軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10話「天井が吹っ飛びましたわ」

ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。私は今、またムショにぶち込まれたところですわ。そしてめっちゃ腹立ってますの。

でも、冷静さを欠いてはいなくってよ。どんなに腹が立っていても、常に冷静に、ですわ。

王都の地下牢とは違って、エルゼマリンの牢は地上にありますのね。王都の牢よりは脱獄しやすそうですけれど、一度脱獄したばかりですもの。警戒されているでしょうね。

……さて、ここからどうするかが問題ですわ。

牢に入れられてすぐ、牢の中を見回しました。

天井付近に小さな明り取りの窓が1つ。ここには鉄格子が嵌まっていますわね。

それから、床も壁も天井も石造り。まあ当然ですわね。

そして、壁のうち1つの面が鉄格子になっていて、そこに扉もある、という、まあ、ありきたりな牢屋ですわね。

単純ながら、頑丈。変に凝っていない分、壊すのも抜け出すのも中々難しそうですわね。まあ、元より期待はしていませんでしたけれど!

牢の中を観察している間に、牢の外で何かやり取りしていた兵士が私の牢の前まで戻ってきましたわ。

「……しかし、まさか2か月弱に渡って潜伏しているとは」

鉄格子越し、私を見下ろしている兵士は妙に楽し気ですわ。まあ、私を捕らえたなら褒賞ものでしょうけど。

「よくも散々探させてくれたな!」

「あら。私、探してくれなんて言ってませんわよ?ただ、どこかの無能な兵士達が私を勝手に捕らえて勝手に逃がして勝手に探しただけなんじゃあなくって?」

適当に返事をしてみたら、兵士はかちんと来たらしいですわね。沸点低すぎなんじゃあありませんこと?

「おのれ、この大罪人め!よくも減らず口が叩けるものだな!」

「まあ。下っ端兵士如きに気を遣ってお喋りしてやる必要がありまして?私と優雅にお喋りしたいならティーセットくらいもっておいでなさい。気の利かない下っ端ね」

「下っ端だと……!?」

……と、兵士と話しつつ観察していて、そこで私、気づいたのですわ。

なんとなーく、この兵士に見覚えがある、ということに。

「一体誰のせいで俺がこんなところに派遣されてきていると思っているんだ!俺は!貴様が脱獄したことで責任を取らされて!王都を離れて貴様を探させられていたんだぞ!」

……そうですわ!思い出してきましたわ!思い出してきましたわー!

こいつ、玉座の間で私をぶん殴ってくれやがった野郎ですわッ!

これは……ピンチですけれど、チャンスですわ!

私を陥れてくれた貴族共や王族共もそうですが、この兵士にも私、恨みがございますの!

ぶん殴ってくれやがった事もそうですけれど、侮辱も許し難いですわね!

ここで見つけたのも何かの縁ですわ!ということで、ここで1つ、ちょいと先走って復讐に励むのもアリですわね!

「いいか!?ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア!貴様はこれから王都へ護送され、王城前の広場で処刑され……な……何をニヤニヤしている!」

「いいえ?べっつに?ニヤニヤなんて?してなくってよー?」

もう私の目の前に居る奴は、私にとっての獲物でしかありませんわ。思わず表情が緩んでしまうのも仕方はありませんわ。

「き、気味の悪い……い、いいな!?夕方には貴様を護送する!それまで大人しくしていろ!絶対だぞ!」

結局、そう言い捨てて例の兵士は去っていきましたわ。やれやれですわね。

さて。

私、ちょっとワクワクしてきましたわ。まあワクワクの前にドキドキですけれど。だってあと数時間で私、護送されるらしいですから。おほほほほ。

……まあ流石に、今回は前回みたいに間抜けなことはしてくれないでしょうから、正規の脱出口から脱出するのは難しそうですわ。

となると、鉄格子を切るか、壁を掘るか……。うーん道具も無しに、となると厳しいですわね。

……でも、問題はありませんわよ。

だって今回は、相手の方から私を外に出してくれるみたいですものね?

「時間だ。出ろ」

夕方ごろ。私はしっかり手錠を掛けられた状態で、牢の外に出されましたわ。

当然のように、私の周囲には兵士達が沢山。皆、武器を私に向けていますわね。少しでも変な動きをしたら殺す、と。そういうことなのでしょうね。前回みたいに簡単に倒されてくれるマヌケは居ないようですわ。

まあ、まだ慌てる必要はありませんわ。じっくりと機会を見計らえばよいのですわ。

「よくってよ」

私、牢を出て颯爽と歩きますわ。こうして私を歩かせるために、足枷は付いていない、というのが幸いですわね。

牢を出ると、そこには兵士達の列がありましたわ。

……私1人の護送のためにここまで立派に隊列組んでくださるなんて、びっくりするほどの好待遇ですわね。もうちょっと手薄にしてくれてもよくってよ。

「乗れ」

「はいはい」

指示された通り、馬車の中に入り込みます。どうやら私は馬車に乗せて、その馬車の周りを兵士達で囲んで、そのまま王都まで行進していくようですわね。まるで王家の葬列のようですわ。ほんと、もうちょっと手薄にしてくれてもよくってよ!

