作品タイトル不明
第29話 ボーナス、そしてイタリアン
「……依頼達成に必要な数は?」
「じゅ、十分です……」
「……とりあえず袋に入れようか」
「ですね……しかし凄い量……」
俺たちは大きめの布袋を取り出して、落ちている鉱石を一つずつ拾っていく。
この数、持ち帰れるのか……?
とりあえず詰めるだけ詰めて帰るとして。
鉱石、というか魔力結晶は多少雑に入れても傷つかないから、鉱石同士がぶつかる心配をしなくていいのは助かる。
「後で半々に分けないといけないから……あ、売った後に売却額を割ればいいか」
「えっ? 静が半分も?」
「当たり前だろ? 静はパーティなんだし、それに見合う働きもした。というかジュエルゴーレムなんて俺一人じゃ絶対倒せなかっただろうし」
「静は軽い援護しかしてませんよ……?」
「その援護に守られたんだから十分だって」
申し訳なさそうな顔をしなくても。
だが、報酬は報酬。嫌と言われても渡すぞ。
援護があってこその勝利だからな。
というか、前衛と後衛だと報酬分配で差が出るのか?
仕事量で報酬が変わる……と言われたらまぁ納得はできるが……
ま、今回は半々だ。そこは譲れない。
「これで全部かな」
「えぇ」
報酬の話も一区切りついたところで、鉱石も布袋に詰め終わった。大きめの袋を持ってきてよかった。おかげで全部詰め込むことができた。
てか袋の膨れ方が昭和の泥棒みたい。
今からこれを持ち帰るのか……
「重くない?」
「大丈夫です。スキルに目覚めてから重い物が楽々運べるようになったんですよね~」
「仕事でも商品の荷運びがめちゃくちゃ楽になったなぁ……そのせいで店長から押し付けられるけど……」
これも探索者特有の力なんだろう。
だが、バイトでもその力を頼りにされると少し困る。
できる=やりたいではないんだ。
店長は悪い人じゃないけど、たまーに人使いが荒い時があるよなぁ。
「ん? あれは……」
「ワープ端末……ですかね?」
布袋を持ち上げた時、小部屋の奥側に何かが設置されているのが見えた。
階段近くにあるワープ端末に似ているが……
ピコン!
『五階層階段前までワープしますか?』
あ、本当にワープ端末なの?
「……いいのか?」
「大丈夫だと思いますよ。特殊な部屋を攻略した際のボーナスとしては……」
「そうじゃなくて……ズルでは?」
「あぁ、そういう。まぁ苦労はしてますからズルではないかと」
「なるほど……」
救済措置みたいなものだろうか?
まぁ苦労してダンジョンの奥に行ったのに、ワープポイントまでたどり着けなかったら少し萎えるかもしれない。
ジュエルゴーレムのような中ボスと戦った後はかなり消耗するだろうし……ここはありがたく使わせてもらおう。
「じゃあ、行くか」
「はいっ」
端末に触れると、視界がぐにゃりと歪み、身体が宙に浮く感覚に包まれる。気づけば階段がある場所へとワープしていた。もちろん、ワープ端末もある。
さっさとワープ端末に触れて帰るとしよう。
ブォン!!
「これで四階層も攻略……いやー大変だった」
「お疲れ様ですっ♪」
次は五階層……ここを攻略すればゴールドランク昇格できる。
難しそうだなぁ。ま、今日はダンジョンのことは忘れてゆっくり休もう。
◇◇◇
「お待たせしましたー♪ こちらが報酬となりますっ!!」
「「……」」
受付のお姉さんから差し出された明細書。
妙にハイテンションな対応に困惑しつつ受け取ると、とんでもない額が目に入った。
★★★
盗人ゴブリンの魔石×3
7200円
ジュエルゴーレムの魔石×1
12000円
魔力結晶(中級)×195
409500円
合計:428700円
★★★
「え、えっと……分けたらちょうどいいんじゃないか……?」
「それでも二十万超えますよ……流石の静でもここまでは……」
「月収の間違いだろ……なぁ……?」
あまりにも桁違いな金額。
俺と静は何度も顔を見合わせては明細書を眺めるのを繰り返した。
六桁ってなんだよ、競馬でも当たったのか?
