軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

116 エレノア・ウィッチ

「……ちょっと待って、この子の属性……」

「嘘だろ……闇じゃないか?」

「ありえない。ウィッチ家は 光(・) 属性しか生まれない。――忌み子だ」

――――

――

――9年後。

「――エレノア、まーたこんなところにいて」

「お姉ちゃん!? どうしてここがわかったの?」

私たちの屋敷は少し辺鄙な場所にある。

家から少し離れた川辺で、私は一人で水に足をつけていた。

「あなたのことはわかるわ。ほら、家に戻るわよ。今日はご馳走いっぱいだから」

「で、でも私が行くと怒られるから……」

「そんなの気にする必要ないわ。あなたは、私の妹なんだから」

私たちのウィッチ家は、代々伝わる光属性で有名な家系だ。

その力を使って邪気を払い、魔物を倒し、領地を守る為に奮闘してきた由緒正しい血縁でもある。

だけど私は違った。

生後に行った属性判断で、私は闇と認定された。

それも一切の光がない。深淵の闇。

歴史上、闇の使い手は残忍な人ばかりだ。

中には、大事件を起こした人だっている。

そして……私を生むと同時にお母さんは亡くなった。

闇と光は反発しあうと言われている。お母さんは完全な光属性ではなかったが、おそらく私のせいだ。

お姉ちゃんはただの事故で関係ないと言っているが、そうは思えない。

それもあって、物心つく頃からお父さんは私のことを毛嫌いしている。

家を追い出されないのは、お姉ちゃんがいつも庇ってくれるからだ。

私はそんなお姉ちゃんが大好きで、いつも申し訳な思っている。

「ほら、エレノア来なさい」

「……でも」

「いいから。あなたに……私のこと祝ってほしいのよ」

「……わかった」

今日はお姉ちゃんの誕生日だった。

既に光魔法を習得し、魔物とも戦っている。

私も参加したことあるが、魔力が強いとされている闇なのに、一体も倒すことはできなかった。

そのときの呆れたお父様の顔は、思い出したくもない。

「――シエラどこいってたんだ。主役がいないと始まらないだろう」

「すみませんお父様。ほら、エレノア。座って」

「う、うん……」

お姉ちゃんに手を引かれて、親族が集まっている椅子の一つに腰をかける。

お父様は、一番奥に座っていた。彫の深い鋭い目、長いウィッチ家の歴史の中でも、特に優秀と言われている。

表立って私を非難する親族や使用人はいないが、それでも闇を快く思っていないだろう。

私は闇属性のおかげか、嫌な感覚を感じることができる。

悪意や嫌悪といった他人の気持ちが、肌に痛みのように突き刺さるのだ。

『忌み子だ』

『姉は優秀なのに』

『ほんと、エレノアさえ生まれてこなければ』

私を見つめる親族たちの顔が、そう言っている。

心の中で、毛嫌いしている。

「ほらエレノア、甘い物もいっぱいあるわよ」

「……うん」

痛い、痛い、痛い、痛い――。

「お姉ちゃん、ごめんなさいっ」

「ちょっとエレノアどこへ――」

「座りなさいシエラ。あいつは放っておけ」

「そんなのできない私は――」

「お前が役目を果たさないのなら、エレノアはここに置いておけないんだぞ」

「……わかりました。お父様」

私の夢は冒険者だ。

誰にも縛られず、誰にも迷惑をかけず、誰にも頼ることなく一人で生きていく。

お姉ちゃんと会えなくなるのは悲しいけれど、私がいると迷惑をかけてしまう。

私がいなければ、みんなが幸せになれる。

「――エレノアみーっけ」

「……どうして……いつもわかるの?」

私は、いつも違う少し離れた崖の上で街を眺めていた。

お姉ちゃんは屈託のない笑みで、私の横に座る。

「あなたの考えてることは、なんでもわかるのよ。――ほら、食べなさい」

「え? わ、わわわあっ!? こ、こんなにいっぱい」

するとお姉ちゃんは、服の中から甘い物をいっぱい出してくれた。

光魔法でキレイにしてくれているらしく、紙皿も一緒に。

「ほら、一緒に食べよっ。あなたは細すぎるし、小さすぎるわ。もっと食べなさい。私みたいに大きくなるためにね」

「えへへ、ありがとう。でも――ごめんね」

「後、いつも謝りすぎ。だけど――私こそごめんね。何もできなくて」

