軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27 続 セオドアの思い

「セオドア、どう?」

突然ベスに声をかけられてびっくりする。

「あ、ああ、ベスか。ごめんごめん。どうした?」

「沢山採ったわ。これくらいで足りるかしら?」

ベスのポケットは、種でいっぱいになっていた。随分と頑張ったらしい。

「ああ、じゃあ石をみつけよう。二つ、な。一つはなるべく平べったいのを探した方がいいな」

「どうして?」

「石の上で割らないと、種が硬いから割れないんだ」

「本当ね。セオドア、これとっても硬いわ」

呆れたことにベスは、手で種を二つに引き裂こうとしている。

「そりゃ硬いだろ。春が来るまで自分の身を自分で守らなきゃいけないからな」

「植物って大変ね」

「そりゃそうだ、人間みたいに親が守ってはくれないからな」

ベスが石を持ってきて割り出した。

不器用なのか、それとも力が弱いのか、なかなか種を割ることができない。

硬い殻は、子どもを守ろうとするせめてもの親のプレゼントなのかもしれない。

(俺がアンナを守ろう)

アンナの婚約が決まった時、俺はまだ13歳だったが心に誓ったのだ。

ヘンリーとの婚約は絶対だ。

でも、もしアンナが逃げたいと思ったら?

責任感の強いアンナが逃げるなんてあり得なかったが、もしそうなった時は俺が連れて逃げる。

所詮は子どもの浅知恵だが、俺はその時に備え、必死に剣の稽古をした。

それを剣で身を立てたいに違いないと勘違いした旦那様が、声をかけてくれた。

『騎士団の入団試験を受けてみるかい?』

住み込みの使用人にそんなことが許されるのかと驚く俺に、旦那様は優しく言ってくれた。

『騎士団の入団試験はかなり難しいんだ。もし受けるのなら剣の稽古だけでなく、勉強も必要になるよ。だけど騎士団に入れば、一年目から給料も出るし、必要な知識や技術も教えてくれる。オリバーが卒業するまではうちにいてもらわないと困るけど、オリバーが戻ればセオドアの好きにしていいよ』

試験に必要そうな本は、全て貸してくれた。

勉強がわからなくて困っている時は、さりげなく側に寄って教えてくれた。

大恩ある旦那様のためにも、俺はアンナを守らなければならない。

「ほらっ!出来たわ!」

ベスが俺の腕をゆすって、見ろと言わんばかりに種を指さしている。

どうやら種がようやく割れたらしい。

ベスに無残に打ち砕かれた殻の中から、白い粉が出ている。

粉が風で飛ばないようにそっと指先につける。

「これを手に付けて、顔に塗るんだ」

ベスに塗ってやろうとして、おしろいもいらないほど綺麗なベスの白い肌に気付く。

「あー・・・、俺がつけるわ」

「えぇ?なんで?」

「ちびちゃんがつけても、鏡がないから自分で見えないだろ。俺の方が日焼けしてるから、わかりやすいはずだ」

そう言いながら、顔につけて見せてやる。

よく見ようと顔を近づけたベスが、びっくりしたように声を上げた。

「あら!セオドアの瞳って紫色なのね」

「ああ。そうだよ」

俺の瞳は紫黒だ。

ほとんど黒に近い。だから近づかないとわからない。

「髪が黒いから、瞳も黒かと思ってたわ」

ベスは面白いと思ったのか、両手で俺の顔を固定しながら興味深げに俺の顔の観察を始めた。

間近に顔を寄せてくるのは、正直止めてほしい。

「ねぇ、セオドア、ほっぺのところに何かついてるわ」

「えっ、何だろ?」

手で擦ってみるが、特に何かがついているとういう感触はない。

「取れたか?」

「ううん、取れない。あら、鼻にもあるわ。茶色の小さいつぶつぶ」

「ああ!これはソバカスだ!別にゴミでも汚れでもないさ」

「そうなの?」

ソバカスは冬は薄くなるから目立たないが、夏は紫外線が強くなるため色が濃くなって目立つ。

身長と共に、俺のコンプレックスだ。

「ああ、じゃあ、ソバカスの上に塗ってくれ。そうしたら綺麗になっていいだろ?」

「わかったわ。じゃあ、ソバカスがたくさんあるから、もっと割らないとダメね」

ベスがポケットから種をあるだけ出して、真剣な表情で種を割っていく。

慣れてきたのか、割るスピードが早くなってきていた。

(大人に言われると腹が立つのに、子どもに言われても腹は立たないんだよなぁ)

