軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29 補助金

「セオドア、お待たせ!」

セオドアが待っているはずの野原に着いたら、ベスとセオドアは野原を転がりながらじゃれあっていた。

こうして見ると、仲の良い兄妹にしか見えない。

「おうっ!」

私たちに気が付いたセオドアが走ってきてくれた。すぐ後ろにベスも付いてくる。

「セオドア、先ほどは・・・」

神妙な顔で謝ろうとするアルバート様に、セオドアが軽く手をあげる。

「別に気にしてねぇよ!俺こそ悪かったよ。すぐ頭に血が上ってしまうんだ。ごめんな」

「・・・・・・わかった」

「それより騎士団について教えて欲しいんだけどさ・・・」

セオドアは私を無視して、アルバート様の袖を引っ張って隅でこそこそ話し始めた。

(確かに騎士団の話なら私は関係ないけど、その前に二人の仲を心配した私に一言ぐらい何かあってもよくない?)

二人ともあまり引きずらない性格なのか、普通に会話をしている。

(男の人ってこういうものなのかしら?)

私の扱いも含めて多少解せないが、元通りになったのならまあよしとしよう。

ぼんやりと二人を眺めていると、ベスが私のスカートを引っ張る。

セオドアと野原を転がっていたからか、ワンピースのあちこちに草の汁がついている。

(これは洗濯が大変ね・・・)

草の汁をつけて帰るたびに、お母様が怒っていたのを思い出す。

(あの時は、こんなことで怒るなんて心が狭いと思ってごめんなさい。今、身を持ってお母様の大変さがわかりました)

心の中で合掌する。

でもきっと楽しかったのだろう。

ベスの目は、きらきらと輝いている。

「ねぇ、これ見て!おしろいになるのよ!!塗ると顔が白くなるの!!」

ポケットからオシロイバナの種を見せてくる。

「あら、懐かしい」

「アンナは知ってた?」

「ええ、子どもの頃、よくこれで遊んだわ。種だけじゃなくて、お花もね」

「お花も?」

「そうよ。爪を赤く染めることができるのよ」

オリバーが、昔の女性はこのオシロイバナで爪に色をつけていたと教えてくれた。

早速庭に咲いていたオシロイバナを摘んで、教わったように花びらを爪に擦りつけるように塗ったが、量が足りなかったのかあまり綺麗に染まらなかった。

がっかりしている私に、セオドアとオリバーの二人が山ほどオシロイバナを摘んできてくれたのはいい思い出だ。

「私、お花をとってくる!!」

「あ、でもそんなに濃くは染まらないのよ、うす~くピンクになるだけよ」

走るベスの後ろ姿に声をかけるが、はたして聞こえているのか。

ベスは、花の匂いを思いっきり嗅いでから、熱心に花を摘み始めた。

「君は本当に色々なことを知っているな」

セオドアとの話が終わったのか、アルバート様が話しかけてきた。

「そうですか?小さい頃から野山で遊んでいただけですよ。ただ、オリバーは違いますけどね。あの子は本当によく物を知っているんですよ」

「本の虫だからな、あいつは」

そう揶揄しながらも、セオドアもどこか誇らしげだ。

小さい頃体調を崩しがちだったオリバーは、本の虫でもあり薬オタクでもある。

オリバーからは薬草、毒草の話をよく聞いた。

「例えば、今ベスが摘んでいるオシロイバナですが、昔は下剤として使われていたみたいですよ。今は量を誤ると危険ということで、使用禁止になっているそうです。まあ、毒が強いんでしょうね」

オシロイバナは植物全ての部分に毒性がある。

用量を誤れば、嘔吐や腹痛、激しい下痢を引き起こす。

「・・・知らないって恐ろしいな」

「でしょう?後でベスに口にしないよう、注意はしておきますけど」

「そうは言っても、食べることはないだろう」

「わかんねぇぞ。さっき、真剣に種を眺めてたぜ。飲みこもうと思ったら、簡単に飲み込めるからな」

「・・・・・・私からも注意しておこう」

(まさかとは思いつつも、アルバート様も不安になったのね)

「本当に子どもは何でも口にしますからね。私は昔、山でサルナシを食べてお腹が緩くなりました」

「サルナシ?」

「この時期に生えてますよ。このくらいの緑色の小さな実、知りません?」

このぐらいのサイズだと親指の先を見せてみる。

「いや、知らないな」

(貴族はそんなの食べないわよね)

