軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

165 デュークの覚悟とリリスの気持ち

「……お前、自分が何を言っているのかわかってるのか?」

「理解しています。ですが、撤回はしません」

「……なぜそうなった?」

「理由は言えません。ですが私は、騎士としてあるまじき行為をしてしまったからです」

俺の言葉に明らかに落胆していた。

ため息を吐いて、静かに俺を見つめる。

「お前は昔、弱き者を守りたいと言っていた。あれは嘘だったのか?」

「いいえ。その気持ちは今でも変わっていません。ですが、守るべき対象が自分の中で明確になったのです」

「……ノブレスに行かせたのは間違いだったな」

「いえ、俺は良かったです。――失望させてしまって申し訳ありません。失礼します」

振り返り、その場を後にしようとすると、声をかけられる。

「長いビリリアン家の歴史でも……お前は本当に素晴らしかった。残念で仕方がない。だが、決めたのなら真っ直ぐに進め」

「ありがとうございます。 父上(・・) 」

「え、ええええええええ!? 騎士候補生を辞めたんですか!? どうしてですか!?」

俺の何気ない一言で、リリスがいつもは見せない表情で叫んだ。

「騎士は国の為に動き、私欲を捨てなきゃならない。だが俺はそれを破ったからな」

「で、でも、辞めるなんて……」

魔族の大規模侵攻が終わって、俺は騎士を目指すことをやめた。

本来騎士とは、国に忠義を尽くすものだ。

だが俺はもうそれができないとわかった。

仲間と天秤にかけたとき、どちらに傾くのが自分でわかったからだ。

それは、騎士道に反する。

普段はそんなことを他人に話すことはない。同情や哀れみ、称賛ですら俺は好きじゃない。

だがリリスは不思議なやつで、するっと懐に入ってくる暖かさがある。

だから、話してしまった。

「アレンやシャリーには言わないでくれ。あいつら、そういうの気にするからな。もちろん、ヴァイスにもな」

「は、はい。――デュークさんは、いつも優しいですね。他人のことばかり気にかけてます」

「そんなことない。俺はいつも、自分の気持ちを優先している」

リリスは勘違いしている。

ノブレスに入学したのも、騎士を辞めたのも、自分の気持ちが一番だ。

俺は、誰よりも自己中心的な性格をしている。

「いいえ、デュークさんはとてもいい人です」

「はっ、ありがとな」

「そうやって照れ隠しするところ、ヴァイス様に似てますよ」

「そうか?」

俺はあいつにはなれない。そして――アレンにもなれない。

俺は、一体何者なんだろうか。

そんなことを、よく考えるようになった。

パートナーとして訓練中、リリスの努力とひた向きさに驚いた。

てっきり才能型だと思っていたが、その裏では実に努力を怠らない。

俺も汗を流すのは好きだ。

けど、 あの日(・・・) 以来、心が入らなくなった。

俺は――クソだ。

デュークさんとパートナーを組んでから、私は彼が実に繊細で心が温かい人なんだとわかった。

騎士としての道はとても素晴らしいもので、この世界において誰もが目指したい到達点の一つだ。

しかしそれを辞めた。

彼は、仲間を大切にしている。私たちを想ってくれている。

それが、とても嬉しかった。

そしてとても努力家だ。

よく食べてよく寝るだけだ、と言っているが、それは毎日ずっと体を動かしているからだろう。

「オラァ!」

「――くっ」

戦いのスタイルは私と似ているが、その力強さは群を抜いている。

まともな正面勝負なら、ノブレスの中でも随一だろう。

しかし時折、私は彼が苦しんでいるのがわかった。

ヴァイス様のように、何か、何か隠してるような。

「デュークさん、ちょっといいですか?」

「ん? なんだ?」

パートナー試験ではないただの授業だった。やはりわかってしまった。視えてしまった。

「遠慮してますよね。みんなに」

「遠慮? どういうことだ?」

「……あの日、魔族が私たちを襲った あの日(・・・) から、変わりました」

ベルトニーが私たちを襲い、死を覚悟したあの日。

結果的に倒すことはできたが、デュークさんの態度が少しずつ変化していることに気づいていた。

