軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

152 舞踏会

最終日、翌朝。

海沿いを走っていた。

太陽の下、無人島の海のさざ波を聞きながら足腰を鍛えるのも悪くはない。

昨晩は大変だった。

夜静かに眠れたことが幸いだろう。

まあ、シンティアとリリスと一緒だったのでちょっと寝不足だが。

その時、波から何かが見える。

幻覚……幻覚か?

なんか 下級生(ガキ) どもが……。

……嘘だろ?

「つ、着いたぞメリル」

「ベルク、死ぬかと思ったわ……」

「はあ、お風呂に入りた――ヴァイス先輩っ!? 何してるんですか!? もしかして朝から訓練ですか!? くぅーかっけえっす!」

頼む。今はせっかくの落ち着いた時間だ。

波を立てないでくれ……。

「このカレー最高っす! え、ヴァイス先輩たちの手料理なんすか!? すげええ!」

「シンティア先輩、今日も麗しいです!」

ガツガツとカレーを貪るメリルとベルク。

シンティアは優しく微笑んでいるが、少しだけ頬に汗を欠いている気がする。

なるほど、彼女にも限界はあるんだな。

ったく、流石に伝えておくか。

「お前らいい加減にしろ」

「え?」

「え!?」

「確かに前に助けてもらった恩はあるが、俺たちにもプライベートがある。そもそも台風はどうしてたんだ?」

「踏ん張ったっす……」

「魔法抵抗で何とか……」

しゅんとする二人、まったく、天才たちめ。

とはいえ、まだガキだ。言って聞かせるしかないだろう。

ふう……。

「次からは来たいときはちゃんと言え。ダメならダメだと伝えるが、勝手に後をつけるのはやめろ」

「わ、わかりました! すいません!」

「すみません……」

それを見て、シンティアがメリルの肩に触れた。

「仕方ありませんわ。次から気を付けましょうね」

「はい、シンティア先輩……すいません。ベルクと話してたんです、また何かあったりしたら後悔するかもって」

「そうなのですね。でも、私もヴァイスも本当に感謝していますわ。一歩間違えれば何かあったのは二人ですから心配しています」

「「ごめんなさい……」」

ったく、聞き分けがいいんだが悪いんだが。

まあでも話し相手が少ないんだろう。

以前もそうだったが、天才すぎると一歩壁ができるからな。

「ついでだ。お前らも参加しろ」

「え?」

「え?」

それから数十分後、俺たちは海沿いで柔らかい棒を構えていた。

再度水着に着替えている。

ベルクは海パン、メリルはフリルのついたピンク水着、こいつら……遊ぶ気満々じゃねえか。

「失礼しまっす!」

すると、空中で回転しながら海パンベルクが棒を振り回す。

片手で受け止めるも――重い。

「すげえっす、さすがっす!」

「はっ、猿野郎が」

「リリス、かかってきなさい」

「はい――シンティアさん」

「アレン、今日こそかつぜ!」

「僕だって!」

結局、俺たちはせっかく集まったんだからと訓練していた。

魔族と戦って勝利したとはいえ、かなり苦労した。

一分一秒も無駄にはできない。

このあたりはさすがノブレスって感じだ。

ベルクを叩き潰した後、俺の前に立ったのは、オリンだった。

「お前と戦うのも久しぶりだな」

「そうかもっ。ねえ――本気でいい?」

「ああ、来い」

頭の上のピピンが突然飛んだかと思えば、太陽を背にしながら攻撃を仕掛けて来た。

こういうところに遠慮がないのは、流石だな。

反射的に視線を背けるも、魔力の流れで見ているので、ピピンの攻撃を棒で受ける。

――はっ、前よりも随分と重いな。

使役した魔物は、従者の能力を継承している。

この前の魔族戦でも、10体の上級魔物を操作した上で俺の元へやって来たらしい。

とんでもない話だ。一体、何人分の仕事をしたんだ?

