軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

集落

「た、な、だ! た、な、だ!」

サールが楽しそうに鍬を振るうのを見ていた老人は「そりゃなんだ?」と尋ねてきた。水田が段状になっているものだと説明する。

空き家に住み着いた風変わりな小僧を、最初に出会った老人マノリは暇そうに観察している。

ここで暮らす人数が少ない事もあり、食糧事情は前の村ほど悪くない。老人しかいない集落なので食べる量も少ない。

後は森の恵みと畑、たまに獲れる野生動物の肉でどうにかなっているという。みんなで協力しあって生活しているので、基本的に暇していても問題ないのんびりした暮らしぶりなのだ。

ここでも稲が荒れ地に自生しているのを発見したサールは、水田を作ろうと考えた。

斜面には人の手でならした土地が多く、耕作放棄地なのだという。前はもう少し人口が多かった名残だ。

自由にして構わないと許可を貰ったので、小さい面積から順番に苗を植えていく。幸い、湧き水が流れているので水源も問題なかった。

斜面に数個、水田を作ったサールは、満足してその景色を眺めた。夕日の時刻になると、張った水に空の青が映し出されてとてもきれいだ。

畦道に座るサールの隣で、マノリも感心している。

「これは凄い。ずっと暮らしているのに初めて見る……不思議な感じだ」

「ずっと見ていられるねぇ」

二人してほのぼのしていると、すぐに日が暮れる。

夕飯時になると集落の真ん中にある大きめの家で煮炊きが始まる。

全員合わせても少人数なので、火を熾す場所を決めているそうだ。それぞれの家で火を熾すと薪の消費も多くなり勿体ない。

自然と一日一回は集落の全員と顔を合わせる事になる。

「坊主がいま植えている苗で、これが採れるのか?」

「そうだよ」

今夜、サールは米を提供してみた。前の村から持って来た分は大事に消費している。数に限りがあるので、お粥にして皆に配った。

「美味いが、病人食みたいだな」

「そう、病人食。量がなくてごめんね。ここのが収穫できたら、ちゃんとした炊き方で《おにぎり》を作るよ」

「でもこれも美味いぞ」

「うん。わしはこの仄かな塩味が好きだ。優しい味だ」

「米には味がないから、塩味を足すんだよ。干し野菜とか塩漬けした木の実とかが合うよ」

「《おにぎり》とやらが楽しみだな」

「うん。任せて」

そんな風に楽しく過ごしていたサールだったが、収穫する前に異変を感じ取った。

ざわざわする胸を押さえながら、集落の入口で佇む。しばらくしてマノリを探した。

「マノリ、何か悪い事が起こる」

「え? 何だって?」

「何か悪いモノが来る。向こうの方角から。僕は特性持ちなんだ。信じて欲しい」

「……………………」

特性の事はこんな田舎の人でも知っているらしい。

サールが指した方向を確認して顔色を変えたマノリは、大至急みんなを集めた。

真ん中の大きな家の軒先で、村人全員がサールに注目する。

「悪いモノが来る。そう感じる。僕の特性は外れない」

「具体的に何か分からないか?」

サールの突拍子もない言葉を、どうやらみんな信じてくれるようだ。真剣な目をしている。

「たぶん……人、だと思う。悪い人……たくさん……武器を持ってる」

「ああ、盗賊だな」

サールは目を瞠った。

「盗賊って、ここら辺にいるの?」

「普段はいないが、数十年前、隣国から山を越えてやってきた集団がいた」

「そうだ。あの時もみんなで協力して撃退したんだ」

「隣国との国境は険しい山脈だから普通は行き来できないが、向こうで生きていくのが難しくなったんだろう。犯罪者かな? 追われているのか? 一か八かで山越えを試みる可能性はある。前回の生き残りが、ここに集落があるのを知っている。広めたかもしれん」

全員が蒼白になった。

「すぐに準備しよう」

老人達の動きは機敏だった。山道に繋がる入口の門を閉ざし、その周囲に木材を打ち付けていく。廃屋から出た端材だが、結構な高さになった。

それでも心許ないが、ないよりはましだ。

よくよく見れば集落は天然の要塞のような造りをしていて、入口さえ封鎖してしまえば他からは行き来できない。

畑や水田のある見晴らしのいい斜面と反対側は高い崖になっていて、かなりの高さから飛び降りないと入れない。そんな命知らずな真似はしないだろう。

だからここに集落を作ったのかと、サールは感心する。

「野生動物に襲われないのも、そのせいなんだね」

「そうだぞ、坊主」

唯一の出入り口を封鎖したし、しばらく篭城できる食糧も充分ある。

それでもサールの嫌な予感はなくならなかった。