軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

予想外

翌朝、ノエラはレオンに辺境伯に会えない事、ロゼレム・ケアと連絡をつけてくれるよう約束を取り付けた事を報告した。辺境伯の遣いがこの宿を尋ねて来るかもしれない事も。

レオンは「分かった」と頷き、老人と目を見交わす。

「じゃあ私はちょっと魔法の授業をしに出掛けてくるから」

ユーズとノエラはきょとんとなった。

「魔法授業ですか? 今日? ここで?」

「うん」

「観光なさるのでは……」

「気が変わったんだ」

レオン一行は既に申し合わせていたようで、朝食を摂るとすぐに出発する。

ユーズとノエラも首を傾げながら、徒歩でその背中を追いかけた。

レオンは土地勘がないので、ノエラに国境がある郊外への道を尋ねてきた。

「出来るだけ大きく拓けた場所がいいんだ」

「確かに国境沿いには拓けた土地がありますが、大きな湿地帯になっておりまして、立ち入れませんよ。人も馬も歩くのは困難で、最悪、足を取られて動けなくなります」

「そうか。でも見学だけでもしてみたい」

「国境側の郊外に行くには南門を通らなければなりません。こちらです」

南側の隣国とは数十年前に闘争があったが、商人の取引は行われている。

貴重な薬草、物資、食糧、お互いの特産品をそれぞれの国が必要としているので、通用門の近くに専用の取引所が設けられていた。辺境伯の騎士に監視されながらの取引だけが許されている。

南側の国境は巨大な湿地帯に覆われていて、商人は商取引所の為に造られた石造りの橋を渡って来るしかなく、荷馬車が擦れ違えるだけの幅しかない。

ノエラが先頭に立って南門まで行くと、門番に止められた。やけにピリピリしているようで表情が固い。

「本日は通行止めになっております」

ノエラの顔は知らないようだが身形と出で立ちで貴族だと察したのか、言葉遣いだけは丁寧に止められた。

ノエラは眉間に皺を寄せる。

「辺境伯のご命令か? 私はノエラ・チュウヒ。彼の娘婿にあたる」

「失礼しました」

さっと一歩下がった門番達は頭を下げる。

「昨晩も屋敷の様子がおかしかったが、何があった?」

「それは、その……」

「もしかして辺境伯がおいでか? 直接尋ねてみる。通してくれ」

門番達は互いに顔を見合わせてから、一拍おいて道を空けてくれた。

ノエラが進み、レオン一行もそれに続く。南門を出て驚いた。

本来なら商人と数人の騎士しかいない筈の取引所に、兵士がひしめき合っていた。

少なく見積もっても二百人はいるだろう。まるでこれから戦争でも始めるかのように、全員甲冑姿で手に武器を持っている。

ノエラは顔色を変えて奥に進んだ。混雑する人を掻き分けていると、大柄な辺境伯の姿が目に入った。

「義父上、これは何事ですか!」

側近らしい騎士と会話中だった辺境伯は、ノエラの声に振り返った。

「ああ、ノエラ。こちらに来ている事は聞いていたが相手が出来ずすまなかった。ご覧の通り立て込んでいてな」

辺境伯は白髪混じりの短髪で、屈強な体格をしていた。壮年だが甲冑姿なのもあって若く見える。

「王都に使者を向かわせたが、入れ違ったようだな。向こう側の国境付近に兵が集結していて、上手く林に隠れていたので気付くのが遅れたんだ。敵はどうやら湿地帯を抜ける手段を手に入れたようだ。商取引では友好なままだったんで、まさか攻めてくるとは思わなかった。わしの失態だ」

「そんな……」

あまりの事態にノエラは蒼白になる。

ノエラが王都を出立した時はそんな話は全く出ていなった。ノエラと入れ違った急使が王都に到着したとしても、兵士の支度に時間がかかる。

敵もそれを見越して救援が来る前に急襲するつもりだろう。

辺境伯の部隊だけで戦わなくてはならない。今ここにいる以外にも、辺境伯の屋敷で準備中の兵士もいる筈だ。もしかしたら平民も徴集しているのかもしれない。だから宿屋の主人と女将の様子がおかしかったのだ。

隣国がどれだけの戦力をぶつけてくるのか知らないが、何年もかけて密かに準備をし、満を持して攻め込んで来るのなら勝算あっての事だ。これは相当マズい。

「まさか南とは……」

ノエラの隣にいるユーズが独り言のように漏らす。

トマリーナ国以外の隣国は全て不穏な関係なので、国防会合は定期的に開かれている。その場にはマナミリュ殿下も参加するのでユーズも何度も侍った事があるが、南は危険度が低かった。一番警戒していたのは東の隣国だ。

「ノエラ、そちらの若いのは……」

慌ててノエラがユーズの紹介をすると、辺境伯は目を丸くした。

「マナミリュ殿下の側近? そのような方が殿下のお側を離れて、何をしにここへ?」

「それが……」

ノエラが事情を説明しようとした時、うわあという大きなどよめきが上がった。

辺境伯もノエラもユーズも敵の進行が始まったかと一瞬で殺気立ったが、周囲の兵士が揃って顔を向けているのは前方ではなく左だった。

何事かと振り返った視線の先に、巨大な防御壁が誕生していた。

石造りの頑丈そうな石壁で、大人が手を広げた3人分くらいの幅がある。高さも大人3人分だ。その前には、ちんまりとした老人とレオンが立っていた。

「な、なに?」

「何だっ?」

驚く人達を尻目に、レオンの呑気な声が聞こえた。

「先生、敵の侵入を防ぐには、外側の面は反った方がよいのではないでしょうか。鼠も駆け上がれないよう、こんな風に」

その言葉と同時に、地面から迫り上がるようにして轟音と共にどーんと石壁が現れた。先程の防御壁と同じ高さになると止まる。

「はあっ?!」

「嘘だろ?!」

辺境伯もノエラもユーズもあまりの事に絶句した。

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。確かにそちらの方がよさそうですな。ではわしの試作品は消して、それをあちらの端まで続けて作れますかな?」

「やってみます!」

レオンが嬉々として魔法を使うと、ゴゴゴという地響きと共に次々と防御壁が迫り上がってきた。左側の端、崖になっている部分まで到達して完成だ。その距離はざっと見積もっても100メートルはありそうだ。

「出来ました、先生!」

「よく出来ました」

大喜びで両手を上げるレオンと、パチパチと笑顔で拍手する老人。

辺境伯と兵士達、ノエラもユーズも唖然と見詰める事しか出来なかった。