軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

苦労人ジョー、更に足止めされる

「そんなの納得できる訳ねぇだろう!」

「当然だ、こんな理不尽な決定に従えるもんか!」

近藤が魔の森の通行再開の知らせと、それに伴う通行条件の変更を伝えると、新田と鷹山が声を荒げた。

ラストックを納めているグライスナー家が、魔の森を抜ける街道の通行を再開させるにあたって提示した条件は、実戦経験の豊富なBランク以上の冒険者を護衛に付けるというものだった。

近藤たち四人のギルドランクはCランクで、通達されたBランクには届いていない。

街への出入り、街道の通行許可に関する決まりは厳格で、ランクが元の条件に戻らない限り、近藤たちはオーランド商店の護衛としてヴォルザードに向かうことは許されないのだ。

もし、衛士の制止を振り切って、勝手に魔の森を抜けてヴォルザードに辿り着いたとしても、ヴォルザードで厳しい処分を受けることになる。

それは護衛を引き受けた冒険者に留まらず、護衛されていた馬車に乗っていた者や、馬車の持ち主に対しても罰則が適用される。

冒険者の場合はランク降格や罰金、馬車の客や持ち主には罰金や営業停止の処分が下される。

当然、近藤たちは護衛の依頼を継続できず、このままラストックでの足止めが続くことになる。

鷹山が声を荒げたのは、愛する娘と嫁に会えない時間が続くからだ。

「ジョー、このままだと俺は死ぬ」

「いや、死なねぇよ。この程度で死ぬ訳ないだろう」

「馬鹿を言うな、あと何日リリサやシーリアと会えないのか分からないんだぞ。もうリリサ成分不足で死ぬ寸前なんだよ」

「鷹山、お前の娘に対する愛情ってのは、その程度のものだったのか」

「何だと! いくらジョーでも、今の発言は聞き捨てならんぞ!」

「じゃあ聞くぞ、お前がここで死んだら、娘や嫁はどうなる?」

「それは……」

「お前は娘や嫁を悲しませたいのか?」

「そんな訳ないだろう!」

「だったら生きろ、生きられるよな?」

「当たり前だ、くそぉ、俺は辛くとも生き抜いてやる、生き抜いてやるぞ、リリサ!」

両手の拳を握って涙する鷹山を見て、近藤は心底面倒くせぇと思っていたが、まだ鷹山は扱い易い方だ。

「俺は鷹山みたいに騙されないからな!」

もう一人、面倒な男が残っているのに気付いて、近藤は顔を顰めた。

「新田だって、処分を受ければ、せっかく出来た彼女が悲しむぞ」

「うっ、それは……」

「いいや、悲しんでくれるとは限らないからな」

「どういう意味だよ、達也!」

「和樹が居ない間に他の男と……」

「あぁ、それは無い。なにしろヒメアは俺にぞっこんだからな」

古田が口を挟んで来た時には、頭を抱えそうになったが、新田が自信たっぷりに言い返したのを見て近藤は胸を撫でおろした。

「果たして、本当にそうかな!」

「達也、男の嫉妬は見苦しいぞ」

「そうだな、俺の嫉妬で済んでいるなら良いのだが……今回は天候とかの足止めじゃないから、どこかの男が和樹はドラゴンに襲われて死んだとか嘘をついて騙し、ヒメアが悲しみに暮れたところを慰める振りをしてN・T・R!」

「ば、馬鹿言ってんじゃねぇ、ヒメアがそんな嘘に引っかかる訳ねぇだろう!」

「だと良いけどなぁ……」

古田のニチャっとした言い方に、新田がキレかける。

「この野郎、自分に彼女が居ないからって……」

「そうだよ! 彼女のいない俺は心配する必要なんて無いけど、これから先、お前は心配し続けなきゃいけないんだぞ、和樹! 彼女が居るっていうのは、そういう事なんだぞ! 知らんけど……」

