軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話「私は颯爽と去りますわよ」

ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

私は今!私を陥れたかのピンハネ嬢に!こう言ってやりましたのよ!

『裏切りましたわね!?』と!

……つまり!私は!

衆人環視の中で、『このピンハネ嬢と手を組んでいた』と、公言したのですわーッ!

「えっ」

ピンハネ嬢がきょとん、としていますけれど、その手のナイフは私の腹部に突き刺さる前に私に止められていてよ!

武道大会で毎回ぶっちぎりの優勝を重ねていた私にとって、この程度の攻撃、止めることなんて造作も無い事でしてよ!

……でもきっと、硝子の向こう側からは、私が刺されたように見えるでしょうね。それぐらいギリギリまで引き付けてから止めてやりましてよ。

「え、あ、手が動かな……」

これは予想外だったらしいピンハネ嬢の耳元でそっと囁いてやりますのよ。

「お忘れですの?私、ドラゴンを1人で殺せる女でしてよ?」

これにはピンハネ嬢も真っ青ですわね。ええ。

だって私、ピンハネ嬢の待つカウンターへ、何度もドラゴンやワイバーン、その他獰猛な魔物の死体を運びに運びましたもの。私の腕をようやく思い出したようですわね。

ドラゴン殺しの私ですもの。トーシロの細腕1本、十分に押さえこめますわ!

身を屈めて、まるでナイフが腹部に刺さったかのように振る舞いながら、私はピンハネ嬢の手を止めて……それから、一気にピンハネ嬢を蹴り飛ばしましたわ!

ついでにナイフを奪い取って、あたかも腹にぶっ刺さったかのように演出しつつ放り捨てますわ。

カラン、と音を立てて床を滑ったナイフは……赤く彩られていますのよ。

何で、ってそれは当然……淫魔の血で、ですわ!

予備に持ってきておいた淫魔の血も、今は単なる血糊としてふんだんに使ってやりましてよ!

「……くっ」

私はその場でわざとらしく膝をつき蹲って、民衆に上手く隠れるようにしながらそっと懐から淫魔の毒の瓶を取り出して袖に隠し、準備万端にしておきますわよ。

「よくも裏切ってくれましたわね……でもこの程度で私を殺せるなんて、思わないことよ!」

そして立ち上がった私は、同じく立ち上がったピンハネ嬢を睨みつけて啖呵を切りますわ。中々に舞台映えしますでしょう?

ちなみにこの間も刺された設定の腹部は押さえっぱなしですわ。赤いドレスを着ていますから、血が常時出ていなくてもそうそうバレやしませんわ。ドレスと足元に少々血糊を散らしておけばそれで十分でしてよ。

「う、裏切った……?なんのことですかぁ、私はただ、悪い人を、やっつけようと思ってぇ……」

「ええ。あなたから見ればこれは裏切りでもなんでもないのでしょうね……。私に王家の情報を流す傍ら、どうやら貴族側にもついていた、という事のようですから。あなたは最初から、私と目標を共にする気はなかった。そうじゃなくって?」

『悪い人をやっつけようと思って』なんて稚拙なことしか言えないようなピンハネ嬢に、咄嗟の弁明もできるわけがありませんわ。それにこういう疑いって基本的に掛けたもん勝ちですのよ?

ほら。硝子の向こうで民衆も兵士も、ぽかんとしてピンハネ嬢を見ていますわ。

「この国が腐敗から脱出するには、完全に新しい権力が必要ですわ。王家が潰えても、その代わりに第二第三の王家となるような、腐った貴族が居座ったなら、この国は何も変わりませんの」

唐突にそう語り上げてやれば、ピンハネ嬢はますますぽかんとするだけでしてよ。でも、ここでぽかんとしていたことが、あなたにとって最大の悪手ですわ。

「でも確かに、あなたが利益をむさぼるだけなら、裏で王家の破滅を願っている貴族達の言う事を聞いた方がいいでしょうね!理想も信念も捨てて、王家も私も裏切って、それでつく先が金だけの貴族ですって!?恥を知りなさい!」

毅然としてピンハネ嬢を糾弾する私。

全く身に覚えのない内容で、黙って糾弾されているピンハネ嬢。

……民衆がどちらを信じるのかなんて、明白じゃなくって?

