軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74.第六章十一話

「――テオフィル様。そろそろ私たちもよろしいですか?」

他の人物の声が響いて、ベルティーユたちはそちらに意識を向ける。

食堂にいたのはテオフィルだけではない。オルガやジャンヌなどの使用人たち、約二ヶ月ぶりに会うレジェ伯爵夫妻、そして見覚えのない夫婦らしき男女と幼い女の子もいた。

レジェ伯爵夫妻はこちらに歩いてきて、「お久しぶりね、ベルティーユさん」と相変わらずにこやかに声をかけてくれた。しゃがんでいたベルティーユはそっと立ち上がる。

「お誕生日おめでとう」

「ありがとうございます」

テオフィルとのやりとりが終わるのを静かに待っていたようだ。まずはテオフィルがベルティーユにお祝いの言葉を述べてプレゼントをすると、最初の流れを決めていたのだろう。

「わざわざ来てくださったのですね」

「家族になって初めての娘の誕生日だもの。駆けつけるのは当たり前よ」

リュシアーゼルとテオフィルが招いたのか、レジェ伯爵夫妻が自分たちからお祝いをしたいと連絡したのか。もしかしたら両者の行動が重なったのかもしれない。

娘の誕生日を祝うのは当たり前。その感覚はラスペード侯爵家にはなかったし、そこで育ったベルティーユにもなかったのだから、改めて環境の差を実感した。

「紹介するわ。息子のダミアンと妻のフラヴィさん、孫のコレットよ」

タチアナがベルティーユとは初対面の男女と少女の紹介をするので、やはりとベルティーユは納得する。仕事の都合で顔合わせができていなかった、義理の兄となった人だ。

紹介されたダミアンは父親に似た穏やかな顔立ちで、雰囲気も柔らかい男性だった。彼に寄り添うフラヴィはお淑やかで、フラヴィのドレスに隠れてこちらを窺っているコレットはフラヴィによく似ている。

「初めまして」

「お初にお目にかかります。ベルティーユです」

「兄妹になったのだから、そんなに堅苦しくする必要はないよ」

「はい」

第一印象どおり、ダミアンは優しそうな人柄だ。突然できた妹の存在を受け入れ、距離を縮めようと気遣ってくれている。

「誕生日おめでとう」

「おめでとうございます、ベルティーユさん」

「ありがとうございます」

「ナタリーは体調が優れないということで不参加なんだ。すまないね」

ナタリーはレジェ伯爵夫妻の娘の名前だ。ダミアンにとっては実妹、ベルティーユにとっては義理の姉ということである。

「謝罪をいただくようなことではありませんわ。隣国に嫁がれているということですし、気軽に行き来できる距離でもありませんもの。ですが、体調不良とは心配ですね」

「ああ、それは仕方のないことなんだ。どうやら懐妊らしい」

「まあ。おめでとうございます」

「ありがとう。ただ、君にとってもナタリーは身内になるわけだから、私におめでとうは少しおかしいな」

「そうでした」

兄妹という関係性に、ベルティーユの感覚がまだ追いついていない。ベルティーユが知る兄妹との違いがあまりにも大きいからだろう。

失敗した、と反省して目を伏せると、ぱちりとコレットと目が合った。

まだフラヴィのドレスを掴んで少し隠れるような位置に立っているコレットは、四歳だと聞いている。

「初めまして、コレット様」

目線を合わせてベルティーユが挨拶をするけれど、コレットはしばらく反応を見せなかった。ただただベルティーユをじっと見つめており、ようやくゆっくり口を動かす。

「てんしさん……」

「……?」

「あ。テオフィルさまはようせいさんって言ってたから、てんしさんではないですか?」

そう問われ、とりあえず褒められてはいるのだろうと理解しつつもベルティーユが返答に困っていると、テオフィルが「違うよコレット」と告げる。

「ベルティーユ様は確かにすごく美人だけど、ちゃんと人間だよ」

「にんげんさん」

「叔父上の婚約者」

「こんやくしゃさん」

辿々しく紡がれる可愛らしい言葉に、皆の空気が温かいものになった。

「コレット、ご挨拶は?」

フラヴィに促されて、コレットは頭を下げる。

「コレットです。よろしくおねがいします」

「はい、コレット様。私はベルティーユです。これからよろしくお願いしますね」

にっこりと微笑んで見せると、コレットはぱっと瞳を輝かせて表情を緩める。

「おたんじょうび、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

子供らしい純真無垢な笑顔を向けられて、ベルティーユも笑みを返す。嫌われていないことははっきりしたのでひとまず安心だ。

しかし、ベルティーユはユベール公爵家で暮らしているし、会うことはほとんどないだろう。

いずれベルティーユはいなくなる。コレットが大人になった時、ベルティーユのことを綺麗さっぱり忘れている可能性は十分に高い。

「そろそろ席につこう」

話に区切りがついたところでリュシアーゼルがそう言うと、コレットはフラヴィの後ろに隠れた。今のは明らかにリュシアーゼルを見て身を隠したようだった。

ちらりとリュシアーゼルに視線をやると、気にしている様子もなく軽く息を吐く。

「私はどうも苦手意識を持たれているらしい。まあ、慣れている」

「リュシアーゼル様はお顔が少々怖いですからね。幼い子供からは大体怖がられるのです」

クレマンの説明を聞いて、ベルティーユはまじまじとリュシアーゼルを観察する。

整っている顔は冷たそうに見えるので、怖がられるのも納得ではある。

「怯えることなくすぐに懐いたのはテオフィル様くらいでしたね。リュシアーゼル様もかなり戸惑っていらっしゃいました。あれは子供が苦手というのもあったのでしょう」

「テオフィル様が生まれた頃だと、リュシアーゼル様のお顔はまだ幼さがあって可愛らしかったですからね。成長過程を間近で見ていらっしゃるわけですから、慣れたのかと」

クレマンに続いてオルガが付け足すと、「なるほど」とレジェ一家が頷いた。するとリュシアーゼルが薄らと眉間にしわを作る。

「今回は昔話に花を咲かせるための会じゃないぞ」

自身の話は気恥ずかしいのか、紫の目は切り上げろと語っていた。