作品タイトル不明
148 ノブレス、飴旅行
「犯人はこの中にいます」
眼鏡を食いっとあげたセシルが、ゆっくりと立ち上がって俺たちの顔を見た。
地面にはデュークが倒れている。
外は台風が直撃、手紙鳥は出せない状況だ。
「そ、そんなバナナ……」
そのとき、アレンがぼそりという。なんだお前、なにいってんだ?
だがその答えを待たずに、トゥーラが叫んだ。
「わ、私はホラーとか苦手なんだ!? も、もうねる! 1人で寝る! 1人でねるからな!」
そういって、自室へ帰っていく。
俺は思い出していた。ノブレスには豊富なサイドストリーがあることに。
中には、外伝のようなよくわからないものも。
ああ、これは確か。
「では、推理を始めます」
名探偵セシル回じゃねえか。
◇ ◆ ◇ ◆
魔族によるカルロス国の大規模侵攻は、世界中で話題になっていた。
命を狙われたソフィア姫は、友好国であるオストラバ王都の精鋭たちが護衛しているとのことだ。
ただ魔族はもうソフィアの命を狙わないと明言している。
ゲームの設定で、魔族は嘘をつかないと書かれていたはずだ。
それが本当なら大丈夫だろうが、油断はできない。
とはいえ、俺はまた改変、未来を変えることができた。
本来なら彼女の死をきっかけに国同士で欺瞞が増え、戦争が勃発、その積み重ねて悪人が増え、魔族もどきが増えていく。
しかし今は逆だ。オストラバ、カルロスは更に友好国を増やし、今後も魔族の動向に気を付けていくらしい。
物語の進行速度は、間違いなく緩やかになっただろう。
だがこれからだ。
俺の力は確かに通用していたが、圧倒できるほどではない。
それにネルやキングといった新しい魔族の存在。
更に七禍罪はまだ二人も残っている。
今後も精進していくことには変わりないだろう。
そしておそらく、最大の鞭を乗り越えた。
飴はおそらく、今、 進行中(・・・) だ。
「ヴァイス、今日もカッコイイですわ」
「ああ、ありがとう」
「楽しみですね! 無人島のお屋敷別荘なんて、ソフィア姫は太っ腹です!」
俺たちは今、船の上で風を感じている。
事のはじまりは、一通の手紙だった。
【拝啓、ヴァイス・ファンセント様へ。このたびは本当にありがとうございました。つきましてはお礼を同封しております。残念ながら私はご一緒できませんが、是非お友達を連れて楽しんでくださいませ。 Ps:デート楽しみにしています】
『ヴァイス、これはどういうことですか?』
『わかりません』
お礼というのは、無人の大きなお屋敷一棟を貸し切りで学友様と是非使ってくださいとのことだった。
舞踏会で利用したばかりらしく、食材やベッド、全てが良い状態で置かれているらしい。
使用人も大勢用意します、という話だったが、それについては色々あって断ることになった。
その理由は――。
「デューク、落ちるって落ちる!」
「大丈夫だって、ほら見て見ろって、魚いるだろ!?」
「二人とも騒ぎすぎ。マジで落ちないでね」
アレン、デューク、シャリー。
「いやあ、早く泳ぎたいなあ!」
「ボクも新しい水着だから楽しみ」
「空から見る景色、どんな感じだろうー!」
トゥーラ、オリン、カルタ。
そして――。
「ファンセントくん、本当に持ってきてるけど……いいのかな?」
「ああ、なあシンティア、リリス」
「そうですよセシルさん! 今日は勝ちますからね!」
「ええ、私も楽しみですわ」
セシルが、頬を紅潮させながらもじもじしていた。
なんと俺たち中級生十人で行くことになったのだ。普段、貴族であれこれしてもらっている分、たまには自分たちで料理を作ったりした方が楽しいとの結論に至った。
ノブレスからは特別の休暇をもらっている。
「セシル、今日は負けないからな」
「うふふ、楽しみにしてるね。~♪ ~♪」
そしてノリノリのセシル。鼻歌には気づいてないだろう。
なぜかというと、夜はバトル・ユニバース大会をする予定なのだ。
「ヴァイス、今回の水着はきっと気に入ると思いますわ」
「ふふふ、シンティアさんの凄い大胆ですよね」
「あら、リリスのも凄かったですわ」
ちなみに屋敷の前はプライベートビーチだ。
みんなうかれ気分で喜んでいる。
ったく、まだまだ子供だな。
「そういえヴァイス、その黒い眼鏡似合ってますわ。どうしたんですか?」
「日光がまぶしいからな」
「それにそのメロメロン柄の半ズボンも似合ってます!」
「熱いからな」
「サンダルというのも、ラフそうでいいですわね」
「砂が入ると嫌だからな」
ったく、早く終わってほしい。
――お前そう思うだろ? ヴァイス。
◇
そして船の遥か後ろでは、小さな小舟が着いてきていた。
「ベルク、ちゃんと漕いでよ!」
「漕いでるだろ! てか、さぼるなよ!」
「さぼってないわ! 魔法でオール漕いでるでしょ!」
「ずるいな……」