だがそのとき――。

「――は、オリン、いつのまに」

「えへへ。――ボク、もっと頑張るよ。皆を守れるように」

無人島にいる低級魔物が、一斉に、おそらく二十体以上がとびかかって来た。

攻撃力ダメージは大したことない。だが、凄まじい才能だ。

はっ、オリン。もしかしたら一番成長度合いが凄いのはお前かもな。

一見するとただの男の娘だが、その裏はアレンのように正義感で溢れている。

「――けど、俺に勝つのは無理だがな」

全魔物をはじき飛ばす。

それを見てオリンは驚くのではなく、笑った。

案外お前が、俺に一番近いかもしれないな。

ベルクとメリルが来てからは、悔しい事にさらに笑顔で溢れていた。

底なしの元気ってのは、ま、ノブレスには合ってるよなァ。

「ヴァイス、入りますよ」

「ああ。――似合ってるな、シンティア」

「うふふ、ありがとうございます」

夜になり準備を終えた俺は、シンティアから声を掛けられて扉を開ける。

初めて会った時と同じ純白のドレスだ。綺麗すぎて、思わず見とれてしまう。

それからゆっくり歩み寄り、片膝をつく。

それから手の甲にキスをした。

「行こうか。シンティア」

「ええ、ヴァイス」

「ヴァイス様、シンティアさん。もうみんな集まってますよ!」

そういって立ち上がると、リリスに手を引かれる。彼女もまた、シンティアと同じ綺麗なドレスを着ていた。

「リリス、似合ってるな」

「えへへ、ドレスなんて初めてですよ!」

渡り廊下をいくつも超えて、辿り着いた先は舞踏会だ。

と言っても、音楽なんてない。

だがせっかく使えるのだ。存分に楽しもうとなった。

「よおヴァイス、似合ってんじゃねえか」

「確かに、でも、僕たちもなかなか格好良くない?」

「はっ、馬子にも衣裳だな」

アレン、デュークも黒い燕尾服で、似合ってやがる。

シャリーも白く、それでいてしっかりとした綺麗なドレスだ。さすが貴族、慣れてやがる。

トゥーラは意外にも黒いドレスだった。立ち振る舞いが堂に入っている。

「ヴァ、ヴァイスくん飲み物どうぞ」

「ありがとうカルタ。いい色だな」

「え!? えへへ、嬉しい」

カルタは赤色で、透け具合がいい。

それからシンティアはリリスと踊り始めた。

正式な社交界ではない。男女の区別なんて必要ない。

セシルはオリンとだ。ハッ、原作の最終盤みたいでいいじゃねえか。

デュークはシャリーと、ほう、意外にもいいな。

そして――。

「カルタ、俺はあまりうまくないが、どうだ?」

「え、ええ!? いい……かな!?」

カルタは驚き、頬を紅潮させ、シンティアにちらりと視線を向けた。

だが俺は手を強引に取る。

「気にするな。そんなことで怒るわけがない」

「わ、わわっ!?」

踊りながら、カルタに声をかける。

「ありがとな、カルタ」

「え?」

「お前のおかげで、色々と助かってる」

「……私もだよ」

全ての始まりはカルタだ。

彼女がいなければエヴァと対等に戦うこともできなければ、竜を倒すことはできなかった。

俺は成長している。

だが俺1人の力じゃ、おそらくゲームはクリアできない。

無駄な慣れあいをするつもりはないが、それは頭に入れておくべきだ。

「オリンさん、ほら足がまだまだよ」

「わ、わわ」

その横では、オリンとセシルの声が聞こえた。

だが俺は視線を向けなかった。ドレスか燕尾服か、見てしまえば確定してしまう。

シュレディンガーの猫みたいなものだ。

全てが謎のままでいこう。

「ベルク。足、踏んでる」

「え、ああ、ごめん!?」

「――でも、前より上手くなったわね」

「そう? ありがと」

「なんかその言い方、上から」

「な、なんでだよ!?」

下級生どもも、こいつらでくっ付いてくれたらいいんだけどなァ。

さて飴はそろそろ終わりだ。

試験も始まって、色々と忙しくなるだろう。

次はどの属性にするか、決めていかなきゃな。

「ヴァイス、お手を」

「ああ」

そして最後はもちろん、シンティアと踊った。何を想ったのかデュークが歌いだし、アレンが続く。

そこにシャリー。

ったく、愉快なトリオだ。

「シンティア、お前は俺が守る。だから、これからも着いてきてくれ」

「ええ、どこでへでも。あなたの為なら」

ったく、ノブレス・オブリージュの飴は、やっぱり嫌いじゃない。