作品タイトル不明
国王からの情報
『ケント様、魔剣などの武具を落とすダンジョンならば、以前にも遭遇しておりますぞ』
「えっ? あったっけ?」
『アーブル・カルヴァインがレイスとなってワーウルフを操り、カルヴァイン領の鉱山がダンジョンになったではありませぬか』
「あっ、そうだった! あれっ、何で忘れてたんだ?」
『キリア民国でギガース退治に奔走していたからでしょうな』
「あぁ、そんな事もあったねぇ……」
そう言えば、確かにラインハルトから魔剣のダンジョンの話を聞いて、それを確かめに行く前にダンジョンからギガースが現れたキリア民国に行っちゃったんでした。
倒したギガースの魔石をオークションに出したりしている間に、今度はイロスーン大森林を抜ける街道で馬車が消える騒動に関わったり、その黒幕の始末をしたりしてたんですよね。
そう言えば、領地の金を使い込んだ領主の馬鹿息子はどうしてるんでしょうかね。
「それで、元カルヴァイン領の魔剣のダンジョンはどうなったの?」
『さて……ワシもケント様と一緒に動き回っておりましたので……』
「だよねぇ、確かリーゼンブルグの騎士団がマッピングを進めていたはずだけど……ディートヘルムに聞いてみるか」
こんな事に一国の国王を使うのは申し訳ないですが、一番確実に情報を持っているでしょうし、ディートヘルムが駄目でも宰相は把握しているはずです。
と言う訳で、リーゼンブルグの王都アルダロスへ、リーゼルトを目印にして移動しました。
移動した先、ディートヘルムは執務中かと思いきや、書類のような物が山積みになった机に向かって頭を抱えた状態で、リーゼルトにポフポフと背中を叩かれて、慰められているようです。
「これ、どんな状況なんだろう?」
『さて……あぁ、ケント様、これは釣書きですな』
「釣書き?」
『縁談相手の人となりが書かれたものです』
「あぁ……なるほど」
確かに良く見ると、姿絵が添えられているようです。
言ってみれば、見合い写真のようなものなのでしょう。
「というか……凄い美人じゃない? まぁ、国王様の相手だから当然なんだろうけど……」
『ケント様、姿絵を鵜呑みしたら、とんでもない目に遭いますぞ』
「それって、実物よりも少し良く書かれているってこと?」
『少しの範囲で収まるならば、まだ良心的ですな』
「お、おぅ……そういう物なんだね」
ここは一つ、義理の兄として気分転換の相手でもしてやりますかね。
「ディートヘルム、入っても良いかな?」
「その声は、ケント義兄様、どうぞどうぞ」
一声掛けてから、闇の盾を出してディートヘルムの執務室へと足を踏み入れました。
すかさず駆け寄ってきたリーゼルトをわしゃわしゃ撫でながら、釣書きの一冊を手に取りました。
「なかなかの美人だし、スタイルも良さそうだね」
「ケント義兄様、それは嫌味ですか?」
「ごめん、ごめん、そんなに実物と懸け離れているの?」
「釣書きに目を通して、顔も名前も覚えた気で茶会を開くと、誰が誰だか分からない有様ですよ」
「えぇぇ……釣書き意味無いじゃん」
「まったくです」
一国の国王がいつまでも独身では他国に侮られてしまうと、宰相からお妃候補を選ぶように言われているそうです。
「リーゼンブルグ国内から選ばないといけないの?」
「御存じの通りリーゼンブルグは、父と三人の兄が相次いで亡くなり、アーブル・カルヴァインの暗躍によって大きく傾いた国です。国を安定させるためにも、国内の貴族から第一王妃を選ぶように宰相からは言われております」
「なるほどねぇ……」
王族に生まれついても、恵まれた生活なんて送ってこなかったディートヘルムが、パートナー選びでも我慢を強いられるのは少々可哀そうな気がします。
「まぁ、苦楽を共にするパートナーなんだし、納得した相手と結婚した方が良いよ」
「ですが、ケント義兄様も少なからず政治的な影響があったのではありませんか?」
