軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

(31)到着

こっそりため息を吐いた私は、すぐにお兄様の問題に頭を切り替えました。

「ねえ、アルベス兄様。この機会に、しばらく王都に滞在してお嫁さんを探してみたら?」

「……だから、そんな無駄な金は使えないよ」

「無駄じゃないわ。必要な投資です。今日のお兄様はとても素敵なのよ。舞踏会でしっかり売り込んで、いろいろ交流して、良縁の一つや二つ拾ってきてこその当主でしょ!」

お兄様は何か言おうとしたようです。

でも、私の言葉に反論できませんでした。

当主の務めは領地を守ること。でも同時に、次代に血を繋ぐことも重要な務めなのです。

それを後回しにしていたのは、アルベス兄様のせいではありません。

私が無力だったせいです。

でも、今なら私が動けるし、お金も少し余裕があるし、臨時ではありますが農夫仕事をしてくれる騎士の方々もいます。

あの方々が休暇中の今こそ、なんとかするべきです。

そして、そのために目の前の問題をなんとかしなければなりません。

私は覚悟を決めて、フィルさんに向き直りました。

「……図々しいお願いとわかっています。でも頼らせて。フィルさんのお屋敷に、お兄様を滞在させてもらえないかしら?」

緊張しながら言ったのに、フィルさんは無言でした。

いや、私の話を聞いていないかもしれません。

何かを考え込むように、馬車の窓から外を見ていました。

「フィルさん?」

声をかけても、まだ気付いていないようです。

困惑しながらアルベス兄様を見ると、お兄様はため息をつきました。それからおもむろに、ぐっと拳を作りました。

……え? 拳?

一瞬、私が戸惑っている間に、お兄様は大きな拳でフィルさんの腹部を殴りました。

いいえ、殴ろうとしました。

でも拳が腹部にめり込むかと思われた時、フィルさんの手が動いて拳を受け流していました。

「おい、何をする」

「やっと正気に戻ったか? お前、ルシアの言葉を聞いていなかっただろう」

「……ルシアちゃんの言葉? ごめん、聞いてなかったようだ。もう一度言ってもらえるかな」

「えっと……」

己を心から恥じているような、とても情けない顔で謝られて、私は口籠ってしまいました。

もう一度と言われると、とても言いにくいです。

あまりにも図々しすぎて……でもお兄様のためです。恥を捨てましょう。

「だから、その、珍しくアルベス兄様が舞踏会に出るでしょう? この機会に良縁を拾ってもらいたいから、王都に長めに滞在した方がいいと思うのよ。だから……お兄様をフィルさんのお屋敷に滞在させてもらえたら、と……あ、もちろん、少しですが滞在費はお支払いします!」

もう一度、簡単に説明しました。

改めて言葉にすると、自分のお願いの図々しさに眩暈がしてきます。

でもフィルさんは、なんでもないことのようにうなずいてくれました。

「ルシアちゃんじゃなくて、アルベス? いいよ。どうせあの家は普段は使っていないから。滞在費もいらないよ。いつもは僕が世話になっているし。でも……さっきまではルシアちゃんの話だったような……」

「年齢を考えれば、私は後回しにして、先にお兄様に結婚してもらいたい、と言う話になったのよ」

首を傾げるフィルさんに、私は説明の補足をしました。

でもフィルさんは、さらに情けない顔になっただけでした。

「アルベス……お前も結婚するのか?」

「それは、いつかはする」

「なんてことだ。僕が結婚する前にお前が結婚したら、やはり僕はあの安住の地を失うことになるのか!」

フィルさんが落ち込んでいます。

慰めてあげるべきかと悩んでいたら、お兄様が窓の外をチラリと見て咳払いをしました。

「フィル。落ち込むのは後で好きなだけやってくれ。到着するぞ」

「……そうだな。よし。今日はルシアちゃんとたくさん踊ってやる。後のことなんて知るかっ!」

フィルさんはそうつぶやいて、拳を堅く握りしめました。

それから、減速した馬車の窓を開け、番兵たちに何か合図を送りました。

途端に、番兵たちが道を空け、重そうな門を開きました。

「……ここは?」

「いわゆる裏門。表側からは、僕はちょっと入りにくいんだ。ごめんね」

フィルさんはそう言って私に謝ります。

よくわからないまま謝られてしまった私は……ぽかんと外を見ていました。

今、馬車は巨大な門を抜けています。

門も重そうですが、両側の壁がとても厚い。

通り抜けるのにかかった時間を考えると、恐ろしく頑丈な城壁とわかります。

そう、城壁です。

番兵たちは、とても有名な色合いの、揃いの制服を着ています。

そして……二重の城壁を超えて馬車が向かっていく先には、巨大な建物が三つ。

「……お兄様。もしかして、ここは」

おそるおそる尋ねると、アルベス兄様はまた黙って目を逸らしてしまいました。

仕方なく、フィルさんを睨みつけました。

髪を栗色に染めて見慣れない風貌になっているその人は、目を合わせないまま、へらりと笑いました。

「うん。王宮だよ」