軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハーメルの来訪

魔法省から戻ったレオンはたくさんの訪問者と対面する事になった。

まずはハーメル。

隠居した筈のハーメルの訪れに何事かと思ったら、サールに用事があるらしかった。

「サール殿、育毛剤の件なのですが」

「あ、ごめんなさい。まさか王宮薬師の方にご迷惑をおかけするとは思わなくて……」

「いえ、それはもうよいのです。陛下にもよくよくご説明申し上げて、すぐには無理だと分かって頂けたので」

「なになに? 何があったのだ?」

目を輝かせて身を乗り出したレオンに、ハーメルが説明する。

薄くなっていく頭部に不安を覚えていた国王は、育毛剤に多大な期待を抱いたらしい。そのせいで開発に向ける圧が物凄く、王宮薬師達は昼夜を問わずひたすら実験を繰り返す日々になった。

更に国王だけでなく、高位貴族からの期待も大きく、それが多大な寄付という形になった。

王宮薬師の面々もそれに応えようと精一杯努力したが、何せ手がかりが薬草の名前一つしかない。

元から国中に生えているトモリズ草をどう加工すればいいのか。育毛剤としての効能を引き出すのはどうしたらいいのか。

いくら寝る間を惜しんで実験を繰り返しても、すぐに結果は出ない。

結界、ハーメルが様子を見に王宮薬師の部屋を訪れた時には、部屋中に気絶するように眠る王宮薬師達がごろごろ転がっていたという訳だ。

状況を見かねたハーメルは、手がかりを求めて留学中のサールに手紙を送った。

その返信に手がかりは記入してあったが、それが「氷ドラゴンの縄張りに生えている草が有効のような『気がします』」だったので、ハーメルは天を仰ぐしかなかった。

「そんな事になっていたのか」

軽く目を瞠りながらしみじみとレオンが呟くと、サールがまた申し訳なさそうに首を縮める。

そんなサールを宥めながら、ハーメルは再確認した。

「トモリズ草が育毛剤として使えるようになるには、トカフ国の北に生息する氷ドラゴンの縄張りに踏み込まないといけないのですね?」

「氷ドラゴン? トカフ国にはそんなのがいるのか?!」

レオンが子供のようにはしゃいで目を輝かせると、モルフの目付きが鋭くなる。

サールが申し訳なさそうに頷いた。

「はい。でも現地に行ってみないと正確な事は分かりません。何となくそんな『気がした』だけなので」

「ダメですよ、レオン様」

「う、分かっている。いつかな」

「いつか? 本当に分かってます?!」

鋭く目尻を吊り上げるモルフを尻目に、レオンが「分かっている、分かっている」とニカッと笑う。

「そうなると父上も待たざるを得ないだろう。いま現地に王宮薬師や騎士団を派遣しても危険度が高いし、確実な成果を求めるならサールが直接出向く必要がある」

「そうなのです。僕が現地に行けば、もっと詳しい事が分かるかもしれませんが、さすがに遠くからは……」

「ではその件は保留だな」

レオンがまとめると、ハーメルは咳払いを一つはさんでから、今度は矛先をレオンに向けた。

「それと、レオン殿下にも確認したい事があります。人払いをお願いします」

「人払い? 別にこの面子に秘密なんてないし、必要ないが」

「いえ、個人情報に関わるので」

「個人情報? 私の?」

「はい」

ハーメルの強い眼力に、レオンはと戸惑いながらも渋々頷いた。サールとモルフに一旦部屋を出て行くよう告げる。

扉が閉まり、部屋に二人きりになったのを確認したハーメルは、前置きなしに用件を切り出した。

「レオン殿下、私の個人的な付き合いのある、とある友人から聞き捨てならない話を聞きました。レオン殿下は子を成せない身体であると」

「お?」

思いがけない方面の話に、レオンは思わず目を剥いた。

ハーメルは鬼気迫る勢いだ。

「それは成人後に高熱を出したからだとか。しかしレオン殿下、レオン殿下が服用したのは『命の霊薬』なのですが?」

「ああっ! その話か!」

「成人後に高熱を出すと子を成せない身体になる……そういう話は聞いた事がありませんが、もし仮にそれが本当だとしても、『命の霊薬』を服用した殿下は完全な健康体になった筈でございます」

「やはりそうだよな? 父上に話した時はそう思っていたのだが、後でよく考えてみて、そうではないかと思っていたのだ!」

「え……では殿下は分かっていながら、陛下に訂正していないのですか?」

「それは……うっ、留学準備ででバタバタしていたし……」

酷く焦りながらレオンはわたわたと弁明するが、ハーメルの鋭い眼差しに観念したように本音をぶちまけた。

「だって、だって! ブラウが王太子として長年頑張っているのに、元気になったからといって、急に私がしゃしゃり出たら可哀相ではないか! 私は第一王子というだけでそんな真似はしたくないんだ」

「しかし陛下を騙すような真似は関心したしません」

「分かっている! 分かってはいるんだが!」

「レオン殿下……」

「少し考えるから時間をくれないか?」

「……………………」

「私から父上にご説明する。必ずするから……!」

「レオン殿下、私は陛下に嘘は吐けません。問われれば真実を話します」

「うん」

「他の者の口から入る前に、レオン殿下が直接お話しされた方がよろしいかと」

「うう、そうだよな? やっぱりそうだよな?」

「それも出来るだけ速やかにお願い致します」

「そうだよな……そうなんだよなぁ。分かってはいるのだが……」

頭を抱え込んだレオンに、ハーメルはにっこりと微笑んだ。

「陛下はレオン殿下に甘いご様子。打ち明けても大ごとにはなりませんよ」

「そうかなぁ。お怒りにならなければいいが……」

「騙そうと意図した訳ではないのでしょう?」

「もちろんだ!」

「では大丈夫ですよ。きっと」

「分かった。今晩、お話ししてくるよ」

「ではよろしくお願い致しますね」

ハーメルは満足げな表情で去り、部屋には頭を抱えたレオンが残されたのだった。