軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

130 過去の自分

ベルクことワクワク小僧は、入学からわずかな期間にもかかわらず、名が知れ渡っていた。

当人が強いことはもちろんだが、俺の後をよく着いてくることも関係しているのかもしれない。

「なんかもう、ベルクの奴、ヴァイス先輩の付き人だな」

「流石にわかりやすいよな」

「強い奴にしか興味ないみたいだし」

下級生たちもそれをわかっているらしく、通りすがりによくベルクの話をしている。

孤立している、とまではいわないが、ノブレスで強者は疎まれやすい。

特に退学者がまだ出ていない序盤ではよくあることだろう。

俺も同じようなことを経験していた。

一方でメリルだが、彼女もまたシンティアの後をよく着いていっている。

女子棟の事は知らないので共通棟でのことしか知らないが、まあ同じような感じだろう。

「ヴァイス先輩、 夏休み(エスターム) は何するんですか!?」

「色々だ」

「秘密主義っすよねえ! くぅ、そこもミステリアスでいいっすよねえ!」

悪い奴ではないが、話があまり通じないという難点がある。

まあ、それも可愛げか? いやわからんが。

だがどこか危なっかしい感じがする。

昔の自分をみているというか、なんというか。

「ヴァイス先輩、次の休みどっか出かけません?」

「断る」

いや、そんなことないか。

いつものように食堂へ行くと、人だかりができていた。

新作のメニューでも出たのかと内心ワクワクしたが、どうやら様子がおかしい。

すると、聞きなれた声が聞こえてくる。

「てめえ、ぶち殺すぞ!」

「やめなさい、ベルク!」

「でもメリル、こいつが!」

「いいから、やめなさいって!」

人混みをかき分ける。いや、俺をみたことで人が離れていく。

そこには、ベルクが同じ下級生を殴ったらしく、右拳に血がついていた。

相手は気絶ではないが、頬を押さえて倒れている。

それを庇っているのはメリルだ。

シンティアたちがいたので、俺は急いで訪ねた。

「何があった?」

「……ええと」

言いづらそうにしたシンティアだったが、ベルクがいきり叫ぶ。

「こいつが、ヴァイス先輩をバカにしたんすよ! 偉そうだって!」

そういって、下級生は怯えて俺を見た。

……なるほど。

静寂の空気の中、俺は――。

手を差し伸べて、そいつを立たせる。

「次から気を付けろよ」

「……は、はい」

その後、俺がひとにらみすると、全員が散っていく。

いつかはこうなるかもしれないと懸念していたが、実際に起きてしまった。

ベルクは強者が故に弱者に対して興味がなく、声を掛けられるのすら嫌がる傾向にある。

俺もそれに気づいていた。

メリルが何度も注意していたが、本人は我関せずだった。

俺の悪口を言った奴を粛清しようとする気持ちも、尊敬するがあまりだろうが、やりすぎだ。

「すいません、もう二度とヴァイス先輩の悪口を言わせないので。――雑魚の癖に」

その口調や雰囲気は、昔の俺によく似ていた。

いや、今も俺の気持ちは変わらない。

雑魚は、弱者は、淘汰されてもいいと思っている。

だが俺はこの一年間で気づいたことがあるのだ。

誰しもが成長に秘めているということに。

セシルやカルタ、オリンやアレン、デューク、シャリー、リリス、トゥーラ、シンティア、

そして、アレン。

原作を知っている俺ですら想像できないことがたくさんあった。

だがベルクは――。

「放課後、市街地Bに来い、ベルク」

「マジっすか!? うわ、楽しみだなあ!」

ったく、案外面倒だな先輩ってのは。

夕方過ぎ、授業を終えた後、市街地Bへ向かうと、ベルクが待っていた。

屈伸をしたり、腕を伸ばしたりしている。

そして、俺を見つけるなり嬉しそうに声をあげた。

「ヴァイスせんぱーい! って、あれ? ほかの先輩たちもおそろいで……?」

俺は、セシル、シャリー、カルタ、オリンに声を掛けていた。

女子たちを選んだ、というわけではなく、俺なりの基準を持っている。

「今日の相手は彼女――いや、彼もいるが」

「は、はあ……そうなんすか?」

案の定、ベルクはとぼけた顔だった。

「――シャリー、頼んだぞ」

「助けてくれた借りは、これでチャラね。――さて、ベルクくん手加減なしでいいわよ」

「え? は、はあ……」

すでにお互い訓練服は着ている。

シャリーの魔力はそこまで大したことがない。

だが、俺は知っている。彼女の強さを。

「――全員倒したら、ヴァイス先輩が相手してくれるんすよね?」

「ああ、 一人(・・) でも倒せたらな」

俺の言葉を聞いて、ベルクは少し不満そうだった。

試合開始、距離を取っていたが、ベルクはとんでもない速度で地を駆けた。

急いで倒して 俺(・) と戦いたいのだろう。

「すいません、恨みはねーんすけど!」

軽口を叩きながらシャリーを斬る――。

剣が彼女に当たったかと思えば、水となりはじける。

次の瞬間、ベルクの身体は罠にかかり、無数の糸でがんしがらめにされる。

