軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

(12)休暇終了

ゴルマン様とイレーナさんの結婚式に出席することが決まりました。

考えるだけで気が重くなります。

婚約破棄をされた私が、なぜゴルマン様の結婚を祝わなければいけないのでしょう。

イレーナさんは私の従妹ですから、祝福したい気持ちはありましたが。相手がゴルマン様で、オーフェルス伯爵家の嫌がらせに一枚噛んでいる時点で……私は聖人ではありませんので、仕方がありません。

でも、オーフェルス伯爵家から正式な招待状が届いたのですから出席します。出席するしかありません。

フィルさんが一緒に来てくれるので、きっと何とかなるはず。

休暇のうちに、いろいろ相談に乗ってもらいましょう!

……と思ったのですが。

フィルさんが、一ヶ月の休みを途中で切り上げることになったようです。

朝からぐったりと床に転がりながら、フィルさんは長いため息をついていました。

「仕事したくない。王都に戻りたくない。……まだ休暇が残っているのに、何でだよ」

手に握っているのは、昨日送られてきた手紙です。

昨日、物々しい騎士が汗だくで馬を飛ばしてきました。

びっくりしていたら、フィルさんへの手紙を持っていました。でも騎士が必死に押し付けようとするのに、フィルさんは目も合わせようとしませんでした。

そこへアルベス兄様がちょうど畑から戻ってきて、その騎士は泣き出さんばかりの勢いで手渡し、そのまま返事も待たずに走り去ってしまいました。

私は呆然としていたのですが、お兄様はすぐに察したようで、手紙を無理矢理フィルさんの背中に押し込んでいました。

それで、フィルさんが手紙を受け取ったことになるのだそうです。

……王国軍の騎士の習慣は、いまだによくわかりません。

結局、フィルさんが手紙の封を切ったのは夕食が終わってからでした。

そして今朝にはもう出発しなければいけないはずなのに、まだ床にいます。

「フィルさん、お弁当を作ってあげたから、頑張って」

「……お弁当は嬉しいけど、頑張りたくない。僕はまだ休みたいんだ。ここにいたいんだ。ルシアちゃんの手料理を食べたいんだ。今から川が増水して橋が流れないかな」

「縁起でもないことを言うな。王都までの道で、橋がかかっているのはうちの領地だけじゃないか。また増水したら、今度こそ俺たちは詰むんだぞ」

「そうだったな。悪かった。……僕は最低な男だな。もう死にたい」

陰鬱としているフィルさんは、素直にアルベス兄様に謝っています。

こんなに簡単に謝ってくるとは思っていなかったのでしょう。アルベス兄様は苦笑いを浮かべて私を見ました。

仕方がないので、私は出来立ての蒸しパンのお皿を持ってフィルさんの横にしゃがみました。

「怒ってないから、起きてよ。豆入りの蒸しパンをあげるから」

「……ルシアちゃんが食べさせてくれたら、元気になるかもしれない」

何を言っているんでしょうね。この人は。

でも、しょんぼりとした姿が可哀想になったので、まだ熱い蒸しパンをちぎって、口元に差し出してあげました。

「はい、あーんして」

フィルさんがパチリと目を開けました。

私の顔と、目の前の蒸しパンを交互に見ていましたが、すぐに大きく口を開けました。

……本当にこれをして欲しかったのでしょうか。

いくら銀髪の美麗な容姿をしていても、二十代半ばの大男の赤ちゃん返りは可愛くありません。

内心、微妙でしたが、お兄様が拝むように目で訴えるので、フィルさんの口に蒸しパンを押し込んであげました。

「……美味い。豆がいっぱいだ」

「お弁当として、これをいっぱいバスケットに詰めているわよ。フィルさんが食べたがっていた芋と豆の煮物も作ったからたくさん入れてあげました。容器は次に来るときに返してくれればいいから」

「じゃあ、次来る時は、代わりに砂糖を詰め込んでくるよ。それとも砂金の方がいいかな」

「え、何でそこで砂金が出てくるの?」

「そのくらいの価値があるってことだよ。……ああ、行きたくないなぁ。この家の子になりたい」

またダメなフィルさんになりかけていますが、少し前向きになった気がするので、よしとしましょう。

残りの蒸しパンを全部ぐいぐいと口に押し込むと、フィルさんはもぐもぐとものすごい勢いで食べました。

全てを食べ終えて、名残惜しそうに唇をぺろりと舐め、それからやっと立ち上がりました。

「仕方がない。仕事に戻るか」

「仕事をするフィルさんはかっこいいですよ!」

「……よし、頑張れる気がしてきた。アルベス。世話になったな。また来るよ」

「いつでも歓迎するよ」

アルベス兄様は笑顔で応じてから、フィルさんの荷物を持って外へと向かいます。

軽く身支度を整えていたフィルさんは、ふと振り返りました。

「ルシアちゃん。少しいいかな?」

お兄様の後を追おうとしていた私は、足を止めました。