軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25話「もしもーし?聞こえてますことー?」

ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

私、やりましたわ!以前強盗に入ったカスターネ家の屋敷で会った、雷使いの魔法使い!その子に再会しましたので、気絶させて持ち帰ってきましたわ!

「やりましたわ」

「え、何?連れて帰ってきたのかよ」

留守番していたチェスタが不思議そうな顔をしていますけれど、察しが悪いですのね!

「こいつはどうすればいい。とりあえず拘束しておくか」

「そうですわね。ついでに魔封じができれば最高なんですけれど」

「はいはい。一応用意しておきましたよ」

ということで、無事に雷使いを拘束することに成功しましたわ。

「……それで、こいつはどうする?拷問にかけて情報を吐かせるか?」

「まあ、それでもいいんですけれど」

皆さん、察しの悪い事ですわね。

私がこの子を持ち帰った理由はただ1つでしてよ!

「寝返らせましょう!」

そこから審議に入りましてよ。

でもまあ……決め手は『1人は魔法使いが欲しい』というところですわね。

魔法使いは貴重ですわ。何せ、魔力の高さってほとんど血筋と同義ですもの。そして、貴族がアウトローやってるわきゃーねーのですわ。

一般人にも魔法使いができる程度の魔力の持ち主が居ない訳ではないですけれど、どちらにせよ魔法使いが貴重であることには変わりなくってよ。

……そしてまあ、私が多少魔法を使える程度ですから、私達って魔法を使える面子が圧倒的に足りていませんのよね。

魔法を使えると戦略の幅が広がりますの。というか、真の暗殺を目論むなら、魔法って最高の攻撃手段なのですわ。

何せ、武器を持ち込めなくても相手を殺せる!殺しの痕跡が残らない!証拠も魔法使いが調べない限りはそうそう出てこない!最高ですわ!

「まあ、安定して戦える奴がもう1人居た方がいいよな。最近は俺の店に1人張ってもらっちゃってるから、そうするとチェスタ含めても2人しか残らないし」

「3人居るとチェスタが潰れていても安心ですわ!」

「チェスタは何かと使い勝手が悪いからな」

「俺への評価ひどくね?」

当然の評価ですわね。ある程度緊急事態なら仕方ありませんけれど、普段から薬中をアテにした作戦は立て続けたくないですわ。

「……ということで、いかがかしら?この子、それなりに強い魔法を使えるようでしたし、育てればもっと強くなると思いましてよ?」

「その根拠は?」

「健康状態が間違いなく悪いですわ。痩せすぎですもの。まずは衣食住の保証をしてやって、もっと食べさせて寝かせて可愛がっていれば、もっと強くなると思いますわ」

魔力は才能による能力です。しかし、努力が全く必要ないということはなくってよ。

筋肉が健全な肉体に宿るのと同じように、魔力もまた、健全な肉体の上に成り立つものですの。何せ魔力は精神の影響を大きく受けますわ。そして精神を強く持つには、肉体がしっかりしていなければ!

ということで、このつるんでぺたんですとんな美少女にもう少しちゃんと肉をつけさせれば、もっと安定して高出力が出ると思いますの。

「……戦いの様子を見ていたが、こいつは魔法の狙いが甘いように見えた。制御が上手くいっていなかった、ということかもしれない。それから、連射速度が遅い。これも健康状態によるものか?」

「そうですわね。少なくともその2点に関しては、健康管理と訓練で大幅な改善が見込めましてよ」

私がそう言うと、ドランは少し考え込んで……それから、頷きましたわ!

「分かった。あとはこいつの意思次第だが、俺はこいつを引き入れてもいいと思う。どうせ雇われ護衛だろうから、より強く、より金を持っている奴に寝返る可能性は十分にある」

「最悪の場合ヤク漬けにすればいいんじゃね?」

「それチェスタがもう1人増えるだけじゃないの?」

まあ、こちらの意見は決まりましてよ!