「いえ……あなたは最初から、理想も信念も、持ってはいなかったのね。エルゼマリンのギルド側について、私を売ったあの時から、何も変わってはいなかった!なら、私がやることも同じですわ!ここであなたを始末します!この国の、未来のために!……未来の聖女に手出しはさせませんわッ!」

適当ぶっこきながら、私、ピンハネ嬢へと襲い掛かっていきますわ。

「な、なんなんですかぁ……!やめてください!」

私が腹部の傷を庇いながらも徒手空拳の構えをとったのを見て、ピンハネ嬢はいよいよ混乱して怯え始めましたわ。

とりあえず、『自分が何か不味い状況に陥っている』ということだけは分かったようですわね。もう遅いですけれど。

「来ないで!ぶ、武器はまだあるんですよぉ!?」

「ええ、刺したきゃ刺しなさい!それとも、背後からの不意打ちじゃなきゃ刺す度胸もありませんの!?……参りますわッ!」

ピンハネ嬢は『ハッタリ』で懐に手を突っ込んでいましたけれど、その手が何も握らず外に出てくるより先に私は一気にピンハネ嬢へと距離を詰め……ピンハネ嬢へタックルかましてそのまま揉みあいますの。

……武器の心配はしませんわ。だって、こいつが2つ目の武器を持っているなんて思えませんもの。

大方、1発目のナイフだって武器として持っていたのではなくて、『聖女』としてのアクセサリーとして持っていたのでしょう。ナイフは魔除けの意味がありますし、聖銀もやっぱり魔除けに使われますわ。真っ白なドレスを着たピンハネ嬢には、確かに聖銀のナイフは似合うことでしょうね。

というか、武器をちゃんと用意してくるのなら、聖銀のナイフにしても、もう少し刃渡りがあってチャチじゃない奴持ってくると思いますわよ。ええ。

……ですから、ただ偶々アクセサリーとして持ち合わせていただけのチャチなナイフ1本に、『次』なんてありませんの。彼女はハッタリかましただけですわ。

まあ、ハッタリじゃなかったとしても、このタイミングで襲い掛かりましたけれど。

だって、あまりにも好都合じゃありませんこと?

『武器はまだあるんですよ』なんて。

まるで、これから淫魔の毒を垂れ流そうとしているかのように聞こえますわ。

私はピンハネ嬢と組み合って、さっさとピンハネ嬢を床に倒してしまいましてよ。

そのままピンハネ嬢を押さえこもうとしつつ、しかし腹部の傷を庇うために上手く力は入れられず。そうして揉みあいながら、それでも徐々にピンハネ嬢は劣勢になっていき……。