純粋だからなのか、単に自分より弱い生き物と認識しているからなのか。

そんなベスの横顔をしみじみと眺める。

ベスの白い肌には、サクランボのように赤い唇がのっている。

(そう言えば、この間アンナも初めて口紅塗ってたな)

オリバーからもらった口紅をアンナは後生大事に机にしまっていた。

一人の時に取り出して、こっそり嬉しそうに眺めていたのを知っている。

もったいないから使えないと言いつつ、婚約破棄された翌日のアンナの唇は赤かった。

あの時のアンナの心境は、女心に疎い俺にはわからない。

たまたま偶然だったのか、何かを変えようとしたかったのか。

落ち込んでいるアンナを見て心は痛んだが、最低くそ野郎のヘンリーと別れられて、結果的には良かったと俺は思いたかった。

そして自分勝手かもしれないが、ようやく俺にもチャンスが回ってきたと喜んだ。

(アンナに求婚できるかもしれない・・・!)

春からは騎士団に入団する。

実力主義を謳う騎士団でも、身分主義が蔓延っていたが、俺の面接をした隊長は平民だったし、団長は子爵の出だと言っていた。

出世の糸口がないわけではない。

金、身分、名誉。

どれか一つでも手に入れたら、アンナに求婚できるかもしれない。

今はアンナに弟としか見られていないが、もし俺が騎士として立派になって戻ってきたらどうだろう?

もしかしたら、男として見てくれるかもしれない。

「頑張ろう!」

思わず声にでてしまったら、ベスが満面の笑みで見上げてきた。

「ええ、頑張ったわ!!」

見れば石の上にはこれでもかと白い粉が積まれている。

その周りには、黒い種の殻が気持ち悪いほど散乱していた。

(どれだけ割ったんだよ・・・)

やり始めたらとことんやる。

やっぱりベスはオリバーに似ている。

「さあ、セオドア、こっちに来て顔を近づけて」

おいでおいでと手招きされる。

「おしろいを塗るから、目を閉じてね」

まるで俺を小さい子ども扱いだ。

でも気分は悪くなかった。

仕方なく目を瞑ると、ベスの小さな手が長い時間をかけながら丁寧に俺におしろいを塗っていく。

「できたわ!」

「おう、どうだ?」

ベスは一歩下がって、俺のおしろいを塗った顔を検分する。

「う~ん」

「う~ん?」

あれだけ時間をかけて、感想がこれだとがっかりする。

「どうした?ソバカスはあんまり隠れなかったのか?」

「ううん、隠れているわ」

「じゃあ、何でう~ん、なんだ?」

ベスは顎に手をあてて、俺の顔を再びじっと見る。

「なんか、セオドアじゃないみたい。綺麗なお人形って感じ」

「はぁ?」

「うん。セオドアはソバカスがないとセオドアじゃないわ」

一人でうんうんとベスが納得している。

(お前、さっきまで俺のソバカスに気付いてもいなかったよな?)

ソバカス一つで、そこまで顔の印象が変わるものなのだろうか。

「何だよ、それ?」

俺の顔が普段と違うのがよほど嫌だったのか、ベスがずんずんと近づいてくる。

「だからおしろい、取ってあげるね」

ベスが手でおしろいを落とそうとしてくる。

「あっ、こら、やめろ、せっかく塗ったんだろう?俺は今日このままでいいよ」

どうせなら、アンナに見せてみたい。

仕上がりがどうなっているかはわからないが、アンナは何かしら反応してくれるだろう。

あいつを慰めに行ったアンナに、少しでいいから俺のことを見て欲しかった。