あとは……。

「あら、お目覚めかしら?」

「う……ここ、は……」

彼女次第、でしてよ。

雷使いは目を覚ますとすぐ、私の顔を見て身構えましたわ。でも無駄でしてよ。だって念入りに拘束してありますもの。

「あまり暴れないで頂戴。殺すのは本意ではないの」

早速暴れかけたので、首筋にナイフを添えさせてもらいますわ。理性的な対話をするためですわね。仕方ありませんわ。

「さて。では簡単な質問に答えて頂きますわ」

雷使いがじっと私を睨んでいますけれど、可愛い顔で睨まれてもまるで怖くないですわね。

「……何が聞きたい」

「あなたの意思ですわ」

意思?と訝しむ様子を見せつつ、一応こちらの言葉を聞く気にはなっているようですわね。中々よくってよ。

……ということで!

「命の保証!寝床と食料!そしてお金!贅沢三昧できる日々!ついでに心躍る企画への参加権利!……これら全部差し上げますわ!」

「は?」

「その上で、聞かせてくださいな!あなた、寝返る気はありませんこと!?」

ぽかーんと、とされましたわ。

「……は?こっちの事情とか、雇い主とか、一切聞かずにそれ?」

「そうですわね」

「いくらなんでも軽率じゃないの?」

「そうかしら?でも事情がどうであろうが構いませんし、雇い主がヤバい奴でも特に問題ありませんわね。どうせ全部まとめてぶっ潰しますもの」

私が答えると、雷使いは息を呑みましたわ。

……まあ、言っている事の9割方は本当ですのよ。もしこの子の雇い主がヤバかったとしても、こちらの最終目的は王家潰しですもの。その途上で潰す奴が居たとしても、そんなの、もののついでに潰すだけですわ!問題ありませんわ!

「……寝返らないって答えたら?」

「残念ですけど殺しますわ」

「じゃあここで寝返るって答えたらどうすんの?」

「とりあえず夜食にしますわ。お腹減ってませんこと?あなた細すぎでしてよ」

「いや先に雇い主とか聞けよ」

ご飯って大事ですのよ。将来潰す奴よりは私達の今のご飯の方が大事でしてよ。

「……あのさ。ここでこっちが寝返りますはいよろしくお願いします、ってやった後に裏切る、ってことは考えないの?」

「まあその時は殺しますわね」

「殺しても手遅れ、ってことくらい考えられない?」

……殺しても手遅れ、ですか。

例えば……ミスティックルビーの原材料を知られる、とか、だと多少厄介かしら?

まあ、要はこちらの情報をどこかに流されてしまうと、この子を殺してももう手遅れ、ということですわね。

「まあ情報が漏れたら漏れた先全部潰せば問題なくってよ」

「どうやって……?」

「それを教えるのはあなたが寝返ってからですわね!」

ま、ここから先の情報は正式に仲間になってから、ということですわね!

「ご安心なさい!こちとら人数不足極まる悪党集団ですの!あなたのような優秀な魔法使い、それも伸びしろがたっぷりありそうなカワイコちゃんなら大歓迎ですわ!それに大集団じゃあない分、報酬の分け前は多くなりましてよ!何なら福利厚生もバッチリでしてよ!ね?とってもお得なお話ですわね!?」

うだうだ言うのは後ですわ!さあ!結論を聞かせてもらいますわよ!

「さあ!聞かせてもらいますわよ!あなたは寝返るのかしら?寝返らないのかしら?」

「断る。……殺せよ」

「ムキーッ!どうしてそうなりますのーッ!?」

意味が分かりませんわよ!?

「なんでですのーッ!?まだ報酬が欲しいのかしら!?何が欲しいんですのッ!?とんだ業突く張りですわねっ!?」

「どんなに報酬積まれても寝返らないから」

雷使いの胸倉掴んで揺すってやったら、とてつもない忠誠心を見せつけられましたわ。なんか意外でしたわね……。

……と思ったら。

「もうお前らから情報は引き出せないみたいだし、だったらもう殺されるしかない」

そんなことを言って、雷使いはそっぽ向きましたわ。

……んー?どういうことですの?

