軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

58.第五章九話

声や佇まい、口元のしわなどから察するに、それなりに年齢を重ねている男性だ。金色の髪をおしゃれにセットしており、身につけている服や装飾品は質の良い一級品。丁寧で柔らかい物腰は経験を積んできたがゆえの余裕が表れており、雰囲気からして上流階級の中でも相当上位の貴族なのは明らかである。

「新顔がわかるのね。限られた人々のみが参加できる場所なのだから当然かしら」

「ええ。私はここの古株でしてね。参加者はほとんど把握しておりますよ」

「あら怖い。新参者はいじめられてしまうの?」

「はは、まさか。若い方は大歓迎ですとも」

にこやかな男性は、ちらりとリュシアーゼルとシメオンを一瞥する。

「それにしても――寡黙な騎士を二人も連れていては、他の男性方は涙を呑んで貴女に声をかけるのを我慢するしかないでしょうな」

「騎士なんて、彼らにはもったいないほど贅沢な称号ね」

護衛を連れて何をしに来たのかと探る意図のあるそれを、ベルティーユはただのお世辞として受け取ったように振る舞った。そうすれば男性の目が意味深に細められる。

「貴方も魔道具を使うの?」

「たまに利用しておりますよ。お嬢さんのお気に召すものはありませんでしたかな」

「そうね。面白い魔道具があると聞いていたのに拍子抜けだわ」

残念そうに言ってから、ベルティーユは「あら?」と何かに気づいたように男性に問いかける。

「古株というのなら、魔道具を所有している方がどなたか知っていたりするの?」

「ええ、もちろん。親しいですが、お教えはできませんよ」

「それくらいわかってるわよ」

そんなことも知らないように見えるのかとベルティーユが不機嫌を露わにすると、男性は「これはこれは」と真摯に謝罪する。

「ご気分を害してしまいましたな。お詫び申し上げます」

「許してあげるわ」

相手のほうが年上だと理解していながら尊大な態度が崩れないベルティーユを、バーテンダーがはらはらした様子で気にしているのがわかる。

バーテンダーは目の前の男性が何者であるかを知っているのだ。そのため、態度を改めることなく何も知らずに好き勝手に振る舞っているベルティーユに、なんて礼儀知らずなのだと驚愕していることだろう。

(この人が誰かはわかっているわ)

高位貴族をベルティーユが知らないはずがない。面識がある者に関しては、仮面をつけているくらいでわからなくなるようなことはないのだ。

そしてまた、リュシアーゼルも男性の正体に気づいていないわけがない。社交界にそれほど顔を出していないとはいえ、顔を合わせたことくらいはあるだろうから。

リュシアーゼルは違和感を持たれない程度にじっと男性を観察している。ベルティーユは男性の意識を自分に向けさせるために話を続けた。

「所有者について訊いたのは、こんなにも魔道具を集めるほど熱心なコレクターなら、魔道具の買い取りはしてもらえるのかしらと気になっただけよ」

「おや。何か魔道具をお持ちなのですか?」

「ええ」

シメオンが視線だけをこちらに向けてくる。まさか解呪の魔道具のことを言っているのかと問いたいのだろうけれど、安心してほしい。

馬鹿正直に真実を言う必要などない。この男性の興味が引けるなら嘘でもいいのだ。

「どのような品なのです?」

「確か、血縁関係を調べる類いのものだったわ」

その言葉を聞くと、男性の纏う空気感が変わった。その変化を目敏く見抜いたベルティーユは続ける。

「ただ、親戚の遺品から物だけ出てきたから、メモとかも一切なくて使い方がわからないのよね。魔道具の効果も家族が伝え聞いたものらしくて、本当かどうかも疑わしいし。何より、魔石が取れてしまっていて動かないみたいなのよ」

魔道具は魔力で動くもの。動力源である魔力を宿す魔石がないのは致命的だ。

魔道具と魔石には相性があり、この時代では新しく相性の良い魔石を用意することも非常に難しい。

魔石がなければ魔道具は歴史的な価値しかなくて役に立たない。そう認識している少女を装って、ベルティーユは続ける。

「使えないなら国に報告して謝礼金をもらおうかなんて話が出ているのだけれど、それよりコレクターに売るほうが絶対に高いじゃない?」

「そのとおりですな。――もしよろしければ、私からコレクターに直接お願いしてみましょうか?」

(かかった)

思いどおりの結果に結びついて笑顔が溢れそうになるのを堪え、ベルティーユは驚きを見せる。

「あら、いいの?」

「こうして美しいレディと知り合うことができたのですから、このような老いぼれでもお役に立てるのなら光栄ですな」

「それならお願いするわ」

ありがたいとばかりにすぐさまそう言うと、男性は満足そうに微笑んだ。

「買取金額は実物を見てからになりますので、一度お持ちいただけますかな」

「そうね。次の仮面舞踏会はいつかしら」

「仮面舞踏会の開催を待たずとも、そちらに合わせて日程を組みますよ。このホテルの支配人、もしくは社長である領主のほうへ都合の良い日をご連絡いただければ結構です」

「助かるわ」

とんとん拍子に話は進み、男性は懐からカードを取り出してベルティーユに渡す。

「これがあれば予約や合言葉等なくともこの場所に通してもらえます。お越しの際にご利用ください」

「ありがとう。ではコレクターの方によろしく伝えてちょうだい」

「はい、必ず」

男性は最後まで、にこやかな対応だった。

◇◇◇

ベルティーユたちが立ち去ったVIPルームで、男性はカウンター席に座った。

「変なネズミが入り込んだものだと思ったら、思わぬ収穫があったな」

ベルティーユたちに見せていた丁寧な態度とは打って変わり、男性は機嫌良く口角を上げた。新たな魔道具が手に入ることに歓喜している。

バーテンダーは男性の好きなお酒をカウンターに置いた。

「探りますか?」

「放っておけ。このVIPルームの真の在り方を理解していない部外者だ。どこの家の娘なのか、気位ばかり高くて傲慢で礼儀も弁えていない、頭の悪い娘だったな。構う時間が無駄でしかない。魔道具をいただければ用済みだ」

グラスを持ってお酒に口をつけ、「それより」と厳しい声を出す。

「招待状を横流ししただけでなく、VIPルームについてもあの娘に話した口の軽い裏切り者を探し出さなければならん。大方、あの娘に籠絡でもされたのだろう。見るからに身持ちが悪そうな娘だったからな」

「手配します」

◇◇◇