作品タイトル不明
メッセンジャー・ケント
クラウスさんと話をした後、ジョーたちが暮らしているシェアハウスへ向かいました。
「こんにちは」
「あら、ケントさん、いらっしゃい」
出迎えてくれたのは鷹山の嫁シーリアの母親フローチェさんです。
「ご無沙汰してます」
「今日は、どうされたの?」
「えっと、鷹山……シューイチの件でお伺いしました」
「シューイチさんが、どうかしたの?」
そうフローチェさんが口にした直後、リビングの奥からバタバタと忙しない足音が聞こえてきました。
「シューイチ、シューイチがどうかしたんですか!」
飛び出して来たのは鷹山の嫁のシーリアなんですが、リリサちゃんに母乳を与えていた最中だったようで、片乳ポロリの状態でした。
ちゃんと、素早く視線を逸らしましたけど……見ちゃいました。
まぁ、シーリアについては、まだ鷹山がラストックで勇者扱いされていたころに、お風呂で仲良ししていた姿を見ちゃっていますけどね。
今は、ちゃんと入籍もして人妻ですから、目を逸らすのはエチケットですよね。
「ごめんなさい、見苦しいものをお見せしちゃって」
「とんでもない、大変結構な……じゃなくて、こちらこそ思わせぶりな話し方ですみません」
「それで、シューイチは?」
「いや、シューイチに何かあったという訳じゃなくて、ラストックに足止めされているって綿貫さん……サチコから聞いたんで、領主のクラウスさんと話をしてきたんですよ」
「あっ、そうだったんですか、それで……足止めは解除されるのでしょうか?」
「状況が状況だけに、慎重に様子を確認していますが、このまま何もなければ五日ほどで解除になると思います」
飛来したドラゴンを観察している最中で、余程の急ぎでなければ街道の通行は避けるように通達が出されている状況を説明しました。
「それでは、今のところは大きな災害になる心配は無いのですね?」
「そうですね……何事も無ければ、としか言いようがないです」
現状は、ドラゴンの気分次第としか言いようがありません。
もし、ドラゴンの気分が変わって、南の大陸からこちらに飛来すれば、魔物が押し寄せてくる可能性は残されています。
ただ、南の大陸とは陸続きではなくなったので、以前のような大規模な大量発生は起こらないでしょう。
「とりあえず、魔の森を抜ける人々の安全を第一に考えていますので、もう少しの間ですが我慢していて下さい」
「分かりました、わざわざ知らせていただいて、ありがとうございます」
「それで、せっかくですから、皆さんの元気な姿を撮影して、シューイチに見せてやろうと思うんですが……どうでしょう?」
シーリアとフローチェさんは、シューイチやジョーたちと暮らしているので、テレビやインターネットなどについても、なんとなく理解しているようです。
撮影についても、親バカ、バカ親のシューイチが、日本から機材を取り寄せて撮り貯めしているそうです。
なので、母子孫の三世代揃って、ビデオレターを作成しました。
「シューイチ、私たちは元気で暮らしていますから心配しないで。元気に戻って来てくれるのを待っています」
授乳を中断させてしまったので、リリサちゃんはご機嫌斜めでしたが、ビデオレターはジョーも見るだろうと話したら、途端に蕩けるような笑顔に変わりました。
リリサちゃんのジョーへの執着が、ちょっと怖いと感じてしまいました。
「ママ……おっぱい……」
「はいはい、おっぱいね……」
いや、ちょっと……まだ僕が居るのに……シーリアは気にする素振りも見せずに、リリサちゃんにおっぱいを与え始めました。
急いで視線をそらすと、フローチェさんが慌てなくても大丈夫だと言い出した。
「ケントさんのところも母乳で育ててらっしゃるのよね?」
「はい、マノンのお乳の出が良いので、殆ど母乳です」
「殆ど?」
「夜中はマノンに休んでもらって、僕がミルクを与えることが多いですね」