「な、なんでお姉ちゃんが謝るの!?」

「……私がもっと強ければあなたに悲しい思いをさせることなんてないのよ。私はもっと強く、えらくなる。だから、それまで我慢して」

「……えへへ、お姉ちゃん大好き」

「私も大好きよ、エレノア」

それからお姉ちゃんは言う通りにみるみる強くなっていった。

驚いたことに、風属性も習得し、更にみんなを驚かせていた。

だけど、私も少しだけ強くなっていた。

お姉ちゃんばかりに頼るのはダメだと必死に頑張ったのだ。

ただ私の魔力はやっぱり扱いが難しく、手に魔力を漲らせて魔物を倒すという単純な技が、私の得意技になった。

魔法は難しい。私は貴族だけれど先生は付けてもらえなかった。

でも一人で闇と向き合うのは嫌いじゃなかった。

不思議と、みんなのことが嫌いだと思うときのほうが強い力が出る。

ああ、私は闇なんだと、ごまかさずにいられるからかもしれない。

十三歳になったころ、私はちょっとだけ戦えるようになっていた。

駒(・) としては、使えるぐらいには思われていたのだろう。

魔物が出現したときにお姉ちゃんと一緒にだが、派遣されるぐらいにはなっていた。

ただ今回初めて、お姉ちゃんが王都へ出かけている時に、魔物の討伐を単身で任された。

それもお父様から直々にだ。

私は驚いた。そんなこと、今までなかったからだ。

「エレノア、お前の闇はウィッチ家にはふさわしくない。だが最近の働きは悪くない。この任務を成功させてこい」

「――はい」

ずっと恨んでいたが、なぜか嬉しかった。

理由はわからない。

お父様のことは嫌いだ。

でもきっと、お姉ちゃんと肩を並べられると思ったからだろう。

私が戦う事ができれば、お姉ちゃんに心配をかけないですむ。

それにお姉ちゃんに何かあれば、守ることもできる。

「確か、このあたり――」

「グギャグギャ!」

深い森の奥、簡単な魔物を祓う予定だった。

だけどそこにいたのは、今まで見たこともないほど大きなアンデットモンスターだった。

オーガやサイクロプスに似ているが、それよりも魔力も体躯も大きい。

しかし全身が黒いえ、生き物とも思えなかった。

「グギャグギャ!」

「――くっ」

強かった。私は何度も攻撃を受けてしまう。

今までこんなことはなかった。まるで――人間が操作しているかのような機敏な動きをしてくる。

そのとき、私の背中からチクチクと刃物が突き刺さるオーラを感じた。

思わず振り返る。見えない、見えないけど――いる。

誰かが、操作している。

「――どういうこと」

訳が分からない。だけど感じるのは、悪意だ。

私を殺すという強い意思。

誰がそんな――。

でも、死ねない。死なない。

私が死ねば、お姉ちゃんが悲しむ。

私は――絶対に負けない。

「はあっはあっ……」

何とか魔物を倒した。だけどやはりおかしい。

血が一切出なかったのだ。まるで、魔力で創られた――。

「やはりお前の力は父親と同じで強すぎるな。エレノア」

後ろから声をかけられる。

そこの声は――その姿は、お父様だった。

「どうしてここに……」

「お前には死んでもらうエレノア」

するとお父様は、まるで私をゴミのような目でにらんだ。

いつもよりも遥かに黒い悪意が、突き刺さる。

「殺す……?」

お父様は召喚魔法が得意だ。

ああそうか、今のはお父様が――。

「ああ、言葉の通りだ。お前は、このウィッチ家にとって必要がない。いや、お前が生きているとウィッチ家が滅びるかもしれない」

「どういうことですか……」

訳がわからない。私は闇として生まれ、蔑まれてきた。

中傷されることはあったが、お父様の言葉は、真意がこもっているように思えた。

すると、静かに口を開く。

「最後だ。教えてやろう。――お前は俺の子じゃない。お前の母親、シリアと別の男の間に生まれたのが、エレノア、お前だ」

「別の……訳が分かりません。一体何がどういう――」

「……想像するのも悍ましい。いいか? シリアは俺を裏切って別の男と関係を持っていた。そいつは闇属性を持っていた。そしてそれを色濃く受け付いたのがお前だ。まあ、すでにお前の父親は殺したが」

私がお父様の子ではない?

そんな……いや、そんなことはどうでもいい。

それより、殺した?