そして、私が床に転がっていた聖銀のナイフを手にしたその瞬間。

「ま、まさかあなたっ……おやめなさい!」

……その瞬間、ピンハネ嬢が懐から取り出したように見せかけて、淫魔の毒の瓶を床に落として割りましたわ。

パリン、と割れ砕けた瓶と、そこから漏れ出て床に広がるピンク色の液体。

そして固まる私と、動けないピンハネ嬢。

静まり返る場内。

……私はじわじわと焦りを表情に浮かべて、叫びますわ。

「ああ!自分をも巻き込んで全員を害する気ですの!?なんてことを……!」

そして、私がそう叫びながらピンハネ嬢と割れた瓶から大きく距離をとった、その直後。

ピンハネ嬢が、びくり、と震えましたわ。

「あ……あぁ……!」

そしてびくりびくりと体を痙攣させたピンハネ嬢は、自分のすぐ横で割れた瓶の中身が気化したものを存分に吸い込んで……遂に。

「あへええあああえええええ!」

盛大にぶっとんじまいましたのよ。

そこから始まったピンハネ嬢の痴態はなんというか、大分ぶっ飛んでましたわ。

恥ずかしいというよりは悍ましいですわ。理性の欠片も感じませんわ。大胆すぎてびっくりでしてよ。硝子の壁の向こう側でも『ひぇっ』ていうかんじの反応ですわ。

「くっ……やっぱりこれを隠し持っていましたのね!自分諸共、この場の全員を道連れにしようだなんて……!ああ、なんと悍ましい……!」

アヘアヘ言ってるだけのピンハネ嬢は反論しませんから、濡れ衣着せ放題ですわね。

「こ、これは一体……?」

「や、やだ……何なんですの、あの方……?」

他の聖女候補達も目の前で繰り広げられるぶっ飛んだ光景に絶句していますわね。まあそうでしょうとも。私も絶句したい気分ですわ。

「あ、ああ……わ、私、どうしたのかしら、なんだか変だわ……?」

「もしかして、私達もあの方と同じようになってしまうの?嫌、嫌よ……」

そしてピンハネ嬢に少し近い位置に居た聖女候補が、ふるふる震えはじめましたわ!遂に淫魔の毒はこの部屋全体へ広がろうとしていますのよ!

「皆さん、こちらへ!」

壁際に避難したキャロルは背後に何人もの聖女候補達を庇いながら、聖水を床に撒いて結界にしましたわ。

……あ、この聖水は本当に聖水ですわ。具体的には、魔を祓う効果のあるものですわね。淫魔の毒を防ぐ効果は、まあまあありましてよ。勿論、『まあまあ』止まりですけれど。

キャロルの指示に従ってキャロルの後ろへ避難した聖女候補達は、無事、結界の効果で即アヘは避けられたようですわね。

一方、キャロルを無駄に敵視して判断を迷った愚か者はその場でどんどん淫魔の毒に侵されて理性を失っていって、自ら痴態を晒し始めましたわ。

そして下手に理性が残っている中途半端な者は、泣きながら中途半端な痴態を晒し始めましたわ。彼女らが一番、硝子の向こうで歓声を上げさせていますわ。やっぱり人間には適度な理性と恥じらいが必要なんですのね……。

「当身ッ!」

さて、私はというと、貴族ではなく、私の敵でもないような娘を優先的に気絶させていますわ。武道大会でぶっちぎりの優勝を重ねた私ですから、ふるふる娘共を気絶させていくくらい訳の無い事でしてよ。

……要は、彼女らには痴態を晒す前に気絶するという権利を与えているのですわ。こうしてみると、私は実に善良な人間に見えますわね。ええ。

まあ実際のところ、硝子の壁の向こう側の注目を私とキャロルとピンハネ嬢に絞るために気絶させていくだけでしてよ。その為に私、気絶させた聖女候補達は手早く身繕いさせてやってから安静に寝かせるようにしていますわ。

「当身ッ!……そこのお嬢さん!あなたは正気でいられますの!?大した精神力ですわね!」

そして私はここで、キャロルに話を振りますわ。キャロルは未だ、結界の中で正気で居ますもの。

予め解毒剤を飲んでいるキャロルはまあ当然ですけれど、毒の効果を受けませんのよ。おほほほほ。

「神への祈りがあれば、このくらいは……!」

キャロルは祈りの言葉を呟きながら、ぴしりと姿勢を正していますのよ。ピンハネ嬢や他の聖女候補達がアヘアヘやってる中、正気で居るキャロルの姿はいっそ神々しくすら見えますわね。

「あら、そう!なら他の方々を優先させて頂きますわ。でもあなたも限界が来たら仰いなさい。その精神の美しさはここで折るにはあまりにも惜しいですもの。優先的に助けてさしあげますわ!……当身ッ!」

キャロルへウィンクを飛ばしつつ、私はまた次の聖女候補を気絶させにかかりますわよ!

