軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

到着

乗り合い馬車を利用して色々な町へ行った。

買い食いを楽しみ、たまに薬草採取して調合し、冒険者ギルドへ売る。一つの町に長居する事なく、こちらだと思う方角へ進む。

やがて乗り合い馬車の運行していない田舎に辿り着く。そこからは徒歩で移動する。

「本当にこの先へ行くのかい? 寂れた小さな村しかないぞ?」

「うん。そこに用があるんだ。心配してくれてありがとう」

気のいい宿屋の主人と別れ、徒歩で村へ向かう。歩いて一日の距離だそうだ。

でも念のため、野宿の体験もしておいた。旅では何が起こるか分からない。

ちょっと奮発して寝袋と一人用の簡易テントも買った。荷物が多くなり重くなったが、このくらい背負えなくては旅はままならないだろう。

幸い食生活が充実したせいか、僅かな日数で体力がついたような気がする。

学校の食堂では義姉から逃げて、こそこそと急いで詰め込んでいたので食べた気がしなかった。寮でも義姉のばら撒いた噂を鵜呑みにした生徒に悪意をぶつけられるので同じだった。

それを思えば今の生活の何と充実したことか。

サールはスキップしそうなくらいはしゃいでいた。誰の目を気にする事もなく自由に振る舞える。お金の心配はないし、稼ぐ当てもある。

楽しくて仕方ない!

「あーるいて~、いこ~う~。うふふふふ~。あーるいて~え~」

のんびり歩いていたが、明るいうちに目的の村に到着した。

粗末な小屋がまばらに見えるようになると、向こうからサールを見つけた。余所者がこんな辺境に来る事はないので目立つのだろう。

誰だと警戒するような老人に、サールは笑顔を返した。

「こんにちは」

「誰だ、おめえ。何しに来た」

「ある食材を探しに。しばらくこの村に滞在してもいいですか?」

「食材? こんな田舎、なんもねえぞ?」

「大丈夫です。必要な物は自分で調達します。テントも持ってますし。空き地に張ってもいいですか? あ、ちなみに薬師もどきですので、薬が必要ならお声がけ下さい」

「薬師……?」

「免許は持ってないですけど勉強はしたので。はい」

「……好きにすればいいさ」

「ありがとうございます」

頑固そうな老人に許可を得たので、何となくこの辺だという場所にテントを張った。

日が暮れてきたのでよく見えないが、明らかに廃屋だという建物がちらほら見える。過疎化が進んでいるのかもしれない。

取りあえず軽い夕食を摂った後、すぐに寝た。

翌朝、さっそく探索してみた。

村外れには広い荒れ地があり、遠くに放牧中らしい牛と馬と山羊が見える。国境の山脈があるので、緩やかな傾斜になっていて見晴らしがいい。そんなに背が高くない植物ばかりなのは、家畜が草を食んでいるからだろう。

サールは足元ですぐに目当てのモノを見つけた。複数の茎に実をつけて重そうに頭を垂れているソレ。頭の中の画像はそれなのだが、何かが違うと『勘』がいう。

「うーん……」

とりあえず食べられるようにしてみるかと、数本ナイフで刈っていたら、昨日の老人が近くに来ていた。

「おはようございます。この辺の草を取らせて貰ってもいいですか?」

もう刈ってしまった後だが笑顔で尋ねると、老人は眉間に皺を寄せている。

「それは家畜の餌だ。牛もそんなに食わんから残っとる。マズイぞ」

「食べてみようとした事はあるのですね?」

「そりゃあこんな何もない所だからな。飢えは日常だ」

見れば老人はよく日に焼けていたが痩せていた。

遠目でこちらを伺っている子供とその母親らしき女性もいる。他にも老婆、母親と子供がこちらの様子を窺っている。みんな粗末な衣類を着て痩せこけていた。充分な食糧がある村ではないのだ。

目の前の老人が代表となり、余所者サールを監視するようだ。村長のような役割の人なのかもしれない。

「試してみます」

サールはテントの所に帰り、脱穀してみた。誰からも工程を教わっていないが、どうすればいいのか自然と頭に浮かんでくる。

適切な道具がないので手作業だ。平らな石を取ってきて籾すりも試みたが、どうも上手くいかない。

それでも時間はあるので根気よく続けていると、コップ一杯分くらいの量になった。完全に白くするのは無理だったが、何となく頭の中にある形になった。

老人は近くの切り株に腰を下ろし、サールの作業を興味深そうに観察している。

サールはそれを水に浸けておいて、石を拾い集めて竈を作った。小枝も拾い集めて火を熾こす。

王都周辺での採取作業の時から、サールには馴染んだ作業だ。薬師のタイムンと仲良くなり、一緒に採取に行く時に教わった。少し遠出をする事もあったので、簡単に火を熾せる道具にも使い慣れている。

サールが頭の中に浮かんできた工程通りにソレを『炊いて』いると、老人は驚いたようだ。

「ただ煮る……んじゃないのか?」

「違うと思う。僕もよく知らないんだけど」

「知らないって……」

「何となく、だね」

蓋をした小鍋を竈で炙り、中から水が噴き出さないよう気をつけながら沸騰させる。しばらく火にかけて、このタイミングかなというところで下ろし、そのまましばらく置いておく。

「食べないのか?」

「まだ駄目だね。蒸らさないと」

「蒸らす……」

老人はサールのする事が珍しいようで張りついていた。

サールがもういいかなと蓋を開けたら、仄かな匂いと湯気が上がった。

水分を含んだのでコップ一杯分よりも多めに見えるソレに、サールは塩をまぶした。スプーンで掬い、ふーふーと息で冷ましながら口に入れて一言。

「うん。不味いね!」

にっこり笑うと、老人の目が真ん丸になった。