特にセシルさんに対して。

あまり目を合わすことなく、試験でも手を抜いているわけではないが、違うと感じた。

デュークさんは何でもないという。だけど私は、いてもたってもいられなくなった。

授業が終わり、誰も来ないであろう市街地B訓練所の屋上で待ち合わせ。

色々聞いてみたが、デュークさんは答えてくれない。

「何もないって、心配しすぎだリリス」

「私たちは、パートナーですよね?」

「ああ、そうだけど、それがどうし――」

「お互いの事を信頼し合うんじゃないんですか? 私は気づきました。気づいたからこそ、あなたに、デュークさんに問いかけています。それを無下にするのは、違うんじゃないんですか?」

私の真剣な言葉に、ようやくデュークさんはわかってくれたのか、その場に座り込んだ。

いつもとは違う表情で下を見ている。

私は、長い時間、次の言葉を待った。

そしてようやく、声を発する。

「あの日、俺はセシルを見捨てた。それが、ずっと心に残ってる。今でもずっと夢に見るんだ」

――そういうことだったのかと、私は思わずハッと息をのんだ。

セシルさんは自分が身動きが取れないと知ると、デュークさんに仲間を連れて逃げてほしいと頼んだ。

彼はそれに従った。アレンさんやシンティアさんを抱えて、離れようとした。

それ自体は間違っていない。

だけどそれが、ずっと、ずっと苦しかったんだ。

「デュークさんは悪くないです」

「リリス、お前は凄かった。立ち向かって、奴を倒した」

「私はただ無我夢中でした。ただ、必死で。でも、デュークさんは違います。あの状況で冷静な判断をしたんです。私のはただの結果論で何も凄くありません」

「違う。俺は、仲間を見捨てたんだよ。1人の命を見捨てた。それは、他の誰でもない。俺が――決断を下した」

私はバカだ。

気づいてあげられなかった。

ずっと傍にいたのに、デュークさんの心にわかってあげられなかった。

彼は、とても悩んでいた。

1人で重圧に耐えようとしていた。

「セシルさんはデュークさんに感謝していました。戦況を見極めた上でした」

「そんなことない俺は――弱い。お前も知ってるだろ? 俺はいつも二番手ですらない。三番手でもない。どれだけ頑張っても、ヴァイスやアレンには追い付けない。俺がしたことは、間違ってたんだよ」

その表情に、心が痛む。

私は、そっと彼を抱きしめた。

言葉では伝えられない。

伝えきれない。

私は感謝している。デュークさんは、ヴァイス様と同じで本当に心優しい人だ。

いつも自分の事しか考えていないというが、そうじゃない。

「リリス、なん――」

「誰が何と言おうと、私はデュークさんを責めないです」

「……いやでも」

「でもじゃない。私は、ちゃんとわかってる。もちろん、みんなも」

その後、デュークさんは――大きな声で笑った。

「あっはははっくっく」

「な、なんで笑うんですか!?」

「いや……嬉しくてな。ありがとな、リリス」

そういって、デュークさんは静かに感謝してくれた。

わかってもらえたかどうかはわからない。

だけど、伝わったはずだ。

でも、言葉だけじゃ意味がない。

ごめんなさいヴァイス様。

この試験、私は、デュークさんを勝たせてあげたい。

一位を獲らせてあげたい。

ヴァイス様への気持ちは、一切変わっていない。変わらない。

だけど、私は――彼の笑顔が見たい。

そしてそれは、彼の表情からもうかがえた。

「デュークさん。次の試験、必ず勝ちましょう。勝って、証明させてあげます。あなたが間違ってなかったことを」

「……ありがとな。――俺も、本気でやる。そういえばさっき、リリスが敬語を使ってない言葉は、初めて聞いたな」

「え、そうでしたか?」

「ああでも、気合――入ったぜ」

試験の内容は私たちとって有利なものだった。

勝てる、これなら、超えられる。

そのとき、デュークさんが声をかけてきた。

表情は、前とは違う。

「リリス、この試験に勝って、俺は、自分を肯定したい。……その手伝いをしてくれるか?」

それは、心からの本音だとわかった。

私は、笑顔で答える。

「ええ、必ず勝ちましょう」

――絶対に、負けない。