そうして私がピンハネ嬢と私とキャロル以外の全ての聖女候補達を気絶させて救った時、キャロルはしっかりと正気を保ってそこに居ましたわ。ピンハネ嬢は相変わらずアヘアヘやってますわ。幸せそうですわね。

「……本当に大した精神力ですこと」

さて、そんなキャロルの隣の椅子に私は座って、ため息を吐きましたわ。

「あなたは……大丈夫なのですか?」

「ええ。傷のおかげで正気でしてよ」

そこで私、血に濡れたドレスの腹部をキャロルに示してみせつつ、またため息を吐きましたわ。

「……まあ、時間いっぱい耐えるくらいは訳無い事ですわ」

硝子の壁の向こうで、民衆は私とキャロルという相成れない2人の会話を見守っているようですわね。一部の人間はピンハネ嬢に注目していますけれど。

「あなたはどうしますの?気絶させて差し上げた方がよろしいかしら?」

「いいえ。その内この毒も薄れてくるでしょうし、耐えられるところまでは耐えるつもりです。それに、話し相手が居た方が、気が紛れるでしょう?」

キャロルはそう言って、私へ素晴らしい笑顔を向けてくれますの。可愛いですわねえこの子。本当に可愛いですわ。そしてこの可愛い子は私が育てましたわ!胸を張って自慢できますわね!

「……あなた、聖女に向いていますわね」

「あなたこそ。この場の皆さんを救ったのはあなたです」

「あら。私、割れた毒の瓶の近くに居るから、なんて理由で裏切り者は助けずに痴態を晒させたまま放置するような悪党ですのよ?それに、あなただって結界を作って他の皆さんを匿ってらっしゃったわ」

投票時間はまだありますけれど、とりあえずもうしばらくはゆったりキャロルとお喋りを楽しめそうですわね。

折角ですから民衆への印象操作も含めて、ここでお喋りさせてもらうことにしますわ。

「……ところで、どうして私を助けたんですの?」

「え?」

「あの時あなた、『危ない』と。そう、仰ったでしょう。あれはどうしてですの?」

「それは……人が傷つけられそうになっていたのです。あなたに知らせるのは、当然のことではありませんか?」

「あら。私、大罪人ですのよ?ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアの名はあなたもご存知じゃなくって?」

……ピンハネ嬢が私を刺しに来た時、キャロルが『危ない』と言ったのは、きっと素の反応でしたわ。単純に、私に好意を向けてくれているキャロルが、咄嗟に役作りなんて忘れて、ああ口走ってしまったのでしょうね。

「……あなたが罪人であろうとも、人であることに変わりはありません。どんな人であっても、傷つけられるべきではない。そう思って……いえ」

でもキャロルはやっぱり、しっかりした賢い子ですわね。

「何も考えませんでした。ただ、あの時はあのように声を上げてしまったんです。理由なんて無くて……傷つけられそうな人が居たら、それが誰であれ、私はあのように行動してしまうんです」

ちゃんと、理由を後付けして、如何にも聖女らしく振舞ってくれましたわ。100点満点の回答ですわね。

「……やっぱりあなた、聖女向きですわね」

私は自分の教え子を、この上なく誇らしく思いますわ。

やがて、ピンハネ嬢は体力が尽きて気絶して静かになって、毒は薄れてきて……そして、時計の針は16時へと迫ろうとしていますわ。

つまり、投票時間の終了。

この硝子の部屋の扉が開き、いよいよ、この中に閉じ込められている大罪人ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアを捕らえんと兵士達が部屋の周囲を厳重に取り囲んで、今か今かと16時を待っているところですのよ。

「さて。そろそろお暇しなくてはね」

私はキャロルにそう言って、それから優雅に椅子から立ち上がって、正面の柱に掛けられた時計を見つめましたわ。

立ち上がった私に兵士達が警戒を強め、その兵士達の背後では民衆が何事かとざわめいているのを見ながら……私は、時計の針が動くのをじっと、待ちますの。

15時57分。58分。59分。

硝子の部屋の周囲一帯で凄まじい爆発が起きて、兵士達が吹っ飛びましたわ。

硝子の部屋は16時になる瞬間までしっかりとその守護の魔法を保ち続けて爆発から私を守り、そして爆発が収まった頃、カチャリ、と音を立ててその扉を開きましたの。お勤めご苦労様、と言ったところかしら。

「それでは皆さん、ごきげんよう!」

私は優雅に一礼して、颯爽と硝子の部屋を後にしたのですわ!