……まさか。

「……もしかしてお母さまが亡くなったのも――」

「それは偶然だ。俺がこのことを知ったのは、お前が生まれた後だからな。しかしおかげで困り果てた。死んだとはいえ、シリアがそんな不届きものだとしれば、私の名が、いや、ウィッチ家が穢れる。それにお前の父親はとても残忍な男だった。――犯罪者だよ」

信じない、信じたくない。

それでもお父様は話を止めなかった。

悪意を強くぶつけながら静かに淡々と。

「だが優れた魔力の使い手でもあった。お前は、その力を受け継いでいる。だからお前は駒として使えるかもと思ったが、予想以上に強くなっていくのに気づいた。それでいつかお前が私の子じゃないとバレるかと思ったのだ。それから何度も殺そうとした。だが、できなかった」

「……できなかった……?」

私を殺そうとしたなんて、聞きたくなかった。

だけど、訳が分からなかった。

「シエラがお前を守っていた。使役を放っても、あいつがそのたびに邪魔をする。あいつはお前の位置を把握する為、魔力感知の精度を高めていた。王都へ行くのも嫌がっていたが、お前に魔法の先生を付ける為だといっていたら喜んでいたよ。この機会を作る為に、俺がどれだけ苦労したかわかるか」

「お姉ちゃんがそんな……」

知らなかった。知りえなかった。

ずっとお姉ちゃんに守られていただなんて……。

だからお姉ちゃんは私の居場所をいつもは把握していた。

お姉ちゃんは、ずっと私を守ってくれていた。

「だが俺にも情はある。裏切ったのはお前の母親で、お前に罪はない。だから……大人しく死んでくれ。そうすれば、シエラはお前の死を糧に強くなるだろう。ウィッチ家は更に強固なものとなる。だがお前が生きていればいずれ不貞がばれ、ウィッチ家は滅びるだろう。そうなると、シエラも路頭に迷う。あいつは才能がある。幸せになれるんだよ」

「……そのほうがお姉ちゃんは幸せになれる……」

「ああ。これが、最善の方法だ。私も心が痛むよ。お前に罪はないのだから」

「……お姉ちゃんが……」

私は……いらない子だ。それに私はずっとお姉ちゃんに迷惑をかけていた。

それから解き放たれるんだ。

お姉ちゃんは悲しむだろうか。

でも、私なんていないほうがいい。

私は、いつもお姉ちゃんに迷惑をかけていた。

いつもいつも……。

それも知らない間に。

「それが最善……」

「そうだ。お前は魔物相手に奮闘し、最善を尽くしたが亡くなったとシエラに伝えよう。あいつも喜ぶはずだ」

「お姉ちゃんが……喜ぶ……」

わからない。どうしたらいいのか。

でも、お姉ちゃんはずっと私の為に……。

……私は、いらない子。

「……わかりました」

「偉いなエレノア。お前は俺の子じゃないが、初めて褒めてやりたくなった」

――ごめんなさい、お姉ちゃん。

今までありがとう。

「じゃあなエレノア。お前は最後に、ウィッチ家に相応しい――」

お父様は、静かに私に手のひらを向け、魔力を漲らせた。

私は、覚悟を決めて目を瞑る。

次の瞬間――私の、大好きな声が聞こえた。

「エレノアに何すんのよこのカス!」

「は? なっあぁっああああ――」

「――お姉ちゃん!?」

そこに現れたのは、お姉ちゃんだ。

なんと……お父様を思い切り蹴りつけたらしい。

お父様は転がっていく。

そして私に向かって腕を組みながら、胸を張って声を張り上げた。

「バカノア!! ずっと見てたわよ。どうするかと思えば、諦めるなんて! あなたねえ、自分の意思ってものがないの? 何のために生まれてきたのよ!」

「シエラ、よくも実の父を……」

「黙ってなさいこのバカ毒親!」

「毒――」

「……エレノア、私たちの親はクソよ。どっちもクソ。でもねえ、自分の意思は強く持てばいい。関係ない。私たちは、私たちで生きればいいの」

「……お姉ちゃんでも……」

「でもじゃない。エレノア、あなたはどうしたの? どうなりたいの?」

私は、お姉ちゃんと一緒に過ごしたい。

お姉ちゃんと、笑いたい。

一緒にご飯を食べたい。もっとおしゃべりしたい。

「……お姉ちゃんと一緒に……過ごしたい……」

するとお姉ちゃんは、いつものように笑みを浮かべた。

「だったらそうやって生きるのよ。私たちは、姉妹なんだから」

しかしその時、お父様が静かに魔力を漲らせていた。

だがそれに気づかないお姉ちゃんじゃない。

もう一度蹴りつけて、そして私に視線を向けた。

お父様は弱くない。それでも――お姉ちゃんは強すぎる。

「ふん。それでいいわ。だからエレノア――まずはウィッチ家は、私たちが乗っ取るわ」

「シエラ、お前一体何を考えている!?」

「お父様、既にあなたが行ったことはおじいさまに通達済。王都に行ったはその報告よ。もうすぐ実の娘を殺そうとした罪で捕縛されるわ。今までありがとう。当主は私が引き継ぎますので」

