軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キャラグ家

「まあ、絵に描いたような凋落ぶりですね」

「ウケるだろ?」

モルフが報告書を机の上に放り出すと、兄は笑っていた。

「義母は素直に実家の勧めた修道院に入っていればよかったのにな」

「無理だろ。贅沢しながらあの年齢まで生きてきたんだから」

「義姉は……救いようがないな。さすがサール殿を虐待していた張本人」

「母親は壊れたのに、娘はまだ壊れていないそうだ。貴族の娘が平民の男達に夜毎陵辱されているのに、まともな精神でいられるとは驚きだ」

「元からまともじゃないからでしょう。加虐趣味のある人間は逆の立場になれば弱いと思っていましたが、そうでない事例もあるのですね」

「よくも悪くも頑丈なんだな。父親よりも強いかもしれん」

「父親については書いてなかったですが、どうなんです?」

「ん? 普通だな。一番酷い鉱山で働いているよ。あの鉱山には他にもたくさん貴族が送られたから、特筆するところはない」

「でしょうね。元凶のブザンソン侯爵はどうしてます? お前のせいだと袋叩きに遭ってないですか?」

「面倒ごとを避ける為に区画を分けてあるらしい。監督する者もいちいち喧嘩の仲裁などしていられないからな」

「そうですか」

夕食前の小腹が空いた時間なので、モルフは懐から菓子パンを取り出して食べようとした。

その瞬間、兄の目がキラリと光り、気付くとモルフの手の中からパンが消えていた。

「ああっ?!」

呆然と、もぐもぐ口を動かす兄を見詰める。

「はしたないですよ、兄上」

「お前ばかり美味い物を食べてずるいぞ。これは何だ? 初めて食べるパンだ」

「葡萄パンです。干し葡萄が入っていて美味しいでしょう?」

「うん。美味い」

「さっき厨房から殿下への差し入れを頂いて、そのお裾分けに貰ったんです。私でも滅多に食べられないというのに……」

恨みがましく兄を睨むと、取り返されないよう残りのパンを口に放り込んだ。

「殿下のご様子は?」

「体力づくりを再開されましたが、まだ元気ではないですね」

「シーラから聞いたが、何やら変わった体力づくりをされているそうだな」

「ええ。前世の『スポーツ』だそうです。世界中の人が楽しんでいたそうですよ。黄色い木の実がボール代わりに最適だそうで、サッカーとバレー……他にも種類があると仰ってました」

「世界中とは……我が国ではせいぜい国境を接している国と付き合いがある程度なのに。殿下の話はとても興味深い」

「文明がかなり進んだ世界だったようですから」

「うちの『末弟』くんにもその世界の知識があるんだよな?」

「ん~どうでしょう。サール殿の記憶はとても曖昧で、殿下の言葉によって記憶が掘り起こされる感じでしたね」

「でも貴重な特性持ちなんだろう? 王家が今も追跡しているんだろう?」

「してないですよ」

「えっ! 何で?」

「そういう特性なんです。サール殿をこちらの思惑で利用しようとしたり、監禁しようとしたら、するりと逃げられます。敵認定されないこと。それが一番です」

「そうなのか? 意外だな」

サールの特性に関しては、父であるキャラグ侯爵にも伝えていない。いくら戸籍の件で世話になったといっても、何もかも話している訳ではないのだ。

一度、殿下の元を訪れた父とサールは面会した事がある。

サールは礼儀正しくお礼を言っていたが、その時の父は余計な質問をしなかった。

「父上と兄上はサール殿に興味をお持ちで?」

「それはそうだろう。ブザンソン侯爵の件だって、まさか本当に摘発されるとは思わなかった。問答無用の……有無を言わさないあれだけ確実な証拠が手に入るなんて、誰が思う? 貴族たちは騒然となっていたぞ。後ろ暗いところがある連中にしてみれば今も戦々恐々だろう」

「まさかうちは大丈夫でしょうね?」

「貴族家なんてどこも同じだ。公に出来ない秘密の一つや二つ、持っているものだ」

「………………聞かないでおきます」

「そうだな。お前はもう殿下のものだ。精一杯務めてくれ」

「言われなくても」

また突然現れてパンを強奪されるのは嫌なので、モルフは兄に、パンのレシピは料理長へ訊けば教えてくれると言っておいた。

目を輝かせていたので、おそらく真っ直ぐ厨房へ向かっただろう。

モルフは大きく溜め息を吐いた。

幼い頃に主と決めた第一王子は、今は普通を装っているが、やはり元気がない。

何とかならなものかと、忠実な家臣はあれこれ思案した。