軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

はじめてのダンジョン1

有休3日取っていたので助かった。

丸1日あちこちの契約関係と荷物の整頓、足りない物の買い出しに費やした。

「……アパートから職場まで電車で30分。ダンジョンまでは歩いて15分……ははは、ダンジョンに行く方が便利なんてね……笑えない」

そういえば、ダンジョンが近くにあるから魔物がダンジョンから出てくると危険だと家賃が他の地域より安かったんだっけ……。

ダンジョンの入り口を囲むように、倉庫のような建物が立っている。ダンジョン管理事務所だ。通称探索者ギルド。略してギルドと呼ばれることもある。

入り口を入るとショッピングモールのサービスセンターというか案内所のようなカウンターがあった。

奥はリサイクルショップの買取り倉庫みたいな感じだ。ダンジョンから出てきた品物を出すと査定してお金をもらえる場所だ。

カウンターでマイネームカードを出すと、探索者カードを作って渡されすぐにダンジョンの入り口へと案内された。

「新規探索者です。山本さん案内お願いします~」

ダンジョンの中に声をかけると、すぐに返事が返ってきて、山本さんに引き渡された。短髪の女性だ。

驚いたまま固まる。

「初めまして。案内役の山本です……あ、これ、気になる?」

山本さんが私の視線の先に手を置いた。

「今ね、7か月なんだ」

お腹が大きい。妊婦さんだ。

に、妊婦さんがダンジョン?大丈夫なの?

「大丈夫なのか心配してくれてる顔だよね。大丈夫だよ。私ね、法改正前、27歳から探索者してるの。今33で、ベテランよ。15階層まで踏破してるんだけど、今はお腹の赤ちゃんのために1階層で案内役してるの」

「あ、そうなんですね……。佐藤有希です。35歳です。よろしくお願いします」

山本さんが歩き出すので横に並んで進む。

「1階層ではスライムとどつき兎くらいしか魔物が出てこないから死ぬようなことはないから安心して」

ダンジョンというからには洞窟のような場所かと思えば、意外にも草原だった。空も見える。

ただ、遠くに岩の壁のようなものも見えるので、どこまでも続く草原と言うわけではないみたいだ。入り口も岩だし、左右に岩の壁が伸びているのでぐるりと岩で囲まれているのだろう。

「そうそう、これが1階層の地図ね。これを見ながら進みましょうか」

スライム狩りをするならここ、どつき兎を狩るならここ、薬草とりならここと案内される。

それぞれ何人かが活動していた。

「で、ここがリゾート」

リゾート?

ハンモックに寝ころび本を読んでいる人。火をおこしてコーヒーを飲んでいる人、座椅子に座って編み物をしている人、中には仕事を持ち込んでいる人もいるようだ。

そっか。週に8時間ダンジョンの中にいればいいのだから、別にスライム狩りとかする必要もないんだ。

むしろ、東京のど真ん中で草木に囲まれることができるなんて贅沢なんじゃない?

徒歩15分のリゾートだ。

ちょっと楽しくなってきた。

「いっそダンジョンの中に住みたいって思う人はいないのかな?」

思わず声が出てしまった。

家賃なしで自然に囲まれた生活。

「だねー、住みたいよねー。昔はほら、その辺にログハウスを建てた人もいたんだけどねぇ」

その辺には草原が広がるばかりでログハウスどころか廃屋すらない。

首をかしげると、山本さんが人差し指を斜め前に伸ばした。

「【火針】」

指先から火の針が数本飛び出し、草むらから頭を出していた兎のような魔物に突き刺さった。

おおお、今の、魔法だよね。魔法!

ダンジョンの中限定で魔法が使えるようになる人がいるって本当だったんだ!

「あれがどつき兎ね。2m以上近づくと跳んで体当たりされるから気を付けて。どつかれたくらいの痛みを感じるからどつき兎って名前が付いたんだよ」

山本さんが説明している間に、どつき兎がキラキラと光りながら砂のように崩れて消えた。

「うわー、ゲームみたい……」

本当に、ここはダンジョンだって実感がやっとわいてきた。

「ほら、見える?あれが魔石。どつき兎の魔石だと200円くらいで買い取ってもらえるよ。エネルギーとしては乾電池10本分くらい」

山本さんが指さした先に、ビー玉より小さな……真珠のような大きさの赤い球が落ちていた。

拾わないのかなと山本さんの顔を見ると、ふっと笑う。

「いい、見てて」

言われるままに見ていると、魔石が砂になって消えてしまった。

「え?え?無くなっちゃった!」

山本さんがうんとうなづく。

「魔石にしてもドロップ品にしても、1分以内に手に入れないと消えちゃうのよ。正確には63.4秒だけどね」

「へー、そうなんですね……」