軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第36話 いざレイド戦へ

「パイセンもレイド戦に行くんすか?」

金曜日。バイト中、シャナと雑談をしていた時だった。

レイド戦に関する情報を部外者のシャナが知っていたことに驚くが、ダンジョン好きならではの情報網があるのだろう、ということにした。

細かいことは気にしない。

「バイトが終わったら行くよ……強制参加みたいだし」

「うへー、大変っすねぇ」

「まあ、いつもバイト終わりにダンジョン行ってるからあんまり変わらないよ。けど、ランクアップしたから変な仕事を任されないか不安でさ」

「ランクアップ? 今いくつなんすか?」

「ゴールド」

「わぉ、すっごーい」

シャナがパチパチと軽く手をたたく。

「レイド戦ってかなり強いボスが出るみたいっすね。だから心配っす」

「んー、まぁ危なかったら逃げるし……さすがに死ぬまで戦えとは言われないだろ」

「あはは、それは大丈夫っすよ~」

自分の身を最優先に、と書かれていたのは確認している。

というかレイド戦なんて初めてだし、立ち回りも知らないし。

……けど、全部が初めてって普段のダンジョン探索もそうなんだよな。

「無茶だけはやめてほしいっす。パイセンとまだまだバイトしてたいんで」

「ありが……えっ?」

「ん? あー、口説いたわけじゃないっすよ?」

「俺の勘違いか……お恥ずかしいところを」

「あはは、ちょっとだけ夢を与えちゃったっすね~♪」

俺としてもバイトはまだまだ続けたい。

ダンジョンが不安定な場所ってのもあるが、レイド戦みたいな現象で大怪我しそうだからな。

何事にも保険は必要だ。決して逃げ腰になっているわけではない……はず。

◇◇◇

「文也様~♪」

「よっ、静」

バイトも終わり、いつものダンジョン前へ。

そこでは静が元気よく手を振って出迎えてくれた。

ぴょんぴょん跳ねているのが可愛らしい。

「今日はいつも以上に人が多いな……」

「レイド戦は強制参加が義務付けられていますからね。企業でも特別休暇が出るそうですよ?」

「へー、しっかりしてるんだなぁ」

ということは、よほど遠くに住んでいる場合以外は参加できるってわけか。

バイトしている時に特別休暇の話なんか一言も出なかったけど……バイトだから仕方ないか。

午前だけだから休暇なしでも参加できるし。

「文也くーん、シズちゃーん♪」

「紗理奈もお疲れ様」

「おつかれさまですっ♪」

と、紗理奈とも合流。

紗理奈は俺たちの姿を見た途端、ぱぁっと顔を明るくしてこちらへ駆け寄ると、

「はぁあああ……癒しがいっぱい~♪」

「わっ」

「あわわっ」

両腕を広げて俺たちを思いっきり抱きしめた。

「男の子も女の子もいいわね~……い゛や゛さ゛れ゛る゛ぅ~」

「紗理奈さんは甘えん坊ですね~♪」

「そうなのよぉ。私は甘えたいし甘やかしたいのっ」

疲れてる……のかな。

レイド戦前だし、協会職員としていろいろとバタバタしていたのかも。

「もしかして紗理奈と戦えるのか?」

「その通りっ♪ 本来ダイヤランクはボス担当なんだけど、新人の見守りとか職員としての義務とか、いろいろこねくり回して雑魚モンスター担当になったのー」

「ボスはダイヤ以上なのか……って雑魚モンスター担当って?」

「えっとね、レイド戦ってボスモンスター以外に雑魚モンスターがわらわら出現するの。それを倒してダイヤ以上の探索者をボスまで導くのがプラチナ以下の仕事よ」

話を聞く限り、俺がボスと戦うことはなさそうだ。

というか紗理奈ってダイヤランクだったのか。

職員だし結構強いんだろうなーって思っていたけど。

「数が多い分、素材もいっぱい落とすので、協会としても本腰を入れてるみたいですね」

「いわばボーナスタイム、か」

ここ二日間、まともにダンジョンに入れなかったからな。

水曜日は休み、木曜日はレイド戦前の調整でダンジョンそのものが閉鎖されていた。

なまった身体を動かすのにちょうどいい。

ざわ……ざわざわ……

「おい、あれって……」

「間違いねぇ……本物だ……」

「ん?」

協会内が一段と騒がしくなった。

探索者たちが一方向に視線を向けている。

振り向けば、そこには銀髪のロングヘアーを揺らす小柄な美少女の姿があった。

「あら、シロナちゃんじゃない。やっぱり来るのね」

「有名な人?」

「 氷結姫(フリーズクイーン) 、白金シロナ……マスターランクまで到達した凄腕の探索者ね」

マスターランク。ダイヤよりも上のランク。

最強と言い切ってもいいランク帯だ。

ダイヤランクである紗理奈も凄いなと思っていたのに、白金シロナからはそれを凌駕する圧倒的なオーラを感じる。

これがマスターランクか。おっそろしいなぁ。

「……」

「ん?」

白金シロナと目が合った。

すぐに目をそらされると思ったが、なぜかじっと見つめられる。

「え?」

「こ、こっちに来ますよ?」

「珍しいわね……普段は他人に興味を示さないのに」

不思議な時間が五秒ほど続いたあと、白金シロナは無表情のまま俺の方へずんずん近づいてきた。

距離を紗理奈たちとほぼ同じ位置まで詰めてくる。

何を言われるのか。黙って彼女の様子を眺めていると――

「五回……貴方に攻撃された……」

「え?」

いきなりどうした?

「ファイアボールで右腕を火傷、酸液が右足をかすった、強化系スキルで詰められてナイフで二回刺される……」

「待て、お前は何の話をしている?」

「最後のこれは何? とてつもないスキルがあたしの身体をズタズタに引き裂いてる……」

シミュレーションをしているのか?

スキルによる負傷箇所をやたら細かく語り始めている。

というか“ファイアボール”と“酸液”を見抜かれた?

“武身強化”も効果内容を見破られているし……どういうことだ?

「だけど最後はあたしが殺す……けど、あたしも死にかける……」

そして物騒な言葉に肝が冷えかけたと思えば、

「はぁっ……♡」

「っ!?」

冷たい顔が少しだけ赤くなり、艶やかな声をあげた。

「名前は?」

「え? 藤崎、文也だが……」

「文也、覚えた。あたしを殺せる人」

いや殺すつもりは一切ないのだが。

出会って三秒で殺人宣言っておっかないだろ。

「あたしを殺せるなんてゾクゾクする……最高……♡」

口元が緩み、目はとろんと虚ろに。

完全に自分の世界に閉じこもっている。

「あたしのことはシロナって呼んで。またね」

そして満足したような顔でどこかへ去っていった。

「あの子ね、強いモンスターと戦うのが生きがいなのよ。レイド戦なんて特に大好きで」

「ということは文也様を強者だと認めた?」

「そういうことね。一応、本気で殺すつもりはないから安心して」

「あれはガチだろ……」

とんでもなく面倒な人に懐かれた気がする。

成り上がる人というのはどこか頭のねじがぶっ飛んでいる場合が多いが、彼女もそうなのだろう。

レイドボスなんかよりシロナの方が恐ろしいのでは?