情報を引き出したところで、殺されたらその情報、持ち帰れませんわよね?じゃあ情報を引き出す意味、ありませんわよね……?

こんな状況で、何かこちらの情報を引き出す意味があるとしたら……。

……その時、私、見つけてしまいましたわ。

私が胸倉掴んで揺すった拍子に緩んだ襟の中に、きらりと光る、金属製の……。

首輪、ですわね。

「これ……!」

「ちょいと見せてみな」

私が首輪を示すと、ジョヴァンが雷使いの横に屈んで、首輪を観察し始めましたわね。

……そして顔を顰めて両手を挙げましたわ。降参、のポーズですわね。

「奴隷の首輪だ。持ち主の指示に従わなかったり、持ち主から一定時間以上離れたりしたらギュッと絞まって死ぬ奴」

『奴隷の首輪』。それなら私も知っていましてよ。

一応この国、奴隷が居ますの。大抵は戦争で滅ぼした他国の生き残りをとっ捕まえてきて奴隷にしているのですけれど、その奴隷に着けさせる首輪がこれですわね。

効果は簡単。ジョヴァンが言った通りですわ。

主人の指示に従わなかった場合、首輪が絞まる。言う事聞かない奴隷は死ぬ、という訳ですわ。

これの魔法の仕組みは一通り学んでいてよ。『奴隷の罪の意識』を強化して首輪に反映させている、ということらしいですわ。……これのせいで、全くの狂人って奴隷にできませんのよね……。現代の魔法技術の敗北ですわ。

そしてもう1つの効果が、主人から一定時間以上離れたら首輪が絞まる。脱走奴隷は死ぬ、ということですわね。

これは契約によって予め期間を定めておけますの。奴隷を遠くの町まで買い出しに行かせたいような場合なら期限を1月かそこらにしておくでしょうし、逆に護衛や傍仕えにしたいなら期限を1日とかにしておくと思いますわ。

……ちなみにこれ、悪党垂涎の道具ですけれど、王家の許可を得た場所できちんと手続きしないと装着させられない、ということで、悪党達は手に入れられませんのよ……。残念ですわ!

「ということはこれ、時間制限がありますのね?」

「そういうことだよ」

雷使いは諦めたように笑って、吐き捨てるように言いますわ。

「期限は1日に設定してある。だから……明日の夜には死ぬ運命、ってこと。だから寝返るも何も、無駄なんだよ」

「……そうですか。ねえジョヴァン。これ外せませんの?」

「んー……ちょいと厳しいね。奴隷の首輪ってのは主人が所有権を手放す宣言をした時か、そういう手続きをして主人を別の人に書き替えた時。そして主人が死んだ時だけだからね。俺だって外してやりたいのは山々だけど」

「ドランが全力でやったら壊れませんこと?」

「流石にうちのドランも素手で魔法銀を破れる腕力は無いと思いたいね」

「無い」

そうですの……。力ずくで何とかならないかとも思いましたけれど、流石に無理、と。

他にコレを外す方法、無いかしら?

それからも私とジョヴァンは諦め悪く、雷使いの首輪を観察し続けましたわ。

「ん?」

……するとふと、ジョヴァンが唸り声を上げましたわね。

「どうかしまして?」

「いや……他にも何か細工してあるみたいね、コレ。けれど、どういう細工なのかはサッパリ」

「細工?」

私もちょいと見せて頂きますけれど、確かにただの奴隷の首輪とは違うように思いますわね。

けれど、攻撃に関するものではない、ということだけは分かりますわ。これでも私、魔法学院の優等生でしてよ!