「あら、それではケントさんが寝不足にならない?」
「僕は自己治癒の魔術も使えますし、時々さぼって昼寝もしてますから大丈夫です」
「優しいのねぇ、さすがに五人もお嫁さんを貰う人は違うわね」
「いやぁ、この程度しか出来ていないので、むしろ駄目な旦那だと思いますよ」
リリサちゃんに母乳を与えるシーリアの姿は、聖母を思わせる神々しさを感じます。
その一方で、リリサちゃんはおっぱいを吸いながら、僕に視線を向けてニチャっと笑った気がしたんですよね。
偶然だと思うんだけど、なんだかあの子は怖いだよねぇ。
美味しい思いをさせてやったんだから、ジョーに私の可愛い姿を伝えて来い……みたいに言われている気がします。
シェアハウスからラストックへと影の空間を通って移動して、オーランド商店の支店を訪ねました。
店員さんに名乗って、来訪の目的を伝えると、店の裏手にある宿舎へ案内してくれました。
「おっ、新旧コンビだ」
「国分!」
「お前、良いところに来た!」
「通航制限なら、まだ解除されないよ」
「なんでだよ!」
「この役立たずめ!」
「僕は ま(・) だ(・) って言ったんだけど……延長してもらいたいのかなぁ?」
「失礼しました、国分様」
「お勤めご苦労様です」
この変わり身の早さは、さすが新旧コンビって感じがしますよねぇ。
「今のままなら、あと五日ほどで解除されるから。諦めて、こっちで訓練でもしていなよ」
「いや、そこは骨休めだろう、なっ、達也」
「とは言え、休んでいるのにも飽きたぞ、和樹」
「そうそう、達也が言うように、飽きてるなら訓練して、早くランクを上げなよ」
「お前……そんな簡単に言うけど、普通の人間はランク上げるのは大変なんだぞ」
「そうそう、和樹の言う通り、俺らだってランクを上げたいと思ってるぞ」
「ところで、鷹山は?」
「あぁ、向こうでフテ寝してるぞ」
「鷹山に何か用か?」
「ちょっとね……鷹山、鷹山ぁ?」
新田の指さした方へ歩いていくと、リビングのソファーでフテ寝している鷹山がいた。
「国分か……魔の森はまだ解放されないんだろう、だったら用は無いから帰れ!」
「あれあれぇ、僕にそんな口を利いても良いのかなぁ? シーリアさんとリリサちゃんのビデオレターは見たくないんだ」
「ようこそいらっしゃいました、国分様。ささ、ソファーにお掛け下さい」
「まったく、君らは本当に変わり身早いよねぇ……」
「お褒めいただき、ありがとうございます。それよりも、ビデオレターを早く、とっとと見せやがって下さいませ」
なんだか本音と建て前がグチャグチャになっているけど、可哀そうなので見せてあげましょう。
「うおぉぉぉぉ! シーリアァァァァ! リーリーサァァァァァ! パパでちゅよ、パパは元気にしてまちゅよぉ! もうすぐ帰るから、待っていてねぇ」
食い入るようにタブレットの画面を見詰め、奇声を発するバカ親モンスターと化した鷹山に呆れていると、ジョーが外から戻って来た。
「国分? どうしたんだ?」
「鷹山にビデオレターを届けに来た」
「あぁ、なるほど、それでこの奇声ね」
「ジョーもリカルダのビデオレターが欲しかった?」
「バカ、俺は要らないよ」
ジョーが頬を赤くすると、新旧コンビが割って入ってきた。
「いや、国分、ジョーにもビデオレターを撮ってきてやれ」
「そうそう、ビデオレターは大事だぞ」
「珍しいね、新旧コンビがジョーを応援するなんて」
「誰が応援するなんて言った? ビデオレターと言ったらあれだろう、なっ、和樹」
「うんうん、撮影場所はベッドルームで国分のセリフから始めるんだぞ、『ジョー、見てる? これからリカルダと×××しちゃいまーす!』って感じで、思いっきりやっておしまい!」
「お前ら、ふざけるな!」
ジョーがキレかけてる横で、新旧コンビがおちゃらけて、鷹山はタブレットを見ながら号泣しているし……こいつらがBランクに上がるのは、まだまだ先な気がします。