軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

(23)平和な日常

ゴルマン様とイレーナさんの結婚式が終わり、ラグーレン家に平和が戻ってきました。

兄はまだ忙しく王都との間を往復していますが、私が手伝えるようになったので少し時間ができたようで、目の下のクマは薄くなりました。

全くなくならないのは、兄の頑張り過ぎの気質のせいなので、諦めます。

そして。

……なぜか、まだ騎士たちの御一行が滞在しています。

「おい、お前たち。もう王都に戻っていいんだぞ?」

王都に向かう直前のアルベス兄様が、台所の戸口に立って騎士たちを睨んでいます。

でも、騎士たちはニヤニヤしながら聞き流し、楽しそうに調理を続けました。

「私たちの休暇はまだあるから、もうしばらくはここにいるよ」

「なあ、アルベス。ここの居心地は最高にいいな! 景色はいいし、気候もいいし、何より妹ちゃんが可愛い!」

「うるさい王宮雀どもはいないし、やかましい貴族もいないし、剣の鍛錬の相手もそこそこ揃っている。最高じゃないか!」

ゲラゲラ笑いながら、騎士たちは包丁を扱う手を休めません。

少し前までかなり広い畑を耕していたというのに、とても元気ですね。さすが王国軍の騎士です。

……そう褒めても、いいんですよね?

水を張った鍋を火にかけながら、私はこっそり首を傾げました。

アルベス兄様は、深いため息をつきました。

「お前たちがそんなに畑仕事と料理が好きとは思わなかったぞ」

「この家だからだよ。そうでなかったら、さっさと帰っているだろうな。まあ、俺たちを邪魔と思っているのはアルベスだけじゃないけどな」

包丁をくるりと回した騎士の一人……ユリシスさんが、意味ありげに私を見ました。

「例のフィル様、今日も来るんだろう?」

「たぶんな。俺の帰宅と一緒になると思う。だから、お前たちもそのつもりでいろよ」

「了解。いやー、あの人も最近、すぐに殺気立つよなぁ。俺は別に妹ちゃんを狙っているわけじゃないのに。弟の嫁には欲しいと思うが」

「おいおい、お前の弟って十五歳になったばかりじゃないのか?」

「十四歳だよ。若くていいだろ?」

騎士たちがまた笑い出すのを見ながら、アルベス兄様は髪をガシガシと掻き乱しました。

「頼むから、あいつの前でそれは言うなよ。お前か弟が前線に送られるぞ」

「それは困る。よし、俺は何も言わないぞ」

ユリシスさんが真顔でそう言うと、またどっと笑いが起きていました。

……本当に、騎士という人種の笑いのツボはわかりません。

私は首を傾げ、騎士たちが切ってくれた野菜を鍋に入れました。

アルベス兄様が王都から戻ってきたのは、日が暮れた後でした。

そろそろ騎士たちに途中まで迎えに出てもらおうかと心配していたので、ほっとしました。真っ暗になる前に帰ってきてくれて、よかったです。

でも、真っ暗になっても、それほど心配する必要はなかったかもしれません。帰宅はフィルさんも一緒でしたから。

ただし、フィルさんはよほど疲れているのか、青い目はどこか虚ろでした。

「三日間の休みをもぎ取ったから、滞在させてほしい」

それだけ言うと、フィルさんは暖炉の前の敷物の上に転がって寝てしまいました。

剣を帯びたままで、よく眠れますね。

とりあえずフィルさんに毛布をかけてあげましたが、食事はいいのでしょうか。それにしても、こんなに疲れているなんて珍しい。

つい、長いまつ毛が影を落としている寝顔を見ていたら、アルベス兄様がため息をつきました。

「気にするな。体力的な疲れというより、精神的な疲れだろう。実家の方で振り回されたらしい」

「そうなの?」

「ここまでの道中で、聞きたくないと言ったのに、散々聞かされてしまった。……だから、さっさと結婚しろと言ったのに」

結婚?

そういえばフィルさん、兄上様からそういう話が来ているという話をしていましたね。

アルベス兄様が独身ですし、同期の騎士さんたちも独身の人が多いようなので、そのくらいの年齢で結婚していなくても何とも思わなかったのですが。

やはり、家柄によってはそうではないのでしょう。

「……フィルさん、結婚するの?」

「言われた通りに素直に結婚する男なら、こんなに疲れ切って寝ていないだろうな」

アルベス兄様はそれだけ言うと、食事を始めました。

お兄様も疲れているようで、ものすごい速さで食べ終わってしまいました。お酒は葡萄酒を一杯だけ。

お皿を片付けると早々に立ち上がりました。

「水を浴びてくる」

「お湯を用意するから、少し待って」

「いや、大丈夫だ。水でいい」

そう言うと、あっという間に外に出てしまいました。

井戸の水をそのまま被るようです。

今は冬ではありませんが、夜は暖炉に火を入れるくらいには冷えます。せめてこの部屋で体を温めてもらおうと、暖炉に薪を足しました。

ゆっくりと炎が大きくなるのを確かめてから、私は暖炉の前で毛布に包まっているフィルさんを振り返りました。

特に寝苦しそうな様子はありませんが、このまま朝まで放置していいものでしょうか。

お兄様が戻ってきたら、部屋に連れて行ってもらいましょう。

でも、その前に。

「フィルさん、起きて」

まず、声をかけてみました。

実戦に出ている騎士は、眠っているように見えても声をかければすぐに起きるものです。

視線だけでも目を覚ますくらいだし、と思ったのですが。

フィルさんは起きません。

「フィルさん。起きてくれたら、ご飯の用意をしてあげるわよ?」

まだ起きません。

私はそばに座りました。

敷物に広がる銀髪は、暖炉の炎の色に染まっていました。

完璧な形の鼻と、すっきりした頬。長いまつ毛と、やや荒れた唇。

……顎には、少しだけ髭が伸びているでしょうか。

ふと手を伸ばし、顔に乱れかかっている銀髪に触れました。

さらりとした髪を顔からのけると、耳があらわになりました。