作品タイトル不明
第41話 変化
「まだバイト続けてくれるんすね。後輩としては嬉しいっすけど、探索者的にはどうなんすか?」
「別に? レイド戦を乗り切ったら一生遊んで暮らせるってわけでもないし。俺は逃げ道を守ってるだけだ」
「あはは、午前だけだし両立しやすいっすからねー」
レイド戦が終わってもバイトは続く。
朝から接客、品出し、掃除など……午前中だけとはいえ忙しい。
ダンジョンとは違う疲れがたまる。でも潜り続ける辺り、俺は相当なワーカーホリックなのだろう。
っと、またお客さんが来た。
「これくだ……えっ、藤崎さん? ”ギャンブルーキー”が何故バイトを……?」
「色々事情があるんですよ。支払方法は?」
「あ、キャッシュレスで……」
どうやら探索者だったらしい。
あれから数日が経ったが、俺に話しかける探索者らしき人間が増えた。
大体が尊敬か恐れ、あとはバイトをしていることに対する疑問の声。
……そこに付け加えられる妙なあだ名も。
「ギャンブルーキーって……もうちょっといい呼び名はないのか?」
「いいじゃないっすか。異名があるだけで格が違うっすよ♪」
「俺は副業感覚でやってただけなんだけどなぁ……」
笑顔を向けるシャナに、ため息を吐いて返した。
”ギャンブルーキー”
大胆なスキル回し、即興で大博打な作戦を思いつきそれを実行する胆力。
MPを気にせず暴れまわる姿はまさしくギャンブラー……そこにルーキーが足された感じだ。
色々言いたいがまず一つ。
ダサくない?
というかネーミングがド直球すぎる。
シロナの《 氷結姫(フリーズクイーン) 》ってかっこいいじゃん?
俺ももう少しこう、捻りとか厨二要素を……
「けど、あーしも前に進まないとなぁ」
「前に? 何か夢でもあるのか?」
「ダンジョンにかかわるお仕事っす♪ 戦えなくても、大好きなダンジョンを支えたいなって」
「へー、いいじゃん」
シャナは相変わらずダンジョンが大好きだ。
憧れに留めず、それを仕事にしたいと強く願っている。
その夢見る姿が俺には眩しく見えた。
(俺にも夢とかできるのか?)
大人になってからは考えたこともなかった。
ただ、日常を生きるために悩んでばっかで。
それが普通なんだと割り切ってはいるけど。
「で? 今日もダンジョンに潜るんすか?」
「いや、今日は知り合いに呼ばれて……俺も詳細聞いてないんだよ」
「おおー、モテモテっすね」
「誰も女性とは言ってないだろ……あってるけど」
紗理奈の家でパーティをする、としか俺は聞いていない。
レイド戦のお疲れ様会なんだろうけど……妙に含みのある言い方をしてたんだよな。
”文也くんは特に楽しみにして♪”って何をするつもりなんだ。
ただ食事をして終わり、という流れにならない気が……
◇◇◇
「いらっしゃーい、文也くん♪」
「ささ、早く中へ……」
「……なるほど」
バイト終わり。期待と不安が半分ずつの状態で紗理奈の家のドアを開けた時、俺は全てを理解した。
出迎えてくれたのはバニーガール姿の紗理奈。
少し奥には制服姿の静。
なんかやらしいお店みたい。
「待ってくれ。状況がわからん」
「ふふっ♪ 今日はね、お楽しみの日なのよ」
「お楽しみ?」
「レイド戦のお疲れ様会と、文也くんにたっぷりいい思いをしてもらう会なの」
そう言いながら紗理奈はわざとらしく谷間を寄せる。
とてつもなく大きい果実がゆさゆさと揺れ始め、俺の視線が吸われてしまう。
「文也様の内なる欲を静たちが解消する……こうしてご奉仕ができるなんて嬉しいです♪」
対する静もスカートの裾を指先でつまんで、生足を露出させていた。
ただでさえ短いスカート。少し上げるだけで白い下着までもチラッと見えてしまった。
普段は肌の露出とか全然しないだろ!? それはちょっと刺激的すぎないか!?
「これ、俺が楽しいだけでは? 二人は嫌じゃないのか?」
「全然? むしろ露出は大好きよ?」
「普段はこのように足を出したりしませんが……文也様に見られるとなると、逆に燃え上がってしまいます♡」
ドスケベ……!!
こんな美人が性的な雰囲気を出すなんて、色々と悪い!!
健全な男子がいていい空間じゃない。
滅茶苦茶嬉しいけど複雑な気持ちだ……
「申し訳ない気持ちでいっぱいなら、私たちの欲を受け止めてほしいな」
「性欲という事?」
「「正解♡」」
舌なめずりをしながら、俺の両肩へ二人の手が優しく置かれる。
女性特有の甘い香り。そして整いすぎた顔立ちが俺の耳元まで近づく。
視界の全てが二人に支配される。
「貴方は可愛い弟なんだもん」
「文也様は誰よりも尊く、素晴らしい存在です……なので一緒に堕ちましょう♡」
吐息交じりの甘え声。女性という存在をダイレクトに感じさせる喋り方が、胸の内まで深く刺さっていく。
(やばい……)
語彙力がなくなる。どこまでも溶けてしまう。
男心というのは脆いものだ。好意的な女性に近づかれるだけで、あっさり本能をむき出しにしてしまう。
無意識に彼女たちの腰元へ手を伸ばし、優しく抱きしめようとしたその時、
ピンポーン……
「ん、誰だ?」
「あー、来てくれたのね。やっぱりパーティは多い方が盛り上がるわ♪」
チャイム音が淫らな空気を浄化させる。
危なかった……というか紗理奈が呼んだということは俺の知り合い?
一体誰が……
「文也、いた……♡」
「シロナ!?」
「白金さん!?」
現れたのはなんとマスターランク、 氷結姫(フリーズクイーン) 、白金シロナ。
まさかすぎる人物の登場……そして何故かメイド服という私服にしては派手すぎるチョイスに二重で驚く。
「もうメイド服を着たの? ウチで着替えてもよかったのに」
「それは非効率。目立つのは好きだし、悪くない体験だった」
「視線は集めますよね……」
メイド服で街中を!? 恥じらいとかそういう感情はないのか?
「いやらしい雰囲気。これは文也を知れるチャンス」
「へ……」
そして俺の姿を見るや否や、捕食者のように歯を見せて微笑むシロナ。
軽快な足取りのまま玄関をあがり、そのまま俺の頬へ両手を当てると、
「教えて、貴方の強さを♡」
唇に柔らかい感触。
これが人生で二回目のキスだった。
俺の副業が落ち着くことはなさそうだ……ははは。