無理やり解こうとするが、地面が泥となり、力が入らないみたいだ。

その瞬間、静かに歩みよったシャリーが、ベルクの首に剣を添えた。

試合、終了だ。

「はい、終わり」

「……これ、卑怯じゃないっすか?」

「そう?」

ベルクは納得がいかないらしい。

次はカルタだ。

試合開始と共に高く舞うカルタに、ベルクはただ見上げるしかなかった。

飛行魔法を使って空を飛ぶも、カルタには届かない。

そして最後は、追尾魔法が付与された魔力砲を放たれた。

威力を弱くしてもらっていたので漏出による気絶はなかったが、それでも負けだ。

「……くそ」

「次だ」

次はオリンだった。

大した魔力を持たないオリンだが、セシルに飛行魔法を教えてもらってから、低空で杖に乗り、飛行魔法を使いながら攻撃を回避する手段を増やしていた。

しかしベルクは何とか追い詰める。しかし、それは罠だ。

横から現れたリスのピピンの頭突きがベルクの顎にヒット、気絶した。

「――俺なんで」

「最後、セシルだ」

セシルの魔力はひどく少ない。

ベルクほどの使い手なら、それがよくわかるだろう。

だがベルクは――まったく歯が立たなかった。

攻撃を一つも与えられず、属性すらほとんどないセシルに圧倒的に負けた。

「ふう、あんまりこういうの好きじゃないんだけど」

「悪いな、今度バトルユニバース一日中付き合ってやるから」

「ボクも後輩を傷つけるのは気が引けたよ……」

「ああ、悪い……」

「わ、私は構わないよ。ヴァイスくんのお世話になってたし」

「じゃあ、後輩くんは眠ってるみたいだし、女子会しよっか? あ、オリンさん……いや、なんでもない! 甘い物たべにいこ!」

「「「はーい」」」

そして、消えていく。

うーん、オリン溶け込みすぎだろ?

まあ、いいか……。

そして、ベルクは目を覚ます。

「……こんなに負けるなんて。――って、ヴァイス先輩?」

「構えろ。剣を持て、それともベッドにもぐりこみたいか?」

ベルクはよろよろと立ち上がり、ゆっくりと剣を構えた。

こいつは強い。かなりの才能だ。

俺の入学当初と比べ者にならないだろう。

幼い頃から研鑽を積んできた。そして、大勢を叩き潰してきた。

だが、こいつは知らないことがある。

――俺が学んだことだ。

俺は、少し戦った後、ベルクの剣を叩き折る。

「やっぱつええっす……」

「ああ……そうだな。だが強くなったのは、俺一人の力じゃない。お前が戦った先輩たちは、みんな最初は弱かった。いや、ある意味、今もお前より弱いだろう。だが自分なりの強みをわかってる。驕らず、研鑽を積んでいる。ベルク、お前には才能がある。それはいいことだ。だが他人を見下しすぎるな。敵と味方を分けろといってるわけじゃない。自分の成長を妨げることをするなということだ」

俺は原作を知っている。だからこそ 今(・) ではなく、その先を視ている、信じていた。

もし俺が何も知らなければ、カルタはただの弱虫だと思っていただろう。オリンのことも舐めていたし、セシルと関わり合いもなく、シャリーは死んでしまっていた。

ベルクは今しかみていない。

それが、たまらなくもったいないと感じた。

ミルク先生が俺の未来を信じてくれたように、こいつにもそれがわかってほしかった。

静かに考えこんだ後、ベルクが話し始める。

「……うっす。すいません、確かにオレ、調子乗ってました。ノブレスに来たのも先輩に勝ちたいってのもそうすっけど、オレ、最強だと思ってたのでそれを確かめたくて」

「お前は強いよ。だがそれに溺れるな。周りを見失うな。比べることが全てだと思うな」

まあ、これは俺にも言えることだがな……。

するとベルクは、立ち上がって頭を下げた。

「わかりました! すいません、オレ、同級生に謝ってきます!」

「いや、今すぐじゃなくても――」

「いってきます!!!」

まさかの俺をおいて速攻消えていくベルク。

まあでも、ああいう意識の切り替えができるのはいい事だ。

俺も見習うべきか――。

「言うようになったじゃないか。さすが先輩だな」

慌てて振り返ると、後ろから声をかけてきたのはミルク先生だった。

「……いつからみてたんですか」

「授業外はやめろといってるだろう。だが訓練服を用意したのは成長したな。それより、お前が立派に成長してることがわかって感慨深いよ」

「俺は元から大人ですよ」

「ま、師匠としては嬉しいかぎりだ。けどまあたまには落ち込むことも必要だろう。訓練服を着ているなら話が早い――剣を持て、今日から 魔法(・・) ありで戦う」

「……マジすか」

今まで純粋な剣のみでしかミルク先生と戦ったことはない。

ついに認めてくれたということだろうが。

驚きすぎて、思わずベルクが言いそうなことを言ってしまった。

「だがすぐに気絶するなよ。つまらないからな」

「――俺も成長してますから、そんなことなりませんよ」

今日俺は、ベルクを通じて、ミルク先生の気持ちが、少しだけわかった気がした。

そして、誰かに期待するということを。

――ったく、関わり合いが増えると考えることが多くなるが……それも、悪くないな。