「知らんのかい!」

「知る訳ねぇだろう! 彼女できた事なんか一度もねぇんだからよ!」

新田と古田が睨み合ったところで、近藤が手を叩いて止めた。

「はいはい、やめ、やめ……とにかく、護衛の許可が下りるのがBランクだと、今の俺たちでは無理だからな」

「はぁぁ……」

近藤の言葉を聞いて、残りの三人は溜息を洩らした。

この四人は、ヴォルザードのギルドに所属している同年代の冒険者の中で、国分を除けば出世頭だ。

国分を含めた五人だけが、Cランク以上に昇格していて、他はようやくDランクに上がったぐらいだから、贅沢な悩みとも言える。

「ジョー、帰ったらドノバンさんに、あとどの程度でランクアップできるか聞いてみようぜ」

鷹山の提案に新田と古田も頷いている。

「そうだな……でも、教えてくれるかな?」

「教えてくれなくても、聞くのは自由だろう」

「そうそう、和樹の言う通り、聞くだけ聞こうぜ」

新田と古田も、今の状況には大いに不満を感じている。

同年代では出世している方だが、国分という高い壁がそびえているからだ。

ここで古田が手を挙げた。

「なぁ、最近みんなで訓練とかしてないけど、みんな魔法の練習とかやってんだよな?」

「俺はやってるぞ」

「俺もやってる」

「俺もやってる……一応」

近藤と鷹山は自信ありげだが、新田はあまり自信が無さそうに見える。

「まぁ、和樹は別のことをやるのに夢中だからな」

「うっせぇな、そういう達也はやってんのかよ」

「やってるに決まってんだろう、やる相手が居ないんだからよ」

「さすが達也だな、それで、どんな成果があるんだ?」

「落とし穴の改良版だな」

古田は四人の中では、一番攻撃に向いていない土属性だが、罠を仕掛けるには一番向いている。

「改良版って?」

「遠隔で、地表はそのまま残して、地面の内部を圧縮して落とし穴にするんだ。そんで、圧縮する時に、下に槍を作るようにした」

聞いてた三人は、古田が作る落とし穴を想像して身震いした。

パーティーの中では索敵を担当することが多い近藤ですら、ちょっと引き気味だ。

「達也、それ凶悪すぎるだろう。地表をいじらずに作る落とし穴なんて、見破りようが無いぞ」

「そりゃそうだろう、ジョーに見破られないように……って考えて編み出したんだからな」

「俺に仕掛けるなよな」

「仲間には仕掛けないよ……たぶん」

「たぶんって何だよ、たぶんって」

「いや、和樹の部屋を越えて、俺の部屋まで夜の騒音が届くようになったら、マジで仕掛けるかもしれん」

「ならねぇよ。リカルダがタオルを噛んで自制……って、何を言わせるんだよ」

「ジョー、ほどほどにしないと愛想尽かされるぞ」

「大きなお世話だ、大丈夫だから……って、達也が工夫を重ねているのは分かったけど、俺だって訓練はしてるぞ」

「もしかして、風属性魔法を使った遮音の……」

「違うから、そっから離れてくれ」

近藤は遠隔で使える風属性魔法の種類を増やしているのと、魔力の効率化の取り組みについて話をした。

鷹山も遠隔魔法について取り組んでいて、こちらは座標の正確性を上げる訓練をしていた。

「正確性?」

「あぁ、こんな感じだ」

鷹山は自分の荷物の中から、蝋燭を三本取り出してテーブルの上に立てた。

部屋の隅まで移動すると、パチンっと指を鳴らし、同時に二本の蝋燭に火が灯ったが、一本はわずかに位置がずれて火が着かなかった。

「ちっ、もうちょいなんだがな……」

「なるほど……ピンポイントでの攻撃か」

「いや、違うぞジョー、リリサのお誕生日ケーキの蝋燭に火を灯す練習だ」

「はぁ、感心した俺が馬鹿だったよ」

「なんでだよ。これが出来れば、パパ格好良いって言ってもらえるだろう」

「はいはい、そーですね」

訓練の目的はアレだが、魔法を発動させる場所が正確になれば、攻撃への応用は利きそうだ。

「和樹は?」

「俺は、ようやく遠隔で風の魔法が使えるようになったから、鷹山同様に正確性の訓練は続けている」

「和樹も城壁の上でやってるのか?」

「いや、街の中でやってた」

「街の中? 危なくないのか?」

「いや、まだジョーみたいに出力上げられないからさ……」

同じ風属性の近藤が首を傾げていると、古田が口を挟んだ。

「和樹、その特訓、俺も見学させろ」

「えっ、まぁいいけど……」

「なんなら、今から行くか?」

「今から? まぁ、別に良いけど……」

「よし、行くぞ」

風属性とは関係の無い古田が乗り気になった時点で、近藤は何となく特訓の内容を察した。

「お前ら、官憲に捕まるような真似は止めろよな」

「分かってるって、なっ和樹」

「おぅ、でも、この訓練のことはメヒアには内緒だぞ」

「分かってるって……」

近藤は恋人のリカルダから、ヴォルザードやラストックで暮らす若い女性の間に、地球風の下着が急速に広まっているという話を聞いている。

いわゆるドロワースと呼ばれているようなものから、ぴったりとしたショーツへの変化だ。

和樹が街の中で行っている特訓とは、無詠唱で遠隔の風属性魔法を使ったスカート捲りだった。

近藤は、心の底から呆れつつも、とりあえず魔法の精度が上がるならと、黙認することにした。