が崩れて、格上の相手と接近戦で戦うことになった場合、手にする剣が強い威力を発揮できれば、生き残る確率が高くなる。
「なるほど、万が一の時の奥の手ってやつか」
「そういうことなんだけど……実際の魔剣がどんな物なのか分からないと、手に入れるべきか否か判断できないな」
今回、ラストックに足止めを食らったことで、俺たち全員がランクアップの方法を模索している。
確かに魔剣が強力な武器だったら、俺たちの戦力アップの助けとなるだろう。
「で、どうするの? マールブルグまで行ってみる?」
「いや、それはまだ先の話だ。もっと噂を集めて、それから鷹山のリリサ、シーリア欠乏症が治ってからだ」
「確かに……」
その鷹山は、ラストックで足止めされて以後、食事の前には必ずヴォルザードの方角へ向かってお祈りするようになっている。
それ、どこの宗教だよって訊ねたら、真顔でリリサ教だと返されてドン引きしてしまった。
「ダンジョンか……噂の真偽は別にして、一階ぐらいは潜ってみたいよな」
「俺も和樹の意見には賛成だが、安全を確保した上でだ」
「かぁ、ジョーは相変わらず固いねぇ。ジョーがカチカチで喜ぶのはリカルダだけだろう」
「だな……」
「お前らなぁ……」
「いやいや、逆に激しすぎて喜ばないかもよ」
「あぁ、八発様だもんな」
「いい加減にしとけよ……まぁ、帰ったら思いっきりするけど」
「加減しろ! じゃないと録音して聞かせるぞ! まぁ、俺もヒメアは誘うけど……」
あぁ、なんだろう急に世の中の色彩が失われていく気がする。
いっそ、ソロでダンジョンに潜ってやろうかな。