「はあ!? そんなことできるわけないだろうが!」

「できるのよ。――私は、一人じゃないから」

「クソ、お前は実の娘だからと思っていたが、ここで殺して――」

するとお父様はふたたび魔力を漲らせた。

とんでもない魔力だ。

本気で、お姉ちゃんを殺す気だ。

――絶対にさせない。

気づいたら私は我を忘れていた。

「――お姉ちゃんに、何するの。この、クソ野郎!!!」

「――は、ぎゃあぁぁああああああ」

それからお父様は、私を殺そうとした罪で兵士に連れていかれた。

ウィッチ家は本当にお姉ちゃんが引き継ぐこととなったのだ。

長い歴史の中でも、女性は初めてだった。

それも、13歳で。

「――エレノア、親がクソなんて珍しくもないわ。確かに悲しい事だけど、嘆く暇があるなら前を向けばいいのよ。そのほうが楽しいでしょ」

「うん……お姉ちゃん、ありがとう」

「お礼なんていいのよ。私だって、あなたに支えられてたのよ」

お姉ちゃんは、色々と裏で動いていた。

その過程で、私と異父姉妹だと知ったとのことだ。

私を殺そうとしていたのがお父さんだと知っときは、とても複雑な気持ちになったと後から教えてくれた。

でも、一切そんな素振りを見せなかった。

それからお姉ちゃんは、当主となって仕事も全て引き継いだ。

もちろんそれは簡単なことじゃない。

私も支えようとしたが、お姉ちゃんは親族に悪口をよく言われていた。

私はそれが、許せなかった。

「まだ年端もいかないそれも女――」

「ねえ、お姉ちゃんの悪口をいったら許さないよ」

お姉ちゃんは一生懸命だった。それをバカにするなんてありえない。

だけどたった数年で、誰もお姉ちゃんの仕事ぶりに文句を言う人は消えた。

だけどある日、お姉ちゃんは私にふと本音を漏らした。

それも静かに涙を流しながら。

「エレノア、私たちは二人だけの姉妹よ。あなたがいてよかった。これからもずっと一緒よ」

「うん、お姉ちゃん。私は、お姉ちゃんを守るから」

「私もよ、エレノア」

私はもっと強くなる。お姉ちゃんをバカにした人はどんな些細なことでも許さない。

お姉ちゃんが当主となってから時がすぎたある日、唐突に言った。

有名な最高峰の学園に、入学したいと。

「あのノブレスに?」

「そうよ。私たちにはもっと権威が必要だわ。卒業すれば箔がつくしね」

「凄い難しいんだよね。わかった。私もお姉ちゃんに続いて入れるようにがんばる!」

「何を言ってるの。あなたと一緒に入るのよ」

「え、でも、年齢的にお姉ちゃんのほうが先に――」

「一年や二年待つぐらいどうってこないわ。私たちは、いつも一緒でしょ」

「……うん!」

そして私たちは、姉妹二人そろって合格した。

学園に入ってからもお姉ちゃんは凄かった。いつも首位で、私も負けじとがんばった。

でもお姉ちゃんは、相変わらず私を守ろうとしてくれる。

私だって強くなった。お姉ちゃんには、もっと自由に生きてほしい。

そんなとき、お姉ちゃんがめずらしくわがままを言った。

「ねえエレノア、ヴァイがデュランに行くらしいから、ちょっと行ってきていいかな。面倒だけど、後輩をみてあげなきゃね」

普段そんなことは絶対に言わない。

自分のことであれだが、お姉ちゃんは私と離れることを嫌がるからだ。

でも、それが嬉しかった。

ヴァイスくんと出会ってから、お姉ちゃんは自分の気持ちをよく話すようになった。

きっと、彼のことが好きなんだと思う。

「もちろんだよ。ヴァイスくんのこと、気になるの?」

「ち、ちがうわよ! デュランが楽しそうだし、それに先輩だからよ!」

だけど魔族もどきのことを聞いたときは、本当に怖かった。

お姉ちゃんは、いまだ私を守ろうとしてくれている。

お姉ちゃんの中では、私はずっと弱いままなんだろう。

でももう違う。私は、泣き虫じゃない。

お姉ちゃんに心配かけないように、私は強くなった。

そして今日、私はそれを見せたい。

体育祭の最終戦――今日は――。

「お姉ちゃん、私、負けない。絶対に勝つよ」

「……めずらしくやる気じゃない」

「私は強くなったから」

「――さあ、どうかしらね」

お姉ちゃんは、またいつものように笑った。

でも、勝って言ってやるんだ。

私はもう自分ひとりでなんとかなるよって。

だから、もっと自分に時間を使って、素直でいてほしいって。

私は――エレノア・ウィッチ。

光とか闇とか、そんなのどうだっていい。

親がクソでも気にしない。

私はただ、お姉ちゃんを超えて、お姉ちゃんを守れる存在になりたい。

だからこの試合に――絶対に勝つ。