そこへドランが首を突っ込んできて……そして、気づきましたわ。

「もしかすると、音声、か?」

「音声……ああ!」

「成程なぁ……そういうことか」

これには納得ですわね。

要は、この首輪にはもう1つ魔法がかけてあって……その魔法によって、ここでの会話が全て、雷使いの主人にダダ漏れ、って訳ですわ。

それなら雷使いが無駄に情報を引き出そうとしていた理由も分かりましてよ。

「ええー?それヤバくね?」

「いや、もう散々色々喋った後だし、今更よ、今更。俺達の事なんざ元々ほぼほぼ筒抜けだろうし」

「この会話も筒抜けってことですわね」

そう考えるとなんとなく居心地が悪いですわね。この会話も全部、どこかの誰か……それも、私達を明確に潰そうとしている誰かさんに聞かれている、ということでしてよ。

でも一々怯えて竦んでいたら始まりませんわ!

「はーい、どこかの誰かさん、聞こえてますことぉー?お返事なさってぇー?」

「首輪に向かって話しかけてるところ悪いけどさ、これ、一方通行だから」

あ、そうですの?そういうこと早く言って下さらない?首輪に話しかけてた私が馬鹿みたいじゃありませんこと?

「ということは首輪の向こうの誰かさんとはお話しできない、ということですわね……」

「当たり前だろ。何言ってんの?」

至極真っ当な事を言ってるだけでしてよ!可愛いですけど生意気ですわねこの子!

「……お嬢さん、その首輪の向こうの誰かと話してどうするつもりだったのよ」

「この子の所有権を手放して頂けないかと思っただけですわ」

「いや……それはないだろう。こいつを手放したら、相手の情報ごとこいつが引き渡されることになる。そして相手は俺達に殺されるわけだ」

「それは勿論分かっていますわよ。ですから取引をしたかったのですけれど……これじゃあ難しいですわね」

この子を譲ってもらおうとするには、そいつとなんとかやり取りしなくてはならないですわね。うーん、どうにかして主人がどこの誰だか聞き出せないかしら?

「……一応聞きますけれど。あなたの主人って、誰ですの?」

「言えない」

でしょうね。

「つまりそれは、『主人の名を口に出すな』と命じられている、ということか」

「そういうこと。あ、当然だけど筆談なら大丈夫、とかそういう頓智は考えないでね。指示の内容は『ご主人様に危害を加えるな』『ご主人様を侮辱するな』『ご主人様を特定できるいかなる情報も漏らすな』『情報をうっかり漏らすような状況に陥るな』だから」

「最後の、酷いですわね。つまりあなた、泥酔できなければラリることもできないってことですの!?」

「任務中に酒飲む奴隷がどこにいるんだよ」

「それから、あなたをご主人様とやらの下へ案内させるってのも駄目ですの?」

「駄目に決まってるだろ!常識で考えて!」

「あなたを解放して帰して、私達がその後を付けていくだけってのも駄目ですの?」

「だから!駄目だって言ってるだろ!」

あ、そうですの。融通が利きませんのねえ……。

ということで。

この子から情報は期待できませんわね。

でも、分かる事は多くってよ。

……期限は1日。そしてタイムリミットは明日の夜。

つまりこの子は主人と別れてから、まだほんの数時間しか経っていない、ということですわ。

これって、この子の主人がエルゼマリン内に居るって事になりませんこと?

それから、もう1つ。

……この首輪の仕組みは私も知っていますわ。

この首輪の『指示に従わなければ首が絞まる』という機能は、『奴隷の罪の意識』によって作動するのですわ。

だから、うっかり言いかけて気づいて罪の意識に苛まれてすぐ口を閉ざせば助かりますし、そもそも自分で自分が何を言ったか覚えていなかったら作動しませんの。

勿論、ここを封じるために『情報を漏らすような状況に陥るな』という指示が出されている訳ですわね。だから、薬でラリらせるのも酒に酔わせるのもナシですわ。

……けれど。

全くの正気だって、『うっかり』はありますの。

そう。

相手にとってその情報にどんな価値があるかなんて、分かりっこないんですもの。

自覚が無い情報なら、きっと、漏らしてくれますわね?