作品タイトル不明
第25話 クールダウンについて
「ゴブリン、にしては少しオシャレだな?」
「盗人ゴブリンですね。物陰に隠れて探索者のアイテムを盗む卑怯なモンスターです」
「盗人、ねぇ」
普通のゴブリンとは違い、頭にターバンを巻いて趣味の悪そうな宝石の首輪を身に着けている。
随分といやらしいモンスターがいたものだ。偽鉱石やミミックといい、四階層は騙しに特化しすぎている。
さてと。隠れているということはすぐ近くにいるはず。
目の前にいる盗人ゴブリンは一体だけだが、近くにも……いた。
「”ファイアボール”」
「ギキィッ!?」
大岩の隙間へと”ファイアボール”を投げる。
が、命中するより先に隠れていた盗人ゴブリンが飛び出して回避されてしまった。
普通のゴブリンよりも素早い。
確かにこのスピードなら物も奪われるし逃げられるわ。
「よくわかり……気配察知ですね」
「そういうこと。暗いけど向こう側に同じのが二~三体いるから気を付けてくれ」
「承知しました」
小賢しいことにあらゆる遮蔽物を経由して近づいている。ただ俺には見えている。
問題は盗人ゴブリンにどうやって攻撃を当てるかだが……
「静の光系スキルって目くらましとかできる?」
「可能ですよ。いつでもいけます」
「OK。じゃあ三秒後にお願い」
静が杖を構える。これが静の武器らしい。
長さもそこそこある上に、使用したスキルのMPを減らしてくれるのだとか。
さて、俺も準備しよう。
右手にワープナイフ、左手にはスタンシールド。
小型で軽いから片手でも持ちやすくて助かる。
「さん……にぃ……いち……」
カウントと共に足に力を入れる。
同時に”武身強化”を身体に付与し、目元をスタンシールドで覆うように隠した。
「”フラッシュ”!!」
「グキィッ!?」
狭い空間を眩い閃光が支配する。
盗人ゴブリンは突然の光に驚き、その場で足を止める。
一方の俺はシールドで光を遮断しており、”気配察知”で盾越しに盗人ゴブリンの位置がわかっている。攻めるなら今がチャンス。
俺は更に強く足を踏み込み、盗人ゴブリンへと一気に駆け出した。
ズバァッ!!
「グキィイイイイイ!!」
一瞬の出来事。数秒程度で盗人ゴブリンとの距離を詰め、小柄な身体を真っ二つに斬り裂いた。
(ここまで強化されるか……)
初めて”武身強化”を使ったが、ここまで身体能力が上がるとは想定外。
しかも武器に強化を付与せずにモンスターを倒せるとは、中々優秀じゃないか?
ガタッ!! ガタタッ!!
「「「グキィイイイイ!!」」」
「っ!!」
「文也さん!!」
っと、残りの盗人ゴブリンも到着したらしい。
奇声とよだれを垂らしながら俺を囲うように迫ってくる。
「”酸液”」
俺は盗人ゴブリンの足元へ広げるように”酸液”を放つ。一瞬でドロドロに溶かす液体に盗人ゴブリンたちは素早く反応し、勢いよく飛び越えて回避。
(一体、前に出すぎてる……)
距離を詰められるも俺は冷静だった。
スタンシールドの持ち手をグッと強く握り、一番近い盗人ゴブリンの動きをじっと見つめる。
「今だ」
「グキィ!?」
盗人ゴブリンから伸ばされたナイフに俺は合わせるように盾を突き出した。ナイフと盾が激突した瞬間、ピキーン!!という甲高い音がダンジョン内に鳴り響く。
同時に盗人ゴブリンの身体が不自然に動かなくなる。
どうやらスタンしたらしい。
「まず一体」
その隙を逃さず、俺はもう片方の手に握られたナイフを盗人ゴブリンの胸元へ突き出した。
「グキィ!!」
「おっ」
だがこいつらもしぶとい。
一体の盗人ゴブリンが飛び込んだと思えば、俺の手元からナイフを奪い去ってしまったのだ。
しっかり握っていたはずなのにいとも簡単に。スキルか何かだろうか?
「戻れ」
「ギャッ!? ギャギャッ!?」
だが盗んだ物が悪かったな。
念じると、ワープナイフは一瞬で俺の手元へ戻ってくる。
盗んだと思った物が一瞬で取り返された事実に、盗人ゴブリンは間抜けな顔で俺と手元を交互に見ていた。
「”ファイアボール”」
「ギャッ……」
隙だらけの身体に炎の弾が襲い掛かり、全身を燃やし尽くす。
これであと一体……
「ギャギャギャギャッ!!」
いつの間に後ろへ? やはり素早い。
回避したいが、”武身強化”で間に合うか……
ピュオンッ!!
「”ホーリーショット”!!」
「ギャアアアア!!」
と、後方から光弾が通り過ぎ、盗人ゴブリンの身体を貫いた。
「やっと狙いが定まりました……遅れてすみません」
「大丈夫だよ。俺の方こそシルバーなのに色々指示しちゃったから」
「いえいえ。静はサポートがメインなので、素早く指示していただいて助かりました」
今のは静のスキルか。
”ファイアボール”よりもスピードがあって、威力もそこそこ。
流石はゴールドランク、スキルの精度が違うなぁ。
(新しいスキルも防具もいい感じだな……)
”武身強化”は身体強化によるアドがとにかく大きい。
あの素早い盗人ゴブリンを相手するのは、”武器強化”だとかなり手間取っていただろう。
スタンシールドはスタン効果がやはり強力。というか単純にシールドとしても軽くて使いやすい。
素の状態でどこまで軽減できるかはわからんが……まぁ受け止めるというより受け流した方が良さげか?
この感じなら四階層も突破できそう。
何より静の援護も大きいが……
「しかし凄いですね……短時間であそこまでスキルを駆使するとは」
「そう? 静だって色んなスキルを使ってただろ?」
「静は”フラッシュ”と”ホーリーショット”の二回だけ。ですが文也様はあの戦闘だけで四回も……」
「よ、よく数えてるな……」
よくよく考えてみれば、全てのスキルを駆使して戦っていた。
まぁダンジョンって何が起きるかわからないから、全力を出すのは当然として。あと、どれだけ使っても”クールダウン”さえ終われば再使用できる。
……あ、そういうこと?
「文也様の残りMPは大丈夫ですか? 少なくとも三分の一は消費されたかと思うので……」
普通はMPでスキルの使用回数が決まるんだよな……
どうしよう。これは言うべきか?
静の話し方から察するに、俺の”クールダウン”って常識から外れてるみたいだし。
「……実は」
「はい?」
俺は”クールダウン”に関する説明を静に話し始めた。
どうせその内バレる。静なら変に広めたりしないだろう。
最悪、広まったとしても……なんとかなるはず。