私が馬車に乗り込むと他に2人の兵士が一緒に乗り込み、馬車の扉が閉められ、外から鍵が掛けられましたわ。

そして私と同じ馬車に同乗するらしい兵士が、私に足枷を付けました。

……でも問題ありませんわ。私、この兵士が足枷の鍵も持っている、ということは確認済みなんですの。

兵士が私の脚に枷を付け終えると、馬車が出発しましたわ。ゴトゴトと揺れながら馬車は進み、やがてエルゼマリンの町を出たようですわね。

……となれば、ここら辺かしら。

「あ」

少し大きく馬車が揺れた後を狙って私が声を上げれば、兵士はびくり、と反応しつつ、様子を窺ってきます。流石に『大罪人』の私相手となっては、存分に警戒してくれているようですわね。しめしめ、ですわ。

「な、なんだ」

「あの、足枷が外れてしまったようなんですけれど……」

「え?」

「ほら。ご覧になって」

兵士は私に促されるまま、枷を覗き込み……そこで私、思い切り兵士の顎に向かって頭突きをかましてやりましたわ!

人間って、脳味噌が揺らされると結構クるんですの。顎への攻撃は脳味噌によく効きますわ。そう。うまくやれば頭突き一発で兵士を伸せてしまう程度にね。

「なっ……」

そして突然のことに声を上げられなかったらしいもう1人の兵士には顔面に膝蹴りをお見舞いしますわ。

ただしこちらはあまりうまくやれなかったようですわね。一撃で落ちませんでしたので仕方ありません、もう一撃、今度は延髄狙って肘鉄、ですわ。

狭い馬車の中ですもの、屈んだ状態が多いんですの。そうなると当然、頭の位置が低くなりますから、首を狙いやすくて助かりますわ。

「ぐっ……」

……そして馬車の中に居た兵士2人を昏倒させましたわ!

狙い通り、ゴトゴトうるさい馬車の中のことですから、多少兵士が呻こうが、外には気づかれていないようですわね!

私は早速、兵士の懐を漁り始めます。手枷は残念ながらそのままですが、後ろ手での拘束ではありませんからなんとかなりますわ。

少し漁ればすぐ、足枷の鍵が出てきましたのでそれで足枷を外しますわ。

……しかし、残念なことにこの兵士達、私の手枷の鍵は持っていないようですわね。

仕方がありませんから、手枷はそのままでいきますわ。兵士の懐から出てきた短剣を握って、ナイフをなんとか懐にしまって、準備完了ですわ。

不安はありますけれど、やってやれないことはない、と思いたいですわね。

手枷の分、不利を強いられますけれど……でも、もうすぐ私にとって最高の条件になりますわ。

そう。兵士達が焦ってくれたおかげで、エルゼマリンを出発したのは夕方になってから。

つまり……もうすぐ、日没ですのよ。

私、こう考えておりますの。

まず、日没すれば馬車が止まって、扉が開かれるはず。何故って、兵士の交代の為ですわ。外に居る兵士共は馬車の中の兵士が2人ともおネンネしてるなんて知りませんものね。

そして扉が開いた瞬間、飛び出しますわ。間違いなく私、追われることになるでしょうし、攻撃もされますけれど、そこは強行突破でいきますわよ。

何せ日没後のこの辺りなんて、暗くて何も見えやしませんもの。森の中にでも入り込んでしまえば、うまく撒ける可能性は大いにあってよ。

……ということで、私、身構えながら馬車の扉の前で待機しておりましたの。

手には短剣。心には覚悟!そしてついでに頭には計算、ですわ!

そのままの姿勢で待機していたら……不意に、馬車の外が騒がしくなりましたわ。

「きましたわ」

恐らく、交代のために指示が飛び交っているのでしょう。ならば、扉が開くのはもうすぐのはず……!

と、思ったんですのよ。思うのは当然ですわね?開くのは『扉』。間違いありませんわ。誰だってそう考えます。私だってそう考えました。

ところがどっこい!

開いたの、扉じゃなくて天井でしたの。

というか天井、吹っ飛びましたの。

「は?」

いやほんと、予想の斜め上にぶっ飛んでますわ。なんですの?普通、天井って開きます?

しかも、破壊音付きで。ぼーん、て。

……もう只々嫌な予感しかしない中、上を見上げてみたら……。

「また会ったな」

にやり、と笑う、獰猛な狼めいた顔。

「あー……ご、ごきげんよう?ドラン・パルクさん……?」

あいつですわ。

王都の地下牢で助けてやった、あの『ヤバい奴』ですわーッ!