軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

■第15話 兄の望み

「そういうわけで、僕はシルヴィスの異父兄。兼、頼れる部下ってところだね。仕事のできる事務官とは僕のことだよ」

異父兄。だから皇帝陛下と家名が違うし、皇族の血は引いていないから髪は金色で、だけど母が同じだから、皇帝陛下と顔立ちや雰囲気がどことなく似ているのか。

「僕の怪しさは払拭できたかな?」

「はい。虚言癖の方なのかと疑ってすみませんでした、エオルスさん」

「いやいやこの髪色と家名で皇帝の兄だって名乗ったら疑うのが普通だからね。あと僕的には『エオルスさん』より『お義兄さん』がお勧めだから、遠慮なくそう呼んでくれていいんだよ? なんてったって君は僕の未来の妹だからね!」

「……あの、私と陛下との結婚は確定ではないと思うので、未来の妹というのも早計では……」

「えっ」

親指を立ててウインクをかましていたエオルスさんは、顔面蒼白になった。

「え! 嘘!? リーニャちゃん、シルヴィスと結婚しないの!?」

その驚き様に驚きながら、「え、あの、だって……」と歯切れ悪く続けた言葉に、エオルスさんが「ええええ」と言葉を被せながら、私の肩をがっくんがっくん揺さぶった。酔う。

「結婚を前提に仲良くなるために毎週二人でお茶会してるんじゃなかったの!?」

「し、してますけど」

「宮廷務めのそれなりに身分の高い求婚者というぼかした感じでリーニャちゃんのご両親とも仲良く手紙のやりとりしてるって聞いたよ!?」

「そ、そうですけど」

「あいつリーニャちゃんと結婚する気満々で結婚式の衣裳とか居住用の部屋とかすでに用意してるよ!?」

「そ、それは知ってますけど」

「最近リーニャ日記が2冊目に入ったよ!?」

「それは知りたくなかったです」

一通り驚きを表し終えたエオルスさんは、私の肩から力なく手を落とし、声のトーンも落とし、悲し気な瞳になった。

「リーニャちゃんは、シルヴィスのこと、好きじゃないの……?」

「いや、その……」

今日のお昼にも神官様とこんな話題になったけれど、なぜ私以外の人は、私と皇帝陛下の結婚が普通に成り立つと思うのだろう。なぜ、あの皇帝陛下の相手が、特に取り柄のない私であることに疑問を持たないのだろう。

「えーと……。まずですね。好きとかそういう話の前に、一般論として、私の身分で陛下との結婚は無理ではないでしょうか……?」

「なんだ気にしてたのはそこかあ!」

途端、エオルスさんは明るい表情を見せた。本当に感情の起伏に富んだ人である。

「その辺は心配しなくてもシルヴィスがどうにかするよ。っていうか皇帝が相手の身分とか周囲の反対に縛られて結婚できないならシルヴィス産まれてないってあはは」

「……」

なかなか説得力のある言葉だけれど、皇帝陛下とエオルスさんのお母さんは、それでも貴族だ。対して私は平民で……いや、分かっている。身分がどうとかは、皇帝陛下は最初から問題にしていない。懺悔室に恋の相談に来た皇帝陛下と、ドジっ子メイド想定で話をした時からすでに、そのことは分かっている。

私が気にしているのは、本当は身分の差ではなくて。

私自身が、皇帝陛下に釣り合うような人間ではないという話で。

「……エオルスさんは、陛下から私のことをどう聞いているのでしょうか?」

「シルヴィスは僕にリーニャちゃんのこと、あんまり教えてくれないんだけど……。まず、僕がサボりスポットとして勧めた教会のシスターだってことは聞いた」

こちらからの質問に、エオルスさんは「それから……」と腕を組んで、記憶を辿り始めた。

「あと、衝立の向こうから天使みたいに綺麗な声で語りかけてくるからたぶん天使に違いないと思ったけど素性を調べてみたら普通に帝都在住の一般市民ででもやっぱり彼女は天使なんだと思う、とも言っていた。あ、そうそう、書類仕事をしながら真顔で『リーニャ可愛い』って呟いて溜め息してたのを何度か見かけたこともあるよ。そんな感じかな?」

「……。……。……」

ちょっと反応に困るので今のエピソードは聞かなかったことにするとして。

「エオルスさんは、私と陛下が結婚することを望ましいと思っているのですか?」

「え、うん」

この質問には、きょとんとした顔であっさりと頷かれてしまった。

事務官として皇帝陛下を支える彼なら、もっと「皇帝」の立場のためになるような、それこそ説明の中に出てきた四大貴族のお姫様とか、そういう方との結婚を望むのではないかと思ったのだけれど。

「ここ最近の一番の望みと言ってもいいね。僕は弟の恋を全力で応援する。シルヴィスとリーニャちゃんが結ばれるといいなって思うよ!」

天真爛漫に言われて、俯いてしまう。どうしてそんな、もったいないことを言うのだろう。

「……。私と結婚しても、陛下にとって何か利があるとは思えません。私が陛下の役に立つようなことはないと思います」

「利ならあるよ。っていうかすでに出てる」

エオルスさんの言葉に驚いて、思わず顔を上げた。目が合ったエオルスさんはにっこり笑って、自信たっぷりにこう続けた。

「リーニャちゃんに恋をしてから、うちの弟は仕事の効率が悪くなった」

「……あの、それ、利じゃなくて害って言いません?」

私の至極当然な問いに、エオルスさんは「あはは」と笑った。

そして、「そんなことないよ」と、優しく言った。