作品タイトル不明
魔剣
「魔剣のダンジョンですか?」
ドラゴンの様子を定時連絡するために訪れた執務室で、クラウスさんから中二病が爆発しそうなパワーワードを聞かされました。
「魔武具のダンジョンと言う方が正しいのだろうが、潜る奴の目的は八割がた魔剣になるだろうな」
「魔剣って見たことが無いんですけど、どういう物を指すんですか?」
「厳密な規定は無いんだが、魔力を通すことで通常とは違った切れ味になったりする剣を魔剣と呼ぶ感じだな」
先日マールブルグに出現したダンジョンは、既に先行調査が行われた後、一般の冒険者にも開放されているそうです。
「魔剣のダンジョンっていうと、ダンジョンのどこかに剣が落ちているんですか?」
「いいや、魔物を倒すと現れるそうだ」
「現れる?」
「あぁ、倒した魔物の死骸は消えて、その後に魔石やら素材やらが現れ、そこにナイフや剣が一緒に落ちているらしい」
「それって、魔物は解体していないんですよね?」
「そうだ、勝手に有用な部分だけを残して消えるらしい」
それって、まんまゲームなどのダンジョンと同じじゃないですか。
ヴォルザードのダンジョンでは、倒した魔物の死骸は消えず、ダンジョンの掃除屋などと呼ばれているスカベンジャー(見るのもおぞましい巨大G)が食べて分解しています。
それに比べると、スマートな印象を持ちますけど、どういう仕組みになっているんでしょうかね。
「もう、何本も魔剣が見つかっているんですか?」
「いいや、まだ数えるほどしか見つかっていないそうだ」
その見つかった魔剣も、ナイフ程度の物から短刀サイズまでで、両手でないと持ち上がらないような大剣などは見つかっていないそうです。
「ダンジョンに挑む冒険者をマールブルグに取られちゃうんじゃないですか?」
「確かに、その心配は無い訳じゃないが、世の中ってのは、そんなに簡単なものじゃねぇんだよ」
「と言いますと?」
「まず、魔剣の価値が定まっていない」
「あぁ、どのぐらいの値段で取引されるか分からないと、ダンジョンに挑む危険度と釣り合うか分からないですもんね」
「そういう事だ、魔剣と言っても色々だと言ったよな?」
「はい、切れ味が良くなったり、魔術を付与出来たりするんですよね?」
「そうだが、問題は実用性だ」
「実用性って、切れ味良くなるなら実用性も上がるんじゃないですか?」
「確かにそうだが、実際に剣を振るって戦うことを想像してみろ。いくら切れる剣だろうと、魔物に近付かないと届かないだろう」
「あっ、確かに……」
魔剣と呼ばれる剣の中には、硬いロックオーガでさえも軽々と切り裂けるものもあるらしい。
だが、いくら凄い切れ味の剣であっても、刃が届く範囲まで接近しないと役には立たないのだ。
「ケント、お前、ギルドの初心者講習を受けたよな?」
「はい、ドノバンさんがおっかなくて、とんでもない場所に来ちゃったと思いました」
「ふははは、だが、その時に言われただろう、凄い武器を手に入れても強くなったなんて錯覚するなって」
「はい、使いこなせる武器を手に入れて、使いこなすための鍛錬をしろって言われました」
「それと同じだ、魔剣を手に入れたところで、飛躍的に強くなれる訳じゃない。技量が追い付かなければ、ゴブリンにやられて命を落とす可能性だってある」
「そう言われてみると、魔剣って微妙なんですね」
武器としての価値は間違いなくあるが、その価値を十全に発揮させるためには、使い手の技量も要求されるという訳です。
「しかも、今のところは短刀サイズまでしか出ていない。メインの武器にするには心もとない状態だ。この先、長剣サイズのものが出るようなったとして、数が増えれば価値も下がる」
「なるほど、価値が下がれば、わざわざ魔剣のためにダンジョンに挑む人も減るってことですね?」