「毒なのか?」

「いいえ。美味しく食べられますよ。ただ食べ過ぎると口の中が痛くなったり、お腹が緩くなったりします」

つまり食い意地が張っていた私が悪い。

ただ、隣にいるセオドアも食べ過ぎてオリバーに怒られていた。

アルバート様は、何がおかしいのか肩を震わせている。

「オリバーが言うには、サルナシの生きるための戦略なんですって。色々な場所に種を運んでもらうために沢山の動物に食べさせたいからだそうです」

独り占めは許さないということだ。

「あいつタンパク質だの酵素がどうのだと、なんか難しいこと言ってたよな?」

「なんか言ってたけど、覚えてないわ」

理論はわからないが、それからサルナシを食べるのはほどほどにした。

アルバート様が感心するように、頷いている。

「そんなに賢いなら、オリバーには奨学金をだして留学させたいな」

「奨学金?それって何ですか?」

「ああ、知らないのか。1年ほど前かな。国が外国に留学する優秀な学生にお金を援助する制度ができたんだよ」

「へぇ、そんないい制度があるんですね。早速オリバーに教えます」

そんな制度があるなら、オリバーも学院を卒業したら留学できるかもしれない。

もっと勉強ができるとあの子なら喜ぶことだろう。

だが、アルバート様が眉を顰めながら私を見てくる。

「・・・通達は見ていないのか?国から各領主に半年ごとに文書で通知されているはずだが」

「・・・・・・・・・・領主になったのが半年前なので、ちょっとわかりません」

正直見た記憶がない。

お父様は急に亡くなったから、当然引き継ぎも何もない。

(そんなのあったかしら?お父様はご存じだったかもしれないけど)

「・・・知らないということは、君たちは補助金は申請しなかったのか?」

『補助金?』

「ああ、4年前の嵐の被害は大きかったから、国が堤防の修理等に係る費用は補助金を出している。もし、工事の計画書と領収書が残っていれば、5年以内になら申請できる」

『!!!』

セオドアと顔を見合わせる。

「ただ、工事費用の半分くらいだが」

「半分も!!!」

それだけ補助金をもらえれば、今の借金はほぼ返せるのではないだろうか。

今までせめて利子を減らそうと、繰り上げ返済をするために爪に火を灯すように生活してきた。

元本を減らすため、少しずつ貯めては返し、貯めては返しを繰り返してきた。

(借金が返せるかもしれない!!)

手に汗が滲む。

「それに10~30万ゴールディぐらいだが、家が全壊した者、半壊した者には見舞金も出たはずだ」

「えっ、えっ、えっ?」

あまりのことに声が出ない。

現金収入の少ない領民にとっては、大金だ。

あの被害からまだ4年。

うちから被害補償金を出したとはいえ、生活が苦しい者もまだ多い。

皆の喜ぶ顔が浮かぶ。

「勿論、証拠となる書類は必要だが」

「あ、あ、あ、あります、あります、あります!」

貧乏性で物が捨てられないことが役に立った!

全て書庫にしまっているはずだ!!

「セオドア!!」

「アンナ!!」

二人で両手を繋いで、跳びまわる。

「ちなみに、王道の整備も補助金の対象となる」

「じゃ、じゃあ、さっき私がノアに頼んだ補強工事って・・・」

「対象になるだろう。勿論、今日の工事についても補助金の対象になる」

「セオドア!やったぁ~!!!」

「アンナ!良かったな!!」

嬉しさのあまり、思いっきりセオドアに抱き着く。

(やったわ!!これで貧乏生活からおさらばよ!!!)

勢いよく抱き着いたのが悪かったのか、セオドアが私を抱いたまま地面に倒れる。

「あ、ごめん、セオドア!」

セオドアが地面に勢いよくぶつかってしまった。

「おいっ!大丈夫か!?」

下敷きになったセオドアを心配して青ざめたアルバート様が、慌てて引き剥がしてくれた。

(すみません・・・)

◇◇◇

「本当に大丈夫か?」

心配そうにアルバート様が私を気遣ってくれる。

「あ、私は大丈夫です。被害を受けたのはセオドアなので。ごめんね、セオドア」

上目遣いでセオドアの様子を伺う。

私はセオドアが庇ってくれたので全く怪我はない。

ただセオドアは私の下敷きになったせいで地面にぶつけたのか、耳が赤くなっている。

アルバート様がコホンと咳払いする。

私たちが地面に座ってるせいで、余計アルバート様が大きく見える。

威圧感がすごい。

「怪我でもしたら大変だから、今後は気を付けるように」

「はい・・・」

「ま、俺は平気だけどね」

あさってを向きながら、セオドアがうそぶく。

(重いのにごめんね。ありがとう、セオドア)

「さて、喜ぶのはまだ早い。申請期間は被害を受けてから5年だ。あと1年を切っている。国も詐欺を防ぐために書類審査をするから、早めに申請しないと間に合わなくなる」

まるでアルバート様が先生みたいに説明する。

『はい!!!』

「今度の工事分は後回しでも大丈夫だが、問題は4年前の嵐の分の工事費用だな。アンナ嬢、書類は残っているのか?」

「ええ!!」

勢い込んで返事したが、多少不安はある。

基本整理整頓は苦手なので、怒られる前に先に申告しておく。

「あ、あの、捨てていない自信はあるのですが、探さないといけないかもしれません」

アルバート様が目を細めるが、お父様と私の整理整頓能力は信用してはならないことを私は知っている。

「じゃあ、急いで帰ろう。良かったら私も書類を作るのを手伝おう」

「え、あの、いいんですか?アルバート様は関係ないですよね?」

アルバート様が苦笑いをする。

「こんなに世話になっているのだから、そのお礼だよ。これぐらいさせてくれ」

(何ていい方なの!)

アルバート様には、感謝しかない!

良かった、良かった、本当に良かった!!

人生上向いてきた!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・多分?