軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25 セオドアの元へ

「セオドア!どこに行くの!?」

私の声を無視して、セオドアはどんどんスピードを上げていく。

(あの、馬鹿っ!ベスもいるのに!!)

「申し訳ありません!私、ちょっと後を追いかけてきます」

同じくラバの腹を蹴り、スピードを上げる。

だがセオドアだって、ベスがいるのをわかっているのだろう。

セオドアが本気を出せば風のように速いが、ベスを乗せているからかスピードはそこまで出していない。

(よし!まだ冷静さは残っているわね)

自分より小さい子がいる時は、セオドアは絶対に無茶しない。

昔からそうだ。

強い者には喧嘩を売る癖に、自分より弱い者がいる時は守りに徹した。

ラバでは心許ないが、何とか追いつけるだろう。

(ベスがいてくれて良かった・・・!)

必死にラバの腹を蹴り、何とか追いついた。

「もうっ、待って。セオドアったら。アルバート様、謝っていたでしょう?」

セオドアは無言だ。

眉を寄せ、痛いほどに唇を噛みしめている。

怒っているのか、悔しいのか、はたまた悲しいのか。

子どもの頃、喧嘩をした後によく見せた表情だ。

(本当にセオドアは昔から変わってないわね)

思わずため息が出る。

「ちょっと、頼むから怒ると黙る癖はいい加減やめて?アルバート様の味方をしたから怒ってるの?私だって立場があるのよ?」

「・・・・・・別に怒ってねぇよ。アンナの立場くらいわかってるさ」

「じゃあ、アルバート様に怒ってる?言い方は気に入らないかもしれないけど、アルバート様も間違ったことは言ってないのよ」

ただ、アルバート様の言うことは正論だが、それと気持ちは別だ。

私だって正直ムカついた。セオドアが言わなかったら、私が怒鳴っていたかもしれない。

「・・・・・・わかってるよ。あいつに悪気がないことなんて。でも、お前の努力と我慢をなかったように責められるのは我慢できねぇよ」

(・・・・・・怒ったのは私のためね)

ため息をつく。

セオドアは短気だが、本気で怒る時は私やオリバーのためだけだ。

それがわかっているから、強くは叱れない。

「・・・ありがとう。でもいいのよ、私は。だってセオドアがわかってくれてるでしょう?」

近づいて顔を覗き込めば、ふぃっと顔をそらされる。

セオドアの口は、引き結ばれたままだ。

一旦こうなるとセオドアはしゃべらない。小さい頃からだ。

ベスがラバに例えられた時は笑ってたくせに、自分だって同じだ。

すごく頑固。

「・・・・・・お父様のことも、ありがとう。そんな風に思ってくれていたなんて嬉しいわ」

父のことは大好きだが、領主としての評価は世間一般では低い。

「俺だけじゃないさ、皆、そう思ってるよ」

・・・教育というのは、目に見えにくい。

成果が出るのは、10年後。いや、20年、30年、それよりもっと後かもしれない。

どれだけの者が、セオドアのようにわかってくれているだろう。

ため息をつきながら見れば、セオドアの背中が心なしか、小さく丸くなってるような気がした。

きっと心では言い過ぎたと反省しているのだろう。

そんな背中を優しく叩く。

「怒ってくれて、ありがとうね。多分、セオドアが怒ってくれなかったら、私がキレてた。怒鳴るセオドアを見て、冷静になれたのよ」

あの時私が怒鳴っていたら、貧乏子爵家が王都の貴族に喧嘩を売ったと大問題になっていただろう。

「さっきマシューも言ってた。セオドアはいい右腕になるだろうって。いつも助けてくれてありがとう」

「・・・・・・別に」

顔はまだ見てくれないが、返事はしてくれた。

「私、頑張るから、これからも一緒にいてくれる?」

「・・・当たり前だろ」

ようやくこちらを向き、私を見てくれた。

「俺がお前から離れたことがあったかよ。ずっと一緒だ」

セオドアの言葉に涙が出そうになる。

これから大人になって、離れ離れになるのはわかっているが今はその言葉が嬉しい。

「ありがとう。私もセオドアを大事にするわ」

それから、セオドアの腕の中にいるベスを見る。

可哀そうに、気まずい空気を読んでずっと大人しくしている。

どうしていいかわからず、何も言えなかったに違いない。

「でも、あんまり怒らないで。私もだけど、ベスも心配してるわ」

ベスが不安そうにセオドアを見上げていた。

大人の喧嘩に巻き込まれたベスのことも少しは考えてあげてほしい。

「あ、ごめんな、ベス」

ベスの存在を思い出し、ようやく少し自分を取り戻せたらしい。

顔つきが元に戻ってきている。

「・・・・・・喧嘩しないで。私、おじ様もセオドアも好きよ」

ベスの可愛い言葉にセオドアも反省したらしく、もう一度唇を噛みながらうなだれている。

「仲直りして、ね?」

ベスが願うように、潤んだ瞳でそっとセオドアの手に自分の手を重ねた。

(これで頷かなかったら、本当に怒るわよ!)

「・・・・・・あーあ、ちびちゃんに言われたら、しょうがないよなぁ」

ようやく顔を上げ、前髪を後ろに流しながらセオドアが苦笑いする。

一度首を振ると、幾分すっきりとした表情で私に言ってくれた。

「あいつのとこ、戻ってやれよ。多分一人で反省会してるぜ」