「そういう事だ。今もヴォルザードのダンジョンに挑む者が後を絶たないのは、出て来る宝石の価値が高いからだ。一発当てれば数年暮らせるって聞けば、挑みたくなるだろう?」
「まぁ、確かに宝石の原石とかは掘り当ててみたいと思いますね」
というか、実際にヴォルザードのダンジョンに挑もうと思えば、僕は荒稼ぎが出来る条件が整っています。
影移動でダンジョンのどこにでも入っていけますし、土属性の魔法が使えるコボルト隊を動員すれば、宝石探しも出来てしまうのです。
僕がダンジョンに挑まないのは、他の冒険者の稼ぎを奪わないためなんですよねぇ。
「まぁ、魔剣の物珍しさも手伝って、一時的にはマールブルグのダンジョンに挑む連中は増えるだろう。だが、そうなるとヴォルザードのダンジョンから出る宝石の量が減って値段が上がる」
「そうなると、一獲千金を夢見て、またヴォルザードのダンジョンに戻って来るって訳ですね?」
「そういう事だ、マールブルグもダンジョンから魔物が溢れて被害が出たみたいだし、少しぐらいは儲けさせてやっても罰は当たらないだろう」
クラウスさんとしては、マールブルグのダンジョンについては静観するつもりみたいです。
「魔剣かぁ……どんな感じなんだろう」
「お前には必要無いだろう」
「そうかもしれませんが、聞いてしまうと興味が湧くじゃないですか」
「まぁな、手っ取り早く強くなったみたいな気にもなれるしな」
「そうですよ、火属性の魔術を付与した炎の魔剣とか、なんかワクワクするじゃないですか」
「炎の魔剣なぁ……ケントぐらい魔力に余裕があるなら使えるかもな」
「あっ、そうか、剣に魔術を付与するにも魔力が必要になるんだ」
剣にただ炎をまとわせただけでは、特別に強くなれる訳じゃありません。
本当に炎の魔剣としての効果を出したいなら、炎を収束させて、しかも温度も高める必要が有りそうです。
そうなると、火の魔術を付与するだけでも相当な魔力を使わなければいけなくなりそうです。
「振っただけで炎が噴き出したり、風の刃が飛ぶような魔剣とか無いんですか?」
「そんな便利な魔剣は聞いたことが無いな。いずれにしても、武器に頼りすぎるのは三流だ。それに、魔剣の中には呪われるものもあるらしい」
「呪い……ですか?」
「あぁ、それが本当に呪いなのかどうかは分からんが、異様な切れ味の武器を手にして、その武器が肉も骨も紙でも切る様に断ち切り、魔物の命を容易く奪う……その切れ味に取り憑かれ、魔剣を振るわずにいられなくなる」
「過去に、魔剣の呪いで事件を起こした人がいるんですか?」
「いるぞ……というか魔剣を使って事件を起こしたから、呪われたなんて言われるようになったんだろうな」
どうやら現実主義のクラウスさんは、呪いの存在は信じていないようです。
「じゃあ、魔剣が多く出回るようになったら、事件を起こす人が出て来るかもしれないんですね?」
「というか、程度の差はあれども、必ず騒ぎは起こる」
「えっ、間違いなく起こるんですか?」
「起こるだろうな。考えてもみろ、そいつを手にしただけで、強くなったように錯覚しちまうんだぞ。それまでに、鬱屈した思いを抱えているような人間が手にすれば……」
聞いていて、ちょっとゾッとしちゃいましたが、虐げられていた人が力を手にしたら、復讐とかしそうですよね。
「あぁ、確かにそれは事件になりそうですね。でも、どうやって防ぐんですか? 魔剣を禁止にするとか?」
「いいや、魔剣と言えども道具であることに違いはない。あとは使う側の人間の問題だ」
「確かに、その通りですけど、騒ぎが起こると分かっているのに、打つ手が無いのは……」
「まぁ、世の中ってのは、そんなもんだ。そうそう、ジョーは大丈夫だと思うが、タツヤとかカズキには、魔剣に頼っているようじゃランクアップなんて無理だって言っておけよ」
「大丈夫だとは思いますけど、言っておきます」
マールブルグに現れた魔剣のダンジョン、大きな騒ぎにならなきゃ良いのですがねぇ……。