ジュエルゴーレムは探索者の間では当たりモンスターと言われてるらしいが……この報酬額は確かに大当たりだな。
(依頼用の魔力結晶を外してこれだもんな……こえぇよ)
例の依頼は後出しでも受注することができるらしく、俺はダンジョンから帰還した直後にアプリで受注した。
納品に必要な個数は十個。それが静の分も合わせると二十個。
そして達成報酬は三万五千円。結構多いのに四十万の前だと霞んで見える。
ちなみに依頼は何回でも受けられるわけではなく、一人一回までという制限があった。ちょっと残念。
「この明細に書いてある中級ってなんだ?」
「魔力結晶の品質ですね。下級、中級、上級……とランクが決まっているんです。もっとも、下級は多すぎて記載が省かれるパターンもありますが」
そういえば俺が最初に魔力結晶を売却した時は階級に関する記載はなかった。下級はデフォルトということなのだろう。
「とりあえずお金送るわ……」
「あっ、はい……」
口座に振り込まれた稼ぎの半分を電子マネー経由で静へ送金する。口座振込じゃなくていい? と聞いたら「電子マネーばかりなので大丈夫です」とのこと。
便利だよな電子マネー。たまに使いすぎちゃうのが悩みだけど。
「この後はどうします?」
「そうだなぁ……適当にご飯を食べようかなって」
「でしたら静、美味しいイタリアンのレストランを知っています。一緒にどうですか?」
「いいね。行こう行こう」
「ありがとうございますっ」
美味しいイタリアン……お高そうなイメージも含めて普段の俺なら絶対に立ち寄らない場所だ。
ただ今日は思わぬボーナスをゲットした。
少しくらいハメを外しても大丈夫だろう。
「どこにあるんだ?」
「えっと、協会を出て繁華街まで……」
「あそこか。実はあんまり行ったことないんだよなぁ」
「そうなんですか?」
チェーン店以外の外食ってそこそこ高いからね。
一品あたり千五百円を超えるだけでも抵抗がある。
少し前まで千円程度だったのに、なぜここまで値上がりしたのか……おのれ、増税。
「静はよく行くのか?」
「たまにですね。友達とお出かけした時とか、ちょっとしたご褒美に」
「友達、かぁ」
大学時代はそこそこいたんだけどなー。
卒業してからは連絡を取る機会が減って、今ではほぼ絶縁状態。悲しいね。
「今は静もいますし、紗理奈さんもいます。だから寂しくないですよ?」
「……ありがとう」
天使かな? 少し泣きかけたぞ。
大人になるとちょっとした優しさでも胸に染みてくる。
「着きましたっ」
静の優しさを実感しながら歩くこと五分。
彼女が一軒の建物を指差した。
「ほぉー……すっごいオシャレ」
昭和チックな洋風の白い建物だ。
年季を感じさせるドアや壁が、この店の古い雰囲気によく合っている。
ダンジョン協会の近くにこんなレトロな場所が……もしかして協会ができる前から店があったのか?
「はぁ……久しぶりですねぇ」
懐かしいベルの音とともにドアを開ける。
ややオレンジが強い照明。歴史を感じさせる木製のテーブルに椅子。
まるでタイムスリップしたみたいだ。
好きな人は好きだろうなぁ……
「いらっしゃーい……あれ、静ちゃん?」
「また来ちゃいました♪」
「嬉しいねぇ。最近また客が減って……お友達かい?」
「……こんばんは」
カウンターの奥からひょこっと顔を出したのは、二十~三十代くらいのお姉さん。レトロな店内にしては若い店員の登場に少しだけびっくりするも、すぐに頭を下げて挨拶を交わす。
「彼は藤崎文也様です。今日は静と一緒にダンジョンへ潜った帰りにこちらへ♪」
「へぇ、同じパーティの……って文也様?」
「静が尊敬している人です。だから文也様です」
「あー……そういうことね?」
サラッと流すあたり、静の扱いに慣れている。
昔から不思議な子だったんだなぁ。
「オススメはなんだ?」
「そうですねぇ……ここの料理は全部美味しいので悩みます……」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。マルゲリータとペペロンチーノがおすすめだよ」
「じゃあそれで」
ピザとパスタか……最近、食べる量が増えたんだよなぁ。
昔は弁当一つ食べただけでお腹いっぱいだったのに、今は追加で菓子パンとか頬張っている。
ダンジョンで動いてるから?
それともレベルアップで身体能力が上がっているから?
「静はカルボナーラをお願いします」
「かしこまりました……好きだねぇカルボナーラ」
「えへへ♪」
鼻歌とともに身体を小刻みに揺らす静。
そんなにカルボナーラが好きだったのか?
「楽しみですねー♪」
「だな」
こんなオシャレな店に心置きなく入れるのもダンジョンのおかげ。
ご褒美が増えるのもいいことだ。