「うーん……確かに、ベアトリーチェやセラフィマ、それにカミラとの出会いは政治的な絡みという側面があったけど、結婚したのは互いに惹かれ合ったからだよ」
「そうですか……私にも、そんな相手が見つかるでしょうか?」
いやいや、君にはマグダロスという運命の人が……と言い掛けたけど、止めておきました。
というか、ディートヘルムは女性を愛せるんでしょうかね。
「まぁ、こればかりは相性だと思うし、まずは会って言葉を交わしてみないと、見つかるものも見つからないんじゃない?」
「そうですね。釣書きに惑わされず、実際に会って自分の目で確かめてみます」
「そうだね、それが良いと思うよ」
「ところで、ケント義兄様は何の用事で見えられたのですか?」
「あっ、そうだった……カルヴァイン領の坑道が、魔剣などが見つかるダンジョンになったよね。あれって、どうなってるの?」
「あぁ、呪われたダンジョンですね。封鎖いたしました」
「えっ、封鎖したの?」
「はい、魔剣の呪いに操られて、なんの罪も無い人たちが殺される案件が続きまして、危険すぎると判断して封鎖いたしました」
切れ味鋭い魔剣の性能に惚れこんで、ダンジョンでの活動に用いていた者たちが、突如として正気を失って、仲間や友人、家族、見知らぬ通行人などに手当たり次第で斬り付けたらしい。
そうした事案が一件だけでなく、さして日が経たぬうちに、数件相次いだそうだ。
「それは、ある日突然おかしくなっていたの?」
「そうです、おかしくなる以前は、性能の良い武器として探索の助けとなっていたそうですが、突然性格が豹変して、誰彼構わず襲い掛かっていたらしいです」
呪われてしまった人は、武器を取り上げるか、武器を破壊しないと正気に戻らなかったそうです。
「その呪われた武器って、光属性魔法で浄化すれば呪いは解除されるんじゃないの?」
「おっしゃる通りです。光属性魔法で浄化できるのですが、浄化すると魔剣の力も失われてしまうのです」
「ただの武器に戻っちゃうんだ」
「いいえ、力を失った魔武具は、その殆どが壊れてしまいます」
「なにそれ、呪いによって形を保っていたってこと?」
「その通りです。ただ、王家の文献には、魔力の高い者であれば、魔剣などの呪いの武器を従えることが出来たそうです」
「なるほど、呪いよりも高い魔力の持ち主ならば、精神を乗っ取られたりしないで済むのか」
呪いの武器との力比べとか、ちょっとワクワクしちゃいますね。
「ですが、それはリスクが大きすぎます。もし、組織の中で一番魔力の高い人間が、魔剣を従わせようと試みて、逆に飲み込まれてしまった場合、呪いから解放するのが困難になります」
「それは……確かに怖いね」
もし、ラインハルトが魔剣に飲み込まれてしまったら、呪いから解放するのは命懸けの作業となるでしょう。
「魔剣とか、魔槍とかは、全部そんな感じなのかな?」
「分かりません、リーゼンブルグでも詳しい調査は行っていませんので、もしかしたら安全な魔剣もあるのかもしれませんが……いや、やはり呪われた時の事を考えると、活用するのは危険でしょう」
リーゼンブルグでは、魔剣のダンジョンとなった坑道が、新しい鉱山に向かう道の途中にあるため、今後の安全を考えて意図的に崩落させて封鎖したそうです。
「ケント義兄様、ヴォルザードのダンジョンから魔剣が出たのですか?」
「ううん、ヴォルザードではなく、隣の領地のマールブルグの鉱山がダンジョン化して、そこから魔剣が出るようになったんだ」
「そうですか、そこは封鎖しないですか?」
「今のところはね。ただ魔剣の取り扱いには注意をするように、これからマールブルグの領主様に伝えに行ってくるよ」
「そうですね、その方が良いと思います」
「色々ありがとう、とても参考になったよ」
「こちらこそ、少し気が楽になりました」
ディートヘルムの縁談が上手くいくことを願いつつ、マールブルグの領主の館を目指しました。