軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9 躾?

「ねぇ、ベスに蜂蜜を出してあげてくれないかしら?」

台所で両手を合わせて、クララにお願いする。

「お嬢様、ベス様が可愛いのはわかりますが、あんまり子どもに甘い物ばかり与えるのも良くないんですよ。癖になりますしね」

私たち3人を育てたクララの言葉には、説得力がある。

「勿論それはわかってるわよ。でも、ちょっと可哀そうで」

帰る道中、色々話しかけたが、ベスの気分が上がることはなかった。

少しでも気持ちが晴れるかなと、好物の蜂蜜を朝食に出そうしたところクララに止められてしまった。

「第一、ベス様が元気がないってどうしたんです?」

「ああ、それはね・・・」

クララにかいつまんで事情を話すと、途端に目を吊り上げた。

「あの馬鹿息子が!」

「あ、いや、セオドアも仕事だから」

「いいえ!子どもに約束したことを大人が守らないでどうするんですか!全く!」

「まあ、でも、セオドアだって悪気があったわけじゃないし・・・」

まさかそんなにクララが怒るとは思ってもみなかった。

そんなに責めないであげてほしい。

それに帰ってきたら約束を果たすと言ってたし、ギリセーフではないだろうか。

「何を言ってるんです?ご自分が小さい頃に旦那様に約束を反故にされたと拗ねて、3日間も口を利かなかったお嬢様が言えることですか?」

(すみません、覚えていません・・・)

「子どもにとっては、約束は絶対なんです。それを破るなんてありえません。信頼関係が崩れますからね。お嬢様も子どもを持つようになるでしょうし、よく覚えといて下さい」

(残念ながら、私にそんな未来はございません・・・)

だが事情をわかってくれたクララは、朝食に蜂蜜を出すことを許してくれた。

そんなわけで、ベスには蜂蜜をたっぷり載せたハニートーストとチーズオムレツ、ポトフが提供された。

おまけに予定になかったヨーグルトもつけて、蜂蜜をかけておいた。

アルバート様が献立を見て、何か言いたげだったが無視することにする。

「蜂蜜って本当に美味しいわね。私、大好きだわ」

多少ご機嫌は直ったらしい。ベスが嬉しそうに頬張る。

それに動いてお腹も空いたのだろう。

ポトフをおかわりするなど、驚くべき食欲をみせた。

昨日食欲のなかったアルバート様も、残すことなく食べている。

(二人とも体調は良さそうね)

少しホッとする。

「ねぇねぇ。アンナのお家のポトフって、お野菜が大きいのね」

「あら、そうかしら?」

「ええ。私のお家はこれくらいよ」

ベスが人差し指と親指で3センチくらい幅を作る。

(ベスが食べやすいようにカットしてあるのか、それか上品な家庭かもしれないわね)

朝寝坊したこともあって、ものすごく適当に切ったから、確かに野菜は私の口でも大きかった。

煮込めば柔らかくなるからいいかと思ったが、ベスのためには小さくした方が良かっただろう。

(でもまぁ、作った物は仕方がないわよね)

多めに作ったから、ついでに昼食にも出す予定だ。

私は基本、大雑把なのだ。

「食べ応えがあっていいかな、と思って。でも食べにくかったかしら?今度から小さめに切るわね」

ごめんね、と謝っておくと、ベスはうんうんと頷く。

「ええ。その方が食べやすくていいと思う」

その瞬間、アルバート様が厳しい声を出した。

「ベス。作ってもらったのに文句を言ってはいけないよ」

「え、いや、別にベスは文句を言ったわけでは・・・」

確かにちょっと上から目線でムッとしたが、子どもの言うことだ。

気にするほどのことではない。

「文句だろう。お母様たちからも言われてないか?人からしてもらったことには、まず『ありがとう』だ。ケチをつけるなんてことはしてはならない」

「・・・・・・ごめんなさい」

小さな声でベスが謝る。

腕を組んでベスを見ていたアルバート様がため息をつく。

「私にではない、アンナにだ」

「・・・ごめんなさい、アンナ」

「えっ、あら、いいのよ。別に気にしてないし」

(せっかくベスの機嫌が良くなったのに)

言いたいこともわかるが、ちょっとアルバート様は、ベスに厳しすぎやしないだろうか。

おかげで食堂の空気も悪い。

だからといって、他所の家庭の教育方針に口を出すほど私も偉くない。

ましてや私より身分の高そうなアルバート様には何も言えない。

私にできるのは、ベスと遊んであげることだけだ。

「そうだ、ベス、刺繍をする約束をしていたわよね?」

「え、ええ」

「朝ご飯を食べ終わったら、一緒に刺繍をしましょうか」

「あ、うん」

「丁度ね、家に綺麗な刺繍糸がたくさんあって。ベスの好きな色を選んでいいからね」

「ありがとう。じゃあ、刺繍をしようかな」

ようやくベスが笑顔を見せてくれる。

(良かった。少し元気がでたかしら)

食後の紅茶を持ってきたタイラーが口を開きかけてから閉じたが、これもまた気付かない振りをすることにした。